安倍晋三前首相の後援会が「桜を見る会」前日に開いた夕食会の費用を、安倍氏側が補塡(ほてん)していたことが明らかになった。安倍氏が1年前から「ない」と断言し続けた費用はどこから生まれ、安倍氏はいつどのような事実確認をしていたのか。地元の支援者からも説明を求める声が上がる。

共謀認定は困難

 「政治資金収支報告書に記載するべきだった」。安倍氏の公設第1秘書らは、東京地検特捜部の任意の調べにそう説明し、違法性の認識を認めたとされる。

 2013年から計7回開かれた夕食会のうち、時効にかからない15年以降の5回で安倍氏側が負担したのは計約916万円だったとされる。開催費用総額の約4割を占めるこの金額を、誰がどこから支払っていたのかが捜査の焦点だ。

 夕食会の主催は、公設第1秘書が代表を務める「安倍晋三後援会」だった。一方、計約916万円の支払いを受けたホテル側が発行した領収書の宛名は、後援会とは別の政治団体で安倍氏が代表の「晋和会」だ。検察幹部は「領収書に名前があっても、お金の出どころは違うということもある」と指摘する。特捜部は、どの政治団体の収支報告書に記載するべきだったかの特定を進めている。

 その特定には、計約916万円がどこから捻出されたのかという原資の解明も必要になりそうだ。過去の収支報告書は各年ごとに公表されているが、夕食会にかかわる収支はどこにも記載がない。新たな支出を加えるには、その分の原資が必要になる。実際にあった収入が隠されていたり、別の支出として処理されたりしていれば新たな問題になる可能性もある。

 立件される場合、誰が刑事責任を問われるのか。

 政治資金規正法では、収支報告書の記載は政治団体の会計責任者が一義的に責任を負う。15~19年の会計責任者は、晋和会は秘書1人、後援会は公設第1を含む秘書2人となっている。

 安倍氏は晋和会の代表だが、代表の責任(50万円以下の罰金)まで問えるのは会計責任者の「選任と監督」の注意を怠った場合と定められ、かなり具体的な関与や指示がない限り共謀に問うハードルは高い。

 安倍氏周辺によると、担当者は安倍氏に「『払っていない』と虚偽の説明をしていた」という。もしこれが事実であれば、晋和会として会計処理すべきだと認定されても、安倍氏の共謀を認定するのは困難とみられる。

議員が知らない「信じがたい」

 税金を使って首相が主催する桜を見る会に、安倍氏の地元有権者らが多数出席して「私物化だ」と批判されている問題について、国会で野党が追及を強めたのが昨年11月。このころから夕食会についても違法性が問われてきた。

 例えば、今年2月17日の衆院予算委員会では、こんなやりとりがあった。

 無所属で野党統一会派小川淳也氏(現立憲民主党)は、野党議員が夕食会の会場となったホテルに、明細書などを主催者に発行しないケースがあるかどうか問い合わせたところ、例外なく発行するとの回答が書面であったとし、首相に説明を求めた。これに首相は「私の事務所の職員は、発行は受けていないとのことだった」などと応じた。

 小川氏は「総理の事務所からホテルに照会し、書面で返答を受けるという形にしてほしい」と要請。だが、首相は「書面にする考えはない」「信用できないということであれば、予算委員会は成立しない」などと反論。やりとりは30分以上続いたが、書面での確認を受け入れなかった。

 ところが、安倍氏側が夕食会の費用を補塡し、ホテルが領収書を発行していた疑いが報じられると、安倍氏周辺も朝日新聞などの取材に補塡を認めた。安倍氏周辺は「収支報告書に記載すべきところを記載していなかったため、(安倍氏に国会で)そういう答弁をしてもらう以外にないと(担当秘書が)勝手に判断した」と説明。安倍氏は誤った答弁を国会で繰り返したが、そもそも事実を知らなかった――との主張だ。

 だが、5年間で計916万円に及ぶ支出を秘書の独断でできるものなのか。国会で追及にさらされる首相に、秘書が事実を知らせないことはあり得るのか。

 安倍氏の出身派閥である自民党細田派の議員秘書は「完全に財布を秘書任せにしている議員であれば可能だろう」との見方を示す。政治家の事務所や後援会が主催する食事会やバス旅行などで赤字が出た場合、主催者側が補塡することも「よくあることだ」とも言う。

 一方、「秘書が1年間も事実を説明しないとは信じがたい。普通、こういう問題があれば真っ先に議員に説明する」と話す。

 安倍政権での閣僚経験者の元秘書は「秘書の独断で事務所のお金を支出することはない。お金の問題が生じれば、責任をかぶるのが秘書の仕事だと考えているが、裏を返せば議員がすべて知ったうえで対処する」と語る。

 与党内では、安倍氏が事実と異なる説明を表だって繰り返した以上、政治家としての道義的な責任が問われるとの声が広がる。連立を組む公明党山口那津男代表は「説明責任を尽くす基本的な立場は安倍前首相の側にある」と指摘。自民党石破茂元幹事長は29日、記者団に「国会であれだけの(質疑)時間があった。事実関係を述べてもらうことは当然だ」と語った。閣僚経験者は「国会で1年間、首相がウソをつき続けた。いったい何をやっているのか」と述べ、政治への信頼を損ねたと批判する。

地元からも説明求める声

 「色々とお騒がせしております」

 今月26日、安倍氏の地元・山口県下関市で開かれた「全国鯨フォーラム」。来賓として出席した安倍氏の公設第1秘書は、対面した来場者にそう言って頭を下げた。報道陣の取材には無言を通し、足早に会場を後にした。

 安倍氏の元秘書の前田晋太郎市長は、検察の捜査中を理由に「コメントは差し控えさせていただく」と沈黙を貫いている。

 2017年に「桜を見る会」前夜の夕食会に参加した70代女性は5千円の会費を支払ったが、「コーヒーを飲んだぐらい。出席したからといって、特別いい思いをしたわけではない。あの程度の料理でそんなに補塡する必要があるのか腑(ふ)に落ちない」と話す。

 地元では、参加者の多くが会費の5千円を割高だと感じており、過去2度参加した古参の支援者は「費用には場所代が多く含まれていると思った。なぜルール通り会計処理しなかったのか」と事務所の対応をいぶかる。

 地元でも、当初の説明からの食い違いに説明を求める声が相次いでいる。夕食会に参加した複数の地方議員は安倍氏や事務所に「きちんと説明してもらいたい」と注文。別の議員は「5千円が高いと思っていたぐらいだったので、安倍さんの『補塡はない』という答弁も信用していた」と話す。事務所による補塡については「『あれは秘書がやったこと』で済む話なのか」と疑問を投げかける。

 安倍事務所へ昨年12月、公開質問状を出した「『桜を見る会』問題の真実を求める下関・長門市民の会」共同代表の豊嶋耕治さん(65)は安倍氏の国会答弁の矛盾に憤りを隠せない。「この1年間の国会は何だったのか。安倍さん本人が説明し、虚偽答弁を続けた責任を負うべきだ」

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