桜を見る会「国家溶かした安倍氏、菅首相も同罪」

桜を見る会「国家溶かした安倍氏、菅首相も同罪」文筆家・平川克美さんの問い

衆院議院運営委員会で立憲民主党の辻元清美氏の質問に答えるため挙手する安倍晋三前首相=国会内で2020年12月25日午後1時38分、長谷川直亮撮影

 日本人はもはや国会や民主主義は不要なのか? 「桜を見る会」を巡る政治資金規正法違反事件のことである。何にもまして衝撃的なのは、国家の最高指導者が国会を通じ、全国民に事実上「ウソ」をつき続けたことだ。民主主義を考察する著作も多い文筆家・平川克美さんが問う。「安倍晋三前首相は国家を溶解させた。私たちはこれから何を信じて生きていくのか」と。【吉井理記/統合デジタル取材センター】

安倍政治の総決算「桜を見る会」

 ――「桜を見る会」を巡る事件で、安倍前首相の公設第1秘書が、「前夜祭」の費用を政治資金収支報告書に収支を記載しなかった政治資金規正法違反(不記載)で略式起訴されました。安倍氏本人は不問です。

 ◆安倍政権の7年8カ月、森友学園事件、加計学園問題をはじめ、安倍氏や閣僚にもさまざまな疑惑が噴出しました。その総決算が桜を見る会事件ということになります。民主党政権時代の「陸山会」事件でも、やはり収支報告書への虚偽記載や不記載が問われましたが、こちらは秘書が逮捕までされて裁判が行われました。それに比べて、今回の処分は公平とは思えないし、外形的事実を見れば公選法が禁じた寄付行為に当たるのは明らかだと思う。ですが、法的な問題はひとまずおいておく。僕が問いたいのは、もっと本質的なことです。国家としての日本、国家の諸制度が、安倍政権の7年あまりで溶解した、ということです。

「安倍氏は国家を溶解させた」と話す文筆家の平川克美さん=2020年12月23日、東京都大田区で吉井理記撮影

 ――溶解? どういう意味ですか?

 ◆吉井さん、今、お金持ってる?

 ――ええ。悲しいことに福沢諭吉はありませんが、何枚かは。あと硬貨も多少……。

 ◆つまり、国家とは何かを考える場合、貨幣と非常によく似ているのです。その貨幣が貨幣として流通するのは、どこかの権力者が「流通させよ」と命じたからではないですよね。あなたも僕も、貨幣には貨幣としての価値があるから流通する、と信じているからです。それ以外に理由はない。お札には紙代とインク代など数円しかかけられていない。でも1万円の価値があるとみんな信じている。その信頼がなければ、紙くず同然です。物価が天文学的に高騰する「ハイパーインフレ」は、貨幣が貨幣としての信頼を失うために起きる現象です。国家や法も同じです。目に見えるような実体はないけれど、みんながこれらが正常に機能している、と信じているから成り立っている。

菅首相も「同罪」

2020年2月17日の衆院予算委員会の会議録。「桜を見る会」前夜祭について、安倍晋三前首相は「価格分以上のサービスが提供されたというわけでは決してなく……」などと答えていた=2020年11月27日、丸山博撮影

 ――法律も、それ自体が力を持っているわけではなく、紙に書かれた言葉に過ぎませんよね。

 ◆そうです。例えばヤクザ、アウトローと呼ばれる人たちの多くは法を信じてはいません。むしろ「組のおきて」といったものを信じているでしょう。法が法として、国家が国家として、あるいは民主主義が民主主義として成立して機能していくためには、人々がこれらを信頼し、「成立している」と考えることが不可欠です。その信頼を担保しているのが「事実」です。安倍氏は事実が事実として人々に共有され、人々の代表である政治家が事実に基づいて判断し、法と正義にのっとって、行政を動かしていく、というこの民主主義の根幹を破壊しました。

 ――国会の安倍氏の答弁のことですね。前夜祭を巡って、衆院調査局の調査では、事実と異なる答弁は118回に及ぶ、といいます。

 ◆法ばかりではなく、国家の諸制度は人々の信頼に基づいて成り立っているわけです。その信頼を支える「事実」が実はウソだった、ウソをついてもいいんだ、ということになれば、私たちは一体何を支えとして社会を成り立たせていくのか。これまでは私たちは、国は法と正義の下で運営されている、と信じてきました。その信頼が失われた。このことの重大さに、私たちは本当に気づいているでしょうか。司法の判断とは別に、安倍氏が制度への信頼を失わせた政治的・道義的責任は厳しく問われるべきです。

 ――菅義偉首相も官房長官時代、前夜祭を巡る疑惑で事実をただされても「安倍氏の説明の通りだ」と繰り返してきました。

 ◆何が事実かを決めるのは、権力者ではありません。権力者が事実を決めるとなれば、それは独裁政治です。その意味で、安倍氏のウソを追認してきた菅首相もほぼ同罪です。

ウソは常にあるけれど…

参院議院運営委員会で「桜を見る会」前夜祭の費用補塡問題についての共産党の田村智子氏の質問に答える安倍晋三前首相=国会内で2020年12月25日午後4時19分、竹内紀臣撮影

 ――そうはいっても、過去を振り返れば、国会でウソをついた政治家はこれまでもいたはずです。

 ◆ウソは常にあるんです。人間は完全ではありませんから。弱点はたくさんある。ウソをつくこともそうです。でもそんな弱点を補うためのさまざまな制度や仕組みを、私たちは長い時間をかけて作り上げてきた。司法制度もそうですし、国会や国会の弾劾裁判もそう。広い意味では、権力の監視役としてのメディアも同じです。でもそれらの制度もまた、信頼で成り立っています。でも政府のトップ、制度の運用者自体が、事実や科学よりもウソやそんたくに基づいて運用すればどうなるか。制度そのものが成り立ち得ません。

 ――確かに。しかしその安倍氏は、さまざまな疑惑にもかかわらず、常に40~50%程度の支持率に支えられてきました。辞任前の7月の毎日新聞の世論調査でも32%と一定の評価がある。特に若い世代ほど支持率が高いようです。菅政権も、日本学術会議問題などがありましたが、それでも最新の世論調査(12月12日)で40%です。

 ◆民主主義は、多角的に事実を積み上げて物事を決めていくシステムです。権力者が何が事実かずばっと決める、あるいはウソでもいいからサクサク決める、ということであれば話はずっと早くなる。それでもいいんだ、という風潮が形作られてしまったように思います。そういう風潮の安倍政権時代に、青少年期を過ごし、そして社会に巣立った人も多いでしょう。安倍政権のやり方、価値観がスタンダードなのだ、という意識が根付いていないか、心配です。

 ――安倍政権時代は就職率も良くなりました。それなりに豊かで、暮らしの不安もなければ、指導者がウソをつこうが政治から正しさや事実が失われようが困らない、極論すれば、別に「独裁政治」であってもいいじゃないか、というような?

 ◆人間が積み重ねてきた「経験知」が教えるところによれは、人間は自分たちが生きている「目先の時間」だけで物事を考え、判断してはなりません。今、目の前で起きている事象について「最適解」だと思えることが、後から見ればとんでもない災厄の引き金になっていた、という可能性は常にあるんです。自分たちの狭い「経験知」で判断してはならないんです。

 繰り返しますが、私たちの祖先が積み上げてきた制度への信頼を破壊した安倍氏やその一派の罪は本当に深いですよ。極端な話、私人ならウソはいくらついてもいいんです。誰もその人を信じなくなるだけでしょうから。でも安倍氏は公人です。しかも国家の指導者です。制度の運用者が、その制度の信頼を根底から破壊したのです。特効薬なんてありません。まずそれぞれの制度が、本来持っていた制度として機能を回復していくことしかないんじゃないですか。国会は国会、メディアはメディア、司法は司法、というふうに。

 ――目先の解ではなく、長い時間軸で物事を考える。いわゆる正統的な保守の考えですね。安倍氏も著書で自らを「保守政治家」と位置づけていますが。

 ◆あの人は保守政治家であるかどうか以前に、そもそも政治家になってはいけない人物だったのではないですか。

ひらかわ・かつみ

 1950年東京生まれ。早大卒業後の77年、親友の思想家、内田樹氏と翻訳会社を設立。インターネットラジオ局やウェブサイト制作会社の経営に携わる。2014年には東京・荏原に文化発信拠点を兼ねた喫茶店「隣町珈琲」をオープン。立教大客員教授も務める。「路地裏の資本主義」など著書多数。近著に「株式会社の世界史」(東洋経済新報社)。

吉井理記

1975年東京生まれ。西日本新聞社を経て2004年入社。憲法・平和問題、永田町の小ネタ、政治家と思想、東京の酒場に関心があります。会社では上司に、家では妻と娘と猫にしかられる毎日を、ビールとミステリ、落語、モダンジャズで癒やしています。ジャズは20代のころ「ジャズに詳しい男はモテる」と耳に挟み、聞き始めました。ジャズには少し詳しくなりましたが、モテませんでした。記者なのに人見知り。

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