「末期症状」安倍政権に大打撃 黒川氏スキャンダル 検察も「出直し」

「末期症状」安倍政権に大打撃 黒川氏スキャンダル 検察も「出直し」

 黒川弘務東京高検検事長(63)の定年延長に端を発した混乱は、検察庁法改正案の今国会成立断念に加え、黒川氏自身がスキャンダルで辞職する失態続きの展開となった。今後の検事総長人事に禍根を残しただけでなく、政権にも、検察にも、大きな痛手となる。

官邸「使い勝手」重視の黒川氏推し

 「黒川検事長の勤務延長を閣議請議したのは私。責任を痛感しております」。午後5時半、首相官邸。森雅子法相は報道陣に、黒川氏から辞職願を受け取ったことを明らかにした。その少し前、黒川氏は約30人の報道陣が待つ東京都内の自宅を出て、無言のまま車に乗り、検察庁に入った。

 検察官の定年は、検察庁法の規定で検事総長は65歳、その他は63歳。近年の検事総長はおよそ2年で交代する慣例があり、2021年8月に定年を迎える稲田伸夫検事総長(63)も今夏の勇退が予測されていた。

 黒川氏はそれより早い2月7日に定年を迎える。法務・検察は当初、黒川氏と任官同期で7月が定年予定の林真琴名古屋高検検事長(62)を、稲田氏の後任の総長に据える構想を描いた。関係者によると昨秋、黒川氏定年後の後任検事長に林氏を充てる人事を首相官邸に持ちかけた。

 官邸幹部は、次期総長に黒川氏を推していた。官邸は昨年末の段階で、黒川氏の定年前に稲田氏を辞任させ、黒川氏を後任に据えるシナリオを描いた。首相周辺は「当時は稲田氏も黒川氏に譲るはずだと思っていた」と振り返る。

 官邸の意向に沿って、法務・検察は稲田氏に辞任を打診したとされる。ところが稲田氏は譲らなかった。

 稲田氏は、4月に日本で半世紀ぶりに開催予定だった「第14回国連犯罪防止刑事司法会議」(コングレス)=新型コロナウイルスの影響で延期=への出席を自らの「花道」とする意向があったとされる。また、官邸幹部は、1月に河井克行前法相の妻案里参院議員の参院選を巡る公職選挙法違反事件で広島地検が強制捜査に踏み切ったことを挙げ、「法務省が『稲田氏が事件の指揮を継続する必要が出てきたため、黒川氏の定年までの検事総長交代は難しい』と稲田氏の続投を求めてきた」と解説する。

 黒川氏の検事総長就任を推す官邸と、稲田氏続投を求める法務・検察。妥協策として法務省が示したとされるのが、ひとまず黒川氏の定年を延長する案だ。政府は1月、この案を閣議決定した。定年延長は「官邸の意向」に沿ったものといえる。

 なぜ官邸が黒川氏にこだわるのか。政府関係者は、政界とのつながりが深く、調整能力にたけた黒川氏について「使い勝手が良かった」と打ち明ける。16年9月、官邸は稲田氏の後任の法務事務次官に、法務省内で待望論が強かった林氏ではなく、黒川氏を登用した。その後、同省刑事局長だった林氏が当時の上川陽子法相と省内の組織改編を巡って対立すると、官邸は18年1月、上川氏の求めに応じる形で林氏を名古屋高検検事長に転出させた。これを契機に官邸は黒川氏との関係をさらに深め、黒川氏の検事総長就任も既定路線化させた格好だ。

 だが、大詰めで人事はつまずいた。内閣の判断で検事長らの定年延長を可能とする検察庁法改正案は「黒川氏の定年延長を後付けで正当化するためだ」との批判を浴びた。インターネットでは著名人による抗議が拡大。検察OBらも相次いで反対の声を上げ、政府・与党は今国会での成立断念を余儀なくされた。

 一連の混乱で黒川氏は「官邸の番人」などとやゆされ、法務・検察内からも「官邸との距離が問題視されたトップでは検察の信頼が保たれない」との声が上がり始めた。そうしたタイミングで報じられた黒川氏自身のスキャンダル。ある検察幹部は「世間に大変な迷惑をかけた。立場をわきまえなければならない」と突き放した。報道から一夜にして黒川氏は辞職を迫られた。

 官邸は法務・検察に、稲田氏が混乱の責任を取るよう求めた模様だ。混乱は今後の検察人事に禍根を残すとみられる。【近松仁太郎、巽賢司、堀和彦】

黒川弘務東京高検検事長の辞表提出や近畿3府県の緊急事態宣言解除について話す安倍晋三首相=首相官邸で2020年5月21日午後6時10分、竹内幹撮影

定年延長見通せず 自民内からも厳しい声

 「今回の一連の事態は首相官邸にとっても大ダメージだ」。黒川氏が辞職の意向を固めたことを受け、自民党のベテラン議員は繰り返し強調した。黒川氏の検事総長就任を見据え、異例の定年延長に踏み切り、検察官の定年延長を可能とする検察庁法改正案を推し進めてきた官邸だが、目算は根底から崩れた。秋の臨時国会で成立を目指す同改正案の先行きも見通せず、政権の求心力の一層の低下は免れない状況となった。

 菅義偉官房長官は21日の記者会見で、今年1月に決めた黒川氏の定年延長について「法相から閣議請議があって閣議決定された。そこは問題ない」と強調した。検察官の定年延長に関する法解釈を変更してまで黒川氏の定年を半年間延長したのは法務省の判断との説明だ。だが、閣議決定に踏み切った以上、官邸の責任は免れない。特に菅氏は黒川氏に近く、自民党議員は「菅氏は黒川氏をいろいろな会合に連れて回り、かばっていた。一番損をしたのは菅氏だ」と語る。

 政権は今通常国会で、検察幹部の定年を最長3年間延長する特例規定を盛り込んだ検察庁法改正案の成立を見送った。「黒川氏の定年延長を法律的に後付けする内容」「政権の恣意(しい)的な人事につながる」との批判を招いたためで、秋の臨時国会での成立を目指す。だが、黒川氏の辞職を受けて野党は「これで(特例規定を)残す理由は全くなくなった」(立憲民主党・安住淳国対委員長)と攻勢を強める。法案自体の見直しにもつながりかねない事態となっている。

 「安倍1強」の体制で憲政史上最長政権となった安倍内閣だが、昨年11月の「桜を見る会」の中止表明以降、政策転換を迫られるケースが目立つ。新型コロナウイルスの感染拡大では、困窮世帯限定の30万円の現金給付を一律10万円に修正した。求心力に陰りが見える。黒川氏辞職は追い打ちとなった形で、自民党関係者は「末期症状だ。いろいろなことが起きて収拾がつかなくなってくる」と述べた。【野間口陽、佐野格】

検察改革のさなか「みっともない」

 検察ナンバー2の東京高検検事長が不祥事の責任を取って辞職するのは、1999年に女性問題で則定衛検事長が辞職して以来となる。2010年に発覚した大阪地検特捜部による証拠改ざん事件以降、検察改革を進めて信頼回復に力を注いできた検察には大きな打撃で、一からの出直しを余儀なくされそうだ。

 証拠改ざん事件では主任検事のほか、改ざんを隠蔽(いんぺい)したとして当時の大阪地検特捜部長と副部長が逮捕、起訴され、懲戒免職処分を受けた。検察は猛烈な批判にさらされた。

 法相の私的諮問機関「検察の在り方検討会議」は、取り調べの可視化の拡大や、捜査方針のチェック体制の拡充を提言。この検討会で事務局を務めたのが黒川氏だった。特捜部は独自捜査態勢の縮小を余儀なくされ、大型独自事件の着手からしばらく遠ざかった。

 ようやく復活の兆しをみせたのは近年だ。東京地検特捜部は18年7月に文部科学省の局長級幹部2人、11月には日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告、19年12月には約10年ぶりに現職国会議員を逮捕して政官財の不正に切り込んだ。

 こうした中、前例のない定年延長によって検事総長への就任が有力視された検察ナンバー2が、検察庁法改正案が野党の批判を浴びているさなか、しかも緊急事態宣言下で賭けマージャンをやっていたというスキャンダルに、多くの現役検察官が衝撃を受けている。ある検察幹部は「みっともない。組織へのダメージが大きすぎる」と肩を落とす。

 元東京地検特捜部長の宗像紀夫弁護士は「個人の資質の問題であり、組織の体質と誤解されないようにしなければならない。国民の信頼なくして検察の捜査は成り立たない。調査を遂げて真相をはっきりさせ、再発防止策を講じて信頼回復に努めることが重要だ」と話した。【遠山和宏】

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