「脱派閥人事」を掲げた菅義偉自民党新総裁(71)を支える党執行部が、派閥均衡型に納まった。総裁選で菅氏を支持した5派閥で主要ポストを分け合った。ただ、派閥内では想定と異なる人選に不満もくすぶり、調整過程で混乱もみられた。派閥領袖(りょうしゅう)や公明党からは、早くも政権運営への注文が飛ぶ。

 国会での首相指名選挙を翌日に控えた菅氏は15日朝、公務をこなしながら人事の構想や調整で詰めの作業を進めた。官房長官として最後の定例閣議に臨み、自民党本部であった党役員会などに出席する合間に、関係者と電話連絡を繰り返した。「国民のために働く内閣を作っていきたい」。党4役を正式に決めた総務会では、そう力を込めた。

 その後、新4役はそろって党本部で就任会見に臨んだ。4人に森山裕国会対策委員長(75・石原派)を加えた新執行部のメンバーは、いずれも総裁選で菅氏を支持した派閥の重鎮だ。

 「一丸となって党を盛り上げていく。小競り合いは絶対に生じてはならない」。二階俊博幹事長(81)がそう語ると、横に並んだ山口泰明・選挙対策委員長(71・竹下派)らは深くうなずいた。記者団から「論功行賞では」と指摘されると、二階氏は「つゆほども思っていない。党に対する偏見だ」と色をなして反論した。

菅氏から細田会長への直電

 菅氏は今回の人事に臨むにあたり「派閥からの要望を受け付けない」と脱派閥を強調していた。ただ、新たな党の布陣に「派閥に配慮したということだ」(細田派幹部)との見方が広がる。その調整過程でも派閥への配慮がちらついた。

 細田派には14日夜、菅氏から細田博之会長に政調会長下村博文・元文部科学相(66)を充てるとの連絡が入った。安倍政権では、安倍晋三首相が直接、本人の携帯電話などに連絡を入れるのが常だった。細田派の閣僚経験者は「菅さんが会長に気を遣った」。同派関係者は「そもそも起用は下村さんを重用してきた安倍首相への配慮ではないか」と話す。

 麻生派では、総務会長に衆院当選同期の佐藤勉・元総務相(68)に白羽の矢を立てた。だが、同派内には不満がくすぶる。国会の司令塔役である国会対策委員長を望み、菅氏にも水面下で意向を伝えていたからだ。同派幹部は「麻生派として佐藤氏を推していない。菅氏が一方的に決めた」と憤りを語る。

 15日夜には、菅氏は新閣僚への起用を決めた議員に次々と連絡を入れた。

 最大の焦点とされた官房長官には、竹下派の加藤勝信厚生労働相(64)を充てることを決めた。自民党内では無派閥の梶山弘志経産相(64)らの名が取り沙汰されたが、梶山氏は周囲に「やり残した仕事はたくさんある。経産相を続けたい」と語り、消極的な姿勢を示していた。党関係者は「菅さんは官房長官で本命を起用できたのだろか」といぶかる声も漏れた。

 「改革姿勢」「仕事ができる人」。そんな言葉で大幅人事を示唆していた菅氏だが、15日中に内定した顔ぶれは、現内閣からの再任も目立った。安倍政権を共に支え続けた麻生太郎副総理兼財務相(79)のほか、茂木敏充外相、萩生田光一文部科学相(57)ら主要閣僚の多くは居抜きの方向。菅氏が掲げてきた「安倍政権の継承」が、人事でも前面に出る形になりそうだ。

 麻生派中堅は「思い切った人事を宣言しながら、留任や横滑りが多く代わり映えしない顔ぶれだ。これで国民の支持が高まるのか」。党内では基盤に弱みを抱える菅氏の先行きを、不安視する声も上がる。(石井潤一郎、安倍龍太郎)

公明「自民は良くても…」と早期解散を敬遠

 首相の専権事項とされる衆院解散では、菅氏は「板挟み」状態になっている。

 15日午後に国会内で、公明党山口那津男代表と会談し、連立政権を継続する「合意文書」に署名した。新型コロナウイルス対策を前面に掲げる内容で、感染拡大を「未曽有の国難」と表現。ワクチン確保や医療機関の支援などを「強力に推進する」とうたった。

 山口氏は会談後、早期解散論について「これから選ばれる総理大臣の専権」としつつ、付け加えた。「政権合意で大きな柱として確認したことは新型コロナ対策。政権として最優先の課題で臨みたい」。政治的な空白はつくれない、とクギを刺した格好だった。

 安倍晋三首相の辞任表明後、報道各社の世論調査では内閣支持率は回復。菅氏の人気も高いが、公明内には「自民は良くても、公明は無残な結果になる」(衆院中堅)と早期解散を敬遠する空気は強い。

 支持母体の創価学会はコロナ禍で長らく活動休止が続き、地域での集会を9月に本格的に再開したばかり。四つの衆院小選挙区で公明現職を抱える大阪府内では、11月1日に大阪都構想の賛否を問う住民投票が行われる。都構想反対の地元の自民とは賛否が割れており、自公連携が動揺するのは必至。近い時期の衆院選は避けたい。公明幹部は「ベストは(来年10月の)任期満了、ベターは今年11月中旬以降」と語る。

 党役員人事から、解散時期を読み解こうとする自民議員もいる。ある党幹部は、党運営の要である二階氏と国会を含めた政治日程を組み立てる森山氏を続投させたことを踏まえ、「衆院選は早い」と分析。衆院のベテランは人事で「菅色」を打ち出しづらい状況にあることから、「解散して本格的な人事をやるとしか思えない」とみる。

 麻生氏は15日の記者会見で、「来年に(東京)五輪があるとの前提を考えれば、やっぱり早期解散を考えるべきではないか」と改めて訴えた。2008年の首相就任の際、リーマン・ショック後の経済対策を理由に解散を先送りし続け、衆院選で大敗した。当時、解散判断にブレーキをかけた一人が、選挙対策副委員長の菅氏だったとされる。

 菅氏は14日の会見で「(コロナが)完全に下火になってきたということでなければ難しい」と慎重に対応する考えを示した。だが、自民関係者はためらわず決断するのではとみる。「麻生政権が追い込まれた経緯をわかっているから」(大久保貴裕)

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