米大統領選「不正ある」信じ トランプ氏勝利を叫ぶ日本人の論理

米大統領選「不正ある」 トランプ氏勝利を叫ぶ日本人識者たちの論理

来日し、日本企業の幹部らを集めたレセプションであいさつするトランプ米大統領=東京都港区の米国大使公邸で2019年5月25日、手塚耕一郎撮影

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 何とも奇妙な現象ではないか。民主党のバイデン氏の当選が確実になった米大統領選だ。なぜか日本にもトランプ大統領の主張する「不正投票」の存在を信じ、「『投票率90%』の州もある」といった情報を拡散しつつ、「トランプ氏勝利」を叫ぶ人がそれなりに存在するのだ。事実確認をしつつ、その「論理」を考えた。【吉井理記/統合デジタル取材センター】

相次ぐ「不正投票」の主張

 作家の百田尚樹氏、ジャーナリストの門田隆将氏、編集者の有本香氏、政治評論家の加藤清隆氏……。

 いずれも安倍晋三前首相を強く支持し、右派メディアでもおなじみの顔ぶれだ。しかし共通点はまだある。

 全員がトランプ大統領を支持し、その主張そのままに「不正投票」の存在を公言したり、その情報を拡散したりしているのだ。

ツイッター上で繰り返し「大規模な不正選挙」の存在を主張している作家の百田尚樹氏のツイッター。写真は11月19日に投稿されたもの

 例えば、百田氏がツイッター上で「私は米大統領選挙は大規模な不正があったと思っている」(11月13日)と記していた。また、門田氏も「ウィスコンシン州では実際の投票率が90・2%と判明。人口の9割が投票? 『やはりおかしい』と考えるのが普通」(11月17日)などと投稿しているのが典型だ。

 有本氏も百田氏らのツイートを拡散しつつ「日本のメディア人がなぜ、日米開戦や原爆投下に踏み切った民主党の大統領に好意的なのかが分からない」(11月13日付夕刊フジ)とも書いていた。

 では事実はどうか。

 例えば門田氏の言及していたウィスコンシン州の「投票率90%」だ。これが事実なら、確かに日本では考えられない数字である。

投票率はどのように計算される?

 ウィスコンシン州選挙管理委員会が公表した今年11月1日現在の「登録有権者数」は368万4726人で、投票数(開票率99%、11月19日現在)は約329万票である。投票率を「投票者数÷登録有権者数」で計算すると「89%」程度、つまり門田氏の言うところの「90%」に近い数字は出てくる。

 だが、この計算式は誤りだ。

 そもそも、米国の多くの州では18歳以上になると自分で有権者登録をする必要があり、この数を「登録有権者数」という。

 州によっては、このように登録有権者数を分母にした計算式で投票率を出しているところはある。門田氏も言及したネット上の「90%」という数字は、このやり方で計算したものだ。

門田隆将氏の11月17日の投稿。「人口(有権者)より多くの人が投票した」というのも、開票直後から流れたデマで、米国内外の複数の検証機関がファクトチェック済みだ

 ところが、ウィスコンシン州の計算方法は異なる。同州選管の公式見解(https://elections.wi.gov/elections-voting/statistics/turnout)では、投票率は「選挙年齢人口(18歳以上の人たち)で計算し、登録有権者数で計算しない」と記している。つまり投票率を計算する際は、登録有権者数を持ち出すのではなく、「投票者数÷18歳以上の選挙年齢人口」としているのだ。

 同州の18歳以上の選挙年齢人口は453万6293人となっている。投票数は先ほど述べた通り約329万票なので、「投票者数÷18歳以上人口」で計算すると「72・5%」程度にしかならないのだ(開票率99%の段階)。

 この数字は、前回大統領選(2016年)での同州の67・34%より高いが、過去最高だった04年の72・9%と同水準だ。

 ここで、ウィスコンシン州での前回大統領選の投票率を、「投票者数÷登録有権者数」で計算してみよう。16年11月1日時点の同州の登録有権者数は355万8876人で投票数は300万4051票だった。これを投票率として扱うと、「84・4%」という高い数字がはじき出される。言うまでもなく、この選挙はトランプ氏勝利。日本のトランプ氏支持者は、こちらの数字には「不正投票」の疑いを抱いている様子はみられない。

 そしてもう一つ。有本氏の「日米開戦に踏み切ったのは米民主党」説だが、日米の開戦は1941年12月8日、米真珠湾への日本の先制攻撃で始まった。それでも有本氏は、当時共和党政権だったら日米開戦は避けられた、と言いたいのだろうか。

トランプ氏を「頼もしい味方」と考えている右派

 問題は、こうした「不正投票」の主張は一部の言論人だけでなく、ネット交流サービス(SNS)を中心に広く共有されていることだ。

 例えば、自民党の甘利明税制調査会長が「バイデン氏の大勝が報じられているにもかかわらずトランプ大統領は敗北を認めません」(15日)とツイートすると、7000件以上の返信(リプライ)があり、その大半がトランプ氏支持者からの批判だった。「失望した」「もう自民党は信じない」「不正投票は明らかなのに、報道されている『バイデン当確』を本当に信じているのか」といったものだった。

 こうした状況をどう考えればよいのだろうか。

 「私には『不正投票』の情報を拡散し、『トランプ勝利』を叫ぶ人たちの多くは、事実に興味はなく、自分にとっての『勝ち負け』を大統領選に重ね合わせているだけにしか見えません。その意味で『歴史戦』と同じ構図に思えます」と嘆息するのは、戦史研究者の山崎雅弘さんだ。「歴史戦と思想戦」「日本会議」(ともに集英社新書)などの著書で、右派論壇の解析も試みてきた。

抗議集会の会場で掲げられたトランプ氏の大旗=米ワシントンで2020年11月14日、高本耕太撮影

 「歴史戦」というのは右派が使う「用語」。「中国や韓国は日本の信用をおとしめるため、過去の戦争について『ウソの歴史』をばらまく宣伝戦をしている。敵である中韓に負けてはならない」といった考えだ。前出の言論人も、同じような主張をしている。

 「彼らは、例えば『南京虐殺』について、存在を否定するような言説を取っています。日本軍の戦闘記録や兵士の手記、旧日本軍人のOB組織が編んだ戦史ですら、日本軍人が中国兵捕虜や中国人市民を数多く殺したことを認めている事実があるにもかかわらず、です。事実よりも、自身の『中韓に負けたくない』という情念が優先されているように思えます。『人は見たいものしか見ない』と言ってしまえばそれまでですが……」

 なるほど。でもその構図が、どうして米大統領選に持ち込まれるのか。

 「『敵の敵は味方』という言葉がありますね。『中国は敵』という人たちには、『中国に強い態度を取ってくれる』と期待するトランプ氏は頼もしい味方、あるいは『いい人』に映るのでしょう。トランプ氏と安倍氏は親密とされていることもある。大好きな安倍氏と仲良しのトランプ氏は『自分たちの側』に映るのでしょう。だから、何としても負けられない、と……」

 日米の「リベラル」と位置づけられる主要メディアが、安倍氏やトランプ氏に批判的なこともあるだろう、と山崎さんが続ける。

 「彼らはそうしたメディアを『左翼』と見て敵視してきました。敵である左翼メディアに批判されているトランプ氏は味方だ、守らなければならない、という思いもあるのではないでしょうか」

トランプ氏、記者会見「不正選挙」を連発 米各メディアは

 記者は、トランプ氏に好意を寄せ、その当選を願う人たちに特に異論を差し挟むつもりはない。だがトランプ氏やその支持者らが次々に拡散する「不正投票」の主張について、毎日新聞をはじめ、米国内外の報道機関や検証組織がファクトチェックしてきたが、これまで証拠や信頼に足る根拠は見つかっていないことは強調しておきたい。

 山崎さんはこう懸念を示す。

 「政府や報道機関の発表をうのみにせず、批判的に見るのはよいことです。大事なのは根拠となる事実はあるのか、です。事実を無視し、自身の考えや願望に沿うように真偽不明の情報、例えば『不正選挙』といった言説でつじつまを合わせようとすれば、それはただの陰謀論に過ぎません。SNSで無数に真偽不明の情報が流れる時代なので、こうした言論状況はなかなか変わらないでしょうが……」

 「事実」を取り戻すヒントになるかもしれない事例を、山崎さんが挙げてくれた。

 11月5日夜、トランプ氏は根拠を示さないまま「不正選挙」を言い募る記者会見を開いた。しかし米主要テレビ局は相次いで「根拠がない」として、途中で放映を打ち切った。大統領会見の放映打ち切りは異例の事態だ。

 「この打ち切りは正しい判断でした。メディアは何かと『公平・中立』や『両論併記』を重んじますね。『事実に基づく意見A』に『事実に基づく意見B』を並べるのはいいのですが、『意実に基づかない虚構Z』を並べてはダメです。それは公平や中立とは何も関係ない。デマの拡散に加担するのと同じです。米メディアは今回、そうしませんでした。一つの進歩と言っていいでしょう」

 米国大統領自身が、明らかなデマも含め、真偽不明の情報を次々に拡散する時代である。日本のメディアも、米メディアの姿勢を見習わねばなるまい。

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