首相「もうV9に達したから」 長期政権、空気に変化
安倍龍太郎
安倍晋三首相の通算在職日数が20日で計2887日となり、憲政史上最長となる。長期政権を築いた要因として挙げられるのが、「有力なポスト安倍候補」と「強い野党」の不在だ。
この7年間、次の首相候補と衆目の一致する政治家は現れていない。小泉純一郎首相が重用した麻生太郎氏、谷垣禎一氏、福田康夫氏、安倍氏の4人が「麻垣康三」と呼ばれ、のちの首相候補に育ったのとは対照的だ。
安倍政権下では長く「ポスト安倍は安倍首相」(二階俊博幹事長)と言われ続けてきた。
各社の世論調査では、2012年、18年の自民党総裁選で首相と争った石破茂・元幹事長の名が次の首相候補の上位に挙がる。しかし、「桜を見る会」をめぐって「政府は公平かどうかを問われている。総理の説明に納得いかないという人もおられるとすれば、きちっと説明していただかないと」と発言するなど首相への苦言をいとわない石破氏は、首相にとって後継候補とはなり得ない。首相周辺は「首相がこだわっているのは、石破氏を首相にしないことだ」と言う。
強い野党の不在も、首相の長期政権運営を助けた。民主党政権時の苦い記憶を引きずるためか、この間、野党陣営はまとまりを欠いてきた。17年10月の衆院選では、当時の最大野党、民進党が希望の党と立憲民主党に分裂。自民党の大勝につながった。
だが、総裁任期は残り1年10カ月あまり。15日夜の会合で、総裁4選を話題にしたフジサンケイグループの日枝久代表に対し、首相は答えた。「日枝さん、聞くのはヤボでしょ。ないって言ったら、ない。党則が決めてるんだから」
首相は最近、官邸幹部らとの懇談でこうも語ったという。「もう巨人のV9に達したから」。V9とは、プロ野球・巨人がかつて9年連続日本一となったことになぞらえたもので、12年以降、衆院選、参院選、自民党総裁選にそれぞれ3回勝利したことを意味する。首相の「達した」との言い回しを、出席者の一人は「もう続投はないな」と受け止めた。
「トランプ米大統領が再選されれば、相手をできるのは安倍首相しかいない」。そんな首相の4選論はいまもくすぶり続ける。しかし、周囲が政権の終わりをかぎつければ、求心力は陰りを見せ始める。
首相は「任期中の憲法改正」の旗を振り続けるものの、野党の反対だけでなく、与党・公明党も慎重姿勢を崩さないまま。政権与党内でも任期中の改正は難しくなっているという見方が強まりつつある。
自民党内の空気にも変化が見える。
10月の2閣僚辞任では、二人を推薦したとされる菅義偉官房長官に、これまでの安倍政権では見られなかったほどに自民党内から批判が噴き出した。
党ベテランの一人は言う。「菅氏の立場であれば、間違いなく細かな評判まで入るはず。長く権力の中枢にいると目が曇ってしまうのか」(安倍龍太郎)