新型コロナ 対策不足の五輪開催に海外から批判

実践!感染症講義 -命を救う5分の知識-

新型コロナ 対策不足の五輪開催に海外から批判

谷口恭・太融寺町谷口医院院長

ライトアップされる五輪マーク。後方の国立競技場は夜の闇に落ちたままだ=東京都新宿区で2021年1月18日、梅村直承撮影

ライトアップされる五輪マーク。後方の国立競技場は夜の闇に落ちたままだ=東京都新宿区で2021年1月18日、梅村直承撮影

 “疑似緊急措置”による感染者増加抑制に失敗し、感染者は50万人を超え、死亡者は1万人に迫る勢い。アジアで最悪……。

これは英紙「The Guardian」に、4月26日に掲載された記事「日本の遅い新型コロナワクチン接種がオリンピックに暗雲を投げかける(Japan’s slow Covid vaccine rollout casts cloud over Olympics)の中に出てくる文章です。

「アジアで最悪」

つい半年ほど前までは、新型コロナウイルスの感染者、死亡者ともに少ない国、つまり「成功した国」として取り上げられることもあった我が国は、今や「アジアで最悪」と英国の大手紙から指摘されるようになってしまいました。

そして、そのアジアで最悪の国でオリンピックが開催されようとしているのですから「今の日本は理解できない」というのが英国の世論なのでしょう。はっきりとした表現は避けているものの、この論文には随所に日本を皮肉った箇所があります。例えば、冒頭の“疑似緊急処置”(原文は「Quasi-emergency measures」)は、日本語に訳せば「疑似」となるような「Quasi」という表現を用いることで、結果が伴っていないことを暗に批判しています。「遅いワクチン接種の展開(原文は「sluggish vaccine rollout」)」という箇所は、「遅い」を表すのに「delayed」や「slow」ではなく、「sluggish」という「のろい」と「怠惰な」の両方の意味を持つ単語を用いています。「なんとも英国人らしい表現……」と感じるのはおそらく私だけではないでしょう。

日本を非難しているのは英国だけではありません。感染者、死亡者が増え続けワクチンが普及していないような国に大切な選手やその関係者を渡航させて大丈夫なのか、という不安は多くの国にあります。

頼みは消毒液とマスク、そして笑顔?

ざっと世界の主要メディアを見渡したところ、具体的な証言を取り入れて日本の現状を最も痛烈に批判しているのが米国のテレビ局「CNN」です。4月15日に公開された日本語の記事「東京五輪まで100日切る、1%に満たないワクチン接種率に懸念」から興味深い箇所を、要約するなどして取り上げてみましょう。

・参加予定のボランティアが「(ワクチンなしで)どうやって感染予防をするのか」と大会の運営側に尋ねたところ、「小さな消毒液1本と2枚のマスクを支給する」との答えだった。

・運営側はボランティアのワクチン接種についてだけでなく、検査にも言及していない。

・東京オリンピック・パラリンピック組織委員会はCNNへの声明で、安全で安心な大会の開催に向けて準備を進めており、ワクチン接種が広がらない状況でもそれは変わらないと述べた。

・「オリンピック出場選手にはワクチンを優先して接種すべきだ」との指摘があるが、日本政府はこの考え方に賛成していない。 ※編集部注

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・中国政府は選手向けにワクチンを提供すると申し出たが、日本政府は中国製ワクチンの使用許可が日本国内で下りていないのを理由に断った。

・組織委の橋本聖子会長は、参加予定のボランティアに対し「オリンピックを成功させるためにはあなたの笑顔が頼りだ」と話した。

・参加予定のボランティアは、感染症の専門家から「(たとえボランティアでも)65歳以上の高齢者ではない一般の人々が、オリンピック開始前にワクチン接種を受ける時間の余裕はない」と言われ、怒りと恐怖を感じた。

・海外の出場選手は日本入国前に母国で新型コロナの検査を受けて陰性を確認して来るが、日本入国後にワクチン接種を受けていない大勢の日本のボランティアと接するのは避けられない。

研修会で熱心に説明を聞いていた、外国人のボランティアたち=2019年11月16日午前9時39分、金子淳撮影
研修会で熱心に説明を聞いていた、外国人のボランティアたち=2019年11月16日午前9時39分、金子淳撮影

「効果のないシステム」

オリンピック開催の危険性についての論文もあります。医学誌「British Medical Journal」2021年4月14日号に「今夏のオリンピック・パラリンピックを再考する(Reconsider this summer’s Olympic and Paralympic games)」という論説を、英国人研究者1人と日本人研究者3人が連名で公表しました。こちらもかなり辛辣(しんらつ)な論評です。ポイントをまとめてみましょう。

・他のアジア太平洋諸国と異なり、日本は新型コロナの封じ込めに成功していない。

・日本政府は、変異株の流行の兆しがあったにもかかわらず、2回目の緊急事態宣言を解除した。そして変異株は現在日本中に広がっている。

・検査数が少なくワクチンが普及していないのは政治家のリーダーシップが欠如しているからだ。

・オリンピックの参加者は、接触者追跡用のアプリをダウンロードすることが求められるが、このアプリは信用できない。

・日本の医療は逼迫(ひっぱく)しているし、新型コロナ感染者を検査・追跡・隔離するシステムは効果的ではない。これでは大勢の人の移動による感染爆発を封じられず、五輪の安全な開催はできない可能性がある。

・現在のプランでは、パラリンピックに出場する選手についての考察が不十分で、感染リスクを過小評価している可能性がある。

・国内の政治と経済のために、科学的、道徳的な必要性を無視して、オリンピックを開催するのはおかしい。

論文のタイトルこそ穏やかですが、中身を読むと「これでもか」というくらい痛烈な言葉が並んでいます。「効果のない(ineffective)システム」「信用できない(unreliable)アプリ」といった表現には驚かされますが、これは一流医学誌に掲載された論説なのです。

東京オリンピック・パラリンピックに向けた5者協議に臨む大会組織委員会の橋本聖子会長(左)、丸川珠代五輪担当相(右)と、リモートで参加する(モニター左から)東京都の小池百合子知事、国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長=東京都中央区で2021年4月28日午後6時38分(代表撮影)
東京オリンピック・パラリンピックに向けた5者協議に臨む大会組織委員会の橋本聖子会長(左)、丸川珠代五輪担当相(右)と、リモートで参加する(モニター左から)東京都の小池百合子知事、国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長=東京都中央区で2021年4月28日午後6時38分(代表撮影)

さて、この原稿を書いている時点で、7月23日の五輪開幕予定日まで残り80日を切っています。海外から来日する選手や関係者はすでに航空券とホテルをおさえ、スケジュールの調整に入っているでしょう。もはや今さら中止するとは言えない段階にまで来ているのではないでしょうか。

では、この状態、すなわち3度目の緊急事態宣言が4月末に発令され、変異株の流行が収束しておらず、検査も追跡も不十分な中、海外からの選手に安心してもらうことはできるのでしょうか。できるとすればその方法は、ワクチンの普及をおいて他にはありません。医療者、高齢者のみならず、少なくとも日本の選手や関係者、できれば日本中の希望者全員に接種を済ませることが必要です。

しかしながら、前々回のコラム「新型コロナ ワクチン接種にはまだ課題が多い」で述べたように、今のペースであれは、接種終了までに6年以上かかる計算になります。今からオリンピックまでに広く接種するには最低でも1日80万人にワクチンを打たねばなりませんが、現在は多い日でもせいぜい15万~16万人程度です。

薬剤師や医学生もワクチンの接種役を

ところで、私自身は、オリンピックの問題はさておき、変異株が猛威を振るい、本来なら入院しなければならない病状なのにできない人が増え続け、ワクチン希望者があふれて、さらにワクチンの輸入を政府が約束している現状に鑑みると、ワクチン普及が成功するか否かは、接種役を担う医療者のやる気にかかっていると思っています。そのため医療者用のウェブサイトでの連載コラムで、「医師、看護師のみならず、薬剤師や医学生、看護学生にも接種を手伝ってもらうべきだ」(日経メディカル4月22日「今のペースではコロナワクチン接種完了は7年後!?」)、「接種は24時間体制とし、若者は深夜から早朝までの時間帯に打つべきだ」(日経メディカル4月27日「『24時間接種』でワクチンギャップを埋めろ!」)という意見を述べました。

東京オリンピックのマラソンテスト大会で、北海道大構内を選手が走る中、観戦自粛を呼びかけるボランティア=札幌市北区で2021年5月5日午前10時55分、貝塚太一撮影
東京オリンピックのマラソンテスト大会で、北海道大構内を選手が走る中、観戦自粛を呼びかけるボランティア=札幌市北区で2021年5月5日午前10時55分、貝塚太一撮影

この考えは、一般の方には同意してもらえることが多いようです。例えば、大阪、京都など12府県・政令市で作る「関西広域連合」は、4月20日に発表した「新型コロナウイルスの感染急拡大を受けた緊急提言」の中で、「薬剤師や医学部・看護学部の学生など対応ができる者の範囲を拡大」することを求めました。また、自民党の新型コロナウイルスに関するワクチン対策プロジェクトチームは4月26日、「早朝や深夜を含め24時間ワクチンを接種できるよう要望する」との提言をまとめました。ですが、肝心の医療者からはあまり積極的な意見が上がってこず、私のような意見を持つ医療者はあまりいないようです。

私は新型コロナのワクチンには慎重な考えを持っています。長期的な安全性が担保されているとは言えないからです。自分自身は接種を受けることにしましたが、医師という立場でなければ見合わせていたかもしれません。同じように、東京オリンピック・パラリンピックの出場選手やボランティアのなかには「(参加しなければ見合わせていたが)参加するには接種を受けねばならない」と考えている人もいるのではないでしょうか。また、オリンピックには関係なく、海外の人たちと同じように接種を受けたいという人も大勢いるでしょう。そういった人たちがいて、ワクチンが輸入できて数が確保できるなら、あとは接種する医療者の問題となります。オリンピックの開催もこれ以上のまん延防止も、医療者の態度にかかっている、私はそう考えています。

※編集部注 谷口医師がこの原稿を執筆した後の6日、国際オリンピック委員会(IOC)は、東京オリンピック・パラリンピックの各国・地域選手団に対し、米ファイザー社から新型コロナウイルスのワクチンの提供を受けることで合意したと発表しました。 ただし、大会ボランティアのためのワクチン提供ではないうえ、日本国内でも選手らへの接種体制をどう作るかは未定。大会組織委員会の関係者や医療関係者は疑問を呈しています

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