権力・戦争・五輪・コロナ・無責任 vs. 権利・平和・生命・科学・責任

 昨夏第二波、昨年末年始第三波、2つの波は、新宿のたった一人の感染者から広がった

 
 
前回の当欄寄稿は3月末だったが、その後2か月の間に、新型コロナウイルス第四波が襲来してしまった。
同じ失敗が、次第に程度をひどくして繰り返されることに、いい加減に倦んできた方も多いだろう。医療介護
機関の皆さんや、ご関係の公職にある皆さんの心身のご疲労が、本当に心配である。
実はこの間、日本は感染の再拡大防止に3度失敗している。
そもそも昨年1~2月に武漢から持ち込まれたウイルスは、新規陽性判明者を一日最大56人
で抑え込むことができた。
しかるに欧米から帰国した日本人が変異ウイルスを持ち込んだのを、
空港でブロックできなかったため、昨年3~4月に第一波が起きてしまった
(新規陽性判明者は1日最大720人)。

さらに昨夏に第二波、昨年末年始に第三波が起きる
(新規陽性判明者は1日最大でそれぞれ、1605人と7955人)。
国立感染研の遺伝子解析では、この2つの波は、新宿のたった一人の感染者から
広がったものだった。
拡散前に当人を発見し隔離できていれば、夏以降の人命被害も経済被害もなかったかもしれない。

だがそうできていたとすれば、今春の第四波(新規陽性判明者1日最大7237人)は、
日本人が油断していたであろう分、今以上に猛威を振るったことだろう。
これを引き起こしたのは、英国から日本に持ち込まれた変異株なのだが、
日本はまたもや空港でのブロックに失敗した。

中韓台や豪州、ニュージーランドができているウイルス侵入防止を、なぜ日本はできないのか。
一言でいえば、入国者に入国後2週間の隔離を徹底させるのに必要な、
公務員の数が足りないのだろう。
GPSでの位置把握などの、デジタルの活用もできていない。
デジタルに関しては、日本人へのワクチンの二重接種を防ぐための接種記録すら、
選挙で使っているバーコードや、QRコード(発明したのは日本だ)
を使わずに、会場で数字をOCRという懐かしい機器で読み取っている始末だ。
日本政府の、デジタルに関する知見と活用意欲の欠如は、
幕末の江戸幕府の、組織近代化への意欲の欠如に比肩すべきものかもしれない。

こんなことなので、オリンピックなど行えばさらにいろいろな変異株が持ち込まれるのでは
ないかと、懸念される。
日本学術会議に無用で無道の介入を行うヒマがあったのなら、昨秋から、
入国管理関係の人員強化や、ワクチンを迅速大量に接種できる体制の準備をしておくべきだった。

だが、松山英樹のマスターズ選手権での優勝や、大谷翔平の大活躍を喜んでいる方は、
これらの会場近辺の感染状況も確認して欲しい。
エンゼルスの本拠地・カリフォルニア州オレンジ郡の、昨年から今年4月末までの死者数累計は、
人口比で東京都の11倍だ。
ワクチン接種の進んだ4月に限っても、新規陽性判明者数は、人口比で東京都と同水準だった。
マスターズ会場のジョージア州リッチモンド郡では、それぞれ東京の18倍、3倍である。

松山や大谷も、大会や試合が中止になれば、歴史を塗り替えるチャンスを失うところだった。
白血病を克服した競泳の池江選手にとっての、オリンピックはどうだろう。
松山や大谷を応援しつつ、池江には我慢しろと言えるのか。
池江に限らない。
4年に1度の大会に向けて研鑽を重ねてきた有名無名の選手たちの立場や気持ちにも、
少しは目を向けてはどうだろうか。

今度こそ水際対策に全集中していただき、無観客でも無報道でもいいので、
とにかく選手たちを一生に一度の機会に競わせてあげられないのかと、筆者は強く思っている。


松山や大谷と池江   西日本新聞 5月24日「提論」 藻谷浩介



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連日、さまざまなことが報じられているが、予定通り行うにしても、中止するにしても、
結局、誰にその最終的な決断の責任があるのかが、よく分からないのだ。

そもそも、オリンピックは誰の責任で開催するものなのか。
「開催都市」というのだから、「東京都」なのだろうと思っていた。
だが、よく調べてみると五輪は国際オリンピック委員会=IOCが主催するものであるらしい。
だから、中止を決めることができるのはIOCだけだ、という記事も見かけた。

だが、IOCはただのNPOに過ぎない。
国連の機関でもない。
そんな組織に、責任がとれるのだろうか。
実際、IOCは、日本政府が開催できると言っているから大丈夫と判断しているようにも見える。
どこまで行っても、「真の責任者」が見えてこないのである。

もちろん、東京五輪を開催する上で、さまざまなリスクに備えた契約が結ばれている。
だからそれらをきちんと読み直せば、個々の形式的な責任の範囲は分かるだろう。

だが一般に、因果関係が明確ではないことについての責任は、問われない。
一方で、コロナ禍のような「想定外」の事態が起きれば、五輪のごとき巨大なプロジェクトは、
催しても中止しても、複雑な余波が生じる。
不幸にしてそれに巻き込まれる人々もいるだろう。
しかし、そのことに対して誰が責任をとるのだろうか、いや、とれるのだろうか。

歴史をひもとけば、似たようなことが繰り返されてきたことに気づかされる。
だからこそ「無責任な責任者」が後を絶たないのだ。

ゆえに私たちは、今度こそ学ぶべきだろう。
すなわち、何か想定外のことが起きた場合に、責任を誰もとりきれないような
「大き過ぎるプロジェクト」は、そもそも始めるべきではない、ということだ。

だがそれでも、すでに「今ここにある危機」には誰かが対処しなければならない。
だからもう一度、伺いたい。
で、この件は、誰が本当の責任者なのですか、と。


2021/5/28 朝日新聞 神里達博 (月刊安心新聞)



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「変異株が蔓延し、失われる命や、GDP(国内総生産)の下落、
国民の我慢を考えるともっと大きな物を失うと思う」

「(開催中止は)違約金が莫大だという話はあるけど」

「誰が何の権利で(開催を)強行するのだろうか」


東京五輪「大きな物失う」  孫氏、ツイッターで懸念
https://this.kiji.is/769205499620229120



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バイデン政権が今回想定している税率は、所得が100万ドル(約1億円)を超える富裕層に対して39・6%。現行の
2倍近くに引き上げる算段のようだ、、、

アメリカの所得・資産格差は近年かなり拡大しており、上位1%の国民が持つ資産が、下位99%が持つ全資産よ
りも多いという試算もある。その是正を図ろうとするのは、民主党政権ならずとも妥当な判断だ、、、

一方、日本のキャピタルゲイン税率はどうなっているのか。日本は「一律分離課税」という方式をとっている
。給与所得の多寡にかかわらず同じ税率で課税するというものだ。
、、、合計の20%が日本でのキャピタルゲインにかかる税率になる。

先程見たアメリカのシステムと比較すると、国税の部分が一律である点、そしてそもそもの税率がかなり低い
点が特色と言えるだろう。

アメリカの極端な対富裕層増税が適切かどうかはさておき、日本でも所得格差が拡大し続けていることを踏ま
えれば、「一律分離課税」というルールは実情に即していない様に思われる。多段階課税の導入が議論されて
然るべきだろう。



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男性は振り返る。

「コロナの前は週に5日働いて、月収15万円くらいはあったんです。食うには困りませんでした」。

新型コロナの感染が拡大した昨年春以降、徐々に仕事がなくなり、仕事は週に2回、月収は4万円にまで落ち込
んだ。   

「それでも、12月まではまだよかったんです。…



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「ギグエコノミーなどに代表されるインターネットを通じた仕事は非常に搾取され、労働法が適応されないこ
とも多く、法律の整備は十分ではありません、、、

Q.協同労働の利点は何でしょうか?

「協同労働は自助努力と自律性を重視しています。仕事を持たない多くの疎外された人々や不平等が蔓延して
いる中で、これは彼らを助けるのに適したビジネスモデルです。資本主義はもう以前のようには機能していま
せん、、、

Q. ITを活用して協同労働を行うことの利点は何でしょうか?

「給料がよくなり、2倍にすることも可能です。なぜなら、お金を巻き上げる中間業者がいないからです。ネッ
トを舞台に事業を展開できるので、実店舗のビジネスほどコストがかかりません。事業を拡大しやすいのです


さらに、労働者がプラットフォームを所有しているので、労働条件が明確で、働き方も自由にコントロールす
ることができます。例えば、子育てのために午後から早退することだって、会社と違って気兼ねなくできるわ
けです。

このようなことは、主に介護分野、ホームクリーニング、輸送、そして最近では農業分野を中心に、盛んに起
こっています。アメリカだけではなく、プラットフォーム協同組合は47カ国以上に存在し、少なくとも500個以
上はあります。様々な国の様々な人々が、プラットフォームを活用した協同労働を始めているのです。」



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日本、遅すぎ、、昨年初夏には世界のジョーシキ、困った限り、、これでやれば、アウトブレイクの3週間前
に予測がつくのに、、でもつい先日、衆院厚労委員会で医師議員から質問してもらってるから、少しは進捗?


下水ウイルス量、感染者数に関連 
北大と札幌市が研究、拡大と収束の早期把握期待
2021年5月28日 北海道新聞

札幌市と北大は、市内の下水に含まれる新型コロナウイルスを調べている。今年2月から3月末までの調査で
は、下水に含まれるウイルス量と市内の感染者数の動向がおおよそ一致しており、下水から感染拡大や収束の
兆候を把握できる可能性がある。今月10日から6月末まで再び調査を行っており、市は、下水検査の活用方
法などを検討する。

新型コロナウイルスは感染したヒトの便にも含まれ、北大と製薬大手塩野義製薬(大阪市中央区)が今年1月
、下水検査の新手法を共同開発。市職員が市内の処理施設で採取し、北大大学院工学研究院の北島正章准教授
(環境ウイルス学)がPCR検査で新型コロナウイルスの遺伝物質の量を計測する。



==



<どのような批判も、自分を省みるよすがとして耳を傾けねばと思います(中略)批判の許されない社会であ
ってはなりませんが、事実に基づかない批判が、繰り返し許される社会であって欲しくはありません>

清子さんは、深い教養と見識をもちながらも春風のような温かさを持ち合わせた内親王であった。この文章も
、美智子さまを批判した相手を強く責めてはいない。それでも、バッシング報道に苦しみながらも批判する相
手を理解しようと努め、平成の天皇、皇后として歩むご両親の生き方が伝わるものだった。

「上皇后陛下のかげになって目立つことはありませんでしたが、その優れた才能から『ミニ皇后』という人も
いたほどです」


https://bit.ly/2R2Dfjs   サーヤ



==



このようなナチスドイツ軍のテロによる占領下、全国解放委員会CLNを中核とするレジスタンスはイタリア全国
に拡大。やがて山間部で闘う最初の武装パルチザングループが誕生し、多くの市民たちの賛意と支持を得るこ
とになりました。数多くのパルチザンがナチスに連れ去られ、拷問を受け、強制収容所に連行され、銃殺され
るという悲劇を背景に、市民たちの間ではレジスタンスが確固とした「決意」へと成長していきます。やがて
イタリアの各県、各地域の谷や山間部でパルチザンたちが育成されるようになり、初期の武装パルチザングル
ープから発展、精密にオーガナイズされた旅団が形成されていくことになった。
なお、山間部のゲリラ戦を繰り広げたパルチザングループには有名な『ガリバルディ旅団(Garibaldi)』をはじ
め、、、
激しい攻防が繰り広げられた1943年の9月8日から1945年の4月までに、30万人(うち3万5千人が女性)のパルチ
ザンのうち、1072人が戦場で亡くなり、4653人が捕らえられ拷問にかけられ、2750人が強制収容所に連行され
、2812人が銃殺、あるいは絞首刑になっている。またナチ・ファシストに連れ去られた市民4万人のうち、家に
戻ることができたのはたったの4千人だったそうです。
その、夥しい犠牲を強いた激しいレジスタンスを経た1944年6月6日、北イタリアに先駆けて闘争が終結したロ
ーマで、自由と尊厳をかけて闘ったパルチザンたちによるアソシエーション、全国パルチザン協会A.N.P.I.は
設立されました。1945年には、ナチ・ファシストとの攻防がローマより9ヶ月も長引いた北イタリア、さらに全
国のパルチザンたちが参入。


https://bit.ly/3i26GgL
ナチ・ファシストからイタリアを解放、戦後の民主主義を担ったパルチザンたち:A.N.P.I.と現在



==



「鉛の時代:anni di piombo」
武装組織によるテロの相次いだ重苦しいイタリアの1970年代

Aldo Moro  1916年9月23日 – 1978年

モーロが生きたイタリアは、ある意味、南米の状況に近い、冷戦における「オーソドックスではない戦争」が
繰り広げられたひとつの戦場でもあり、西側諸国が悪魔と見なす『イタリア共産党』が、『民主主義』におけ
る『選挙』によって、欧州の国々の中で、市民の支持を最も多く集めた国でもありました、、、
イタリアという国そのものが、米国から支援された共産主義パルチザン(カトリック僧や君主制主義のパルチ
ザンも存在しますが、きわめて少数です)の、レジスタンスから建国された国でもありますから、そのパルチ
ザンの流れを汲む『イタリア共産党』が、市民の支持を集めるのは、当然といえば当然の流れです、、、

禁断の共生へ向けて

同盟国が一斉に敵と見なす『イタリア共産党』と、『キリスト教民主党』が手を握る決断をしたのは、「憲法
こそがすべての法律の上位に存在する」と考えていたモーロが、憲法に明記される『民主主義』における自由
と公正を、市民の意志にしたがって実現しようとしたからです、、、
そもそもソ連からはスターリニストと定義されていた、当時の『イタリア共産党』は、多くの同志や知識人か
ら激しい反発を受けながらも、ゆるやかに武装革命の旗を降ろし、やがてソ連とはさらっと距離をとり『民主
主義』における『選挙』での躍進を目指していました。これが、ソ連からは独立した『イタリア共産党』独自
のユーロコミュニズムという穏健路線です、、、
マーシャルプランの恩恵を受け、「奇跡」と呼ばれる復興が進んだ戦後のイタリアの政治を担った『キリスト
教民主党』は、確かに都市部を裕福にはしましたが、富が行き渡らなかったイタリア南部、都市部周辺の郊外
に、甚だしい貧困を生むことにもなり、社会には不満が渦巻いていたからです。
この時代、南イタリアから仕事を求めて都市部へと移民する人々は、ボルガータと呼ばれる郊外の新興地で不
法バラックに住まざるを得ず、非正規労働でようやく食いつなぐという状況でした、、、
なお、イタリアには基本、共産主義に負のイメージはなく(右派を支持する人々はともかく)、時代とともに
消滅した『イタリア共産党』に並々ならないノスタルジーを抱き、アントニオ・グラムシ、そしてエンリコ・
ベルリンゲルを英雄視する若者たちが、非常に多く存在することは注目すべきことです、、、
2021年現在、75年の『ピエールパオロ・パソリーニの殺害事件』、78年の『アルド・モーロの誘拐・殺害事件
』のいずれの悲劇も、証拠が多数残されているにも関わらず、検証が曖昧なまま犯人が断定された、『鉛の時
代』に画策された謀略の一環と見られています、、、
こうして、『鉛の時代』には、憲法、自由と公正、和解と共生という、民主主義においてはあたりまえの主張
をした重要な政治家、影響力があるオピニオンリーダーたちが、大量殺戮事件の被害者となった無辜の市民た
ちとともに、時代の不条理に飲まれ、次々と消えていくことになります。
アルド・モーロに関する、さまざまな情報を調べていくうちに、暗い時代の最も過激な革命家は、極左武装集
団ではなく、実はアルド・モーロだったのではないか、という思いが浮かび上がってきた次第です。


https://bit.ly/34zJzC5
『鉛の時代』: 「蛍が消えた」イタリアを駆け抜けた、アルド・モーロとは誰だったのか



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多くの無辜の市民の生命を奪い、若者たちの人生を狂わせた、陰謀と流血、虚栄と野望と絶望が渦巻くイタリ
アの『鉛の時代』。その物語を現在から俯瞰するうちに、先進国と言われる国々に住むわれわれが、かつて『
終戦』を迎えた、というのは、実は幻想なのではないのだろうか、という感覚に陥ります。第二次戦争大戦の
のちの冷戦下、朝鮮半島、ヴェトナムなどアジアの国々、南米各国、東欧、中東、そして『ベルリンの壁』崩
壊後は中東、アフリカへと戦火の矛先は集中していく。われわれの日常からは遠くとも、爆音と燃え盛る炎は
、この地球上から消えたことがありません。


https://bit.ly/2Tm9oDn
『鉛の時代』諸刃の剣 Gladio



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「貧しき者たちによる、貧しき者たちのための教会を」

消費主義=『廃棄文化』に誘発された環境破壊と気候変動が、
地域社会、ひいては世界の均衡を大きく崩している

現代への提言、回勅『ラウダート・シー』


フランシスコ教皇が現れて、ちょっと驚いたことは、『パルティート・ラディカーレ : 急進党』、イタリアの
人権の父とも言える、マルコ・パンネッラが教皇を賞賛したことでした。パンネッラは、信仰者には厳格な倫
理観を押し付けるにも関わらず、噴出する数々のスキャンダル、漏れ伝えられる高位聖職者の豪奢な生活を軽
蔑し、それまで強力なアンチヴァチカニストとして、厳しく教会を批判していました。
当時、難民の人々が大勢訪れたギリシャのレスボ島を訪れ、難民の人々を温かく抱擁するフランシスコ教皇に
、歴代の教皇に反発していたパンネッラは感銘を受け、「ありがとう。わたしはあなたのことが大好きだ」と
締めくくる手紙を送っています。
また教皇も、長年ヴァチカンを批判し続け、カトリックの教義を無視し続けたパンネッラが亡くなった2016年
、「寛大な政治家として、特に弱者と貧しい人々の権利に貢献する、大きな遺産とスピリテュアリティを遺し
た」と異例の表明を出しました。
ちなみに、カトリック教会の倫理観が一般市民の倫理観と重なっていた70年代のイタリアで、『離婚』と『中
絶』を議会で発議し、法律化することに成功した『ラディカーレ』は、現在ではLGBTの人々の家族の権利の保
護やマリワナの解禁、『安楽死』を強くプロモートしています。一方、ヴァチカンは『中絶』はもちろん、『
安楽死』、『LGBTのカップルによる家族』を認めてはいません。どれほどフランシスコ教皇がわれわれ庶民、
そして弱者に寄り添ってくださる教皇であっても、カトリック教会には違いありませんから、行きすぎた政治
的幻想を抱いてはいけません。
それでも教皇が、何度もハンストを繰り返し、マイノリティの権利を保護するために、生涯、峻厳な『ガンジ
ー主義』を貫いたパンネッラを称えたことは、両者に共感があったからに他ならないでしょう。ヴァチカンと
『ラディカーレ』が共通するのは、『死刑』『拷問』の廃止を世界に訴えていることでしょうか。


https://bit.ly/3vxJ1sh
貧しき者たちに寄り添い、『インテグラルなエコロジー』を世界に訴えるフランシスコ教皇



==



初めての教授選で見た「悪意」とそこにあった白い巨塔
教授選が本当に大変な2つの理由、この人は「敵か味方か」

オピニオン 2021年5月30日 (日) 大塚篤司(近畿大学医学部皮膚科主任教授)

 火のないところにも煙はしっかり立つ。

 苦しくも熱くもない悪意の煙が充満し、それがジワジワと酸素を奪っていく。

 「ああ、これが白い巨塔か」

 気がつけばぼくは燃えさかる炎の中に一人ポツンと取り残されていた。



 良いチーム(医局)を作るため教授になると決めたぼくは、医者1年目からがむしゃらに働いた。

 レジデント時代は臨床の腕を磨き、大学院生となってからは研究、大学スタッフに昇格した後は教育に力を
入れた。

 尊敬すべき指導者と出会い、良い仲間に恵まれ、後輩たちのサポートもあって、ぼくは順調に業績を積み上
げた。

 留学から帰ってしばらくすると

 「先生はどこの教授選に出るんですか?」

 と、医者仲間からダイレクトに聞かれることが多くなった。

 「まだ若いですから」

 聞かれたら穏やかに返す。40前の医者にとって教授選は明らかに早い。

 それでも

 と、ぼくは内心思っていた。

 このまま研究と臨床を頑張っていけば、近い将来に教授選の声がかかるかもしれない。



 医者であれば誰もが一度は耳にしたことがある教授選だが、実際にどのように行われるかを知っている者は
少ない。

 実は、教授選での選抜方法は大学によって微妙に異なる。

 ここでは最も一般的な教授選の流れについて説明しておく。

 教授のポストが空けば教授選が始まる。前任の教授が退任した後に教授選を行う大学もあれば、辞める前に
教授選を始める大学もある。前者の方法だと教室に教授不在の期間を長く作ることになり現場が混乱するリス
クをはらむが、後者の方法で行う教授選は退官する教授の意向を受けやすく「本当に良い人材」が選ばれない
可能性が残る。

 教授選となれば、まず、教授選考委員会が立ち上がる。

 審査や調査はこの委員会がメインで行う。

 選考委員会は、医学部の教授の中から選考委員長1人が選出され、同じく医学部の教授の中から数名の選考委
員が選ばれて結成される。

 次に行われるのは書類選考だ。

 自薦、他薦問わず、全国から教授候補となる医師の履歴書や業績一覧が選考委員のもとに集まる。

 提出する書類は履歴書や実績一覧に加え、代表的な論文数編のコピーや今後の抱負など多岐に渡り、合計で
数十枚にも上る。

 書類だけで審査をされるわけであるから、教授選に出る人間は、臨床、研究、教育の3本においてこれまで何
をしてきたか、そして、これから何をしていきたいのか、選考委員に向けて書類上で綿密にアピールしなくて
はいけない。

 書類選考だけで数カ月の時間を要する。そして、選考委員会は一般的に3人の最終候補者に絞る。

 最終選考に残るだけでもかなり大変なことだ。何しろ全国の猛者たちが「我こそは」と名乗りを上げるのが
教授選だからだ。

 こうして選ばれた3人は医学部教授会でプレゼンをすることとなる。

 誰が一番教授にふさわしいか決める最終決戦だ。

 医学部の教授たちは、最終候補者のプレゼンに加え、選考委員会からの意見を聞き、教授を決める投票へと
進む。

 臨床の教室に所属する教授と基礎の教室に所属する教授、それぞれが1票ずつ投票権を持つ。大学によって異
なるが総数はだいたい30票から50票くらい。過半数を取れば勝ちだ。

 こうして次期教授が決まる。

 「一番良い人材を教授として迎えたい」

 まっとうな大学の医学部ならそう思うはずだ。

 しかし実際はそう単純ではない。

 学閥、派閥、数合わせの論理が働き、次第にドロドロときな臭くなる。

 健全な大学ではもちろん、業績に従って次期教授が決まる。臨床力に優れ、研究業績が十分にあり、後進の
指導に長けた者が選ばれる。

 しかし、利害関係だけで教授を選ぼうと暗躍、跳梁跋扈する人間が力を持つ大学もある。自分の言うことを
聞きそうな候補者を選び、ありとあらゆる手段を使って教授にするのだ。

 現代社会においても、怪文書が飛び回る教授選は決して珍しくない。


 教授選は、大変だ。


 「大変だ、大変だ」と言っていると、「教授選のなにが大変なんですか?」と聞かれることがある。

 1次選考に出す書類の準備なのか?

 確かに提出する書類は膨大だ。しかし、出してしまえば後は数カ月の間、結果を待つだけだ。

 プレゼンの準備が大変なのか?

 これも確かにそうだが、何時間もプレゼンをするわけではない。20分から長くても1時間だ。準備に時間がか
かるとは言え、それまでの学会発表や講演での経験があるし、最終選考に残っていれば否応がなく気合が入る
。プレゼンの準備はむしろ楽しい。

 では、いったいなにがつらいか。

 ぼくが実際に経験した際に感じた要因は2つだ。

 1つ目は見通しのつかない将来。

 来年、自分はいったいどこで働いているのだろう?現在進めている研究を続けることはできるのか?新しい
ことを始めてみたいのだがいつまで待てば良いのか?

 そんなことを常に考えながら仕事を続けるのは苦しい。

 2つ目が外野から聞こえてくる噂話だ。

 「先生は有力候補らしいね」と声をかけられることがある。その噂はいったいどこが出どころだ?と思う。
目の前の相手が、敵か味方かが、だんだんと分からなくなってくる。

 「選考委員の先生から電話がありましたよ」と連絡をくれるものもいる。

 ぼく自身に問題がないか身辺調査に入っている証拠だ。

──教授選考委員会ではぼくのことをいったいどう言われているのだろう。

 親切な雑音が耳に入るたびに心臓は締め付けられ、確実に寿命が縮んでいるのが分かる。



 あれは初めての教授選だった。

 「大塚先生、変な噂が流れてますよ」

 書類選考が無事に通り、いよいよ翌週にプレゼンを控えた週末、ぼくのもとに連絡が入った。

 「変な噂ってなんでしょうか?」

 「大塚先生は性格が悪いと言いふらされているようです」

 「はい?」

 ぼくは思わず聞き返した。あまりにも突拍子もない噂話を理解するまでに少し時間がかかった。その後、怒
りよりもまずおかしさがこみあげてきた。そんな小学生の悪口のようなこと誰が信じるんだ。そもそも性格の
良し悪しは個人の主観によるものが大きい。相性だって大いに影響する。具体性のないふわふわした要因を教
授選に持ち出すのは、はなっからおかしい。

 「先生の性格は悪くないのに(笑)」

 笑いながら話す情報提供者は、ここで声のトーンをぐっと落とした。

 「大丈夫だと思いますが、あまりにも噂が先行している気がします。先生と少しでも話せば先生のお人柄は
ちゃんと伝わると思うんですが……」

 ふと気づけば、目の間には、フッと息を吐けば吹き飛んでしまいそうな、実体のない煙がじわじわと漂って
いた。苦しくもないし、熱くもない。大丈夫だと、言い聞かせるように首を振った。

 教授選の投票日、ぼくは鳴るか鳴らないか分からない携帯電話をずっと握りしめていた。

 結果の通知方法は聞いていない。しかし、ぼくが経験した上司の教授選と同じであれば、直接電話がかかっ
てくるはずだった。いや、待てよ。ぼくは自分の携帯の番号を履歴書に書いただろうか。いったいどうやって
電話がかかってくるだろう。不満で胸がいっぱいになる。

 結局その日、携帯電話が鳴ることはなかった。

 翌日、一枚の紙切れとともに、書類選考に出した論文のコピーや履歴書が返送されてきた。

 「この度はご意向に添えず────」

 ぼくの初めての教授選は、こうして幕を閉じた。

 しばらく経ったある日、ぼくは教授選の内情を知ることとなる。どこからともなく、情報提供者は目の前に
現れる。

 「残念でしたね。でも、先生の業績は候補者の中で一番だったようですし、プレゼンもとても良かったみた
いです」

 教授選に負けた今となってはなんの慰めにもならない。それでもぼくは思い切って聞いてみた。

 「じゃあ、なんでダメだったんでしょうか?」

 「あの噂話が投票に影響したみたいです」

 「……うわさ話って」

 「そうです。先生は性格が悪いというあれです」

 息を飲んだ。

 そして徐々に怒りが体の中にわき上がってきた。

 そんなことが本当にあるのか。そんな噂話で、教授が決まるのか。

──悪意だ。苦しくもなく熱くもない、息をかければ吹き飛ぶようなうっすらとした煙。いつの間にか充満し
、呼吸を奪う悪意の煙。

 目の前に白い巨塔が立ちはだかっているのを肌で感じた瞬間だった。

 どこか遠くで高笑いしている大人たちの声を、ぼくは確かに聞いた気がした。

 (続く)


https://bit.ly/3uANVDA
 
 
ーーーーー
 
色平
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