コロナ禍で気づいた「成長しなきゃいけない病」 長嶋りかこさん

コロナ禍で気づいた「成長しなきゃいけない病」 長嶋りかこさん

新型コロナウイルスによる自粛生活は、私たちの生活をどう変えたのか? 「withコロナ時代」を経て、その先にある暮らしにはどんな価値観が定着していくのだろうか? ifs未来研究所所長でジャーナリストの川島蓉子さんが、各界の気になる人たちに問いかける連続対談。混沌(こんとん)とした世界にあって、私たちが自分らしく、より良く生きるためのヒントをお届けします。

第1回のゲストは、文化や環境、美術、福祉などのグラフィックデザインを主軸に、世の中に伝える意義があることは何かを問い続けるグラフィックデザイナーの長嶋りかこさんです。(構成・坂口さゆり)

 

コロナ禍で気づいた「成長しなきゃいけない病」 長嶋りかこさん
コロナ禍で気づいた「成長しなきゃいけない病」 長嶋りかこさん

コロナ禍で気づいた「成長しなきゃいけない病」 長嶋りかこさん

川島蓉子(かわしま・ようこ)

伊藤忠ファッションシステム株式会社取締役。ifs未来研究所所長。ジャーナリスト。
1961年生まれ。早稲田大学商学部卒業、文化服装学院マーチャンダイジング科修了。著書に『TSUTAYAの謎』『社長、そのデザインでは売れません!』(日経BP社)、『ビームス戦略』(PHP研究所)、『伊勢丹な人々』(日本経済新聞社)などがある。1年365日、毎朝、午前3時起床で原稿を書く暮らしを20年来続けている。

 

コロナ禍で気づいた「成長しなきゃいけない病」 長嶋りかこさん

長嶋りかこ(ながしま・りかこ)

1980年生まれ。village®代表、グラフィックデザイナー。ブックデザイン、アイデンティティーデザイン、サイン計画、空間構成など、グラフィックデザインを基軸としながら活動。デザインを用いて環境/文化/福祉に寄与すること、自然環境や私たちをとりまく生産と廃棄への関心を深めることを目指す。
WEB:https://rikako-nagashima.com/

共感できるものだけに集中する、という仕事のしかた

川島蓉子さん(以下、川島) りかこさんの生き方の信条は「ソーシャルグッド」と伺っています。お仕事でもりかこさんのデザインは、既存の視点への問いや、価値転換への気づきに対する貢献を目的にしていらっしゃいますが、いつごろからそのような考え方になったのですか?

長嶋りかこさん(以下、長嶋) かつて広告代理店にいたとき、次第に仕事に対する違和感が積もっていったんです。当時は、自分が欲しいと思える商品や共感できるクライアントだけを選んで仕事をしていたわけではありませんでした。特に若手の頃は仕事を断りづらく、たとえ自分が買いたいと思えない商品でも、目の前に与えられた目的をデザインによって果たすことに集中すれば、何かが見えるはずだと思ってやっていました。

視覚・言語化する技術は、次第に身についていくんですが、いくらやっても何も見えてこなかった。それどころか、見えてきたのは自分の中の嫌悪感でした。自分が広告やパッケージで携わった企業や商品を、胸を張って友人や家族にもオススメできないなら、自分は何をデザインしているんだろう? そんな疑問が積もり積もって、受ける仕事の選択にも、仕事そのものにも、自分に責任がすべて伴う環境にするべく独立し、会社を立ち上げました。

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川島 独立後はご自身が共感できないお仕事はしなくて済んでいるのですか。

長嶋 資金面だけを考えると、受けたほうが楽になるようなお仕事の依頼もありましたが、中身への共感ができないと結局あとで精神的に苦しむのは自分なので、そういったお仕事はお断りするようにしています。

自分の中で意義を感じるものに対して、デザインで役立ちたいと考え、仕事を受ける際の自分なりの基準のようなものを整えてきました。そして徐々に、「環境を考慮しているか」「文化的な意義があるか」「公共の福祉に役立てるか」、これらのいずれかに当てはまるものにデザインで寄与するという方向に定まっていったんです。美術や文化に関わる仕事や、環境配慮のある商品や企業などの仕事を積極的にしています。

グラフィックデザインは外側のデザインなので、ともすれば外側の技術力で中身をごまかしてしまう。中身に対しての自分の気持ちを差し置いて外側だけでもり立てることは、自分にも受け手にも、うそをつくことになる。なので、“自分自身も共感している中身”を伝えるために外側をデザインする、という意識が強いですね。全盲の監督が映画作りに挑むドキュメンタリー『ナイトクルージング』や、震災後に坂本龍一さんが始められた「東北ユースオーケストラ」や、デサントのリサイクル活動「RE:DESCENTE」など、仕事はそのような意識で関わっています。

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感染していたかもしれない

川島 そんなりかこさんが最近、より暮らしを大事にしようということをお話しになっていましたが、今回の新型コロナウイルスでご自身の暮らしやお仕事がどう変わりそうかを伺えれば。りかこさんは感染の疑いがあったそうですね。

長嶋 そうなんです。実際に感染していたかどうかは、PCR検査を受けられていないのでわかりません。ただの風邪だったのかもしれませんが、自分にとっては今まで感じたことのない症状ではあったので、コロナだと思って、しばらく隔離生活をしていました。

川島 どんな症状だったんですか。

長嶋 3月17日くらいに、肺あたりに違和感が出たのが最初です。のどのいがらっぽさと肺の苦しさがありました。毎日、常時マスクをし、外出のたびに手洗いうがいをしていたので、しっかり防いでいるつもりだったのですが、徐々にせきと肺の苦しさが増していきました。ちょうどその数週間前は仕事が立て込んで睡眠不足が続いていたので、今思うと、かなり免疫が落ちていたのかもしれません。

川島 病院へは行ったんですよね?

長嶋 最初に相談窓口へ電話したら、「かかりつけ医に行ってください」とのことだったので、そちらへ行きました。でも熱は37度だったので、目安の37.5度には届いていませんし、海外渡航者との接触がないことから「コロナではないと思うので、ひどくなったらまた来てください」と気管支系の薬をもらいました。その時点で、すでに無症状でも感染している人がいるのは周知のことだったので、ともあれ自分はコロナだと思って行動しようと決めました。

その後、症状が悪化して他の病院に行ったのですが、同じくPCR検査には至らず。理由を尋ねると、「現時点の厚労省の指針では、陽性の場合は軽症でも入院するルールゆえ、軽症者でベッドが埋まることを危惧しており、PCR検査はできない」とのこと。「でもコロナと思って過ごしてください」と言われました。もちろん軽症の私でベッドを埋めたいとは思いませんから、理由も納得でした。この時初めて、病院が厚労省のルールと患者との板挟みになっているということがわかり、自分の症状と経緯が何かの役に立てばとFacebookでシェアしていました。

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心身の健康をキープする生活が、こんなに心地よいものかと

川島 その間は、お子さんのお世話はどうされていたんですか。

長嶋 子どもは1歳なのですが、乳幼児の隔離は無理ですね。マスクをしながら世話をしなければなりませんでした。その間、息子が40度の熱を4日間出したことがあったんです。感染させてしまったのかと焦りました。結局、子どもによくある突発性発疹だったんですが、熱性けいれんも起こしたため、私は連日寝ずの看病をすることになり、体を休ませることができず自分の症状が悪くなっていきました。

川島 その体験を含め、自粛期間を振り返って気づいたことはありますか。

長嶋 自分の心身の健康をキープする生活は、本当に居心地のよいことだと気づきました。それまで自分がおざなりにしていた「食べる・寝る」という基本的なことをしっかり丁寧にやるとこんなに居心地がいいのかと。

川島 どう変わったのですか。

長嶋 子どもができてからはお世話があるので、仕事はスローダウンせざるをえなかったものの、案件が込み入ってくると、子どもを事務所内で寝かしつけて、そのまま夜中まで仕事をしていました。それから家に帰って寝て、朝は子どもに起こされるので5時間ほどの睡眠です。夜間授乳があるので睡眠がぶつ切れで、正直すごくしんどかったんです。朝起きて開口一番に「疲れた」と言うほど。ずっと疲れが取れることがありませんでした。

でも、今回コロナの感染疑いとなったことでメンテナンスを心がけ、できるだけ自分の免疫力を上げることを考えました。しかも、朝起きて疲れを感じない睡眠時間が8時間だとわかったので、毎日しっかり8時間寝るようになったんです。

「空いた時間に仕事する」へと転換

長嶋 仕事のために育児の時間を犠牲にするわけにもいかないので、今までは真っ先に睡眠と食事を削っていました。でも、自分の心身の健康を整えるために睡眠と食事をしっかりキープし、空いた時間で仕事をする、という考え方に変えたんです。もし「アフターコロナ」と言われる生活スタイルがあるならば、私はこの状態をキープしたいと思っています。寝ること、食べることを削らずに暮らす。その中でできる仕事をやりたいです。

川島 売れっ子なのにできそうですか?

長嶋 いやいや売れっ子じゃないですし、どっちみちコロナの影響で仕事は減ると予測してますし。

先日“7割以上の人が「フル出勤」に戻りたくない”という記事を読んだのですが、みんな緩やかな生活は気持ちよかったんだなと思いました。経済面の不安はあるものの、暮らしの面でよい気づきが多かったんだと思うんです。これまでの過度な働き方を疑問視する時間になったのは私も同じです。

川島 暮らしがきちんとあって初めて働けるという感じはありますよね。私が話を聞いた男性陣が面白かったんですよ。みんな本当にプライベートがないくらい働いてきたけれど、「暮らしが楽しいです」と言っているの。あと「家族が大事」って。びっくりしました。

コロナ禍で気づいた「成長しなきゃいけない病」 長嶋りかこさん

経済的成長からちょっと解放されてもいい

長嶋 働き方に関しては、出産して思ったことがあるんです。子どもができると、どうしても仕事はスローダウンしなければならない。仕事の成長曲線が描けなくて、ふと、“成長が止まった”と周囲から思われるんだろうなと勝手に想像しては、勝手にいらだつことがありました。

成長を前提にしている社会にいらだつし、そう思われることに焦燥感を感じている自分にもいらだつ。「成長しなきゃいけない病」にいらだつ。それは経済全体も言えると思うんです。経済的成長を支えるべく壊され続けてきた自然環境や、貧困地域を思っても、過度な生産と消費を続けながら成長し続ける必要があるのかなって。

川島 面白い面白い! 本当にそうですね。人としての成長があってもいいとは思うんですけど、それが仕事の成長とか、利益の成長とか規模の成長に偏っていた気がしますね。

長嶋 経済的に成長し続けなければいけない、という前提から、私たちは解放されたほうがいいのではないかと思います。むしろ、それは精神的な成長につながるのではないでしょうか。

川島 では、コロナ後はどんな働き方を考えていますか。

長嶋 いまスタッフとは、限られた時間の中で仕事の量や内容をどう絞っていくべきか?といった話をしています。といっても志は変わらず、より深めていくイメージです。環境問題に対してもっとコミットしたいし、社会的な意義のある仕事をしたい。

今回のコロナ感染疑いから生まれた危機感がなかったら、自分の体のことをここまで考えなかったかもしれませんし、仕事もどうにかして以前の量に戻していこうと思っていたかもしれません。私にとって、感染の疑いという決定的なことがあったのは良かった。そう前向きにとらえています。

    ◇

次回、川島蓉子さんがゲストに迎えるのは、「WWD JAPAN.com」編集長の村上要さんです。
7月1日(水)配信予定。どうぞお楽しみに!

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