台風19号被害拡大 災害頻発列島で疑問だらけの対策対応

台風19号被害拡大 災害頻発列島で疑問だらけの対策対応<1>

公開日: 更新日:
52の堤防が決壊、被害は拡大するばかり(C)共同通信社
52の堤防が決壊、被害は拡大するばかり(C)共同通信社
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「命を守れ」と連呼しながら、肝心の情報は自治体のHPに丸投げしたテレビの限界

 8月の九州北部の大雨や、関東地方を襲った9月の台風15号をはるかにしのぐ記録的な豪雨と暴風で大惨事をもたらした台風19号。国交省や総務省消防庁によると、宮城や福島、長野など、少なくとも37の河川で52カ所の堤防が決壊。水害の影響などで、これまでに11県で計56人の死亡が確認された。消防庁によると、7県の計約76万人に避難指示が続き、計約3万8000人が避難所に。行方不明者は16人で、警察や消防が捜索を続けている。

 頻発する大災害はまるで何かに呪われているようだが、気象庁は今回、台風19号が日本列島を直撃する3日も前に異例の会見を開き、国民に注意を呼び掛けた。

 にもかかわらず、なぜ、悲劇を防げなかったのか。ささやかれているのは、テレビ報道の限界だ。

「命を守るための行動をしてください」。気象庁やNHK、民放アナが繰り返し使ったフレーズだが、違和感や戸惑いを覚えた国民は少なくなかっただろう。「自己責任」を迫られているような突き放した物言いに加え、具体的にどう行動すればいいのかが、よく分からなかったからだ。

 画面上でも「避難指示」や「避難勧告」「避難準備の指示」が出た自治体名が示されたり、読み上げられたりしたが、それ以上の説明はなし。結局、自治体のHPで詳細な情報を確認しなければならなかった。

 地震や津波、豪雨などの防災情報はふだん、スマホアプリを利用しているというITジャーナリストの井上トシユキ氏はこう言う。

「『命を守るための行動』と連呼されても、ヘルメットをかぶれと言われているのか、すぐに逃げろと言われているのか分からない。次の行動につながるような具体的な情報が欲しかったと思います」

 今回の台風でも、刻々と変化する浸水被害の状況を伝えたり、消防や自衛隊に救助を求めたりするのは、SNSなどネットの方が圧倒的に早かった。

 気象庁や消防が発表する情報を右から左に垂れ流すだけの災害報道はすでに時代遅れ。テレビでは「命は守れない」ことを国民も学んだに違いない。

気象庁の訴えは…(C)共同通信社
気象庁の訴えは…(C)共同通信社
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危機だけは伝わった気象庁の警戒呼び掛けは役立ったのか

「国民の皆さま、被災地の皆さまに早めの対策をお願いします。自分の大切な人、地域や近隣の人で避難が1人で難しい人にも、適切な台風の備えができるよう気を配っていただければ」

 日本列島に上陸すると予想された12日から3日も前に会見を開き、異例の呼び掛けを行った気象庁。その後も会見を開き、河川の氾濫や土砂崩落の危険性について警鐘乱打し、12日午後には、1都6県の一部に「大雨特別警報」を発表した。かつて経験したことがない超大型台風の襲来という危機感だけはヒシヒシと伝わってきたが、結果的に大きな犠牲が出てしまったことから、「悲痛な叫び」とも言える気象庁の呼び掛けが必ずしも役立ったとは言い難いだろう。政治評論家の森田実氏は「国や国会議員に災害の備えに対する真剣味が足りないため、危機を訴える気象庁だけが際立った面はある」と言い、こう続ける。

「最近の傾向でみられるのは、国や都道府県が市町村の現場に防災業務を丸投げし、災害に対して傍観者になっていることです。千葉県でも問題視されましたが、職員が本気で現場の状況を把握しようとしない。丸投げされた自治体も怠慢なのです。これでは気象庁からの情報がうまく届かないのも無理はないでしょう。その上、今、国民生活に最も密着しているはずの市町村職員の数は減る一方です。地方自治体行政の現場が急速に劣化していることも、台風被害を防げなかった背景にあるでしょう」

 総務省によると、全国の地方公務員数は18年4月現在、約273万7000人で、94年のピーク時から55万人も減った。全国では高度成長期以降に整備された道路や橋、トンネル、河川などのインフラが老朽化を迎えるため、対策は待ったなしだが、自治体現場では対応しきれないのが現状だ。

 行政の劣化が台風被害の拡大を招くのだ。

遅すぎる(14日、非常災害対策本部の会合であいさつする安倍首相)/(C)共同通信社
遅すぎる(14日、非常災害対策本部の会合であいさつする安倍首相)/(C)共同通信社
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嵐が過ぎ去ってから動き出した安倍官邸の「やっているふり」

「3万人を超す方が避難生活を続ける中、被災者へのきめ細やかな支援は急務だ」。14日、官邸で開かれた台風19号の被害に関する非常災害対策本部の会合で、安倍首相は各省庁横断の被災者生活支援チームの設置を表明。菅官房長官は警察や消防、自衛隊など計11万人超の態勢で対応していると説明したほか、河野防衛相も災害対応の長期化に備え、即応予備自衛官らを最大1000人規模で招集する考えを明らかにした。

 政府が一丸となって復旧に取り組んでいるように見えるが全く違う。例によって、いつもの「やっているふり」だ。

 政府は台風19号被害に備え、11日に関係閣僚会議を開いたものの、日本列島を直撃した12日は夕方に「総理指示」を出しただけ。非常災害対策本部の設置は翌13日夕方になってからだ。今回、気象庁は1200人以上が犠牲になった1958年の狩野川台風に匹敵する恐れがあるとして、最大級の警戒を呼び掛けていたが、今年5月に公表された中央防災会議の「防災基本計画」(風水害)にはこうある。

〈内閣総理大臣は、被害の最小化を図るため、(略)予想される災害の事態及びこれに対してとるべき措置について周知させる措置をとるものとする〉

 つまり、安倍は一刻も早く警戒態勢を取るべきだったのに何もせず、被害そっちのけでラグビーW杯の日本チームの勝利に大はしゃぎ。ツイッターで〈勝利を諦めないラグビー日本代表の皆さんの勇姿は台風で大きな被害を受けた被災者の皆さんにとっても元気と勇気を与えてくれるものだと思います〉などとノンキに投稿していたから呆れる。

 自民党の二階幹事長も13日に開いた党本部の緊急役員会で「予測に比べると、(被害は)まずまずに収まった感じ」なんて言っていたが、浸水被害で家財を失い、不自由な避難所生活を余儀なくされた被災者が聞いたら怒り心頭に違いない。前出の森田実氏がこう言う。

「自然災害への対応、国民生活を守るのは政府、行政の最大のテーマです。それなのに真剣味が全く感じられないし、現場に入って汗をかいている政治家の姿も見えない。おそるべき政治の劣化です」

 このまま安倍政権が続けば国民生活はズタズタだ。

竜巻被害も甚大だった=右、千葉県市原市(左は上から武田防災相、今井絵理子政務官)/(C)日刊ゲンダイ
竜巻被害も甚大だった=右、千葉県市原市(左は上から武田防災相、今井絵理子政務官)/(C)日刊ゲンダイ
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防衛担当、停電担当大臣が醜聞まみれの不運

 安倍政権がいかに防災対策を軽視しているかは、コロコロ代わる担当大臣がその証左。第2次政権発足以降、今の武田良太防災相で7人目。いずれも国家公安委員長との兼務で任期約1年、みな初入閣の超軽量級だ。つまり防災大臣なんて名前だけなのである。

 そのうえ武田は入閣前から警察関係者の間で「暴力団とベタベタ」などと噂されるフダツキ。就任直後に早速、山口組系元組員から献金を受領した疑惑が報じられた。14日は被災地の福島県で、阿武隈川の浸水現場や避難所を視察したが、醜聞大臣が腰を落ち着けて対策を指揮できるとは思えない。

 防災担当といえば政務官も酷い。今井絵理子参院議員である。今井は台風15号が襲った千葉県内を先月19日に視察した際、「現場の声を聞くのは大事なことだと思った」と幼稚園児のような発言を繰り出している。今度の台風19号でも、13日に千葉県に入り、竜巻で車両横転や住宅損壊が起きた市原市などを視察。「政府として全力でサポートする」と強調していたが、今井に言われても安心できない。

 停電担当の菅原一秀経産相は、台風が日本列島に接近した12日以降、全国の停電軒数と復旧軒数を怒涛のツイート。<一刻も早く復旧させます>と猛アピールだった。

 菅原は、11日の衆院予算委員会で選挙区の有権者にメロンやカニなどを贈ったとされる疑惑を追及されたばかり。必死のアピールは疑惑隠しなのか。

「役人の振り付け通りのコメントでカッコつけていますが、醜聞大臣では心のこもった災害対応など期待できません」(政治評論家・本澤二郎氏)

 安倍政権である限り、被災者は救われない。

台風19号が北上する前から移動性低気圧が…(13日、浸水した市街地で、救助活動にあたるヘリコプター=宮城県丸森町)/(C)共同通信社
台風19号が北上する前から移動性低気圧が…(13日、浸水した市街地で、救助活動にあたるヘリコプター=宮城県丸森町)/(C)共同通信社
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最凶台風が数十年に一度ではなく頻発する懸念

 最強クラスの台風が発生した背景には10月という気候が影響しているとの説がある。ロシアから寒気が吹き込み、台風の湿った温かい空気とぶつかったため通常より大きな雨雲ができて北に伸び、北関東や東北に大雨をもたらしたというのだ。

 別の要因を指摘する声もある。

「今回、雨量が増えたのは例年9、10月にできる移動性低気圧の影響もあります」と言うのは立命館大環太平洋文明研究センター教授の高橋学氏(災害リスクマネジメント)だ。

「台風19号が北上する前から東北地方を中心に移動性低気圧が張り出していたのです。ただでさえ大雨が降る準備が万端なところに大型台風が来襲して豪雨になり、河川が氾濫しました。北と南からのダブルパンチだったわけです」

 気象予報士の高橋和也氏(ウェザーマップ)によれば、10月に大型台風が発生した例は過去に何例かある。

 2004年10月には風速45メートルの台風が高知県を襲って死者95人、行方不明者3人を出した。

 09年9月末から愛知県を襲った台風は風速55メートルで死者6人を出している。もともと9~10月は海水温が高いため台風が発生しやすいのだ。

 ただ、今回の19号は圧倒的な雨量の多さが特徴だ。

「箱根では2日間で1000ミリを超える大雨が降りました。これは驚くべき数字です。原因として考えられるのは温暖化。海水温が上がることで水蒸気が増えて大気全体の温度が上がり、日本の上空に台風が入り込みやすくなったとも考えられます」(高橋和也氏)

 前出の高橋学氏はこう言う。

「1959年の伊勢湾台風まではこうした強力な台風が毎年起きていましたが、その後、数が減りました。現在は気候変動の波によって、大型台風が起きやすい時期に来ているのかもしれません」

 これから最大クラスの台風が頻発しそうだ。

東京・世田谷区の多摩川が氾濫(左)、対岸の神奈川県川崎市高津区も浸水(C)共同通信社
東京・世田谷区の多摩川が氾濫(左)、対岸の神奈川県川崎市高津区も浸水(C)共同通信社
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紙一重だった脆弱首都沈没の現実味

 巨大台風の直撃は、あらためて首都・東京の脆弱さを浮き彫りにした。

 鉄道各社は台風が通過した12日の計画運休を前日に発表。早めの決定は英断ではあるが、その結果、東海道新幹線はパニック状態に。東京駅の改札口に長蛇の列ができ、ホームはすし詰め、車両から乗客があふれ出て、ドアが閉まらず、出発が遅れた。

 12日の都心部は、交通機関がほとんど運休のうえ、大手百貨店が軒並み休業したため閑散とし、台風による混乱はなかったが、周辺部では豪雨による浸水被害が発生。世田谷区で多摩川が氾濫し、東急電鉄二子玉川駅付近の住宅など100軒以上が浸水、停電も発生した。対岸の川崎市高津区のマンション1階で60代男性が死亡した。

 東京都の北東部を流れる荒川が、上流の埼玉県内で「危険水位」に達しながらも氾濫しなかったのは不幸中の幸いだった。荒川に近い墨田区、江東区、足立区、葛飾区、江戸川区の5区で約82万世帯、約165万人に「避難勧告」が出されていたのだ。

 内閣府の想定では、東京の北区北部の荒川右岸で氾濫が発生した場合、北区、荒川区、台東区はほぼ全域が水没。地下鉄被害は17路線、97駅。東京の浸水面積は110平方キロに及び、皇居の敷地面積の約100倍の土地が水の底に沈むとされている。その際の被害想定額は土木学会によれば62兆円に上る。

 そして、今回は難を逃れたものの東京湾の高潮も首都を壊滅させる。

 昨年6月の土木学会の報告書によれば、1934年の室戸台風級の巨大高潮が東京湾を襲った場合、洪水などによる想定死者数は8000人、浸水域内人口は140万人にも達するのである。

「台風19号は伊豆半島に上陸したので、東京に到達するまでに勢力が落ち、被害は軽減されました。まっすぐ東京湾に来ていたらちょうど満潮時と重なり、高潮による大きな被害が出た可能性があります」(高橋学氏=前出)

 首都沈没は紙一重だったのだ。

道路を流れる泥水が、10センチになったら底が見えず、マンホールなどに転落してしまう(C)日刊ゲンダイ
道路を流れる泥水が、10センチになったら底が見えず、マンホールなどに転落してしまう(C)日刊ゲンダイ
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生死を分ける判断、今回の教訓

 今回の台風では56人もの死者が出た。栃木県では水田や用水路に落ちたクルマから遺体が見つかった。相模原市では家族4人が乗っていたクルマが川に転落。父親と母親、長女(11)の遺体が見つかり、長男(8)が行方不明になっている。

 どのタイミングで逃げればいいのか。防災に詳しい高橋学氏(前出)は道路の水が数センチになった段階で避難するべきだという。

「豪雨の際に道路を流れるのは泥水です。水深が10センチになったら底が見えず、側溝やマンホールなどに転落してしまいます。特に今回の台風は夜間だったので見通しが利きませんでした。水深5センチになったら避難すること。それも明るいうちに行動してください。クルマで逃げる場合は水が排気口と同じ高さになったらエンジンが止まることを覚悟すべきです」

 線路の下などに掘り下げて造られた通路「アンダーパス」を通過しようとして、たまった水で立ち往生することもあり得る。通路の幅が狭いと壁が邪魔でドアが開かず、脱出が困難になる。近づいてはいけない。

 高橋氏によると、ハザードマップに記載された避難所のうち、1970年以降にできた公園や学校は低い土地に立っていることがあるためかえって危険。スーパーや病院、マンションの3階以上に身を寄せたほうが安全という。

「『大人は1日に3リットルの水が必要』という話を真に受けて数日分の水と食糧を持ったら20~30キロになります。重くて歩けません。1日に500ミリリットルの水があれば十分。あとタオルを用意して首に巻けばジャンパーと同じ保温効果が得られます。近年東京などで増えているのがペットを見捨てられず逃げ遅れる人。ペットは籠に入れてすぐに連れ出せる用意をしてください」

 実際、埼玉県で救出された13歳の少年は「猫を飼っているので逃げられなかった」と話している。ペットと自分の命、どちらが大切かを考えるべきだろう。

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