菅首相「大学偏っている」のばかばかしさ

学術会議任命問題は自民党が原因? 菅首相の新説「大学偏っている」のばかばかしさ

参院本会議で共産党の小池晃書記局長の代表質問に答える菅義偉首相。旧帝国大学への学術会議会員の「偏り」について説明した=国会内で2020年10月30日午後2時12分、竹内幹撮影

 日本学術会議の任命拒否問題で、またも菅義偉首相が不思議なことを言い出した。焦点の拒否の理由について、今度は「大学に偏りがあるから」との説明を始めたのだ。これはホントか? 実は、「『偏り』があるなら、それは自民党の教育政策が原因だ」との指摘もあるのだが……。【吉井理記/統合デジタル取材センター】

旧帝大の「既得権」?

 菅首相の「新説」を振り返っておこう。

 これまでも拒否の理由の説明を求められてきた菅首相、「総合的、俯瞰(ふかん)的な活動を確保するため」とよく分からない説明を繰り返してきたが、現在の会員構成について10月26日に「結果的に一部の大学に偏っている」(出演したNHKの番組)と述べたのを皮切りに、「いわゆる旧帝国大学といわれる七つの国立大学(東京大、京都大、大阪大、東北大、名古屋大、九州大、北海道大)に所属する会員が45%を占めている。それ以外の173の国公立大学は合わせて17%。615ある私立大学は24%にとどまっている」(同30日の参院本会議)などと、大学の「偏り」を問題視する発言を繰り返すようになった。とうとう「既得権」(11月5日の参院予算委員会など)という言葉まで使って非難を始めたのである。

 その政治的意図は不明だが、これは「偏っている」と言えるのか? 事実を確認しよう。

記者会見で「正確なデータに基づいた議論を」と訴える日本学術会議の梶田隆章会長=東京都港区の日本学術会議で2020年10月29日午後4時32分、手塚耕一郎撮影

 日本学術会議が公表している現在(第25期)の会員名簿を調べてみると、204人の会員は、大学や高専、国などの研究機関、民間企業など84の団体に所属するか、あるいは「非常勤講師」などを務めている。

 このうち大学は56校あり、複数会員が選ばれた大学は、多い順に①東大34人②京大16人③大阪大14人④慶応大10人⑤東北大9人⑥早稲田大8人⑦九州大7人⑧名古屋大6人⑨北海道大5人⑩筑波大4人⑪広島大、千葉大、一橋大、明治大各3人⑮神戸大、北里大、横浜国立大、東京都立大、東京医科歯科大、愛媛大、関西学院大各2人――の21校だった。このほか1人が選ばれた大学は35校ある。これは現会員に限った数字で、過去に選ばれた大学を含めればもっと多い。

 数字だけを見てみれば、なるほど、菅首相の言う通り「旧帝大」の多さが目を引く。これは不自然なことなのか?

 論文引用数などを基に算出する英教育誌タイムズ・ハイヤー・エデュケーションの「世界大学ランキング」(2021年版)によれば、日本トップの東大(世界36位)、2位の京大(同54位)をはじめ、世界のベスト500にランクインした日本の上位10校のうち、6校が菅首相が言及した「旧帝大」である(他の4校も筑波大、東京工業大、東京医科歯科大、産業医科大で、現在・過去に会員が選ばれている)。

 世界的に見て「日本で最も優れている」と評価される大学から、「優れた研究または業績がある会員をもって組織」(日本学術会議法第11条)する日本学術会議の会員がより多く選ばれるのは、「偏っている」のではなく、「当たり前」なのではなかろうか。

お金も人材も…国が優遇した旧帝大

 「そもそも私は『偏っている』などとは思いませんが、これらの旧帝大系から会員が多く選ばれるのは、菅首相たち自民党の教育政策の当然の結果です。そこを問題視するのは、自分たちの政策を否定することになるのですが……」と首をひねるのは、教育史に詳しい日本大の小野雅章教授である。

 「小泉純一郎政権時代の05年に中央教育審議会が『我が国の高等教育の将来像』という答申を出して以降、国は大学を事実上、選別する政策を始めたのです」

参院本会議で共産党の小池晃書記局長の代表質問の答弁中に、小川敏夫参院副議長(奥左)にヤジを制止するよう求める菅義偉首相(手前右)=国会内で2020年10月30日午後2時5分、竹内幹撮影

 ざっくり言えば、将来の少子化や大学そのものの経営状況の悪化を見越し、国立大学では①世界の有力大学と肩を並べる最先端の教育・研究をする大学②特定分野の教育や研究に力を入れる大学③研究はさほど重視せず、地方企業や自治体など、地方のニーズに応える人材を教育することに力を入れる大学――に分け、私大についても大学の性格や目的によって、国の助成金を傾斜配分していく。

 「例えば安倍晋三政権時代の14年度に始まった文科省の『スーパーグローバル大学創成支援事業』が象徴的です。国が大学の国際化や競争力を高めるためにお金の支援をするのですが、『世界ランキングトップ100を目指す力のある大学』(文部科学省は『トップ型』と命名)に選ばれた大学には、最も多くの補助金が得られます。現在、13校が採択されていますが、その顔ぶれを見てください」

 選ばれた大学には年5億円の補助金が最大10年間支給されるが、この13校は北大、東北大、筑波大、東大、東京医歯大、東工大、名古屋大、京大、大阪大、広島大、九州大、慶大、早大と、「旧帝大」7校がすべて含まれるのはもちろん、前出の学術会議の会員輩出人数が「偏っている」と指摘される学校にそのまま重なるのだ。

 「一部の大学に資金を集め、そこで『ランキングに入る大学を作れ』と言っているのですから、そこから学術会議の会員に選ばれるような優秀な研究者が多く出てくるのは当たり前です。つまり学術会議が会員構成を『偏らせている』のではなく、国の大学政策を反映した当然の結果、と見るべきです」

 ちなみに国立大学協会の18年のまとめでは、日本の大学で最も教員数が多いのは東大の3895人で、2位は京大の3361人、3位は大阪大の3242人など、「旧帝大」の多くが上位を占め、いずれも学生数が約7万人と日本一のマンモス大である日本大の2598人を上回る。教員の多さが会員数に反映している面もあり、これまた「偏っている」とか「既得権」ではなく、当然の結果に映る。

菅首相の説明「破綻している」

 「菅さんは私大の会員の少なさを問題にしていますが、早稲田・慶応以外は、私のところを含め、研究環境がそれほど整っているわけではない。もし『偏り』があって、これをなくしたいというのであれば、政府が、それぞれの大学の研究環境を同じ条件にする努力をして、その上で日本学術会議法や会員選出のルールなどで、あらかじめ私大出身者の割合などを決めておけばいい。つまり『偏り』などは、任命拒否の理由にはなりません」

 実際、菅首相自身が任命拒否した6人のうち3人は私大に所属しているし、「私大の少なさ」を問題視することと矛盾する。「多様性が大事だということを念頭に、私が任命権者として判断をした」(10月28日の衆院本会議の代表質問)とも述べているが、現在、東京慈恵会医科大の会員がいないのに、同大の小沢隆一教授を任命しなかったこととも整合性が取れない。

 「つまり菅首相の説明はどれも破綻しているんです。菅政権や自民党は学術会議の『あり方』などに論点を拡散して焦点をぼやかそうとしていますが、問題の肝は『なぜあの6人だったか』ということに尽きます。6人とも、安倍政権の政策を批判してきた人たちです。ここを離れてはいけません」

 菅首相は前出のNHKの番組などで「国民に理解をされる、そうした学術会議になることが大事」と繰り返し述べている。共同通信の10月17、18日の世論調査では、任命拒否の菅首相の説明について、「不十分」との回答が72・7%に上った。まず菅首相自身が、国民に理解される説明をするのが筋ではないか。

吉井理記

1975年東京生まれ。西日本新聞社を経て2004年入社。憲法・平和問題、永田町の小ネタ、政治家と思想、東京の酒場に関心があります。会社では上司に、家では妻と娘と猫にしかられる毎日を、ビールとミステリ、落語、モダンジャズで癒やしています。ジャズは20代のころ「ジャズに詳しい男はモテる」と耳に挟み、聞き始めました。ジャズには少し詳しくなりましたが、モテませんでした。記者なのに人見知り。

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