「表現の自由」「営利の自由」「感染なし」からどの二つを選ぶか

「表現の自由」「営利の自由」「感染なし」からどの二つを選ぶか

COVID-19 新型コロナウイルス感染症 シリーズ医師に聞く 7 

佐久総合病院地域医療部地域ケア科医長  色平哲郎さん

コロナ感染の拡大は〝目覚まし時計〟である

「表現の自由」「営利の自由」「感染なし」からどの二つを選ぶか

新型コロナウイルス感染予防はワクチンの普及で事足りるか。
否。
地球の問題でみるという。
新型コロナを第1波として、科学や技術やお金の力では解決しきれない
世界的な環境破壊などが次から次へと押し寄せてくると危惧する。

いろひら てつろう・神奈川県横浜市生まれ。
東京大学工学部中退後、世界を放浪。
1990年、京都大学医学部卒業後、JA長野厚生連佐久総合病院に勤務。
98年から南相木(みなみあいき)村診療所長として10年間、山村に家族5人で暮らす。
東京大学医学部公衆衛生大学院非常勤講師(国際保健)、
元・京都大学医学部公衆衛生大学院非常勤講師(医療経済)。
著書に『風のひと 土のひと-医(いや)す立場からの伝言』
(新日本出版社)ほか。

保健所とは
地域保健法によって都道府県、指定都市、中核都市などに設置され、
広域的で専門的なサービスを実施。
2020年で全国に469カ所。
医師、保健師、管理栄養士、診療放射線技師、臨床検査技師、獣医師、薬剤師などが配置される。
保健所では、母子保健、伝染病予防、生活習慣病対策、精神衛生、食品衛生、住居衛生、上下水道、
屎尿塵芥処理、公害対策、労働衛生などの公衆衛生活動を行なう。
災害時など、各地の保健所長は県庁の出先として「地域に複数ある医師会」を束ね、
「複数の行政機関と医療福祉施設、全体の競技の場」を設定することが最重要任務となる。

――新型コロナでは感染者への医療対策が懸念されていますが、長野県はいかがですか。

長野県東部の佐久(さく)地域(軽井沢を含み、南は山梨県境まで。東京23区の約2・5倍の面積)
に限って言えば、発熱した人をすぐに管理下において検査、必要なら入院という
コントロール下で医療を提供しています。
東京のように、管理されていない空間から感染者が出るというところまではいっていない状況です。

この状況は10年前の東日本大震災を思い出します。
当時の福島県南相馬(みなみそうま)市の桜井勝延(さくらいかつのぶ)市長とは20年くらいの
付き合いになるのですが、福島第一原発の事故の翌日から情報のやりとりを行ない、
「核物質というのは危険なものだけれど、コントロール下にあったらそんなに怖くない。
事故が起こって、どこに核物質があるかどうかがわからないから、
誰も彼もが疑心暗鬼になって怖がっている」
と話していました。

新型コロナも同様で、発症した人を医療機関にしっかりつなぎ、「主治医」
がついてコントロールしていくことが大切だと思っています。

保健所の役割の重要性

――感染者の管理では、保健所の接触追跡の重要性が問われています。

僕は昨年2月に「COVID-19の拡大で重み増す保健所長の役割」
という文章を発表し、
「今まで以上に大切な役割を担うのが保健所長だ」
と指摘しました。
新型コロナで保健所長がどれくらい機能できるかを危惧していたからです。
なぜかというと保健所長は主に原則要件を満たした医師が就きますが、
所長である医師の中には歴史的に保健所がどういうものかよく知らない人がいます。
また自治体の側にも、「保健所と具体的にどう協働するか」
を掌握できていない場面があります。

日本の医師は、これまでバイオメディカルモデルにのっとり、病気には細菌やウイルスなどの
特定の原因が存在し、その原因を取り去れば病気が治ると考えてきました。
だから医師に何かできると思っていて、保健所の役割の重要性をわかろうとしません。
それは発展途上国に行った体験のある医師でないとわからないのではと、僕は思っています。
発展途上国では薬も使えず、医療にお金をかけることもできなかったりしますが、
保健所的なもの[PHC(プライマリヘルスケア)]がしっかり機能しています。

長与専斎と後藤新平

――では、保健所の役割とは何ですか。

明治期に長与専斎(ながよせんさい)という人がいました。
1871(明治4)年から73(明治6)年まで岩倉使節団が米国、欧州を回りますが、
そのときに同行した長崎県出身の医者です。
彼はオランダ語に精通していたので明治政府に呼ばれて使節団に参加し、
帰国して東京大学の医学部の前身をつくります。

日本の医学教育を築いた人ですが、
「(西洋)医教育は大事だけれど、公衆衛生のほうが大事だ」
という意味のことを彼は書き残しています。
医師が活躍する場面よりも、公衆衛生に重きを置いていたわけです。

新型コロナでは今回、まず医療従事者からバイオメディカルモデルであるワクチンを接種する
ことになっています。
ただ、バイオメディカルモデルが確立される以前は、公衆衛生的なアプローチしかなかったわけで、
今の日本人はそのアプローチの仕方を忘れてしまっています。

そうした意味で、新型コロナは〝目覚まし時計〟だと思います。

――それは、どういうことですか。

新型コロナ感染の拡大が目覚まし時計であり、感染が広がらないようにするには
公衆衛生を徹底するしかないと改めて気づくことができたわけです。

長与専斎の弟子に、逓信(ていしん)大臣や外務大臣、東京市長になった
後藤新平(ごとうしんぺい)がいます。
彼はもともと医師で、一番大きな仕事は感染症対策だったと、僕は思っています。
具体的には日清戦争後の検疫です。

日清戦争が終わって、清国に行った軍隊が帰国してくるのですが、
日本にいろいろな疫病を上陸させることが心配なため検疫を行ないます。
これは、ドイツの当時の皇帝ヴィルヘルム2世が、
「日本の検疫はすごい」
と褒(ほ)めたくらいの難事業で大成功だったわけです。

後藤新平は、後に長与専斎と袂(たもと)を分かちますが、後藤が推し進めたのも公衆衛生です。
つまり検疫により疫病をどうやって日本に入れないのかというノウハウこそが日本人を救う
ということを確信をもって貫きました。
彼はのちの国民皆保険制度の礎も明治期にすでに提案しています。

昨年のクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の新型コロナの集団感染などは恐るべき話です。
欧州の僕の友達は後藤新平を知っていたから、
「日本の医学史からすると、ありえない。
後藤新平をもった日本が、どうしてここまで後退したのか」
とあきれかえっていました。
日本も含めて、英国のように公衆衛生の王国といわれた国だけでなく、
生物学的、科学的、医学的に武装していた国々が驚くほど簡単に崩壊していきました。
科学や技術やお金の力では解決しきれない世界的な環境破壊などが次から次へと押し寄せてくる、
その第1波としての目覚まし時計が新型コロナであると考えています。

根本的な治療法が必要

――ワクチン接種が始まりましたが、色平さんは接種しますか。

来週接種します(3月8日に接種)。
新型コロナのワクチン接種は、臨床医だから受けざるを得ません。
毎日十数件の胃カメラ検査を行なっていて、自身が感染するどころか、
患者さんに感染させるリスクの非常に高い危険な医療の最前線にいるからです。

ワクチンについては、なぜ米国や英国、中国、ロシアなどで開発が早かったのか。
どうして日本が開発に遅れているのかというと、
それは日本が軍事技術を普段から増強していないからだと思います。
たとえば米国の2021年度大統領予算案によるとアメリカ国立衛生研究所(NIH)
の予算は約370億ドルで、日本円にして4兆円近い膨大なものです。
日本の場合は、日本医療研究開発機構(AMED)の20年度予算が1447億円ですから、
30倍近い金額となります。

細菌兵器を研究しているところは、防御するための技術も進んでいます。
ワクチンを開発するということは、相手を殲滅(せんめつ)するための攻撃兵器と、
自分の兵隊を守るためのワクチン、
その両方を開発している軍事国家だからできることだと思います。
ワクチン開発の速さだけで物事を論じるのは、一面しか見ていないことになります。

ワクチンでは、これから知的財産権(特許権)保護の問題が出てくるでしょう。
HIV感染のときもそうでした。
新薬開発の知的財産権に固執した先進国の製薬会社により、
HIVが猛威をふるった発展途上国への普及がかなりの時日、遅れました。

ただ、変異株問題も含め、ワクチンが普及しても地球全体が助かるわけではないと感じます。

――ワクチンだけでは解決できないということですか。

根本的な治療法が必要でしょう。
新型コロナは、目の前の1人とか、地方自治体の数十万人とかではなく、
地球全体の約80億人の人類がこれから直面していく恐るべき事態のアラームなんです。

その一つが環境破壊です。
環境破壊が進むのは、環境を商品にしているからで、
この話を宇沢弘文(うざわひろふみ)(注)先生としたことがあります。
宇沢先生は14年に亡くなられましたが、先生が言い残されたのは
「医療とか教育とかは、社会的共通資本だ」
ということです。
これは商品、つまりお金にしてはいけないということです。
商品にすると、地球環境のように破壊されていきます。
僕らは今回のパンデミックでそれを痛感させられたし、地球温暖化や大型台風の到来など、
多岐にわたるアラームがあり、アラームを何回も何回も見逃していけばいくほど手遅れになります。

宇沢先生がどのような処方箋(しょほうせん)を書いたかというと、
独占や独裁を軸に物事を論じないようにしないといけないということでした。
たとえば、X(横)軸に政治、Y(縦)軸に経済をとったとします。
政治で右のほうは「おカミ軸」、どうしても強い権力を求める独裁になっていきます。
逆に左のほうは、自由や分権的な世界です。
Y軸の経済では、上のほうは「おカネ軸」、独占や格差が進みますが、
下のほうは経済的な平等や再分配という話になります。(図)

おカミ軸  正方向「政府の強権、権力者の独裁」    負方向「民衆の言論と表現の自由」

おカネ軸  正方向「独占、企業営利の自由と格差拡大」 負方向「民衆に再分配、公正、平等」

宇沢先生と私は、X軸・Y軸について、人間は放っておくと独裁になり独占になる。
これをどのようにして逆方向の自由で平等な世界にもっていけるかということで論を立てました。

このX軸とY軸は、いずれもプラス方向が独裁であり独占であるとするなら、
それとは別に権力ずくでもお金でも買えないような価値というものをZ軸として立てるべきではないか
とビールを飲みながら語っていました。
宇沢先生が、それを文化と言ったか環境と言ったか生存と言ったかは覚えていませんが、
国家軸、資本軸に加え、生存軸なり独立したZ軸を構想しておかないと危ういと言っていましたよ。

ここで「トリレンマ」ということを考えてほしいと思います。

トリレンマ

ある問題に対して二つの選択肢が存在し、そのどちらを選んでも何らかの不利益があり
態度を決めかねる状態のことをジレンマと言います。
環境を大事にするか、経済を大事にするかの選択が、それに当てはまります。
環境は感染状況や感染抑制と言い換えてもいいでしょう。
ただ、コロナ下ではジレンマではなくて、選択肢は「三つに二つ」
というトリレンマにあるのではないかという議論があります。

たとえば中国を例にとると、国家の力を強くする方向でやらないと、
経済活動再開と感染抑制の両方を手にすることはできませんでした。
感染状況を抑え、しかも経済も向上させたいのであれば、強権に対して譲り
市民的自由を失うしかないわけです。
これは自分たちの自由を売り渡していく以外に、つまり政府に強権的に統治され、
貫徹された管理の中にいない限り、安全に暮らせないだろう、との恫喝(どうかつ)に通じます。

一方で、自由社会(プライバシー保護)を満喫し、経済も自由にということになると、
感染状況は抑えることができません。
トリレンマとは、「表現の自由」か、「営利の自由」か、「感染なし」かの三つを同時に実現
することはできないという状況なのですが、
これら「3択からどの二つを選びとるかが問われている」のではないかと、僕は思っています。

――強権については、日本でも新型インフルエンザ等対策特別措置法等が一部改正されました。

特措法等の「改正」は、歴史の逆行であって、実に危ういことだと感じます。
感染症の歴史で、明治以来ずっと行なってきたことは隔離と差別です。
精神科医療は、いまだにそれをやっているわけですが、今回の特措法等改正は、
そうした隔離と差別の強制的な手法に、再度手を染めてしまったのではないかと危惧します。
僕たち自身が国家による上からの管理を望むようになってしまっていることこそ恐ろしい。
第2次世界大戦前のように、民衆の側から国家統制を求めてしまったわけでしょうから。

日本の農村の医療

――長野県では、新型コロナに感染した人が、
村人から非難され、引っ越しを余儀なくされたという話も聞きました。

佐久地域の人々は素朴で、性善説というか、
しっかり身を正していれば新型コロナは大丈夫だという人たちが多い。
それが地域に固有の”精神風土”を支えてきたし、感染予防の観点からも、全く正しいことです。
しかし、これが行き過ぎると同調圧力となって個々人の権利を侵害しかねません。

彼らは、地域の論理で動いている〝土の人〟たちです。
だから、僕らのような〝風の人〟というか外から入ったよそ者と違って、
周囲の人々と共通する土着の論理を尊重しながら生きています。

佐久総合病院の病院長だった若月俊一(わかつきとしかず)(注)先生は農村を舞台に
自ら脚本を書き、その本数は20本を超えたと言います。
若月先生は、「農民とともに」の精神で「第一線医療」を実践し、
農村医療を確立した医師でもありました。

昨年、若月先生が書いた脚本『村のうた』のガリ版刷りが出てきました。
1950年に院内劇団の公演用に書かれたものです。
若月先生は、その脚本の冒頭、東京からきた医師に
「あーあー本当に田舎っていやだなあー。
本当に百姓の利己心にあー全く、くさらされるよ」
と言わせています。

観客は、当の村人たちです。
反発を買っても、とにかく「医療の民主化、近代化を進めたい」という思いが、
「農民たちがもっている利己心というのは、本当につらいよな」
という意味の台詞(せりふ)を吐かせたのだろうと思います。

脚本のテーマは、まさにコロナ禍の今にぴったりです。
当時の赤痢や腸チフスなどの感染症がまん延する中、いかに「伝染病棟」を建設するかというものでした。
これら細菌性の感染症は、現代の日本では大きく減りましたが、感染症流行時の人々の反応や偏見、
差別の横行は、脚本が書かれた70年前も現在もあまり変わりません。
若月先生の言葉は、佐久地域に限ったことではなく、現在の日本に当てはまる診断ではないでしょうか。

若月語録としては、ほかに「予防は治療にまさる」があります。
これはコロナ禍を奇貨=アラームとして、次のパンデミック発生を「予防すべく」
人類全体として取り組むべき、と読めるのかもしれませんね。

――長野県では無医地区もあるかと思います。
そうしたところでの新型コロナ対策はいかがですか。

無医地区における医療(僕は「ゼロ次医療」と呼んでいますが)では、
保健師さんが一番大事な役割を果たします。
つまりPHC(プライマリヘルスケア)活動の要こそ、
PHN(パブリックヘルスナース:公衆衛生看護師=保健師)です。

看護職として行政語と医師語と村語(人々の共感を得るような、生活感をともなった言葉づかい)
の3カ国語を同時通訳できるのが保健師さん。
村の人々の素朴な相談を受け、それで医者に来てほしいと言われれば、
僕らが出向いていきます。
行政が何をしようとし、村人がそれをどう考えているかは、保健師さんに聞けばわかります。

保健所のトップは医師ですが、最前線で本当に頑張っているのは保健師さんということです。

うざわ ひろふみ・1928~2014年。
東京大学名誉教授。
83年、文化功労者。
97年、文化勲章受章。
「社会的共通資本」論をはじめ、個別の意思決定について価値や不確かさといった
事柄を数学的、統計的に確定し、それによって最善の意思決定を導き出す「意思決定理論」
などで知られる。

わかつき としかず・1910~2006年。
病院長として佐久総合病院を育てつつ、地域住民の中に積極的に入り込み、
無医地区への出張診療などを行ない農村医療を確立した。
日本農村医学会の創立者で国際農村医学会名誉会長。
『若月俊一著作集』『村で病気とたたかう』など著書多数。

2月24日にリモート取材  まとめ 秋山晴康(編集部)

「週刊金曜日」 2021年3月26日

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コメント:「表現の自由」「営利の自由」「感染なし」はX,Y,Z軸の民主化という

ことかと思いますが、「自由」に問題を解く鍵があるように思います。Freedom はSanskritの  priya-dhaman,:beloved domain:親愛領域から来ています。人々が本当に世界・自己:真理・倫理に親密になり慈愛を持って処するならば政治・経済・生系はトモに放縦ではなく自由に成りうるでしょう。確かに米国は
コロナ禍で最悪で中国は良好でしたが、トランプの失策をバイデンは解決しつつあり、経済も生系も新計画で成功しそうであり、中国の独裁・独占・弾圧を批判し訂正を迫っています。米国の個人主義は(トランプ主義が合して、マスク拒否、営業自由など)コロナ禍を悪くしていますが(銃問題と同様)今後の問題です。(軍事研究問題について:トランプ時代のCDCトップはコロナは感染症研究所から出たと言っていますが、証拠なしながら、重要な問題を含んでいると思います:核・戦争・汚染などの問題も勿論、この様なことが起こり得、予算・資源を軍事に使うことは生系平和に使えなくり、あまつさえ軍はクーの危険を持ち(三ヤンマーでは既に何百人が殺され、「家族だけ」というのに「嘘を吐くな」住居侵入し膝の上に居た7歳の娘を銃殺したと、いう様なことになるので。軍事費は国家安全から生命安全に向けて転換すべきと思います。)
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