拡大する写真・図版提訴後の会見で、人事院から開示されたほとんどが黒塗りにされた赤木俊夫さんに関する資料を見せる代理人の松丸正弁護士(左)と生越照幸弁護士=2020年3月18日午後、大阪市内、小川智撮影

 「最後は下部がしっぽを切られる。なんて世の中だ」。2年前、公文書の改ざんを強いられた、とする手記と遺書を残して財務省近畿財務局の職員が自殺した。なぜ夫は死ななければならなかったのか――。妻は、すべてが法廷で明らかになることを願う。

公私ともに充実 暗転したあの日

 「責任をどう取るか、ずっと考えてきました。今の健康状態と体力ではこの方法をとるしかありません」

 弁護団は提訴に合わせて、赤木俊夫さん(当時54)の手記や遺書を報道陣に公開した。手記は、自宅のパソコンに残されたA4サイズ7枚と手書きのメモ2枚。3通が残されていた手書きの遺書には、震えるような字がつづられていた。

拡大する写真・図版提訴後の会見に集まる大勢の報道関係者ら=2020年3月18日午後、大阪市内、小川智撮影

 訴状などによると、赤木さんは明るく社交的な性格で、書道や落語、美術鑑賞などを楽しむ生活を送っていた。誠実な努力家でもあり、誇りを持って仕事に取り組んでいたという。

 夫婦仲も良く、公私ともに充実した日々。しかし2017年2月26日の日曜日、その生活が暗転した。

 赤木さんが休日で妻と義母の3人で公園を訪れていた時、上司から「登庁してほしい」と連絡が入った。「上司が困っているから助けに行くわ」。出勤した赤木さんを待っていたのが、改ざんの指示だった。

 妻に「内閣が吹っ飛ぶようなことを命じられた」と打ち明け、手記には「私は相当抵抗しました」と記した。赤木さんの言葉から、必死に不正にあらがった様子が浮かぶ。それでも最後は押し切られ、改ざんに手を染めざるを得なかった。

消えた笑顔「僕は犯罪者や」

 改ざんを重ねるうちに、明るかった赤木さんから笑顔が消えてふさぎ込むように。同年7月、うつ病と診断され、仕事に行けなくなった。同年12月に大阪地検から電話で事情を聴かれると、病状は急速に悪化していった。自宅でも「玄関の外に検察がいる」「僕は犯罪者や」などと繰り返し、周囲に自殺願望を語るようになった。そして18年3月、赤木さんは命を絶った。

 弁護団によると、妻は当時のことを「体の半分がちぎれて無くなったようだ」と語ったという。しかし、その後も国側の対応に苦しめられた。弁護士を通じて佐川宣寿(のぶひさ)・元同省理財局長に経緯の説明と謝罪を求めたが、面会は実現しなかった。公務災害とは認定されたが、開示された資料は大半が黒塗りでその理由もわからなかった。

 弁護団の生越(おごし)照幸弁護士は会見で、妻の心情をこう代弁した。「手を尽くしても、知りたかったことが何もわからない。ご遺族にとって残された道は訴訟しかなかった」(遠藤隆史

妻「佐川さん、本当のこと話して」

拡大する写真・図版学校法人森友学園をめぐる財務省の公文書改ざん問題で、自殺した近畿財務局職員の赤木俊夫さんが好きだった坂本龍一さんや書道などに関する書籍を机に置き、提訴について会見する代理人の生越照幸弁護士(右)と松丸正弁護士=2020年3月18日午後、大阪市内、小川智撮影

 自殺した財務省近畿財務局の赤木俊夫さん(当時54)の妻は、弁護団を通じて次のようにコメントした。

 (財務省近畿財務局の職員だった)夫が亡くなって2年が経ちました。あの時どうやったら助けることができたのか。いくら考えても私には助ける方法がまだ見つかりません。

 心のつかえが取れないままで夫が死を決意した本当のところを知りたいと思っています。

 夫が死を選ぶ原因となった改ざんは、誰が誰のためにやったのか、改ざんをする原因となった土地の売り払いはどうやって行われたのか、真実を知りたいです。

 今でも近畿財務局の中では話す機会を奪われ苦しんでいる人がいます。本当のことを話せる環境を財務省近畿財務局には作っていただき、この裁判ですべてを明らかにしてほしいです。そのためには、まず佐川さん(佐川宣寿・元同省理財局長)が話さなければならないと思います。今でも夫のように苦しんでる人を助けるためにも、どうか佐川さん、改ざんの経緯を本当のことを話してください。よろしくお願いします。

財務局OB 手記読み涙「許せない」

 自殺した赤木俊夫さんの元上司や国有地の問題を追及してきた市議からは、財務省理財局に対する怒りや真相解明を求める声が上がった。

近畿財務局OBの喜多徹信(てつのぶ)さん(71)は、赤木さんと同じ部署に所属し、国有財産の業務を担当した。赤木さんは曲がったことが嫌いな熱血漢だったといい、改ざんを強いられて悔しかっただろうに、と手記を読んで涙が出たという。

 「財務省は徹底して上意下達の組織。追い詰められたんだと思う。理財局のしたことは常識外れで許せない」と声を震わせた。

 国有地の売却価格などが非公表になっている問題を掘り起こした木村真・大阪府豊中市議は、裁判によって真相解明が進むことを期待する。「改ざん問題の一番のキーパーソンは佐川元理財局長。法廷の場でぜひ真実を明らかにしてもらいたい」と話した。(吉村治彦)

検察幹部「違法と認定できず」

 国有地売却や財務省の公文書改ざん問題を捜査していた大阪地検特捜部も、赤木俊夫さんが残した「手記」で記された改ざんの経緯を把握していた。それでも、弁護士らから告発された佐川宣寿(のぶひさ)・元同省理財局長ら全員を不起訴として捜査を終えた。

 改ざんに関する告発容疑は①決裁文書から安倍晋三首相の妻昭恵氏や政治家の名前を削除するなどして改ざんした有印公文書変造・同行使容疑など②財務省が学園側との交渉記録などを廃棄したとする公用文書毀棄(きき)容疑などだった。

 だが、①では改ざんされた政治家の関与などは文書の本質的な部分ではなく、国有地の売買契約などの情報は大きく変わっていない▽②では「1年未満」とする保存期間を過ぎた文書は廃棄しなければならないとの財務省の規則がある――などから、特捜部はいずれも「有罪判決を得られる高度な見込みがあるとは言えない」と結論づけた。

 検察内部でも捜査当時、「起訴すべきだ」という意見はあった。ある検察幹部は「捜査を経て改ざんなどの指示や経緯は相当判明していたが、それでも改ざんや廃棄が違法とは認定できなかった」と話した。(多鹿ちなみ、細見卓司)

内閣府の公文書管理委員会委員を務めた三宅弘弁護士

 公開された手記は、財務省による組織的な隠蔽(いんぺい)工作を明らかにし、中央省庁の公文書の管理実態について警鐘を鳴らすものだ。これだけの改ざんを理財局長だった佐川宣寿氏だけの判断でできたのだろうか。佐川氏個人ではなく財務省全体の問題とみて、訴訟の推移を見ていくべきだろう。

 私たちは手記で明らかにされた実態を踏まえ、民主主義の根幹を支える公文書管理のあり方に関心を持たなければならない。これは「桜を見る会」にも共通する問題だ。

元検事の落合洋司弁護士の話

 手記の内容が事実なら、佐川氏らが国会追及を避けるために元の文書では「まずい」と考えて改ざんした実態が浮き彫りになったといえる。重要性が高いからこそ改ざんして文書自体の性質を変えたと判断でき、大阪地検特捜部は有印公文書変造・同行使罪で立件できたはずだ。

 また手記では応接記録文書は「執務参考資料として保管されているのが一般的」としているのに、廃棄された。文書を廃棄した目的と背景を踏まえれば、公用文書毀棄(きき)罪についても起訴できたのではないか。

 

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佐川証人喚問要求署名:

http://chng.it/Rq4JRzCGX7