東京都葛飾区の「柴又」散策から、屋形船で昼食を取るコースまで――首相の地元事務所による「桜を見る会ツアー」が、朝日新聞が入手した資料から明らかになった。

2018年のツアーに参加した山口県下関市の男性は、ツアー出発日の同年4月20日、知人数人と自家用車で山口宇部空港まで行き、地元旅行会社の案内で飛行機に搭乗した。前日までには安倍首相の地元秘書から「飛行機の時間に遅れないようご注意下さい」との連絡もあった。ツアー代金7万円超を事前に地元旅行会社に振り込んだという。

羽田空港到着後は、貸し切りの大型バスに乗り込んで都内観光を楽しんだ。昼食にはお酒も飲んだ。

森友学園問題に触れた昭恵夫人

夜は「ホテルニューオータニ」で開かれた安倍首相夫妻同席の夕食会に出席。会費は1人5千円で立食形式。首相夫妻との記念撮影には多くの人が列をなした。昭恵夫人はあいさつで、自身の関与が取りざたされていた森友学園問題に触れ「ご迷惑をおかけした」と涙ぐむ場面もあった。下関市内の各自治会長や運送会社社長など見知った人の姿もあったという。

桜を見る会は翌21日午前8時半から。ニューオータニに宿泊した男性は午前7時ごろ、桜を見る会の会場となる東京・新宿御苑に向け、貸し切りバスでホテルを出発。現地に着くと、手荷物検査もなくすぐに会場内に入れたという。会場には自分たち以外の参加者の姿は見えず、しばらくすると首相夫妻が現れ、「首相の地元の人たち」として記念撮影を行った。男性は「並ぶと大変なので、先にやってしまおうと地元の人を優先してくれたのだろう」と話す。

公費でまかなわれる会場ではバラずしの弁当や焼き鳥などが振る舞われた。これらは「繰り返し並べば何度ももらえた」と言い、酒やジュースなどは飲み放題だった。バウムクーヘンをお土産代わりに持ち帰る人も多かったという。

別の下関市の男性は今年の「桜を見る会ツアー」に地元地方議員を通じて申し込んだ。桜を見る会当日は首相夫妻と記念撮影。18年同様、食事などが振る舞われた。タレントの招待客と一般客との間には仕切りがあったが、IKKOさんと握手をすることができた。現地で会った地元の知人は「ツアーは早く申し込まないといいコースが取れない」と話していたという。

ツアー代金は同行者の分も含め約20万円。男性は「桜がきれいで楽しかった。でも、桜を見る会を税金でやるというのはやりすぎではないか」と話した。

招待客名簿 野党「公開を」内閣府「廃棄済み」

立憲民主党など野党統一会派共産党は、12日に立ち上げた追及チームで1時間にわたって政府に事実関係の説明を求めた。

「安倍事務所からの招待客ならばフリーパスで行ける何百人かの枠があるのではないか」。野党統一会派山井和則氏は、首相の事務所が招待客のとりまとめに関与したのではないかと繰り返しただしたが、内閣府側は「個人に関する情報。お答えを差し控えている」との説明に終始した。

野党は関連文書の有無や保存期間についても追及。立憲の黒岩宇洋(たかひろ)氏は、1万人を超える「招待客名簿」の公開を要求したが、内閣府側は「終了後に遅滞なく廃棄した」と語るばかり。野党の「いつ廃棄したのか」「毎年同じように推薦をして、廃棄しているのか」との質問にも、内閣府側は「廃棄済み」一辺倒だった。

議員による招待枠はあったのか。自民党石破茂・元幹事長は11日夜、記者団に「党の役職をしているときにそんな枠があった」と述べ、石破氏が幹事長時代の13、14年ごろには「枠」が存在したと指摘した。

立憲の安住淳国会対策委員長は「首相に国会で徹底的に話を聞かないといけない」と予算委員会の集中審議を要求。だが、自民党は「それぞれの委員会で議論すればいい」と応じない構えだ。自民党幹部は「民主党の鳩山政権時代も、同様のことをやっていたのでは」と述べ、野党の追及には限界があるとの見方を示す。

政治資金に詳しい岩井奉信・日大教授(政治学)の話

「あべ晋三事務所」名の資料を見ると、「『桜を見る会』へのご参加を賜り」とある。安倍事務所が直接関与し、同会に有権者が送り込まれているように見える。政府は「各省庁からの意見を踏まえ幅広く招待している」と説明しているが実態は違うようだ。事務所が政府に名簿を出し、公費で酒食を提供している同会に有権者を招いているとすれば、税金で選挙区サービスをやっていると受け取られかねない。公職選挙法で禁止された選挙区に対する寄付行為に当たる恐れがある。

首相が地元の人を同会に呼ぶことは以前からあったと思うが、税金の使い道にも関わるので、基準を明確化すべきだ。