第 5 次アーミテージ・ナイ報告書

第 5 次アーミテージ・ナイ報告書

国立国会図書館 調査及び立法考査局 海外立法情報課 西住 祐亮

*2020 年 12 月 7 日、アーミテージ元国務副長官とナイ元国防次官補を中心とする研究グルー プの「2020 年
の日米同盟」と題する報告書が公表された。報告書は、日本側の近年のリーダ ーシップを高く評価した上で、
3 項目から成る提言を示している。

1 概要

2020年12月7日、戦略国際問題研究所(CSIS)が、リチャード・アーミテージ(Richard Armitage)
元国務副長官とジョセフ・ナイ(Joseph Nye)元国防次官補(国際安全保障問題担当)を中心 とする研究グループ
の「2020 年の日米同盟:グローバルな課題に取り組む対等な同盟(U.S.- Japan Alliance in 2020: An Equal A
lliance with a Global Agenda)」と題する報告書を公表した1。両 者による日米同盟についての報告書は「ア
ーミテージ・ナイ報告書」という呼称で知られてお り2、この度は 5 回目の公表となった。

今回の報告書は、序論と結論を除くと、大きく 3 つの部分(提言)から構成されている。第 一は「安全保障同
盟を発展させる(Advancing the Security Alliance)」、第二は「パートナーシ ップと連合を拡大する(Expand
ing Partnership and Coalitions)」、第三は「経済及び技術協力を 強化する(Strengthening Economic and T
echnology Cooperation)」である。

2 序論

日米同盟については、不確実性に満ちた時代の中で、「安定と継続をもたらす最も重要な存
在の一つ」であると指摘した。また、日米同盟の重要性については、米国内で超党派の支持が あるとの見方を
示し、分割政府3の状況下になっても、同盟を発展させることができるであろう とした。

日本側の姿勢については、急激に厳しさを増す安全保障環境と、米国の首尾一貫しないリー ダーシップによっ
て、「主導的ではないにしても対等な役割」を日米同盟の中で担うようにな ってきていると評価した。また、
こうした日本側の変化は、安倍晋三前首相によるところが大 きいとも指摘し、具体的には、憲法解釈変更によ
る集団的自衛権の容認や、包括的・先進的 TPP 協定(Comprehensive and Progressive Agreement for Trans-P
acific Partnership: CPTPP)4を妥結に導 いたことなどを例示した。

加えて、日本のリーダーシップは、米国とインド太平洋地域の利益にも資するものであると
指摘し、日本のリーダーシップ維持に向けて、菅義偉首相が努力することを支持するとした。 その他、日米同
盟に対する支持が、日米両国民の間で依然として高いことなども紹介した。

3 「安全保障同盟を発展させる」

米国にとって日本が「不可欠かつ以前より対等な同盟国」になっただけでなく、「アイデア
考案者(idea innovator)」にもなったと指摘し、具体的には、日本が「自由で開かれたインド 太平洋」構想5
を考案したことなどを例示した。また、米国が日本に対して外圧を加えると指摘 された時代から状況は一変し
、日本のリーダーシップが目立つようになっているとも指摘した。

中国については、「日米同盟にとって最大の安全保障上の挑戦」であると指摘した。具体的 な提言としては、
日米安全保障条約(第 5 条)の尖閣諸島への適用拡大を再確認することなど を提言した。また、中国が台湾へ
の軍事的・政治的圧力を強めていることを念頭に、この問題 に関する米国の懸念を、日本が共有する重要性も
指摘した。

北朝鮮については、「地域が抱える第二の懸案事項」であると指摘した。北朝鮮の非核化に ついては、短期的
には非現実的であるが、長期的な目標であり続けるとした。また、情報・防 衛分野に関する日米韓協力を強化
する重要性も指摘した。

防衛予算(国防予算)については、[増額が難しい]両国の国内的制約を踏まえ、日米間の 更なる調整が重要にな
るとした。共同技術開発や、同盟の効率化の必要性を指摘し、例として、 ミサイル防衛に関する重複投資の回
避などを提言した。また、日本の防衛予算については、「国 内総生産(GDP)のたった 1%」で、中国の国防予算
に比べると「ごく僅かな額(fraction)」 であると指摘した。

その他、既存の「ファイブ・アイズ(Five Eyes)」6に日本を加え、「シックス・アイズ(Six Eyes)」の枠組み
を目指すことや、在日米軍駐留経費負担について、米国ができるだけ早期に 日本と交渉をまとめることも提言
した。

4 「パートナーシップと連合を拡大する」

米国と利益・価値を共有する諸連合のネットワークの中で、日米同盟が「中核(nucleus)」
になるべきであるとした。

日米豪印戦略対話(Quadrilateral Strategic Dialogue: Quad)については、日本主導で有望な役
割を担うようになったと評価する一方、他の地域機構と競合するのを回避するために、開かれ たもの(inclusi
ve)にしなくてはならないとした。

日韓関係については、ネットワーク化された諸連合の構築を目指す上で、長引く日韓の緊張 (continuing tens
ion)が、最大の障害になっているとした。他方、菅義偉政権発足後には、関係 改善に向けた漸進的進歩(incre
mental progress)も見られると指摘し、[2021 年夏に予定され る]東京五輪に向けた協力などを通して、日韓
が関係改善に向けた新たな好機を活かすべきで
あるとした。

5 「経済及び技術協力を強化する」

経済及び技術協力を深化させることが、日米同盟にとって根本的に重要であるとした。貿易・
技術に関するルールの存在が、インド太平洋地域でも南シナ海でも重要であると指摘し、この 分野に関して、
日米は緊密に連携しているとした。また、新型コロナウイルスの世界的拡大は、 信頼できる安全な供給網が、
日米にとって重要であることを立証したと指摘した。

CPTPP については、経済ルール作りの面で日本とともにリーダーシップを発揮するために、 米国は CPTPP に
加入すべきであるとした。加入が国内政治的に難しいことを認める一方、米国 の繁栄と安全に対する、より大
きなリスクを踏まえると、米国の加入は必須であると指摘した。 また、バイデン(Joe Biden)新政権が、CPTPP
 の加入に向けて、条件の変更を望むのは「理に かなう」と指摘する一方、こうした変更は現加盟国との交渉
を通じて調整すべきで、何よりも 交渉に向けた米国の意欲を示すことが最初に必要であるとした。さらに、米
国の CPTPP 加入が、 世界貿易機関(World Trade Organization: WTO)改革を目指す上でも有意義であるとした

デジタル・ガバナンスについては、世界のインターネットが 3 つのレジーム(米国、中国、 EU)に分断されつ
つあるとの認識を示した上で、日米デジタル貿易協定(U.S.-Japan Digital Trade Accord. 2019年9月合意)等
を土台に、ルールや規範を世界全体に広げる重要性を指摘した。 また、2019 年 6 月の G20 大阪サミットで
、日本がリーダーシップを発揮して、デジタル・ガバ ナンスに関する合意を成立させたことも高く評価した。

人工知能(artificial intelligence: AI)や5Gネットワークを始めとする新技術については、日 米が連携して
、この分野に関する国際ルールを、相互運用可能かつ開かれたものにする必要が あるとした。5G については
、21 世紀の知識経済の中で鍵となる分野であるとした上で、日米 はこの分野での協力を優先すべきであると
提言した。具体的には、日米両政府が、ファーウェ イ(華為)に代わる選択肢を作ろうとする民間企業の試みを
促進すべきであるとした。また日 本が、開かれた無線アクセスネットワーク(Open Radio Access Network: O-
RAN)の開発を牽引 する存在であると指摘した上で、これが、垂直統合型の華為モデルに代わる選択肢になる可
能 性があるとした。

インド太平洋地域のインフラ・開発支援については、日本のリーダーシップが見られるもう 一つの分野である
とした上で、新設された米国国際開発金融公社(U.S. International Development Finance Corporation: USDF
C)が、日本の国際協力銀行やアジア開発銀行と連携して、地域のイ ンフラ需要に対応する必要性を指摘した。
また、韓国やオーストラリアといったその他の国々 と、この分野に関する調整を行うことも、日米の指導者に
は求められるとした。

さらに第 5 次報告書は、エネルギーと気候変動も、日米同盟にとって重要な分野になると指 摘した。具体的
には、日本が石炭火力への投資を抑制する必要性や、原子力及び天然ガス分野 での協力を土台に、日米がクリ
ーンエネルギーに関する協力を拡大する重要性を指摘した。

6 結論

日米同盟をより対等なものに発展させることが、地域及び全世界の課題を解決する上で重要
になると確認し、価値の促進などの面では、既に日本がリードする側になっていると指摘した。 また、日本を
「米国の利益・価値と最も調和する同盟国」であると形容した上で、多極化を進 める世界において、日米同盟
は世界を牽引する立場にあるとした。

* 本稿におけるインターネット情報の最終アクセス日は、2021年1月8日である。[ ]内は筆者による補記。

 1 “U.S.-Japan Alliance in 2020: An Equal Alliance with a Global Agenda,” Center for Strategic an
d International Studies, December 7, 2020.
 <
https://csis-website-prod.s3.amazonaws.com/s3fs-public/publication/201204_Armitage_Nye_US_Japan_All
iance_1.pdf

>

2 2018 年 10 月に公表された第 4 次報告書については、西住祐亮「第 4 次アーミテージ=ナイ報告書」『外
国の立法』
No.278-1, 2019.1, pp.32-35. <
https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_11220553_po_02780113.pdf?contentNo=1&alternativeNo=> を
参照。

3 大統領の政党、上院の多数党、下院の多数党が全て一致する状態を統一政府(unified government)と呼び、
そうで
ない状態を分割政府(divided government)と呼ぶ。

4 日本のメディアでは「米国抜きのTPP」、「TPP11」といった呼称が一般的である。

5 構想の中身については、「自由で開かれたインド太平洋」外務省, 2020.8. <
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/page25_001766.html> を参照。

6 諜報活動分野での連携に関する協定であり、米国、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの5か
国に よって構成される。

https://bit.ly/3ckUdBK  外国の立法 No.286-2(2021.2)

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