唯一の戦争被爆国としての日本の存在感は、国際社会の中で薄れていくのではないか。そんな危惧を抱かざるを得ない。

 日本政府の核兵器廃絶決議案が今月、国連で安保・軍縮を担う委員会で採択された。賛成は昨年より9減の139カ国、棄権は7増の33カ国、反対は1増の5カ国となった。

 決議案は「核兵器のない世界」へ「各国の橋渡しに努め、共通の基盤を構築する」として27年連続で提出されてきた。それがここ10年で賛成は最少、棄権は最多という結果である。

 先月、あらゆる核兵器を違法とする核兵器禁止条約が批准50カ国の要件を満たし、来年1月の発効が決まったばかりだ。

 しかし今年の決議は、この歴史的節目を前にしても核禁条約に一言も触れず、「核兵器のない世界に向けた様々なアプローチに留意する」と素っ気ない。さらに「核使用による壊滅的な人道上の結末」の記述も、2年前まであった「深い懸念」が消え、昨年と同じく「認識する」と弱めた表現のままだ。

 今年は英国と米国が共同提案国に加わった。そのため、例年にもまして核保有国への配慮がにじんだ、との見方もある。

 核禁条約の批准国をみると、条約推進国のニュージーランドが失望感を表明するなど棄権が増えて11カ国を数えた。

 フランスドイツなど、米国と軍事同盟を結ぶ主な欧州各国も、米国などが批准せず未発効の包括的核実験禁止条約CTBT)への言及が弱い、などとして相次ぎ棄権に回った。

 「自国第一」の核戦略を強め、段階的な核軍縮も放棄してきたトランプ政権への「批判票」の側面もあるだろう。日米同盟が重要なのは言うまでもないが、日本政府は被爆国の立ち位置を見誤っていないか。

 折しも米国の新大統領がバイデン氏に決まった。「核なき世界」をめざしたオバマ政権の路線に戻り、核軍縮に取り組む構えだ。他国から核攻撃されない限り核を使わない「先制不使用」の宣言もあり得る。

 「核の傘」に固執する日本の姿勢は、すでに国際世論の潮流から取り残されている。被爆国の自覚と訴えを揺るぎないものにせずして、核保有国と非核国をつなぐ役割は果たせない。

 まずは核禁条約の締約国会議にオブザーバー(傍聴)参加をするべきだ。だが菅首相は国会で「慎重に見極める」とし、会議の被爆地への誘致も「締約国じゃない中で不適切」と一蹴した。現状を変えようという意欲は何も感じられない。

 核廃絶への困難な道を開く先頭に日本が立つ。その行動を国民と国際世論は待っている。

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コメント: バイデンの核政策:

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