知事が「非国民」と非難される「気味悪さ」 秋田選挙区どうなるか

知事が「非国民」と非難される「気味悪さ」 秋田選挙区どうなるか

陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」配備計画に関する報告書に誤りがあった問題で、秋田県の佐竹敬久知事(右)に頭を下げる岩屋毅防衛相=秋田県庁で2019年6月17日午前10時29分、和田大典撮影

 秋田県の佐竹敬久(のりひさ)知事が「非国民」と非難されている。政府が秋田市に設置しようとしている陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」をめぐる防衛省のずさんな調査を批判したためだ。国の意向に異を唱えると非国民と呼ばれたのは戦前・戦中の話。その気味悪さは、与野党激突の構図となっている参院選秋田選挙区の情勢にも影響するのだろうか。【秋田支局/森口沙織・川口峻、統合デジタル取材センター/江畑佳明】

知事だけでなく県民にも矛先

 「非国民と言われている。ネットで相当私のところに来ている。(イージス・アショアを)受け入れないのはなんだと。当然交付金があるだろうと。(実際は交付金は)ないんですよ。『知事を辞めろ』といっぱい来ている。秋田は日本のために何の役に立っているのかと」

 佐竹知事が県議会の予算特別委員会の答弁でそう明かしたのは6月24日のことだ。

 県総務課によると、県への意見を募る「県民の声」などに寄せられた非難のメールは、こんな内容だという。

 「あなたの言動はなんですか。(中略)もっとまじめに考えてみてはいかがですか? 秋田の殿様は日本国民全体のことなんて考えなくていいですからね。極楽、極楽」

 知事だけでなく、県民に矛先を向けたものもある。

「イージス・アショア」についての住民説明会の冒頭、防衛省の職員に詰め寄る住民=秋田市山王7の市文化会館で2019年6月10日午後6時40分、川口峻撮影

 「秋田県民は自分のことしか考えていない。(中略)県民の心は腐ってますね」

「イージス・アショア」の試験施設。建物右上部の壁にレーダーの平板アンテナが取り付けられ、上部に管制や通信用のアンテナがある=米ハワイ州カウアイ島で2018年1月10日、秋山信一撮影

 「他の日本人と負担を分け合うのを拒否するのなら、国からの庇護(ひご)も拒否するべきです。それが人の道というものでしょう」

レーダーの健康への影響を心配する声

 この問題の経緯は次の通りだ。

 イージス・アショアとは、イージス艦に搭載されている迎撃ミサイルを陸上に配備するシステムのことで、「陸上イージス」とも呼ばれる。弾道ミサイルを高出力レーダーでとらえ、大気圏外で迎撃する。政府は北朝鮮のミサイルなどに対抗するためと説明しており、秋田県と山口県への配備が計画されている。

 秋田県の候補地は秋田市にある陸上自衛隊新屋演習場だが、近隣住民からはレーダーの電磁波による健康面への影響などを心配する声が上がっている。

データの誤り 防衛省職員の居眠り

 防衛省は実地調査を行い、ここを適地とする報告書を5月27日に県に提出した。しかし、調査に使ったデータに複数の誤りがあることが発覚。さらに6月8日、秋田市での住民説明会で東北防衛局の職員が居眠りをして住民の怒りを買った。

 岩屋毅防衛相は6月17日、秋田県庁で佐竹知事に謝罪。佐竹知事は「残念というより悲しい。防衛省はマイナスのスタートと受け止めてほしい」と述べ、配備に関する協議は当面受け入れないと表明した。

沖縄との共通性

 それにしても「非国民」という不穏な言葉をどう考えたらいいのか。

 「ネットと愛国」などの著書があり、ヘイトスピーチの問題に詳しいジャーナリスト、安田浩一さんには、ある光景がよみがえったという。

 2013年1月。垂直離着陸輸送機「オスプレイ」の米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)への配備に反対し、沖縄県選出国会議員や県議会議員などが、東京・銀座でデモ行進した。その際、沿道にいた一団がデモ参加者に浴びせた罵声の一つが、「非国民!」だった。

 17年12月には普天間飛行場に隣接する小学校に米軍ヘリの窓が落ちた。ところが、被害者のはずの小学校には「やらせだ」などの非難の電話が相次いだ。

「被害者が声を上げるとバッシングされる社会」

 安田さんは「被害者がおとなしくしていれば同情されますが、少し声を上げると急にバッシングされる。この風潮は、沖縄だけではありません」と指摘する。「性被害を訴えたジャーナリストの伊藤詩織さんやパワハラの被害者、原発事故で避難した人たち、そして今回の秋田。一見無関係のようですが、根っこの部分でつながっているように思えます」

 それは、議論するための「批判」ではない、と安田さんは言う。

 「『国に逆らうなんて生意気だ』といった嘲笑、あざけりが顕著で、言葉が軽い。バッシングする側が遊び半分であっても、された側は深く傷つく。『憎悪や差別はいけない』という規範を簡単に超える社会になっています。その軽さに、恐怖や嫌悪を覚えざるをえません」

「それとこれとは別」

 ところが、複雑なのは、秋田でイージス問題が参院選の主要な争点となっているかというと、必ずしもそうとは言い切れないところだ。

 秋田選挙区(改選数1)に立候補しているのは、自民党現職の中泉松司氏(40)、野党統一候補の無所属新人、元衆院議員秘書の寺田静氏(44)、政治団体「NHKから国民を守る党」の新人、元海上自衛官の石岡隆治氏(45)の3人。毎日新聞の情勢調査では事実上、中泉氏と寺田氏の一騎打ちで、互角の激戦となっている。

 イージス問題で政府を批判した佐竹知事は中泉氏を支援する。7月6日に秋田県大仙市で行われた街頭演説で知事は「中泉君が県議会議員に出る時、(最初に)国会議員に出る時、私が勧めた。いわば私が保証人」「中泉君の当選が、秋田に必ずプラスになるのを保証します」と力説した。

 「知事は自民党に全面的に支えられて当選している。だから、それ(イージスの問題)とこれ(参院選)とは別。『選挙で受けた恩は選挙で返す』が政治の世界」と自民党県連幹部は知事の立場を代弁する。

与党候補は防衛省を批判するが…

自民党の公認候補、中泉松司氏(右)の応援演説でマイクを握る佐竹敬久知事(右から2人目)=秋田県大仙市で2019年7月6日、佐藤伸撮影

 中泉氏自身は7月4日の秋田市での第一声で「防衛省による不正確な調査は言語道断。どれだけ正確な調査と誠実な対応をしてもらえるか、厳しく見ていかないといけない」と批判したが、計画の是非には触れなかった。秋田市以外では、ほとんど言及していないという。自民党のベテラン県議は「秋田は農業県で高齢化が深刻。有権者には農業政策や社会保障の安心を訴える必要がある」と話す。

 13日には安倍晋三首相が中泉氏の応援演説で「緊張感を欠いた不適切な対応があった。県民の皆様に心からおわびしたい」と謝罪。「第三者や専門家を入れて徹底的に調査することをお約束申し上げる」と述べた。

 前出の自民党県連幹部は「最高責任者がおわびしてくれたのは極めて重要だ。有権者は『首相がしっかり対応してくれる』と受け取ったのでは」と、ほっとした様子だった。

有権者と握手をする野党統一候補の寺田静氏(中央)=秋田県大仙市で2019年7月6日午前10時24分、川口峻撮影

「阻止したい」と訴える野党候補だが…

 一方、寺田氏はイージスについて「どうしても阻止したい。私が負けたら配備計画が進んでしまう」とは強調するが、演説で多くの時間を割いているとは言い難い。なぜなら野党統一候補のため、各党間や支援する連合秋田の組織内部に温度差があるからだ。陣営幹部は「イージス反対を強く求める支援者もいるが、それを前面に出すと引いてしまう有権者もいる」と、深入りしない理由を明かした。

 異議を申し立てれば「非国民」と呼ばれ、参院選では各党の思惑が絡んで大きな論争とはならない現実。秋田の有権者はどんな意思を示すのだろうか。

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