安倍・菅政権で霞が関は死屍累々 五輪茶番劇より問題は菅長男

迷走錯乱の末、東京五輪・パラリンピック組織委員会の新会長が橋本聖子に決まった。組織委理事会の会長就任要請を受け、橋本は18日、五輪相を辞任。後任は丸川珠代参院議員の再登板となった。
女性蔑視発言の森喜朗前会長が12日に辞任した直後から、首相官邸周辺では「橋本会長―丸川五輪相」の人事が囁かれていた。橋本は過去にセクハラ問題があり厳しい、本人は難色を示しているとして、山下泰裕JOC会長や室伏広治スポーツ庁長官などの名前がメディアを賑わせたが、やっぱりデキレースの茶番だった。改めて分かったのは、政治や五輪に絡む案件で「透明性」なんてどだい無理な相談だということだ。
橋本は大臣は辞めたが、参院議員は辞めない。橋本も丸川も、森が大ボスの清和会(細田派)所属で、橋本は森を「お父さん」と呼ぶほど親しい間柄だ。官邸も「橋本なら組織委を意のままに操縦できる」と考えていて、会長人事の最終判断は菅首相の“政治介入”。「政治的中立を推進」という五輪憲章に反しても平然としていられるのは、まさに憲法や法律すら勝手な解釈で歪めてきた安倍・菅政権のなせる業だ。
この3週間、ピエロの五輪会長を巡る問題ばかりが世間を騒がせてきたが、もっと注目され、追及されるべきは、菅の長男による総務官僚接待問題だろう。
これまでの総務省の調査では、放送行政を所管する総務省の幹部4人が、放送事業会社「東北新社」に勤務する菅の長男・正剛氏らと会食し、タクシーチケットやお土産を受け取っていたことを認めている。会食は2016年以降、延べ12回に及んだ。調査中とはいえ、長男は総務省にとって「利害関係者」としか言いようがなく、国家公務員倫理法に抵触するのは疑いようがない。
だが、連日の国会での野党の追及に対し、参考人として呼ばれている総務省の秋本芳徳情報流通行政局長は「記憶にない」を連発して逃げる。17日の衆院予算委員会では、長男との会食時に「BS放送やCS放送について話題に上った記憶はない」とまで断言していた。
総務省は18日、秋本局長が音声の一部について「自分の声だ」と認めたと予算委理事会に報告。衛星放送に絡む会話部分はまたしても「記憶にない」としていたが、19日の衆院予算委で「今となっては言及する発言はあったのだろう」と白状した。そして、武田総務相は秋本局長と、同じく接待を受けていた湯本博信官房審議官を、明日20日付で官房付に異動させると発表した。事実上の更迭だ。
週刊文春は東北新社子会社の元取締役の興味深い証言も報じている。
<僕自身、認定や更新の打ち合わせで総務省に行ったことはありますが、その際に手土産を持っていっても官僚は絶対に受け取りません。普通彼ら(幹部)とは会えない。正剛氏だから、というのは正直あるんじゃないか>
元朝日新聞政治部次長でジャーナリストの脇正太郎氏がこう言う。
「一番の問題は、許認可が歪められたのかどうかです。気になるのは2018年に東北新社グループの『囲碁・将棋チャンネル』がCS放送業務を認定された一件。ハイビジョン化推進が目的だったにもかかわらず、認定された12社16番組のうち同チャンネルだけがハイビジョンに対応していなかった。東北新社をおもんぱかった対応だったのではないのか。疑われるだけでも重大な不祥事です。担当した当時の総務省の情報流通行政局長は、現在、菅内閣の広報官を務める山田真貴子氏。山田氏こそ責任が問われなければなりません」
癒着の腐臭は次から次へだ。菅の長男から接待を受けたのに、次官級は慣例で国会で答弁しないとして与党が出席を拒否していた2人の総務審議官も、ついに来週22日、予算委に呼ばれることになった。

忖度官僚の上であぐら 安倍と菅に身内びいきの共通項
安倍・菅政権の8年で、霞が関は死屍累々。官邸に設置された内閣人事局は、法的には各府省の部長・審議官級以上の人事を対象としているが、官邸は対象外の課長級にも口を挟む。霞が関の人事を完全掌握した官邸に嫌われれば、官僚は簡単に飛ばされる。そんな恐怖人事が当たり前となった結果、官僚は安倍・菅の意向を常習的に忖度するようになったのである。
それを異常だと思わず、忖度官僚の上であぐらをかく権力者が、やりたい放題の蛮行を繰り返してきた。腐敗の極みが、政治の私物化だ。
「安倍前首相と菅首相には身内びいきの共通項があります。森友問題は安倍氏の夫人、加計問題は腹心の友、桜を見る会問題は支援者への便宜でした。これらを覆い隠すために安倍氏自身が嘘をつき、さらに官僚に嘘をつかせ、公文書改ざんや公文書廃棄にまで手を染めさせた。そして、今度の総務省の問題は菅首相の長男です。菅氏自身は嘘をついていないとしても、『長男は別人格』と言って、問題から距離を置くことで、総務省の連中には嘘をつかせている。総務省の役人が、今や内閣広報官の山田氏を守らなきゃいけないと考えたり、長男との会食で『BSやCSについて話題に上った記憶はない』と強弁するのは、問題が菅首相に直結することを恐れているからでしょう」(脇正太郎氏=前出)
そもそも菅が総務大臣時に長男を秘書官に就けたことで、長男は総務官僚とのパイプをつくった。そして、東北新社がそのパイプを使って、放送行政の許認可権を持つ官僚に接近したのだ。菅の責任は重大である。
■モラルの崩壊と政治の腐敗、堕落
腐った政治家にまつわりつく官僚に同情の余地はないが、この国のトップは、いつまで政治の私物化をゴリ押しし、国会を愚弄し、行政を歪めれば気が済むのか。普通なら菅は辞任だ。悪びれもせず、無責任に居座り続ける現状は、民主主義の末期症状だと言うしかない。政治評論家の森田実氏が言う。
「かつての造船疑獄事件やロッキード事件のような大汚職はもちろん問題です。しかし、家族が政治権力者を使って、利益を得たり、企業に便宜を図らせるというのは、コソ泥のような小さな事案ではあっても、疑獄事件以上に姑息な犯罪です。疑いをかけられた時点で、菅内閣は総辞職が当然なのです。ひどいのは、役人が国民の方を向かず、政権のゴマすりばかりしていること。日本の役人はもう少し誇り高かったはずでした。やりきれないほどのモラルの崩壊と政治の腐敗が、安倍・菅政権で進んでしまった。この堕落は簡単には直しようがない。本当に深刻です」
18日に発足した橋本新体制は、五輪を強行するのか、それとも中止の敗戦処理に忙殺されることになるのか。いずれにせよ、菅にとっては五輪も政権浮揚の一環でしかない。私利私欲にまみれた政権には、五輪前にお引き取り願いたい。