強まる「恐怖政治」的傾向 孤立する首相

こわもての孤立=山田孝男

 官房長官時代の菅義偉語録に「権力は快感」――というものがある。

 毎日新聞政治部の前官房長官番記者、秋山信一(現外信部)が「菅義偉とメディア」(毎日新聞出版12月新刊)に記した。

 このエピソードは、野心を深く秘め、迅速果敢に首相の座を奪った菅という政治家を知るための、重要な手掛かりに違いない。

     ◇

 2019年11月19日。安倍晋三首相の通算在職日数が歴代最長の桂太郎と並んだこの日の夜、菅官房長官は東京・赤坂の衆院議員宿舎ロビーで番記者のオフレコ取材に応じた。

 秋山によれば、在職日数記録について感想を聞かれた菅は「(政権を維持しながら)走っている最中には感慨はない」と答えた。菅がしばしば口にする「権力の重み」に事寄せて「権力の重みですか?」という質問が飛ぶと、「というか快感」とつぶやいた。

 秋山が思わず「快感ですか?」と聞くと、「重みと感じるか、快感と思えるかどうか」だと言った。

 同年9月30日、「官房長官は楽しいですか」と秋山が聞いた時、菅はこう答えた。「楽しいに決まっているだろ。やりたいことができるんだから」

 秋山は一連の問答を顧みてこう書いている。

 <……思うように物事を進める快感が得られるのも「権力」を持つ者の特権だ。菅の言葉からは、重圧がかかる心のバランスを保つため、政策を進める快感を力に変えているのだということが読み取れた。

 一方、「権力は快感」という言葉に危うさを感じたのも事実だ……>

     ◇

 新型コロナウイルスの感染再拡大に拍車がかかった先週、歳末から正月11日まで、旅行需要喚起策「GoToトラベル」事業の一時停止が決まった。

 事業継続に固執し、内閣支持率急落で方針変更を余儀なくされた現在の菅首相には権力を「快感」と感じる余裕はないだろう。

 新型コロナ対策の混乱は万国共通の現象だが、日本の場合、突然の首相交代に伴う司令塔の構造変化が影を落としている。

 同じ「官邸主導」でも安倍政権の場合、安倍前首相は、複雑な問題の調整を菅官房長官と今井尚哉(たかや)首相補佐官兼首相秘書官にゆだねていた。今井を核とする安倍側近官僚と、永田町・霞が関に根を張る菅の権力がしばしば衝突しつつ、政権を動かしていた。

 それが、菅政権では、菅がすべて仕切る「中小企業のワンマン社長状態」(現役の経済官僚)。

 しかも、各省庁が派遣する首相秘書官6人のうち4人が、官房長官秘書官からの昇格組。前政権の首相秘書官は各省庁の局長・局次長級だったが、菅政権は課長級へ若返った。

 その結果、「総理はますます『恐怖政治』的傾向を強めているが、周りはイエスマンばかりだから何も言えない」(官僚)状態が続いているという。

     ◇

 マキャベリ(中世イタリアの思想家)は「君主は愛されるより、恐れられる方が安全」だと言った(君主論)。菅はマキャベリ好きを公言して官僚に接し、緊張感を植えつけた。

 ふだんの菅は常識家である。恐怖支配という自覚はないだろう。だが、マキャベリ礼賛の宣伝が効き過ぎた。もの言えば唇寒し。霞が関は自由な献策、諫言(かんげん)の気風を失っている。こういう現状では政府の総合力を引き出せない。(敬称略)(特別編集委員)=毎週月曜日に掲載

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