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 発足直後の参院選比例区228万票、2議席――。山本太郎氏が代表を務める「れいわ新選組」が残した結果は、この国の政治に何を問いかけるのか。そして山本太郎とは何者か?

映画作家の想田和弘さん、政治学者の菅原琢さん、千葉大教授の水島治郎さんが山本太郎氏の現象を読み解きます。

想田和弘さん(映画作家)

 私は安倍政権誕生以降の日本社会を「熱狂なきファシズム」が広がっていると批判してきました。政権が独裁的な手法で、安保法制をはじめ、憲法上疑義のある法律を通しても有権者は無関心と黙認を繰り返し、選挙のたびに与党を勝たせてきた。絶望に近い感覚すらありましたが、今回のれいわ新選組の勢いに明るい未来の可能性を久しぶりに感じました。

 山本太郎氏は、東京電力福島第一原発の事故をきっかけに俳優から政治家に転身しました。「脱原発」の主張を訴え、テレビ局やスポンサーに「干された」。仕事を失ったわけです。その彼が、れいわを立ち上げ、タウンミーティングでの対話のような街頭演説を始めた。演説に感動した人たちが彼の挑戦を個人献金で支えようとした。献金額が1億円を超えたと報道で聞き、ただごとじゃないと思いました。

 映画をつくる人間として、個人が身銭を切る重みを知っています。2千円近くを支払って映画館に足を運んでもらうことがいかに難しいか。しかも選挙は、お金を払えばすぐ作品が見られる映画と違い、「見返り」は抽象的です。にもかかわらず選挙ボランティアは殺到し、4億円の個人献金が集まった。既存の政治に生活を痛めつけられている人たちに希望を与え、共感を呼んだのだと思います。

 同時に反省もさせられました。山本氏が訴えていたのは「庶民のための経済政策」でした。消費税の廃止を訴え、奨学金をチャラにする、財源はお金持ちからとればいい、と。今の政治のベクトル(方向性)と違うものを提示してみせた。私を含め政権に批判的な側も、いつの間にか消費税は、上げるタイミングの問題と思い込んでいました。明るいビジョンではなく、「反安倍」を声高に訴えるばかりだった。

 政策の実現可能性を疑う指摘がありますが、本質的な問題ではないと思います。妥協は迫られるでしょうが「庶民のための政治」を維持した修正ができると思います。

 なぜ信じられるか。山本氏をはじめとして、彼らが社会との腐れ縁を断ち切った自由な人たちだと思うからです。この社会はしがらみと腐れ縁に満ちていて窒息しそうです。政治の世界にとどまらず、会社、地域、どこでもそう。政治的な立場がなんであれ同じです。そこから自由になるのは至難の業です。

 だからこそ、山本氏のように石を投げられながらも、相手の声を聞き、対話してきた人の言葉は重い。デフレと拡大する格差で政治や未来に絶望し、がんじがらめな社会に生きる人たちがれいわをこの社会を変える「風穴」と感じ始めている。今起きているのはそういうことではないでしょうか。(聞き手・高久潤

     ◇

 1970年生まれ。ドキュメンタリー映画「選挙」「精神」などを監督。米ニューヨーク在住。著書に「熱狂なきファシズム」など。

菅原琢さん(政治学者)

 新党が国政選挙で進出した例は過去にたくさんあります。今回の参院選の開票結果を見る限り、れいわ新選組は現状では、よくあるミニ政党の域を出ていません。れいわの伸長を大きな政治現象と捉える見方は疑問です。

 れいわが獲得した228万票は、有権者全体の2%に過ぎません。近年の新党では、旧日本維新の会は636万票、みんなの党は794万票を初の参院選で得ています。

 新しい支持層を掘り起こせたのか。とりわけ選挙で棄権している「無関心層」の目を政治に引きつけることができたのかも疑問です。むしろ「以前から政治に関心を持ち、これまで立憲や共産などに投票してきた野党志向の人の一部がれいわに流れた」割合も高いと思います。

 代表の山本太郎氏が個人で獲得した99万票は、比例区の候補者では最多でした。ただ、彼のその個人票が党全体の得票の4割を超えている点には注意が必要です。「党とその政策」に対する支持が弱いことを示唆する数字でもあるからです。オーナー依存のミニ政党。それがれいわの実像ではないでしょうか。

 貧困問題に本格的に取り組む政治勢力がようやく現れてくれた、という見方もあるようです。実際に参院選でれいわは、最低賃金を全国一律1500円にし、奨学金をチャラにする公約を掲げました。

 しかし、最低賃金「だけ」で生計を支えている世帯はそれほど多くありません。奨学金の徳政令に反応する層も厚みはないでしょう。れいわが訴えかけた貧困層はかなり狭い範囲にとどまっている、との印象を持っています。

 相対的貧困という言葉の浸透が示すように、日本の貧困層は印象よりはるかに多いはずです。逆に見れば、自身を貧困層と認識していない貧困層の人々がかなりいるということです。自分の暮らしの良しあしが政治で決まると考えている人も少ないため、「政治を変えることで現状を変えよう」という動機自体を持ちにくい状況です。棄権に向かうこの層を政治に呼び戻すことが日本政治の課題です。

 その点、れいわが「家賃、高くないですか」と訴えたことは興味深く感じました。住居費は多くの人々にとって生活の重しです。自民党政権が「携帯電話料金の引き下げ」を訴える時代ですから、「家賃を○千円、下げます」といった踏み込んだアピールで棄権層に政治を思い出させても罰は当たらないでしょう。

 新党であるれいわは様々な政策を自由に訴えられます。もしそのどれかが効いて棄権層を支持層に変えられれば、既存政党も本気で無関心層に取り組まざるを得なくなるでしょう。そうした競争の火付け役になることくらいは期待してもよいと思います。(聞き手 編集委員・塩倉裕)

     ◇

 1976年生まれ。専門は日本政治、選挙研究。著書に「世論の曲解」、共著に「平成史」など。元本紙論壇委員。

水島治郎さん(千葉大教授)

 消費税廃止を訴え、大企業の課税強化を唱える――。れいわ新選組の主張は欧米で広がる左派ポピュリズムの流れの日本版と言えるでしょう。

 日本のメディアポピュリズムは「大衆迎合主義」と訳されますが、研究者でこの訳語を使う人は今、ほとんどいません。ポピュリズムとは、既存の政治がピープル(人民)を置き去りにしているという主張です。権力を持つ「エリート」が批判され、政治家、官僚、メディアが人民の「敵」となる。いわば「人民第一主義」です。また「左派」というのは社会的な弱者の声を重視する傾向がありますが、下からの政治と考えた方がわかりやすいでしょう。

 欧州の左派ポピュリズムには、財政規律を重んじるEU(欧州連合)の枠組みの下、各国が厳しい緊縮財政を強いられてきたという文脈があります。日本が同じような緊縮財政だったわけではありません。ただ、格差が拡大し、政治不信が高まっているのに、生活に直結する税金についての各党の立ち位置は大差がないように見える。「消費税廃止」を象徴的に打ちだした、れいわに新鮮味があったのは事実だと思います。

 しかし、私が今回最も注目したのは、重度障害者の2人を比例の特定枠にして国会に送ったことです。リベラル派は多様性の尊重を訴え、当事者の声を重視するとは言うものの、体を動かすのも大変な当事者を、国会へとは思いつかなかった。当事者に近い人、軽度の人からと考えていたと思う。ですが、どうでしょう。当選が決まると、1日の国会開会にあわせ、議場は改修され、介助の費用負担の議論が始まった。健常者が独占してきた国会が、インクルーシブ(包摂的)な空間へと一歩を踏み出したのです。

 実際、海外メディアはここに注目して報道しました。もともと特定枠は自民党が合区対策で比例区に回る候補者を救済するため、党利党略でつくった制度です。それを逆手にとったのは見事としか言いようがない。

 その意味で山本太郎という政治家は、政治のイノベーター(新しい作り手)と考えるべきです。1990年代半ばから日本では二大政党制をモデルにした政治改革が進みました。政治家が現実的でよい政策をつくれば有権者が支持し、多数派を握れば政治を動かせるという考え方が背景にある。裏を返せば、そうでなければ動かせない、と。山本氏という存在は「本当にそうなのか」という「問いかけ」です。わずか2議席でもこれだけのことができるのですから。民主主義の実践に「実験」は欠かせません。成功もあれば、失敗もある。しかしその中から新時代を拓(ひら)く動きが生まれてくる。次はどんな実験が始まるのでしょうか。

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 1967年生まれ。千葉大学教授。専門はヨーロッパ政治、比較政治。著書に「ポピュリズムとは何か」「反転する福祉国家」など。