韓国と揉めている場合か。「再入亜」でしか日本が生き残れない訳

韓国と揉めている場合か。「再入亜」でしか日本が生き残れない訳

takano20190819

 

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中国とは関係改善の兆しが見え始めてはいるものの、韓国とは依然、激しく対立中の日本。しかし我が国が今後生き残っていくためには、日韓中を中心軸として考えていくことが必要なようです。ジャーナリストの高野孟さんは今回、自身のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』にその理由を記すとともに、「安倍首相はアジア和平を乱す危険分子の1人」としています。

※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2019年8月19日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:高野孟(たかの・はじめ)
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

日本の東アジア戦略の3次元──思想・歴史的、経済・通商政策的そして外交・安保政策的

月末に東京で行われる国際シンポジウムで日本の東アジア戦略について発言する機会が与えられたので、そのためのレジュメを作成し送信した。その発言は時間が限られているので、内容を補充して1つの論説としてここに掲げることにする。


日本の東アジア戦略を、思想的、経済・通商政策的、外交・安保政策的の3つの次元から考えたい。

1.思想・歴史的次元:「脱亜」から「再入亜」へ

平成の30年間は明治維新から150年の最後の5分の1である。日本の生きる道という意味での戦略を編む場合に、物差しの当て方はいろいろあるけれども、ここはどうしても平成30年でも戦後75年でもなしに、維新150年のこの国のありようを総括して次の国家百年の計を立てることでなければならない。

そこでの中心問題は、「脱亜・入欧」という薩長藩閥政府のイデオロギーをきっぱりと卒業して「脱欧米・再入亜」を果たし、東アジアの一角にしっかりと居場所を確保することである。しかし、かつて自分勝手に脱亜を宣した日本が、また一方的に再入亜を唱えたところでそんなことが簡単に認められるはずはない。アジア、とりわけ東アジアの国々に日本がアジアの一員であると認めて貰い、歓迎して貰えるためにはどうしたらいいかを考え、居住まいを正すことが、日本にとっての東アジア戦略の思想・歴史的次元である。

「脱亜論」の元祖は福沢諭吉ということになっていて、そのよく知られた文章の核心部分はこうである。

我國は隣國の開明を待て共に亞細亞を興すの猶豫ある可らず、寧ろ其伍を脱して西欧の文明國と進退を共にし、其支那朝鮮に接するの法も隣國なるが故にとて特別の會釋に及ばず、正に西洋人が之に接するの風に從て處分す可きのみ。惡友を親しむ者は共に惡名を免かる可らず。我れは心に於て亞細亞東方の惡友を謝絶するものなり。
(全集第6巻、岩波書店)

悪友を謝絶するという激しい言葉遣いには驚いてしまうが、彼は本来は決してアジア蔑視の人ではなく、むしろ朝鮮独立党の金玉均ら開化派の人々を熱心に支援した。その金らがクーデターに失敗して残忍極まりないやり方で殺されたことに衝撃を受け、こんなことを許す李朝やその背後の清国政府とは到底一緒にやっていくことはできないという絶望感をぶつけたのがこの文章である。だから福沢を「脱亜・入欧」思想の張本人と呼ぶのは可愛そうだというのが、丸山真男の説である。

では本当の張本人は誰か。私の説では長州藩にあって松下村塾を通じて多くの維新の志士に思想的な影響を与えたとされる吉田松陰である。彼が一体どんな影響力を持ったのかを知りたくて、奈良本辰也編『吉田松陰著作集』(岩波文庫)を繙き評伝にも当たったが、結局彼の内政に関わる主張は、幕府の要人を「斬れ!」「殺せ!」と言っているだけで、これでは単なるテロリストの親分である。この単純思考の性向は、事が対外姿勢に及ぶとたちまち一直線の侵略主義に転化する。上記文庫に収められている「幽囚記」には、こうある(現代語訳による)。

ポルトガル・スペイン・イギリス・フランスのような国々は、弱国日本を併合しようとしている。……ましてアメリカやロシアなどはいうまでもない。

 

だから立派に国を建てていく者は、現在の領土を保持していくばかりでなく、不足と思われるものは補っていかなければならない。

 

今急いで軍備をなし、そして軍艦や大砲がほぼ備われば、蝦夷を開墾し、……隙に乗じてカムチャツカ、オホーツクを奪い、琉球にもよく言い聞かせて幕府に参観させるさせるべきである。また朝鮮を攻め、古い昔のように日本に従わせ、北は満州から南は台湾・ルソンの諸島まで一手に収め、次第次第に進取の勢を示すべきである。

 

僕はいつも、日本がオーストラリアに植民地を設ければ、必ず大きな利益があることだと考えている。

 

朝鮮と満州はお互いに陸続きで、日本の西北に位置し、……しかも近くにある。そして朝鮮などは古い昔、日本に臣属していたが、今やおごり高ぶった所が出ている。なぜそうなったかをくわしくしらべ、もとのように臣属するよう戻す必要があろう。

幼稚としか言いようがない言説である。が、これをこの通りになぞって、北海道、千島・樺太、琉球、台湾、朝鮮、満州、ルソン、太平洋諸島などを次々に侵略し、ついにはオーストラリア目前にまで迫って破滅したのが長州主導の「大日本帝国」である。ところが、維新から150年を経た今日もなお吉田の侵略主義思想の影響下にある長州人の末裔が総理大臣を務め、近隣に盛んに喧嘩を仕掛けていて、これでは21世紀日本の東アジア戦略は成り立ちようがないのである。

2.経済・通商政策的次元:東アジアのサプライ・チェーン

最近、日本政府は韓国に対して、半導体製造のコア素材となるフッ化水素(腐食剤)・フッ化ポリイミド(保護膜剤)・レジスト(感光剤)の3品目の輸出規制を強化する措置を発動し、それに抗議する駐日韓国大使に対し日本外相が「極めて無礼」という異様な言葉遣いで発言を遮るという事態があったが、これこそ日本の東アジアに対する戦略的混乱という以前の戦略そのものの不在を象徴する。

21世紀、日本は韓国、中国をはじめとして東アジア、ひいてはユーラシアとの関わりなくしては生きていくことができない。なぜなら、第1に、世界の富の中心は20世紀には米国にあったが、21世紀にはそれが東に移動し、中国・インドを筆頭とするユーラシアに移りつつある。米ペンタゴン直結のシンクタンク「ランド研究所」が最近の報告書で示した2050年の世界構図はこうである。

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安倍晋三首相は「インド太平洋」構想などと言って、世界3位の米国と8位の日本が手を結べば2位のインドを1位の中国から引き剥がすことが出来、中国包囲網を形成することができると考えているようだが、それは戯言にすぎない。

そうではなくて、日本は第2に、日韓中の連携を軸として中国とインドが牽引する21世紀ユーラシアの大繁栄に噛み込んで行かなくてはならない。それこそが実は日本の成長戦略の肝心要であって、「アベノミクス」は一国資本主義的に国内の景気対策にのみ関心を集中し、しかもその景気の問題をデフレ(モノとカネのバランス失調)と誤認して異次元金融緩和というトンデモ方策に走って大失敗したが、本当の需要はユーラシアにある。

第3に、日本がユーラシアの旺盛な需要に関わってそこから元気を環流させる実体的な回路はすでにでき上がっていて、それが日本にまだ多く残っている高度「モノづくり」の力を頂点とする垂直分業的なサプライチェーンである。日本の輸出の圧倒的大部分は資本財およびそれに準じる工業用素材で、それを知るには一般的な貿易統計ではなく資本財と消費財を区別した日本関税協会の貿易概況の「商品特殊分類別輸出」を見なければならない。

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2017年の輸出総額78兆2,865億ドルのうち資本財39兆7,732億ドル、さらに工業用原料18兆1,523億ドルを足すと57兆9,254億ドルで総額の74%に達する。そのすべてがそうであるとは言えないが、多くは日本でしか作れない、もしくは日本のものが一番品質が優れていると高評価を得ているハイテク製品や超精密加工部品や高性能素材などで占められていて、つまり日本は「高度資本財供給国」として世界貿易の中で独自の立場をすでに作り上げている。それは実体的には、日本で作られた高性能素材や部品などを韓国や中国などが輸入し、それを用いて製品の核となる重要中間部品などを生産し、それを中国やベトナムやミャンマーやバングラデシュなどに輸出して大量生産により消費財としてアジア域内や米欧市場に供給する立体的なサプライチェーンとして発展しつつある。ここに生きる道があるということを全く理解していないのが安倍政権である。

理解していれば、例えばFTA/EPAへの取り組みも、

  1. まずは「日韓中」でしっかりと軸を作り
  2. 次に、それプラスASEAN 10カ国にさらにインド、オーストラリア、ニュージーランドも加えたRCEP(東アジア地域包括的経済連携協定)
  3. そうやって東アジアの都合をしっかりと固めた上で米国を含めたTPP(環太平洋パートナーシップ協定)に立ち向かう

──という順序になるだろう。日本は真逆を歩もうとして最初から躓いて今は展望を失っているが、これも米国の顔色ばかり窺ってアジアを軽視する「脱亜・入欧」思想を今なお引き摺っているために日本の生存戦略が立てられなくなっていることの表れである。

3.外交・安保政策的次元:東アジアの安保対話の新枠組みを

日韓中を中心軸として21世紀ユーラシアの大繁栄にリンクしていくのが日本の生存戦略であるとすると、その戦略空間を確保し強化していくことが外交・安全保障の目標でなければならない。

第1に、そのための大前提として、「日米同盟主軸」という20世紀の常識を捨て去る必要がある。日米同盟とは、NATOと同様に冷戦時代を彩った「敵対的軍事同盟」の一種で、予め措定されたソ連はじめ共産陣営という仮想敵に対して味方が結束して戦うという想定の下に形作られていたもので、本当ならば冷戦終了と共に解除されるべきものであった。ところが、そうしない方がいいと思う人たちが内外にたくさんいて、「いや、旧ソ連はなくなったが中国は恐いぞ、北朝鮮は何をするか分からんぞ」と──それを私は「脅威の横滑り」マジックと言ってきたが──脅威の量も質も一切無視してただ恐怖を煽り立てるということが続いてきた。しかし、《図1》が示すように米国はもはや世界の盟主でも何でもない。それに付き従っていくことは、日本にとってもアジアにとっても破滅の道でしかない。

第2に、だからといって中国を盟主とした日中同盟に身を寄せるべきなのかと言えばそんなことはない。本当のところ、米国の衰退と共に15世紀以来の「覇権」の時代そのものが終わり、世界は誰が盟主でもない「多極化」時代に突入するのである。その理由は簡単で、西欧資本主義の勃興以来、彼らの中心テーマは辺境フロンティアの暴力的な争奪であり、そのような物理的なフロンティアがもはや存在しなくなった今日、覇権ということ自体が意味を失うからである(水野和夫「資本主義の終焉」論)。マスコミが米中の貿易摩擦や技術競合を簡単に「覇権争い」と呼ぶのは過去の常識に囚われた惰性にすぎない。

そこで第3に、この地域に存在するすべての国・地域がラウンドテーブル方式で一堂に会して予め紛争を予防することを主眼とした「地域的な普遍的安全保障体制」という究極のテーマが浮上する。安全は予め誰かを仮想敵と名指してそれに対して味方同士が結束して備えることで確保されるのではなくて、その仮想敵とされかねない国・地域を含めて敵味方のないフラットな恒常的な対話の場を維持することが大事であるという「多国間主義」の安保思想に立つのかというという選択である。そのため、

  1. 日韓中は露とも力を合わせて、ふらつきやすい米朝の対話を軌道に乗せて朝鮮半島の平和と非核化を達成する環境づくりに務め、さらにそれを北東アジアの安保対話の新枠組みへと発展させていく
  2. さらにこれARFを通じてASEANとブリッジさせ、東南と北東の複眼を持つ「東アジア安保共同体」へと発展させていく展望を持つ
  3. その中で、尖閣問題、台湾海峡と南シナ海をめぐる中国と日米ASEANの確執などの冷戦後遺症が軍事紛争に至らずに解決できる道筋を追求する

──ことが必要となる。

参考までに、故ズビグネフ・ブレジンスキーの「ポスト覇権」論の要点を付け加える〔2013年2月13日付ニューヨークタイムズ〕。

今日、多くの人々は、出現しつつある米中2極が紛争に突き進んでいくのは不可避だと恐れている。しかし、私は、この「ポスト覇権時代」にあっては、世界支配のための戦争が本当に起きるとは思っていない。

 

近年、米中の友好的な関係が、とりわけ両国のマスメディアによる敵対的な論争によって試練に晒されていることは無視できないし、そのような風潮はまたアメリカの不可避的な衰退と中国の急激な台頭についての憶測によって煽られてきた。

 

しかし、安定した米中関係にとっての現実的な脅威は、両国の敵対的な意図から生じるのではない。むしろ、北朝鮮と韓国、中国と日本、中国とインド、インドとパキスタンなど、アジア諸国の政府がナショナリスティックな激情を煽動したり許容したりすることによって[地域紛争が]コントロール不能に陥ることこそ危険なのである。

 

それに効果的に対処するには、米国の建設的かつ戦略的に微妙なアジアとの関わりが必要で、そのためには既存の日本及び韓国との同盟にのみ頼るのではなく、米中の協力体制を構築する必要がある。

 

それゆえにまた米中は、経済的な競争関係を政治的対立に転化させないようにすべきである。例えば、米国は中国抜きのTPPを追求すべきではないし、中国は米国抜きの地域経済協定を追求すべきでない。

 

もし米国が、警察官を演じるためではなく、地域の安定装置としてアジアに存在を保ち、また中国が、暴君的ではなく、卓越した地域パワーとなるのであれば、20世紀のような不幸な紛争を繰り返すことを回避できるだろう……。

見るとおり、米民主党系の外交政策エスタブリッシュメントの頂点にあったブレジンスキーによると、米中覇権争いなどありえない。なぜなら、理由は簡単、今はすでに「ポスト覇権時代」だからである。その時代にあっては「アジア諸国の政府がナショナリスティックな激情を煽動」することこそ危険で、その意味で安倍晋三首相は危険分子の1人である。

image by: 首相官邸 - Home | Facebook

高野孟この著者の記事一覧 早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

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