名前すら知らない5人を任命拒否 続く首相の迷走 自民からも「言うほど墓穴掘る」
毎日新聞
衆参の予算委員会は6日、計4日間の日程を終えた。野党は菅義偉首相との初の本格的な国会論戦に、日本学術会議の任命拒否問題を主要テーマに据えて挑んだが、首相は質問が核心に迫ると「人事に関することなのでお答えは差し控える」を連発。新たな答弁には矛盾もあり、「なぜ6人が外されたか」の理由は示されぬままで、野党は「支離滅裂」と批判を強めた。
論戦で「いつ誰が決めたか」の概要は判明した。首相は、官房長官当時から会員選出が限定的なメンバーで行われており「閉鎖的で既得権益になっている」との懸念を持っていたと強調。首相就任後、改めて杉田和博官房副長官らに「懸念」を伝えた。その後「9月22日か23日ぐらい」(首相)に杉田氏から6人を外すと報告があり「私が判断した」と述べた。
ただ、首相は6人の名前を以前から知っていたかを問われると「(東大教授の)加藤陽子先生以外の方は承知していなかった」と答弁。加藤氏以外の5人の著書なども読んだことがないと明かした。野党は「それでどうやって判断したのか」「杉田氏に言われて外したのか」と追及したが、首相は「人事に関すること」を理由に答弁を避けた。
政府は人選に関する協議の過程を記した文書の存在は認めたが、国会への提出は拒否。野党は、杉田氏を直接ただすため参考人招致を求めているが、与党は応じない方針だ。
首相は理由の一つとして「会員の出身や大学に大きな偏りがある。例えば旧帝国大学の会員が45%を占めるが、私立大は24%。49歳以下は3%にすぎない」とも繰り返した。だが6人中3人は私立大教授。東大教授の1人は50代前半で会員の中では若い。矛盾を指摘されると「今回の任命の判断と直結はしない」と修正し、答弁は迷走した。
立憲民主党の逢坂誠二氏は「恣意(しい)的な拒否だと言われても仕方ない。社会全体が萎縮し、みんなが総理の思いをそんたくしないといけない社会になる。これでは多様な価値観は絶対生まれない」と批判。自民党内からも「言うほどに墓穴を掘っている」と困惑の声が上がった。
法的根拠を巡っても堂々巡りが続いた。政府は公務員の選定を「国民固有の権利」と定めた憲法15条に基づき、「必ず推薦通りに任命しなければならないわけではない。政府の一貫した考えだ」と繰り返した。だが、野党が1983年の中曽根康弘首相の「政府が行うのは形式的任命に過ぎない」との答弁との矛盾をただすと、加藤勝信官房長官は「40年前のことでその趣旨を今から把握するのは難しい」と釈明。「一貫」を主張する姿勢との矛盾が露呈した。
内閣法制局が「国民に対して責任を負えない場合には任命権者は任命を拒否できる」との説明も加えたが、「6人を任命すると責任を負えなくなるのか」との質問には、首相は「人事に関することなので控える」と繰り返した。【飼手勇介】