小山修一著「あの日、ジュバは戦場だった 自衛隊南スーダンPKO隊員の手記」

「激変」自衛隊本シリーズ

2 小山修一著「あの日、ジュバは戦場だった 自衛隊南スーダンPKO隊員の手記」

滝野隆浩・社会部専門編集委員

UNハウスに隣接する避難民キャンプ=小山修一さん提供

UNハウスに隣接する避難民キャンプ=小山修一さん提供

 平成期における自衛隊の「激変」ぶりを記録した自衛隊実録本を紹介するシリーズ第2弾は、元陸上自衛隊幹部(1佐)の小山修一さんの「あの日、ジュバは戦場だった」(文芸春秋)を取り上げたい。タイトルのとおり、小山さんは2016年6月から半年間、南スーダンPKО(国連平和維持活動)10次隊の一員として派遣された。教訓となる情報を収集することが任務だったため、日々、詳細な手記を残していた。当然、目の前で起きていた戦闘行為のことも。当時、日本の国会では、防衛相により「戦闘」は「衝突」と言い換えられ、隊員たちが職務として送っていた日報は「ないもの」とされた。国会は大混乱し、結局、大臣、事務次官、陸上幕僚長までが辞任する事態となった。ただ、本当はどんな状態だったのか。真実はあやふやなままで幕引きされたのである。

 小山さんの著書は、「教訓収集」のプロ、あるいは記録者として、鋭い観察眼をもって正確に書かれた記録である。さらに「そのとき」の隊員の心理まで踏み込んで記している。そしてこう話す。「(南スーダンPKОは)忘れられたPKОになってしまったが、あのときの事実を後世に残すため、自分は書かざるを得なかったのです」

 <「ドーン」「ズシーン」と大きな衝撃音が上がり、その衝撃に呼応して、地面と日本隊宿営地の建物全体が、床も壁も天井も一斉に「グラグラッ」と大きく揺れた。私の身体全体にも大きな振動が走った。勤務隊舎の執務室にいた皆が動揺し、お互いに顔を見合わせる。砲弾の着弾がとても近い。日本隊宿営地のどこかに砲弾が着弾したのか。大丈夫なのか。>

元陸上自衛隊1佐の小山修一さん
元陸上自衛隊1佐の小山修一さん

 <「パン、パン、パン」と小銃の単射による乾いた銃声。続いて「トトトトト」と機関銃の連射による響き。銃声がとても間近に聞こえる。まるで隣で撃ち合っている感覚だ。これほどの距離感で銃声、砲声を聞くことは訓練場以外では初めての経験だった。>

 <「今日が、私の命日になるかもしれない。これも運命でしょう。家族には感謝しきれん。笑って逝く」/ある隊員は自分の愛用する手帳に家族に宛てた言葉を震える手で書き記した。/「妻へ あとはよろしく頼みます。息子へ お母さんを助けて、お父さんの代わりに家のことを守ってください。勉強もガンバレ。お父さんより」/家族に最期の手紙を書いた隊員もいたという。>(すべて「第2章 ジュバの長い4日間」より抜粋)

 これは10次隊の目の前で起きた戦闘の記録である。部隊が自ら関わることはなかったにせよ、隊員たちが目と耳、そして身体全体で感じ取った事実である。本書は、当初の平和的な「国づくり」の活動から、一転、内戦状態に突入していくさまを、丹念に正確に記録している。やはり、自衛隊部隊が派遣された彼の地では、「戦闘」が起きていたのだ。

 まずは南スーダンPKО、そして「日報事案」とは何だったのか、振り返ってみたい。

 国連の南スーダン共和国ミッション (UNMISS)への陸自部隊の派遣は、民主党政権だった12年1月から始まり、17年5月まで約5年間続いた。国際平和協力法などに基づく派遣で、南スーダンはその前年に独立を果たし、当初は「世界でいちばん新しい国の国づくり」のための派遣とされた。ところが、独立後も同国内ではたびたび部族間の衝突が起き、とくに16年7月には第1副大統領派によるクーデター未遂事件が生起、内戦状態となった。

小山修一さんの著書「あの日、ジュバは戦場だった」
小山修一さんの著書「あの日、ジュバは戦場だった」

 一方、日本国内では15年9月、安倍政権が歴代内閣の憲法解釈を変更してまで力を入れていた安保関連法が成立。これにより、陸自部隊が「駆けつけ警護」などができるようになったため、小山さんのいた10次隊の次に派遣される11次隊に任務付与されることになった。駆けつけ警護とは、危険が迫った邦人や国連職員らを、自衛隊部隊が「駆けつけ」て警護すること。武器の使用もでき、これまで「自衛のため」以外、一切できなかった武器使用が、離れた場所にいる者を守るために可能となる新任務であった。

 そこに「日報問題」が起きる。ジャーナリスト・布施祐仁氏の情報公開に対し、防衛省は16年12月、「既に廃棄した」と回答。ところが再調査したところ日報のデータは残存していたことがわかり公開されるものの、「戦闘」という言葉が当然ながら多数出てきたため、野党は「安保関連法とのからみで隠蔽(いんぺい)された」と主張。特別防衛監察の結果を受け、これまでにないレベルの処分事案となった。

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 この「日報事案」について、私は「サンデー毎日」の連載などで繰り返し取り上げてきた。もちろん、出すべき情報の隠蔽などもってのほかである。南スーダンの日報は多くの隊員が業務上のパソコンの中に保存していた。防衛秘でも何でもない。出さなかった、あるいは出せなかったのは、安保法制がらみの審議をする国会で問題化することを制服幹部が恐れたためだろう。あってはならないことだ。ただ、この事案の本質はそのことではない。最も大事なことは、国連PKОそのものが変質したことについて、何の議論もせず、旧来の仕組みのまま部隊を派遣し続けたことだ。著者の小山さんもそのことを詳述し強調している。政府もメディアもそのことに触れないまま、日報の「隠蔽」の議論に終始し、いまもその問題は解決されずにいる。

 1994年にルワンダ大虐殺と呼ばれる事案が発生し、国連部隊は現場にいながら介入できなかった。その反省から、大議論の末、国連は14年、ミッションマンデート(国連が定めた役割)を「国づくり」から「文民保護」に変更した。そこにいる住民たちの命を守る人道的見地から、国連部隊が主体となり、重火器による先制攻撃も辞さないことになったのだった。当然、武器使用基準(RОE)も変わってくる。ひと昔前の、独自のPKO参加5原則のもとに派遣されている日本(自衛隊)の考え方と、国連の新しいROEがどれほど乖離(かいり)しているのか、本書で詳しく解説されている。

 10次隊員たちは、現地で起きた内戦で同じPKOで派遣されていた中国人兵士2人が死亡したのを聞き、また、シェルターに退避し長い時間、息を殺し悶々(もんもん)として過ごした。そしてこうもらした。

 「これって完全にアウトでしょ」

ルワンダ隊宿営地の避難民キャンプで=小山修一さん提供
ルワンダ隊宿営地の避難民キャンプで=小山修一さん提供

 そして。記録者の小山さんは、この言葉をこう受け止めている。

 <あまりの衝突の激しさから出た言葉は、政治的な解釈を抜きにした隊員の正直な心境だった。>

 極めつきは、激しい内戦の様子を生々しく正確に記録した「第2章 ジュバの長い4日間」を締めくくる次のひと言である。

 <「南スーダン派遣施設隊、総員異状なし」>

孤児院で=小山修一さん提供
孤児院で=小山修一さん提供

 派遣に向けて入念な準備をし、訓練し、現地入りしたあとはひた向きに国際貢献しようとしたところ、内戦が発生し、信じられない戦闘を目と耳と身体で感じ、隊長の果断な指揮の下、奇跡的に一人の死傷者も出すことはなかった。だから報告は「異状なし」だった。こう書くよりほかに選択肢はない。もちろん第一次世界大戦の不条理を描き映画化もされたレマルクの長編記録小説「西部戦線異状なし」を意識しての言葉である。

 これから先、陸上自衛隊の部隊が海外に派遣される機会は、前述のような国連PKOの変質を受けてあまりないと思われる。しかし4年前、南スーダンで陸自の隊員たちが何をし、何を感じ、指揮官は何を考えたのか。その記録は自衛隊のありようを考えるうえできわめて重要なテキストで、広く読まれるべき本だと、私は確信している。

孤児院慰問で少女とボール遊び=小山修一さん提供
孤児院慰問で少女とボール遊び=小山修一さん提供

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滝野隆浩

社会部専門編集委員

1983年入社。甲府支局、社会部、サンデー毎日編集部、夕刊編集部副部長、前橋支局長などを経て、社会部専門編集委員。現在、コラム「掃苔記」を連載中。人生最終盤の緩和医療・ケア、ホスピスから死後の葬儀、墓問題までを「死周期」として取材している。さらに家族問題のほか、防衛大学校卒の記者として自衛隊をテーマにした著書も多数。著書に「宮崎勤精神鑑定書」「自衛隊指揮官」「沈黙の自衛隊」「自衛隊のリアル」「これからの葬儀の話をしよう」などがある。

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