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核兵器の拡散が加速されようとし、世界をテロや紛争が脅かす状況のなか、被爆地の広島と長崎は今夏、74回目の暑い「原爆の日」を迎えた。
今から74年前、広島と長崎に原子爆弾が投下され、一瞬にして街は焼け野原と化し、両地で二十数万人の尊い命が奪われた。しかも現在でも、国内外で多くの被爆者は、後遺症で苦しめられており、その影響は被爆2世、3世にもおよんでいる。しかし、人類はいまだに核兵器の恐怖にさらされ続けている。核兵器が今も存在しているという事実は、世界平和への大きな脅威となっているのだ。
北朝鮮の核開発、米国のイラン核合意からの離脱、また米露の中距離核戦力(INF)全廃条約も今月2日に失効し、米ロに残された2021年に期限が切れる核軍縮の枠組みである新戦略兵器削減条約(新START)の今後も不透明だ。
そして、来年、発効から50年を迎える核拡散防止条約(NPT)は、5年に1度の来年の再検討会議に向けた準備委員会が去る5月(4月29日~5月10日)に開催された。しかし、核保有国と非保有国の対立が深まる中、本会議へ向けての勧告案はまとめることができなかった。
加えて、2年前の17年7月、国連で核兵器の開発や実験、使用などを全面的に禁止する史上初めての核兵器禁止条約が、122カ国・地域の賛成で採択された。極めて残念なことに、米露など核保有国だけでなく、日本の政府も条約の採択時に参加せず、いまなお否定的な立場を続けている。
昨年は慎重な姿勢であった広島市の松井一実市長も、今年8月6日の平和宣言で日本政府に署名・批准を促した。長崎市の田上富久市長は昨年の平和宣言で署名・批准を求め、今年は「日本は核兵器禁止条約に背を向けている」と批判した。このように、核軍縮や不拡散の流れにむしろ逆行する動きが続いている。
世界の核軍縮を進めていく上で、日本が原爆を投下された唯一の戦争被爆国として果たすべき役割は極めて大きく、核兵器の廃絶に向けたリーダーシップを発揮していかなければならない。まず日本政府は核兵器禁止条約に署名・批准すべきである。
速やかにできないのであれば、「核軍縮を実効的に進めるために、核兵器保有国と非保有国の橋渡し役に努める」と呪文のように唱えるばかりでなく、関係国への働きかけを強化して、具体的に核兵器廃絶に向けて、どう役割を果たしていくのかを示すべきだ。また、広島市が主導する163カ国・地域の約7800都市が加盟する平和首長会議との密な連携を強化してほしい。
一方、原爆投下からすでに74年が経過し、その脅威を身をもって体験された方々の高齢化問題は深刻だ。広島、長崎で被爆した人は毎年1万人前後減少し、今年15万人を割り込んだ。平均年齢は82歳強、前年より0.59歳上がっている。さまざまな取り組みにより、この原爆、そして原爆の被害の歴史と記憶を風化させることなく、必ず後の世代に引き継いでいく必要がある。私たちは大きな犠牲の上に、平和や民主主義を手にいれたことを、決して忘れてはならない。
原爆で亡くなられたすべての方々に、改めて心から哀悼の意をささげるとともに、鎮魂と不戦の誓いを新たにし、核兵器廃絶と世界の恒久平和の実現に向け、私たち一人ひとりが自らのこととして一歩一歩、歩みをつづけていくことが求められている。