<弾劾裁判で議事堂襲撃に関するトランプの責任は厳しく糾弾されたが、それでも共和党支持者のトランプ支持は強くなっている>

熱烈なトランプ支持者は健在だが、米社会では少数派にすぎない JOE RAEDLE/GETTY IMAGES
2月13日、1カ月余り前に起きた連邦議会議事堂襲撃事件で割られた窓がまだそのままの上院本会議場で、この事件をめぐるドナルド・トランプ前大統領の弾劾裁判の評決が行われた。予想されていたとおり、賛成票は3分の2に届かず、無罪評決が下された。 【写真特集】ポルノ女優から受付嬢まで、トランプの性スキャンダルを告発した美女たち それでも、この弾劾裁判により、トランプはアメリカの民主政治に対する脅威として歴史的汚名を着ることになった。2度も弾劾訴追された大統領は過去に例がない。しかも、トランプの与党だった共和党から7人の上院議員が有罪に賛成した。 民主党にとって弾劾裁判の最大の目的は民主政治の原則を取り戻すことだったが、ほかに政治的動機もあった。弾劾裁判には、共和党が「民主政治を破壊しかけた」というイメージを植え付け、共和党に厳しい選択を迫る意味もあったのだ。 共和党は、大半の有権者からファシスト的・人種差別的・排外主義的な政党と見なされることを選ぶのか。それとも、民主政治の規範を再び受け入れて、穏健な中道右派の有権者の支持を得ようとするのか。 現時点での共和党支持者の反応は、(意外ではないが)気掛かりなものだ。弾劾裁判を機に、共和党支持者のトランプ支持は強まっている。 <共和党が直面するジレンマ> トランプが共和党で重要な役割を担い続けることを期待する共和党支持者の割合は、連邦議会議事堂襲撃事件が起きた直後には41%だったが、弾劾裁判終了後には59%に増えている。しかも、共和党支持者の81%は、今もトランプに好ましい評価を抱いているという。 共和党有力者の間には、党の主導権をトランプから奪い返そうという動きもある。ミッチ・マコネル共和党上院院内総務は、弾劾裁判では無罪に投票したが、その直後には、議事堂襲撃事件に関してトランプの責任を厳しく指摘した。 それでも、トランプ的な思考は共和党を支配し続けている。弾劾裁判終了後、ワイオミング州、ペンシルベニア州、ノースカロライナ州、ルイジアナ州などの共和党指導部は、弾劾に賛成した地元選出議員を非難した。 また、上院議員のテッド・クルーズ、トム・コットン、ジョシュ・ホーリーは、トランプ支持者に迎合して、共和党のリーダーに上り詰めようとしている。 いま共和党は深刻なジレンマに直面している。現在の共和党の支持基盤は人種差別主義者と極右の有権者だが、この層を代弁する主張を展開すれば、長期にわたり選挙で負け続ける可能性が高いのだ。
<少数派に転落した共和党>
アメリカの有権者は、以下の6つのグループで構成されている。 民主政治と政府への軽蔑もしくは不信が強い「ナショナリスト右派」(19%)、伝統的な保守派の経済・社会政策を支持するが、民主政治の規範を尊重している「伝統的右派」(21%)、伝統的な民主党リベラル派の「穏健な」政策を支持する「中道左派」(28%)、地球温暖化や貿易などのテーマで多文化主義的・「グローバリスト」的な路線を支持する「国際主義左派」(12%)、地球温暖化対策を講じるために、経済の在り方を抜本から変革することを目指す「グリーン派」(10%)、そして、一貫した政治的主張を持たない「その他」(10%)である。 トランプのような人種差別的・独裁的路線を支持する人は、有権者の4人に1人もいないのだ。保守派を全て合わせても40%にすぎない。従って、共和党がトランプ路線を継承した場合、事実無根の「不正選挙」を主張しながら、自由な選挙を妨げることでしか、選挙で勝つことはできない。 トランプはこの4年間で、共和党をアメリカ社会の少数派に転落させた。トランプ自身もまだ破壊的な力を保ってはいるが、もはや最盛期のような影響力はない。 <本誌2021年3月2日号掲載>