この国はどこへ これだけは言いたい コメディアン・俳優・大村崑さん・87歳 戦争は人間を鬼に変える

特集ワイド

この国はどこへ これだけは言いたい コメディアン・俳優・大村崑さん・87歳 戦争は人間を鬼に変える

=竹内紀臣撮影

 人には「記憶の扉」が突然、開くことがある。コメディアンで俳優の大村崑さん(87)にとっては2016年5月、オバマ米大統領(当時)の広島訪問だった。

 「オバマさんが被爆者と抱き合うシーンがテレビで報じられたでしょう? あの映像を見ていたら『忘れていた記憶』がよみがえってきたんです。正直に言うとあの映像を見るまでは、アメリカや米兵への恐怖心なんかがまだ残っていた。ところが、すっとその恐怖から解放されたんです」

 現職の米大統領が初めて訪れた平和記念公園。オバマ氏は式典で「8月6日の記憶は決して消してはならない」と原爆の恐ろしさや戦争の愚かさを訴えた後、参列していた被爆者代表らに歩み寄り、抱擁を交わした。

広島を訪問し、所感を述べた後、被爆者を抱きしめるオバマ米大統領(当時)=広島市中区の平和記念公園で2016年5月27日、久保玲撮影

 画面を食い入るように見ていた大村さんに、ある「変化」が表れた。「僕の奥底に眠っていた戦争の記憶が浮かんできたんです。と同時に、この体験を生きているうちに伝えなければと思うようになりました」

 戦争の時代。軍靴の足音は家庭にも教室にも響いていた--。「家では『欲しがりません、勝つまでは』とひもじい生活を強いられました。いつも腹をすかせてね。学校では兵隊あがりの先生が生徒にこう尋ねるんです。『大きくなったら何になりたいか』って。級友たちは直立不動の姿勢で『陸軍大将!』『海軍大将!』と答える。やがて僕の番が回ってきて『役者!』って答えた。すると先生が『お前出てこい!』と言うなりボッカーン(と殴られた)。当時は軍人を目指すのが良い子ども。でも、僕には反発心があったんやろね」

 今も忘れられない出来事がある。1945年の神戸大空襲では焼夷(しょうい)弾が雨のように降り注いだ。「多くの家屋が吹き飛び7000人以上が命を落としました。焼夷弾が怖いのはね。住宅の屋根を突き抜け、1階の畳や縁の下に突き刺さること。油が流れ、火がつき、爆発する。そうして一気に炎が広がるからもう助けようがないんです」

 その当時、神戸市の工業学校に通っていた。14歳の頃だろうか。「1学年下の子らは疎開していましたが、僕らは学徒動員で神戸に残り、大人らと一緒に造船所や戦闘機工場で働きました。当時は学校の一部が工場になっていて旋盤などをしていました。戦闘帽をかぶって、ゲートル巻いて、兵隊さんみたいな格好で登校していました」

 ある朝、先生に「トラックに乗れ!」と命じられた。荷台にはひつぎが所狭しと積まれ、「トラックは僕らを乗せて清盛塚あたり(兵庫区)に向かいました」。清盛塚とは、平安末期の武将、平清盛の供養塔がある場所で、現在は人気の観光スポットにもなっている。だがあの日は違った。「一面焼け野原。そこに黒い塊が無数に転がっていた。黒焦げの遺体でした。着てるもんがみんな焼けてしもうてるやろ。男か女かも分からへん。顔もずんべらぼう。髪の毛もない。胸がちょっと膨らんでいるから女かな、そうでないから男かな、ぐらい。軍手もなく素手で友だちと遺体を拾い、ひつぎの中に運び入れるんです。すると先生が、からけし(木炭)でひつぎに『男3体』『女2体』と書いていく。子どもを抱いたお母さんの遺体もありました。今思えばすごく恐ろしい光景なんだけど、当時は怖いと言える雰囲気ではなかった。先生は『拾え!』と怒鳴るしね。今でも、あの光景は思い出しますね……」

 ひつぎは校庭に積み上げられ、油をまかれて次々に焼かれていった。「僕らがトラックで何往復かする間にも燃やされ続け、作業は数日間、続きました」

 回想はさらに続く。戦中の食糧難を和らげようと学校は野菜づくりに力を入れていた。「国民学校の初等科の頃か。登校するとトマトやキュウリなどの実がとられていました。『先生、とられてます』と言いに行くと、先生は『もうええ』。実は『人様のもんをとったら恥や!』と教えてくれた先生が、持ち帰っていたんです。すべては生きるため、ひもじさを逃れるためでした」

 大村さんは断じる。「戦争は人間を鬼にも変える。だから絶対にあかんのです」。でも、あの時代、その先生だけが「鬼」になったわけではなかった。誰もが生きるのに必死だったのだ。

 終戦を迎えると、それまでの価値観は一変した。だが、「当たり前のように受け入れている人らにも違和感をもった」と振り返る。大村さんには忘れられない「授業」がある。

 「数学の先生が生徒を集め、言ったんです。『これからはアメリカの時代。英語を覚えなあかん』と。戦争中、大人たちはアメリカを敵視し、英語は『敵国語』だと言って使わせなかった。野球をやる時も日本語だけ。ストライクは『よし球』で、アウトは『駄目』という具合。なのに敗戦したら手のひら返し。何を抜かすか柿のタネってもんや」

 大村さんと向き合っているホテルのラウンジが、まるで「舞台」にでもなったかのようだ。「オロナミンC」のCMでおなじみのひょうひょうとした口調なのだが、エピソードは、凄惨(せいさん)さを極めている。

 戦後の闇市では「銭もうけ」に夢中になった。「学校から次第に足が遠のいてね。ほどなくして焼け野原で出会った同世代3人で闇物資を売る商売を始めたんです」。仲間の一人が後に大阪府知事となる横山ノックさん(32~07年)だった。

 「山田(横山さんの本名)が進駐軍のキャンプからたばこを譲り受け、僕らが売りさばきました。もうかったねえ。MP(アメリカの憲兵隊)に見つかるとこっぴどくやられるんだけど、もうかるからやめられなかったな」

 その商売で命の危機に直面したこともある。売上金を靴下に隠し帰路につくのが日常だったが、その夜は違った。真っ暗な兵庫駅を出たところで、米兵2人に羽交い締めにされたのだ。

 「三宮から乗ったんだけど、後をつけられていたの。金は奪われるわ、レンガで頭を殴られるわで、血だらけになって。その傷痕はホラ……」と頭頂部を指さした。「髪の毛で見えないんやけど、頭部にまだある。その時、思ったな。戦時中はひもじさに耐え、戦後は戦勝国の兵隊に、こんなふうにいびられるんかって……」

 堰(せき)を切ったように語った後、一呼吸置いてつぶやいた。「戦争で植え付けられた敵対心や恐怖ってね、『戦争が終わった』からといってすぐなくなるものではありません。僕のように70年以上も“トラウマ”になることだってある。戦争って怖い。戦争を知らない世代も、それだけは知っておく必要がある」

 現在の日本に向けるまなざしはどうだろう。政治に話が及ぶと、「不安だよね」と表情を曇らせた。「国民も、政治家も、戦争を知らない人たちばかりでしょう? 僕が言いたいのは、戦争は勇ましいもんじゃないってこと。ひもじく、つらい日々が、来る日も来る日も、続くんだ。だから有権者はね、戦争しないよう動いてくれる政治家を選ばんと。僕ら一人一人が『戦争は嫌だ!』と言い続けない限り、あのひもじい時代に戻りかねないのだから」。語り口には一層、熱がこもった。

 大村さんは、日本に広がる政治への無関心に危惧を覚えているという。「参院選で気になったのがテレビの街頭インタビューでした。マイクを向けられた若者たちが『政治? 関心なーい』と笑いながら言う。あれ、ほんまは恥ずかしいことなんやけどな、て思うんです」

 熱弁は加速していく。「社会を変えるために何ら動かんで、無関心を装ったり、政治家を批判したりするだけっちゅうのは困りもんや。自分の思いを代弁する政治家、政党がないのなら、自分が動いて、作ればいい。僕がもし若ければ選挙に出ちゃうんだけどな!」

 政治家にも注文をつける。「本当に国のことを思うのなら、戦争を避けるよう、避けるようにしていかないと。中国、北朝鮮、韓国……。日本をとりまく情勢には、きな臭いにおいがする。ひとたび戦争になれば街中で人が焼け死ぬ。その悲惨さを、僕はこの二つの目で見てきたのだから」

 トレードマークの眼鏡の奥の眼光は鋭く、もう笑ってはいなかった。【鈴木美穂】


 ■人物略歴

おおむら・こん

 1931年、神戸市生まれ。キャバレーのボーイから司会、コメディアンに転身。50年代、テレビ黎明(れいめい)期に軽演劇「やりくりアパート」「番頭はんと丁稚(でっち)どん」「とんま天狗(てんぐ)」で全国的スターに。大塚製薬「オロナミンC」のCMで「うれしいと眼鏡が落ちるんですよ」のコピーが流行。著書に「崑ちゃん ボクの昭和青春譜」(文芸春秋)など。2017年、旭日小綬章受章。

 

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コメント:「原発並べて戦争は出来ない」:一旦戦争をすれば破滅:核破滅で世界終末‼

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