新型コロナウイルスの感染が急拡大する中、19日に開かれた専門家の会合では、高齢の感染者や重症者が増えている厳しい状況が報告された。冬に向けてさらに深刻化する恐れがあるものの、政府は感染者を減らすための強い対策を打ち出せないでいる。

 「今後、重症化する人が増加する。救急医療の受け入れや手術を抑制しないといけない状況になると想定される」。19日の専門家組織の会合後、座長の脇田隆字国立感染症研究所長は会見で、今の感染状況に危機感を示した。感染拡大の要因には、基本的な感染予防対策がしっかり行われていない▽人の移動の増加▽気温の低下の三つを挙げた。

 メンバーの尾身茂氏も「何かしら対応が必要なのは間違いない」と話し、20日開催の政府の分科会で対策を提言する考えを明らかにした。

 9日、専門家組織のメンバーが多く参加する政府の分科会は、対策強化を求める緊急提言を出した。会長の尾身氏は「急激な感染拡大に至る可能性が十分ある」と強調した。だが、19日の会合の評価では、改善はまだ見られない。むしろ「2週間で2倍を超える伸び」など厳しい言葉が並ぶ。危機的な局面で人々の行動に影響力を持ってきた尾身氏らの訴えだが、人出の状況などからはその効力に陰りも見える。

 ソフトバンクの子会社「アグープ」のデータで、緊急提言が出た9日と1週間後の人出を比べると、東京駅で4・4%減、札幌駅で2・7%減、大阪駅で1・2%減にとどまった。名古屋市の栄駅はほぼ横ばい、福岡市の天神駅は逆に4%増えた。4月の緊急事態宣言では、大阪駅で53%減、東京駅で42%減などと大きく減っていた。

 メンバーの一人は会合後、「今の状況がかなり厳しいということが伝わっていない」と焦りを見せた。保健所の負荷が増し、医療現場の逼迫(ひっぱく)感は病床使用率という数字で見るよりはるかに強いと指摘する。

 東京大の広井悠准教授(都市防災)が指摘するのは、「警報慣れ」という現象だ。「何度も警報が出て自分が無事だと、『次も大丈夫だろう』と事態を過小評価しがちだ」

 広井さんは「夏の第2波は死者は大きく増えずに収まったが、現在の第3波は亡くなる恐れが高い高齢者も増えている。適切なリスク意識を持ってもらうことが重要だ」。症状がなくても感染していて、人にうつすリスクもある。「若い世代には、『高齢者のために行動を変えよう』と説明することも有効だろう」と話す。

 今後の見通しについて、順天堂大の堀賢教授(感染制御学)は「このままでは東京都内だけで1日1千人の新規感染者もあり得る」と警鐘を鳴らす。

 特に懸念されるのが、中高年層への感染の広がりや、高齢者施設などでの集団感染に伴う重症者の急増だ。自治体の発表を厚生労働省が集計したデータによると、11月18日は全国で重症者が280人に達し、「第2波」ピークの259人を超えた。緊急事態宣言が出ていた「第1波」ピークの328人には及ばないものの、感染から重症化までに2週間ほどの時間差があり、今の増加ペースが続けば12月にも上回る可能性がある。

医療現場からは悲鳴「何の対策もしてくれないのか」

 北海道ではすでに医療の状況が切迫している。入院調整に携わる医療関係者は「複数の受け入れ病院で院内感染が発生し、受け入れが止まった。現場は限界まで来ている」と話す。

 北海道の19日の新規感染者数は267人で、4月時点のピークの約6倍。介護施設や医療機関などでのクラスター(感染者集団)も目立つ。重症者を優先して入院先を確保しているが、入院待ちの患者も出てきている状態だという。

 「酸素吸入が必要な人が入院する場所が無くなる瀬戸際だ。医療従事者はこんなに必死に対応しているのに、政府は何の対策もしてくれないのかと思っている」

 北海道以外でも17都府県(19日午後7時時点)が今月に入って1日あたりの新規感染者数が過去最多を更新した。

 東京都の感染症医療体制協議会委員を務め、病床の調整を担う山口芳裕・杏林大病院高度救命救急センター長によると、ここ1週間で、陽性と判明する前に呼吸苦で酸素吸入が必要な状態となり救急車で運ばれる患者や、入院先で重症化して転院する患者が急激に増えているという。これまではクラスター対策の延長で高齢者を早めに医療につなぐことができていたが、それができなくなっており、「第1波の状況と似てきている」と指摘する。

 岐阜県で開催中の第48回日本救急医学会学術集会長の小倉真治・岐阜大教授(救急・災害医学)は「危機感は極めて高い。今、警戒を呼びかけても結果は2週間後にしかわからない。通常の医療にも深刻な影響が出る『ポイント・オブ・ノーリターン(後戻りできない地点)』を超えないために、『第1波』以上に気を引き締めて、感染対策をしてほしい」と話した。

首相周辺「経済止めず、対策するしか」

 感染者増に政府も危機感を示すが、打つ手は限定的で、国民の「自己防衛」に委ねる部分も大きい。

 菅義偉首相が19日に国民に求めたのは、3密の回避など基本的な感染防止策の徹底だった。会食時の感染リスクについて注意喚起し、飲食する時だけマスクを外し、会話はマスクを着用して行う「静かなマスク会食」を提案した。

 自ら「今日から徹底する」とも語り、同日昼に首相と会食した公明党山口那津男代表によると、互いにマスクを着けて経済政策や外交について意見を交わしたという。

 首相の呼びかけの背景には、今春の緊急事態宣言時に国内経済が傷んだことから、同じ事態を繰り返したくないとの考えがある。

 首相周辺は「また自粛を呼びかけたら飲食店が倒れる。経済を止めないギリギリのところで対策するしかない」と語る。政権幹部も経済活動を止めれば「コロナよりも、経済で苦しむ人の方が多くなってしまう」と強い懸念を示す。

 官邸幹部らはいまの感染状況を「欧米の状況に比べても日本はまだ大丈夫。医療体制にも余裕はある。状況は想定内だ」とみる。日本医師会が観光支援策「Go To トラベル」を「感染者急増のきっかけ」と18日に指摘しても、加藤勝信官房長官は「感染防止策によって旅行による感染リスクは低減できる」と主張。加藤氏は19日の記者会見でも「考え方に何らの変更もない」とした。

 ただ、政府の対策には苦しさものぞく。政府は人の往来などを促す方針を続ける一方で、都道府県知事には飲食店への営業時間短縮要請などを検討するよう求めた。これを後押しするための「協力金」の原資も500億円用意。トラベルを始め、Go To キャンペーンを使うかどうかは「国民のみなさんの判断だ」(西村康稔経済再生相)との発言も出ている。

 国民の「自己防衛」頼みで、どこまで感染拡大を抑えられるのか。今後の感染状況の推移について19日夜の会見で問われた西村氏は、分科会の尾身茂会長の考えを引用しつつ「どうなるかは神のみぞ知る」。立憲民主党幹部は、首相自ら求めたのが「静かなマスク会食」にとどまったことをこう批判した。「こういうのを弥縫(びほう)策と言う」

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