「親安倍」「反安倍」の人たちがののしり合い 騒乱の安倍首相「秋葉原演説」を見に行く

「親安倍」「反安倍」の人たちがののしり合い 騒乱の安倍首相「秋葉原演説」を見に行く

参院選の投開票日を前に、秋葉原駅前で安倍晋三首相の選挙戦最後の演説に耳を傾ける大勢の人たち=東京都千代田区で2019年7月20日午後7時33分、佐々木順一撮影

 どんより、じめつく参院選も20日、最終日を迎えた。今回も、見に行かねばなるまい。恒例の安倍晋三首相の東京・秋葉原の演説会だ。支持者が日の丸の旗を打ち振り、「親安倍」「反安倍」の人たちのののしり合いが響いたアキバで、令和ニッポンの立ち位置を考えた。【吉井理記/統合デジタル取材センター】

若き安倍氏の記事

 安倍首相が国会議員になる前、「元代議士秘書」という肩書でメディアに登場した記事を見つけた。政治専門誌「政界往来」1991年9月号である。父・晋太郎氏の死去から3カ月後、立候補の準備に奔走していた時期である。当時、議論されていた小選挙区制に触れつつ、「公認決定のプロセスが不透明です」と、自身が立候補できるか、不安をのぞかせていた。

秋葉原駅前での安倍晋三首相の選挙戦最後の演説に耳を傾ける大勢の人たち=東京都千代田区で2019年7月20日午後7時26分、本社ヘリから宮本明登撮影

 それから28年。今回の参院選で勝利すれば、秋には憲政史上最長の首相在任日数、という偉業に手が届く。この時のインタビュアーも若き安倍氏も、思いも及ばなかったに違いない。

「暮らし向き? うーん」

 ……と感慨を抱きつつ、JR秋葉原駅電気街口へ。第2次政権発足から、すべての選挙で首相のアキバ演説を聞いてきた。毎回、光景はさほど変わらない。演説会が始まる前から、「頑張れ自民党」「安倍総理を支持します」とのプラカードや、日の丸の小旗を持った支持者がびっしり。17年の前回衆院選では、右派団体が「安倍総理頑張れ」との巨大な横断幕を掲げ、ちょっと異様な光景だったけど、なぜか今回は姿が見えない。

 駅前で日の丸の大旗を持った中年男性がひときわ目立っていた。「中国がどんどんやってくるからね。南シナ海、尖閣。中国人が日本の土地を『爆買い』してるだろ?」

 ひとしきり、男性が「中国の脅威」をアツく語る。右派論壇誌などでよく見聞きする話が多い。ところで、失礼ですが安倍政権で暮らし向きは良くなりました? 「うーん。いや、暮らしなんかより、外交第一です!」

支持者の興味は「中国・韓国」に集中

 「安倍総理ニッポン頑張れ!」とのプラカードを掲げて演説会を待っていた男性は「やはり韓国とか中国にきちんとモノを言ってくれますからね。頼もしいですよ。暮らし向き? 給料が良くなりましたよ」とうなずいた。通信会社勤務らしい。

 およそ10人に聞いたが、アキバに詰めかけた首相の支持者の興味の多くは「中国・韓国」に集中している。安倍首相が前回衆院選で「国難」とまで位置づけ、衆院解散の大義名分にした少子化問題への関心を示したのは1人だった。

「安倍辞めろ」コール

 さて、演説会がスタート。候補者紹介が静かに進む。このまま何事もないか、と思いきや午後7時15分過ぎ、集まっていた「反安倍」の人たちが「恥を知れ」「年金返せ」といったプラカードや横断幕を広げ、「安倍辞めろ」コールがわき起こり、一気に演説会は混乱。安倍支持者と反安倍の人たちが小競り合いを始め、警察官が駆け付ける騒ぎに。「安倍辞めろ」と叫ぶ男性に、首相支持者と見られる若者が「お前らは共産党か!」と怒鳴る。もう何も聞こえない。騒動を見ていた女性、「『安倍さんキライ』はいいけど、ちょっとやり過ぎじゃない?」。

主役の演説に既視感

 さて、混乱を知ってか知らずか、主役の安倍首相、何やら大音量で鳴り響くカッコいい音楽とともに街宣カーに登場。演説はと言えば▽G20など外交の成果▽憲法改正と野党批判▽年金問題と再び野党批判▽社会保障・子育て問題と民主党政権批判▽観光や中小企業対策▽雇用問題と再び民主党政権批判――といういつものメニューだ。

秋葉原駅前で安倍晋三首相らの選挙戦最後の演説に耳を傾ける大勢の人たち=東京都千代田区で2019年7月20日午後7時49分、佐々木順一撮影

 気になるのは16年7月9日の前回参院選最終日のアキバ演説のネタの使い回しが、あちこちで見られたことだ。

 例えば「立憲民主党の枝野幸男さんが自民党の保育士の待遇改善は不十分だと批判するので、調べてみた。(民主党政権時代の)3年間、保育士の待遇が全く改善されていないどころか、マイナス3600円、減らされていたんですよ!」というくだり。党名などは異なるが、言い回しまでほぼ同じ。

 さらに「今世紀に入って最も高い水準の賃上げが続いている」「有効求人倍率は民主党政権の倍くらい良くなった」、さらに数字は違うが「雇用が380万人増えた」「民主党政権時代より企業の倒産件数を3割も減少することができた」などの自賛のネタも全く同じである。

今回も「印象操作」

 経済学に詳しい同志社大の服部茂幸教授が語る。

 「毎回あの人の演説を見聞きして思うのですが、都合の良い数字を並べて印象操作する手法は同じです。しかもその数字も中身が怪しい。例えば賃上げ。この中には定期昇給分も含まれていますし、実質賃金で見たら、悲惨なことになります」

 首相の言う賃上げの「根拠」は、約380万社ある日本企業のうち、大企業中心の「連合」の春闘に参加した約5500組合など、ごくわずかしかないうえ、物価上昇の影響を除いた実質賃金は安倍政権6年間のうち、4年間でマイナス。今年も5月現在まですべての月でマイナスだから、心配になる。

実は民主党政権時のほうがよかった統計も

 有効求人倍率の伸びや倒産件数の減少はうれしいけど、よく統計を見直してみれば、有効求人倍率は民主党政権時の10年から上がっているし、企業倒産件数も08年の麻生太郎政権がピークで、民主党政権時代になってから減少に転じていたのだった。

 「何より経済を語る上でもっとも大切な家計の消費が全く増えていませんし、キモである実質GDPの伸びも昨年度は1%以下であることには触れません。ちょっと都合が良すぎます」

 事実、民主党政権時代の家計の消費支出は年度平均で1%増だが、第2次安倍政権の6年間の平均は0.4%増でしかない。「私たちは、お約束したこと、絶対に実行してまいります」と胸を張ったが、前回参院選で掲げた「介護離職ゼロ」、年間約10万人の離職者は今も減る気配がない。17年に衆院解散までして首相が問うた出生率は、昨年は1.42で3年連続低下してしまったが、演説で触れることはなかった。

他人の失敗をあざ笑う空気

集まった大勢の有権者の前で、選挙戦最後の演説を行う安倍晋三首相=東京都千代田区で2019年7月20日午後7時44分、尾籠章裕撮影

 とはいえ、聴衆も首相の語る細かい数字や政策は聞き流している感じ。一番盛り上がったのは首相が「野党の枝野さん、(立憲民主党の)党名を民主党と間違えたら随分怒った。怒るんだったら毎回党名を変えないでもらいたい」といった民主党政権や野党批判のくだりである。政策を聞きに来た、というよりも、自分と違う相手をけなす、他人の失敗をあざ笑うといった空気を感じた。前回衆院選のアキバ演説では「分断」という言葉が頭をよぎったが、今回は「嘲笑」というイメージが思い浮かんだ。

 時折「安倍辞めろ」コールにかき消されながら、気付けば首相演説は終了。前回衆院選ほどの混乱はなく「反安倍」の人たちも「お疲れさまでしたー」と声を掛け合い、帰路についていた。

「演説? 聞いてなかった」

 記者は公示日の4日、福島、宮城で首相の演説を聴いたが、野党批判には雄弁でも「日本の未来をこう描く」というビジョンが聞こえないことが気になった。首相はこれまで「令和の時代」と繰り返すが、その「新時代」の日本はどんな国を目指すのか、モヤモヤしたままだったのだ。

 最後に友人たちと「おい朝日新聞 選挙妨害は犯罪なんだよ」というメディア批判のプラカードを掲げていた女性に聞いてみた。

 「従軍慰安婦問題とかの報道が許せなくて来たんです。毎日新聞さん? 『市民の声』として書いてくださいよ」。はい。ところで安倍首相の演説はどうでした? 「演説? ごめんなさい、聞いてなかった」

 冒頭の記事で、父・晋太郎氏を「直球を投げ続け、常に理想を掲げて突き進んだ」と評した首相。もう過去の政権批判や「数字のつまみ食い」は封印したらどうだろう。

 投開票日は21日である。

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