最長安倍政権、後継育てぬ罪深さ 支持率分析の専門家
聞き手・竹下由佳
早大政治経済学術院教授・河野勝さん
第2次安倍政権が発足した2012年12月以降、世論調査に質問の順番を入れ替えるなどの実験的要素を加えた「サーベイ実験」と呼ばれる手法で、政権の支持率を分析している。
他の政権と違う一番の特徴は下がっても回復することだ。支持の下落は、特定秘密保護法案の衆院通過や安全保障関連法の成立前など、論争が起きたタイミングで生じている。
「安倍ファン」のような固い支持層に支えられているなら、安倍晋三首相が信念を持って進める政策に関連して下がるのは考えにくい。その点からも、消極的な支持が多いのだと言える。
では、支持率はなぜ回復するのか。
今年9月と10月に計2千人を対象に実施した調査では、「安倍政権を支持する」は41・5%で、「首相が好き」は33・3%、「首相は指導力がある」は52・9%だった。「首相が好き」は低く、「指導力」は高く出る。この結果から浮かび上がるのは「どちらかと言えば嫌いでも、指導力や実行力があるから支持している」といった可能性だ。
実行力の評価で一番大きいのは、「日本を取り巻く安全保障環境が変わった」と明確に打ち出したことではないか。国民には東アジアの情勢が厳しいとの実感がある。それをはっきり言い課題に取り組んだことへの評価が高いと思う。
逆に首相が残した最も罪深いレガシー(遺産)は、後継者を育てなかったことだ。歴代政権を調べると、財務(旧大蔵)相経験者が高い確率で首相になっている。次に自民党幹事長や外相が続く。第2次政権では、現在80歳の二階俊博氏が3年3カ月幹事長を務め、79歳の麻生太郎氏が一貫して財務相を担っている。2人にとっては政権の継続が、自らの政治生命の延命となる構図がある。
これが「将来」のある人ならどうか。首相の「後」を考えて行動し、「桜を見る会」のように政権への批判が高まったら首相とたもとを分かつ行動を取るかもしれない。
こうした人事は、首相の権力基盤を固めるには好都合だが、与党との間の緊張感を失わせる。「ポスト安倍」がいなければ与党内で競争が起きず、批判の広がりも抑えることができる。
野党にすれば、首相を批判する自民党内の勢力と話ができない。野党は本来、与党内の健全な批判を後押しし、競争を促さないといけない。犬の遠ぼえのような批判ばかりでは、与党の一体感を強めるだけだ。
もう一点、政権に厳しい評価を付けざるをえないのは、メディアを選別し、批判する意義を認めない傾向が強いことだ。もっとも、首相だけに非があるのではなく、SNSの発達で誰もが自由に発信でき、意見の二極化が進みやすい状況が生まれたことも大きい。首相はそれをあおり、うまく乗っているとも言える。(聞き手・竹下由佳)
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1962年生まれ。専門は政治学。近著に「政治を科学することは可能か」。
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安倍晋三首相の通算在職日数が20日で憲政史上最長となりました。なぜ長期にわたり政権が維持できたのか。それにふさわしい成果を上げているのか。有識者に聞くインタビューをお届けします。