首相長男問題 接待攻勢39回 野党「行政ゆがめられた」と批判

首相長男問題 接待攻勢39回 野党「行政ゆがめられた」と批判

衆院予算委員会で立憲民主党の奥野総一郎氏の質問に答える谷脇康彦総務審議官(左)。右端は菅義偉首相=国会内で2021年2月22日午後1時40分、竹内幹撮影拡大
衆院予算委員会で立憲民主党の奥野総一郎氏の質問に答える谷脇康彦総務審議官(左)。右端は菅義偉首相=国会内で2021年2月22日午後1時40分、竹内幹撮影

 総務省幹部が放送事業会社「東北新社」に勤める菅義偉首相の長男らから接待を受けた問題で、22日の衆院予算委員会は、同省の調査結果を巡る論戦で持ちきりとなった。衛星放送事業者の経営が厳しさを増していた背景もあり、野党側は同省が首相長男を特別扱いしたと追及。首相は防戦に躍起となった。

 「首相は総務省に絶大な影響力を持っている。長男の存在は総務官僚も考慮に入れなければならなかったのではないか」。立憲民主党の広田一氏は、総務省幹部らが延べ39回も接待を受けたのは「首相の影」がちらついたことに原因があったと指摘した。

 首相は2008年に長男が東北新社に入社するにあたって「総務省とは距離を置いて付き合うように」と助言したと明らかにし、長男が総務省幹部らと会食を重ねていたことについて「驚いた」と述べた。

 立憲の奥野総一郎氏が「首相が黙認しているんだから、(官僚側が)行っても大丈夫という緩みにつながった」と詰め寄ったが、首相は「長男と会社の話は一切していない。報告も受けていなかった」と関与を否定。立憲の大串博志氏が直接長男に事情を聴くよう迫っても「個人的に聞き取りを行い、内容を答弁することは行政府の長として避けるべきだ」と応じなかった。

 しかし野党側は東北新社側との会食が度重なったことで「行政がゆがめられた」との批判を強めている。接待問題を巡ってこの日初めて委員会に出席した谷脇康彦、吉田真人両総務審議官がいずれも、他の衛星放送事業者と同様の会食をしたことはないと答弁し、「特別扱い」ぶりをうかがわせたためだ。

 奥野氏は、東北新社が17年1月にBS4K放送事業者に認定されたことに着目し、当時、情報流通行政局担当の官房審議官を務めていた吉田氏が16年8月と12月に会食したことを取り上げ「BS、CSの話は出たか」と追及した。立憲の本多平直氏も衛星放送事業者が要望している衛星使用料の減額について20年10月の会食で話題に上った可能性を谷脇氏にただした。

 これに対し、吉田氏は「個別具体的に(BS4Kなど)許認可に関連するような不適切な働きかけは記憶にない」と述べ、谷脇氏は「衛星料金低減の要望について話があったという記憶はない」と便宜供与に至った可能性を否定した。

 政府・与党側は調査結果の公表と24日にも行う同省職員の処分をもって、この問題の幕引きを図りたい考えだ。ただ、19年に東北新社社長らから約7万4000円の接待を受けた山田真貴子内閣広報官(当時総務審議官)の聴取内容が首相長男へのヒアリングや吉田氏の答弁と似通っていたため、大串氏は「関係者が判で押したように同じ答弁をしている。口裏合わせで終わってしまうのではないか」と批判。野党側は第三者機関の設置を含め更なる調査を求める方針だ。【青木純、遠藤修平、花澤葵】

2人は匿名

 総務省は課長級、課長補佐級の計2人については氏名を公表しなかった。この理由について、同省秘書課は「課長級は処分対象者ではないと考えている。課長補佐級は職位が低いためだ」と説明した。

背景に衛星放送の苦境

 今回の問題の背景には、衛星放送事業者の経営が厳しさを増していた事情も浮かぶ。新規参入による競争激化や重い固定費が業界にのしかかる中で繰り返された総務省幹部への接待。目的は何だったのか。その解明が今後の焦点となりそうだ。

 総務省の原邦彰官房長は22日の衆院予算委員会で、菅首相の長男が同省の調査に対し「業界全体の実情に関する話があり、その中で(東北新社の)グループ会社の話題が出たのだと思う。しかし、不適切な働きかけや行政をゆがめる行為は行っていない」と述べたことを明らかにした。

 東北新社は1961年、秋田県出身で菅首相と懇意の植村伴次郎氏が創設。海外番組や映画の配給、番組やCMの制作、BS・CSチャンネルの運営までカバーする大手プロダクションに成長した。BSなどで映画専門チャンネルを運営するスター・チャンネルは子会社だ。

 衛星放送は近年、「ネットフリックス」など動画配信サービスに押されて契約者数が伸び悩んでいる。業界が苦境に陥る中での一連の接待。週刊文春が報じた接待の席でのやり取りでは、菅首相の長男が「BSの。スター(チャンネル)がスロット(を)返して」など、自社の状況に触れる場面もあった。スロットは放送に使われる周波数の単位で、有限なため、政府が割り当てを決めている。政府は現在、衛星放送のスロット再編と新規参入を進めており、在京民放キー局関係者は「新旧勢力のつばぜり合いもあり、接待攻勢をかけたのでは」と推測する。

 衛星運用会社に支払う利用料金も業界の課題だ。昨年9月の総務省有識者会議では、東北新社が中核企業の一つである衛星放送協会が負担軽減を要望。12月の同会議の報告書案には「利用料金の低減に向けた取り組みを積極的に進める」と記載された。

 予算委でこの点を問われた総務省幹部は「衛星料金低減の要望についてお話があったという記憶はない」と関連を否定したが、そうした時期に接待を受けていたことになり、少なくとも「不用意」との批判は免れない。

 今回の問題を受けて東北新社は、外部の専門家も加えた特別調査委員会を設置。接待の意図がどこまで解明されるか注目される。【松倉佑輔、大沢瑞季】

「そんたく」の土壌、首相に責任

平嶋彰英氏 立教大特任教授(元総務官僚)

 「利害関係者」である菅義偉首相の長男らの接待を受けた総務省幹部らの脇も甘かったが、官僚の処分だけで終わらせるとすれば「トカゲのしっぽ切り」だ。この問題を放置すれば、社会全体が権威主義や権力主義、縁故主義に覆われてしまうのではないだろうか。

 官僚側は総務省や政権で人事を握ってきた首相の長男側からの誘いに応じなければ、首相に言いつけられると考えるだろう。長男は一般の民間人や別人格の「息子さん」とは異なる。将来の政界進出もあり得る「元総務相秘書官」であり、官僚も冷たく扱うことはできない。こうした「そんたく」の土壌をつくったのは、総務相時代に長男を自身の秘書官に任命した首相に責任がある。

 トカゲのしっぽ切りで終わらせないために、首相はしっかりと東北新社側の実態調査をすべきだ。今回は放送行政の公平性が疑われる事態ともいえ、行政の権限で事業者を調べることもできるはずだ。さらに「反縁故法」の制定を目指し、閣僚らが親族をコネで秘書官に任命することを禁止すべきだ。

 米大統領選でも政治の公平性を確保する観点から縁故の問題が議論になっていた。首相は政治のトップとして高い倫理観を示してほしい。【聞き手・竹地広憲】

【菅首相長男接待】

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  • 青木純
    筆者 

    青木純

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