[FT]米民主主義を破壊するトランプ氏の抵抗(社説)
- 2020/11/13 14:23
- 日本経済新聞 電子版
トランプ米大統領は大統領選の結果を認めず抵抗している。この状態が長引けば長引くほど、米国の民主主義は傷つけられる。同氏の敗北には真剣に議論する余地はない。相手である民主党候補のバイデン氏は306人の選挙人を獲得し、当選に必要な選挙人を36人上回ったとみられる。それでもトランプ氏は「選挙が盗まれた」と主張している。上院のマコネル院内総務ら共和党の重鎮の多くは、トランプ氏の傷ついたエゴを甘やかしており、軽率だ。

トランプ氏の言動は、善意に解釈してもあまりに問題が多い=AP
トランプ氏が敗北宣言を先送りすればするほど、米国の民主主義制度の正統性が受ける犠牲は大きくなる。閣僚候補の「身体検査」や機密情報の閲覧など、次期大統領に認められるはずの権限を、バイデン氏は今も認められていない。これは新政権発足の準備を遅らせている。ある調査によると、トランプ氏が選挙不正を訴えているがために共和党支持者の3分の2以上が、選挙は「自由で公正ではなかった」と考えている。円滑な政権移行は、民主主義の基盤だ。トランプ氏は200年以上にわたって受け継がれてきた米国の伝統を踏みにじり、民主主義の制度を危うくしている。
問題は、その動機だ。トランプ氏は単に選挙活動による負債を返済するために、寄付金を増やそうとしている可能性がある。選挙結果を問う訴訟のために集めている寄付の但し書きには、寄付金の半分以上は「大統領選で生じた負債」の返済に充てられるとある。また、上院過半数をかけた来年1月5日のジョージア州決選投票での支持を盛り上げるために、共和党の有力者がトランプ氏の茶番に調子を合わせているという見方もある。
共和党議員の中には、トランプ氏に調子を合わせているのは最終的に敗北を認めさせるためだと漏らす議員もいる。バー司法長官が先例を覆し、司法省に大統領選の不正疑惑に関する捜査を促す書簡を送ったのもそのためかもしれない。「合法的な票」のみ集計すべきというトランプ発言を公に支持したポンペオ国務長官もしかり。だが、彼らの主張は明らかに間違っている。議論の的になっている激戦州(アリゾナ、ペンシルベニア、ウィスコンシン、ジョージア、ミシガン)では、郵便投票の集計は州法にのっとって行われているのだ。
より腹黒いシナリオを読み取ることもできる。激戦州の2州以上で共和党多数の議会を説得し、有権者が投票で選んだ選挙人とは別の選挙人を指名させ、選挙結果を覆そうとしているという見方だ。だが、どの激戦州で再集計しても得票差を覆すほどの無効票が見つかるとは統計学的に考えられない。米国憲法の解釈によっては、州議会が各州の規則で選挙人を指名することは可能だ。このシナリオでは、6対3で保守派がリベラル派を上回る連邦最高裁が、各州の議会に選挙人を指名する権利を認める可能性がある。
こんな企てが成功するとは思えない。しかし、今の「権謀術数」の時代には見過ごすわけにもいかない。トランプ氏が9日にエスパー国防長官ら複数の国防総省幹部を解任したことで懸念は強まっている。エスパー氏は黒人暴行死を巡る抗議デモが広がっていた6月、反乱法を適用して軍を出動させようとしたトランプ氏に異を唱えて不興を買った。トランプ氏の言動は善意に解釈してもあまりに問題が多い。大統領選が盗まれたとトランプ氏が訴えているのは、バイデン氏の井戸に毒を投げ込んでいるに等しい。全ての米国民のため、トランプ氏は一日も早く敗北を認めるべきだ。
(2020年11月11日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)
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