日韓はなぜ袋小路に陥ったのか ベテラン識者が読み解くすれ違いの真相

日韓はなぜ袋小路に陥ったのか ベテラン識者が読み解くすれ違いの真相

インタビューに答える小此木政夫・慶応大名誉教授=東京都港区三田で2019年10月24日、宮本明登撮影

 韓国の最高裁が元徴用工への賠償を日本企業に命じたことを発端に悪化の一途をたどる日韓関係。歴史問題をめぐる対立は、経済や安保の分野にまで拡大し、もはや「袋小路」に陥っている。両国政府は何をどこで間違ったのだろうか。朝鮮半島の政治を半世紀以上見てきた小此木政夫・慶応大学名誉教授(74)に聞いた。【聞き手・國枝すみれ/統合デジタル取材センター】

韓国司法の「独走」が契機に

――日韓関係をどう見ますか。

 日韓関係は袋小路に入りました。1965年の日韓条約体制の危機であり、とても深刻です。

三菱重工に賠償を命じる韓国最高裁判決後、喜ぶ韓国の元徴用工や元女子勤労挺身(ていしん)隊員ら。2018年10月以降、日本企業に賠償を命じる判決が相次いでいる=韓国ソウルの最高裁前で2018年11月29日、堀山明子撮影

 発端は韓国の最高裁判所が出した2012年5月と18年10月の韓国人徴用工をめぐる判決です。判決は、元徴用工の個人的請求権や外交保護権は消滅しないとし、韓国人徴用工の戦時動員を合法とすることは韓国の憲法の「核心的価値と衝突する」と主張して、日本企業に元徴用工への損害賠償を命じました。これは韓国司法の「独走」で、韓国政府の従来の「外交上解決済み」との立場と反します。

 日本は今年7月、韓国向け半導体輸出の運用見直しを発表しました。韓国はこれを徴用工判決への「報復」と受け止めました。経済産業省の説明はともかく、日本側の本音は「日韓の間で信頼が失われた」からです。安倍晋三首相がこう説明しています。「1965年の日韓請求権協定でお互いに請求権を放棄した。約束を守れない中では、今までの優遇措置は取れない」

 日本の運用見直し発表に怒った文在寅政権は8月、軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄を宣言して対抗しました。日韓両政府は悪手の連鎖で歴史摩擦を貿易・安保分野に拡大し、これまで培った相互依存、水平分業の体制を断ち切っています。

過剰反応呼んだ日本の「ショック療法」

効果なかった韓国の最高裁判決「放置」

――なぜこんなことになったのでしょう。

安倍晋三首相(右)と韓国の李洛淵首相は24日に会談。日韓関係打開の道は開けるか=首相官邸で2019年10月24日午前11時13分、川田雅浩撮影

 日韓ともに判断ミスをしました。韓国は司法判断を「放置」することで、請求権協定をなし崩し的に形骸化できると思った。日本は輸出管理を厳格化すれば韓国が譲歩すると思った。ある種の「ショック療法」を試みたのですが、韓国の過剰反応を招きました。韓国人が報復的な措置に必要以上に反発することを日本は理解していなかった。日本が国際司法裁判所(ICJ)への提訴を警告すれば、それだけで韓国の動きは止まっていたでしょう。その上で、時間をかけて韓国の一般国民を文政権から切り離し、中立化させる戦術をとるべきでした。すでに韓国の保守系大手紙は、タコが足を食うような対日政策でよいのか、と政府批判をしていました。

遅れてきた韓国裁判所の「民主化」

――韓国司法はなぜ「独走」したのですか?

 遅れてきた韓国司法の「民主化」といえます。これまで「権力の召使」だった韓国の裁判所が政府の影響から独立し、時には政府の政策と正反対の判決を出すようになったのです。

インタビューに答える小此木政夫・慶応大名誉教授=東京都港区三田で2019年10月24日、宮本明登撮影

 11年8月にも、韓国の憲法裁判所が慰安婦問題に関し、韓国政府が日本と交渉しようとしないのは違法という「不作為」判決を出しています。

 こうした一連の司法の動きが韓国の政権に対する大きな圧力となりました。李明博大統領(08年2月~13年2月)は12年5月の徴用工判決の3カ月後の8月に竹島に上陸しました。朴槿恵大統領(13年2月~17年3月)は就任時から歴史問題で日本に厳しい態度をとりました。徴用工裁判の進行にブレーキをかけるため、自分が司法より厳しい態度をとらなければならなかったのです。

 17年5月に登場した文在寅大統領は、裁判への干渉を「積弊」(これまでの政権によって積み重ねられた弊害)の一部と見なし、それを放置する政策をとりました。朴政権時代に停止していた徴用工裁判は再び動きだし、最高裁は18年10月以降、日本製鉄(旧新日鉄住金)をはじめ、複数の日本企業に賠償命令を出しています。

植民地支配への民族的怨念が噴出

――日韓関係は摩擦や対立を繰り返してきました。今回はどう違うのですか。

 (日韓請求権協定が結ばれた)65年体制の本質的な部分に異議申し立てがされています。請求権協定は、日韓が相手方に残したインフラや財産を請求する権利や外交保護権を相互に放棄するもので、個人請求権を否定するものではありません。しかし、韓国の徴用工判決を読むと、1910年の併合以降の日本の植民地支配が不法であったという「不法論」に基づいており、今後、植民地支配に対する賠償請求というパンドラの箱を開く余地があります。世界の歴史をみると、敗戦国が勝戦国に賠償することはありましたが、植民地支配に対する賠償は例がありません。韓国は併合が武力侵略戦争だったと言いたいのでしょう。

安倍晋三首相(左)と韓国の文在寅大統領

 65年の日韓基本条約や請求権・経済協力協定は妥協の産物です。1910年の韓国併合条約などの旧条約に関して、日本は合法、韓国は不法と主張しましたが、論争の存在を「もはや無効」と玉虫色で表現し、領土問題の解決を先送りしました。冷戦下、安全保障と経済開発を優先した韓国の軍事政権は謝罪なき国交正常化を受け入れました。しかし、納得していなかった人々は「あの植民地支配が不法であることを日本に認めさせたい」という気持ちをずっと持ち続けていました。冷戦が終結し、経済発展して民主化が進展し、中国という別の経済大国が出現した今、この民族的怨念(おんねん)が噴出し、徴用工判決につながりました。

 日本は韓国が「ゴールポストを動かしている」と批判しますが、韓国からすれば「ポストをあるべき位置、正しい位置に戻しているだけ」となります。韓国は朱子学の国。「どちらに正義があるか」が重要な問題です。条約のような約束事も、正しくなければ見直すべきだ、と考えるのです。

日韓が共有できる戦略は少なくないのに…

――解決法はありますか?

 当面、解決は不可能です。日本は徴用工問題で韓国と交渉する気はない。「国内で解決して持ってきてくれ」と要求しています。慰安婦問題合意を文政権にほごにされたことが日本側のトラウマになっています。

 しかし、韓国側も司法が介入して判断を下したのだから、政府が政治的に譲歩することは難しい。法的整合性の問題だけではなく、支持基盤が崩れてしまう。文政権を支える左派勢力は「65年日韓条約・協定の再交渉」を要求してきました。本質的に解決が難しい問題なのです。

日米韓の安保体制にも悪影響が懸念される。日米韓外相会談後の共同記者会見を終え、握手する米国のポンペオ米国務長官(左)と韓国の康京和外相(右)。中央は河野太郎外相(当時)=東京都港区の外務省飯倉公館で2018年7月8日、代表撮影

 そのうえ、悪材料は現在進行形で次々と出てきます。11月23日にGSOMIAが失効します。来年1、2月には、徴用工裁判で差し押さえられた日本企業の資産が現金化される。そうなれば日本は報復措置をとらざるを得ず、後戻りできなくなります。さらに、来年4月には韓国で総選挙があります。日本も衆院解散、総選挙となる可能性ある。徴用工問題が政治利用される可能性があり、悲観的にならざるを得ません。

 隣国は相互依存するものです。縁を切りたくても切れるものではありません。現在は、日韓両国で隣国を正確に見る目が曇っています。日本が韓国を必要としないことを「新しい通常」とするような議論がありますが、そうなれば、日米韓安保体制はさらに不安定化し、在韓米軍撤退論が力を得るかもしれません。民主主義と市場経済を共有し、中国と米国という大国に挟まれたミドルパワーとして、同じ地政学的立場から日韓が共有できる戦略は少なくないと思います。現状では難しいかもしれませんが……。

おこのぎ・まさお

 慶応大学名誉教授。1945年生まれ。専門は国際政治論、現代韓国朝鮮政治論。著書「朝鮮分断の起源」(慶応義塾大学法学研究会)で第31回アジア・太平洋賞を受賞。

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