「死者27万人」コロナで露呈する矛盾だらけの米国社会

米国社会のリアル

「死者27万人」コロナで露呈する矛盾だらけの米国社会

樋口博子・ロス在住コラムニスト

新型コロナの感染が再拡大する米国=カリフォルニア州パサデナで2020年12月1日、AP

新型コロナの感染が再拡大する米国=カリフォルニア州パサデナで2020年12月1日、AP

 新型コロナの爆発的な再拡大で、米国の死者数は11月末に27万人を超え、感染者は1360万人強となりました。1日当たりの新規感染者は9月時点で3万~5万人前後でしたが、11月半ばからは15万人以上の日が多くなっています。(ウェブサイト「Worldometer」)

私が暮らすロサンゼルス郡でも夜間外出が禁止されるなど、カリフォルニア州で最も厳しい措置が再開しました。しかしそんな緊急事態の中でも、米国にはいまだ「マスク不要論」を唱える人々がいます。

今回、私が指摘したいのは、彼らへの批判ではなく、米国社会に長く横たわってきた「政府への不信」です。

共和党支持者の政府不信

ロサンゼルス・タイムズ紙(11月24日付)によると、カリフォルニア州では主に共和党支持者の間で、国や州の対策を信じず、コロナ被害を軽視する人が増えているとわかりました。例えば今年7月の調査では、共和党支持者の約3分の1が「自分や家族が新型コロナに感染することを心配していない」と答えていましたが、11月の調査では55%に増えています。

また、11月の大統領選挙では、コロナ被害が大きい郡ほど、コロナ対策に積極的ではなかったトランプ氏が支持されたこともわかっています。AP通信によると、新型コロナの新規感染率が最も高い376郡のうち93%で、トランプ氏がより多くの票を獲得したのです。

共和党の支持基盤である中西部や南部などでコロナ感染が拡大していたことや、もともと共和党支持者が多い地域でマスク着用への反発があったことを考えると、驚くことではないかもしれません。トランプ氏もマスク不着用の大型集会を繰り返し、「行政のガイドラインに従わない」空気をあおっていました。

トランプ支持派の集会に集まった人たち=米中西部オハイオ州アシュランドで2020年10月3日、國枝すみれ撮影
トランプ支持派の集会に集まった人たち=米中西部オハイオ州アシュランドで2020年10月3日、國枝すみれ撮影

米国人の伝統「個人の自由」

米国社会は、政府と個人の関係が常に拮抗(きっこう)し、大きくなりすぎた政府の力を抑制したり、行きすぎた個人主義に歯止めをかけたりしながらバランスを保ってきました。

マスク不要論の根底には、この歴史の中で生まれた「自分の身は自分で守る」「自分のことは自分で決める」といった米国人の伝統的な考え方があります。政府よりも「個人の自由」を重んじるということです。

コロナ被害が拡大すると、トイレットペーパーなどの日用品以外に「銃購入」で店先に長蛇の列ができたことにも、この考え方が顕著に表れています。

こういった考え方を「正しい」「間違っている」と言いたいのではありません。指摘したいのは、マスク着用に対し、トランプ氏が「個人の自由」という言葉をちらつかせ、コロナを軽視する態度を示し続けた事実です。

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 少なくとも今年7月まで、トランプ氏は公衆衛生を担う保健行政の呼びかけに反し、マスクを公の場で着用しませんでした。大統領自らが「政府は信じるに値しない」というメッセージを送ったことになり、大きな矛盾です。こうしたことが、政府と個人というバランスを崩し、米国社会を感染症に対し脆弱(ぜいじゃく)なものにしたと思っています。

選挙集会で演説するトランプ米大統領=米東部ペンシルベニア州で2020年10月13日、古本陽荘撮影
選挙集会で演説するトランプ米大統領=米東部ペンシルベニア州で2020年10月13日、古本陽荘撮影

黒人たちの根底にも

政府不信は、共和党支持者だけが感じているものではありません。

米シンクタンク、ピューリサーチの調査によると、新型コロナの予防接種が始まった場合に、ワクチン接種を希望すると答えた黒人は32%のみであることがわかりました(11月29日付ロサンゼルス・タイムズ紙)。コロナによる黒人の死亡率は白人の2倍、他の人種と比べても高くなっているにもかかわらずです。

背景の一つには、何世代にもわたって黒人が医療の場で不当に扱われてきた歴史があります。

現在、コロナ対策の陣頭指揮を取る米公衆衛生局も、半世紀前には黒人男性を実験台にした臨床研究「タスキギー梅毒実験(1932~72年)」を主導しました。このことは多くの黒人の間で、いまだ新しい記憶として語られています。

また黒人医師の割合もわずか2.6%で、米国人の12%が黒人であることを考えると少ない数字です。人口の6%に当たるアジア系の医師の割合は17%あります。経済的格差や教育格差から、黒人の医療現場への進出が遅れていることも、公衆衛生や医療システムへの不信感を払拭(ふっしょく)できない原因の一つです。

今年、全米に広がった「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大事だ)」運動。この運動の根底にも「政府への不信感」がある=写真家ジェームス・コウ氏提供
今年、全米に広がった「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大事だ)」運動。この運動の根底にも「政府への不信感」がある=写真家ジェームス・コウ氏提供

米国の深い亀裂

このような「政府を信じられない人々」にバイデン新政権はどう向き合っていくのか。信頼回復に簡単な答えはありません。なぜならこれは、雇用の創出や社会福祉、多様性の尊重といった政策だけでは解決できない問題だからです。

コロナという未曽有の危機が今、米国社会の深い亀裂をあらわにしています。

<「米国社会のリアル」は隔週掲載です>

樋口博子

ロス在住コラムニスト

 兵庫県生まれ。ロンドン大修士(開発学)、東大博士(国際貢献)。専攻は「人間の安全保障」。2008年、結婚を期にロサンゼルスに移住。渡米前はシンクタンク、国際協力銀行、外務省、国際NGOで開発途上国支援に取り組んだ。米国で2019年に独立。地元コミュニティーを地域や日米でつなぐ活動をしている。カリフォルニア州議会下院議員アル・ムラツチ氏(民主党)は夫。

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