4日から始まる臨時国会で注目されるのは、安倍晋三首相が新たに布陣した衆参両院の憲法審査会だ。

 首相は先の内閣改造・自民党役員人事にあたり、憲法改正を「必ずや成し遂げていく」との意欲を示した。そのために衆院憲法審査会長にあてるのが、自民党国会対策委員長を長く務めた佐藤勉氏だ。

 佐藤氏が審査会をどう運営していくのか、立憲民主、国民民主両党中心の新会派はどう応じていくのか、先行きはまだ見通せない。ただ、一部でささやかれ始めたのは、「憲法審が常任委員会化していくのではないか」との懸念だ。

 どういうことか。一般の法案を扱う常任委員会で与野党の賛否が割れた場合、与党は野党との間で硬軟両様の駆け引きをして成立を図ろうとする。うまくいかずに野党が審議を拒否すれば、与党議員が委員長なら職権で委員会を開き、一定時間がたてば採決を強行することがしばしばある。

 一方、憲法審はこうした運営をしてこなかった。国の基本である憲法の議論は時の多数派だけで進めるべきではないし、国民投票で過半数の承認も得なければならないという各党の共通認識から、伝統的に全党派の合意を原則としてきたからだ。

 佐藤氏には野党とのパイプがあると言われるが、野党がどんなに抵抗しようと、最後には必ず法案を通すのが国対委員長の仕事だ。特定秘密保護法安全保障関連法もそうやって成立させてきた。

 与党関係者は、「首相の意を受け、自民は最初からフルスロットルで議論を進めようとするのでは」と見る。

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 安倍首相集団的自衛権の限定行使を認めたり、野党からの国会召集要求を無視したりと、憲法の縛りをものともしてこなかった。そんな首相が憲法の明文改正に本腰を入れることに危うさを感じていた時、同じような問題意識から異色の憲法論をまとめた「数学者」がいることを知った。

 広島市長を2011年まで3期務めた秋葉忠利さん(76)。政治家になる前は米タフツ大などで数学を教えていた。

 秋葉さんはこの夏出版した「数学書として憲法を読む」で、政府や法学者による解釈にはとらわれず、憲法に書かれていることだけを「公理」と見立て、文字通りに、論理的に読み解くことを試みた。

 その結果、例えば憲法は死刑を禁止しているなど、従来の判例や通説とは異なるいくつかの「定理」を証明できたという。

 こうした中で秋葉さんが最も重要だと改めて認識したのが、天皇国務大臣、国会議員らの公務員は「この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」とする99条だ。

 99条については法的義務というより「道徳的な要請」だとする解釈が一般的で、その趣旨の判決もある。だが、義務を道徳的要請と読みかえることは、数学的読み方からすればあり得ない。30条の「納税の義務」を道徳的要請と読めば、税金を払わなくてもよいことになってしまうという。

 「政治家や官僚は99条には意味がないと思っているから、自分たちがやることは全て合憲だし、仮に憲法違反をしても罰せられないと好き放題にしてきた。憲法の遵守(じゅんしゅ)を公務員が最優先で守るべき義務として復権させる必要がある」と秋葉さんは話す。

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 秋葉さんの試みは現実とは少し距離があるし、専門家には反論もあるだろう。だが、こうした読み方を示すことで、憲法をめぐる政治の動きが正しいかどうか、専門知識のない人にも判断できるようにと問題提起をしている。

 99条が憲法を擁護する義務を課しているのは、閣僚や政治家ら権力の側だけだ。逆に私たち国民は、政治家らに憲法を守らせる側にある。首相や自民がこれからどんな形で改憲を進めようとするのか、守らせる側の立場から目を凝らしたい。

 (編集委員)