大坂なおみ選手が記者会見をボイコットした本当の理由

江口健2021年06月04日 12:40大坂なおみ選手が記者会見をボイコットした本当の理由

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今回の大坂選手の会見ボイコットについて、「わがまま」とか、「プロフェッショナルではない」というような意見もあるようだが、長年スポーツライターとして取材している視点からは、大坂選手は、誰よりもプロフェッショナルで、トップアスリートとしては、見てるこちらが心配になるくらい、自分よりも他人を思いやって行動してしまう選手に見えている。

2019年、15歳の新星ココ(コリ・ガウフ選手)が、初めて全米オープンに登場、大坂選手と戦った。結果は、飛ぶ鳥を落とす勢いだった若いチャレンジャーを、ディフェンディングチャンピオンの大坂なおみ選手が6-3、6-0と、完膚なきまでのスコアで退けた。
https://www.sankei.com/photo/story/news/190901/sty1909010004-n1.html

ココにとっては、初めての地元でのグランドスラム、10年以上あこがれ続けた舞台で、例え、相手が前年の優勝者とは言え、自分の100%を発揮することなく敗れてしまったことに対し、15歳のココは、試合後、感情を抑えきれず、泣き崩れてしまった。

恐らく、誰にも期待されず、のびのびとプレーできていたウィンブルドンとは違い、地元の大会で、家族や友達やお世話になった人達が客席で見守る中、また、貴重なワイルドカードをくれた全米大会主催者が期待する中、15歳の少女がどのような大きなプレッシャーと戦っていたか、想像を絶するものがあったことは容易に想像できた。

こんな惨めな姿をみんなに見せられない、インタビューには答えられない、と、顔を隠して泣きじゃくるココに対し、大坂選手は、優しくも厳しい言葉で話しかけた。

「ココ、私たちはプロフェッショナルなんだから、インタビューまで受けることが仕事なの。一人でシャワールームで泣くより、ここで話しちゃった方が、マシだよ。もし、一人でインタビュー受けるのがつらいなら、一緒にインタビューを受けよう」

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それが、上記のニュースにもなった、世にも珍しい、勝者と敗者が並んでインタビューを受けたという写真である。大坂選手は、当時、誰よりも模範的なプロフェッショナルであり、後輩にメディア対応の大切さを教えるメンターでもあった。

恐らく、大坂選手は、自分が負けた時にインタビューを受けることよりも、可愛い後輩が敗戦直後にインタビューを受けることは見ている方が辛い、と感じたのではなかろうか。

後々、このことを振り返って、「果たして、この時の自分がしたことは正しかったのであろうか? 泣きじゃくっている15歳の少女を無理やりメディアの前に立たせ、世界中に惨めな泣き顔をさらすことを良しとしていた自分は、間違っていたのではないか? このような非人間的なことを強要するルールが間違っているのではないか?」そう思ったとしても不思議では無い。

また、もう一つ、恐らく、大坂選手にとっては耐えられない出来事が2021年の全豪オープンで起きてしまう。大坂選手が子供のころから憧れ続け、対戦を夢にまで見た、偉大なチャンピオン、セリーナ・ウィリアムス選手とのグランド・スラムでの対決。

前回の全米オープンでの対戦がほろ苦いものになってしまったので、今回こそ楽しみたい、どっちが勝っても負けても、大坂選手にとっては、本当に天にも昇るような、楽しみで仕方がないものであった。結果は、大坂選手がストレートでセリーナを圧倒。両者がお互いを称え合う、素晴らしい試合だった。が、事件は、試合後のプレスカンファレンスで起きてしまった。

セリーナ・ウィリアムス選手の敗戦者インタビュー中、記者から「もう引退するつもりはあるのか?」「凡ミスが多かったのは何故か?」というような質問を重ねられ、途中で感情を抑えきれなくなったセリーナが、会見を打ち切り、泣きながら退席してしまうという事件が起きた。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2021/02/post-95664.php

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大坂選手からすると、自分のアイドルとの対戦であり、チャンピオン同士がぶつかり合う美しい試合を台無しにされた、と感じてしまったかもしれない。たかだか1試合負けただけで、メディアが、あのGOAT(Greatest Of All Time - 史上最強のチャンピオン)に引退を迫る(もちろん、記者は迫ったつもりは無いと思うが、結果、セリーナはそう受け取ってしまった)なんて、ひどい話である。

歴史的な名勝負のはずなのに、どうして、セリーナの引退を早めてしまうようなきっかけにすり替えられてしまうの? これから、何度も何度も、セリーナと対戦したい、と思っている大坂選手からしたら、このようなプレスカンファレンスは、本当に必要なのか? むしろ、テニス界にとって、害悪しか無いのではないか、と思ったとしても、記者としての立場を忘れて共感せざるを得ない。

さらには、今年5月12日のイタリア国際大会において、自身が1回戦負けしたことについて、今後の全仏に向けてネガティブな予想ばかり言うメディアに対し、どうしてニュートラルでいられないの? ネガティブなことばかりの雑音であれば、ペナルティがあっても、シャットアウトした方がまし、と考え、今回の騒動につながってしまった。

もしあの時、質問をした記者が、試合をちゃんと観ていて、「前半のスーパーアグレッシブなプレースタイルは、クレーコートでもかなり通用するという手ごたえを得たのではないですか?」というような、ポジティブな質問ができていれば、もしかしたら、このようなことは起きなかったかもしれない、と自戒の念を込めて反省してしまう。

あまり事情を良く知らない人達からすると、突然、全仏の会見拒否をする、というニュースだけを聞いて、「プロフェッショナルではない」「わがまま」という感想を持つかもしれないが、大坂なおみ選手が主張しているのは、

1.「ココのような若い選手のメンタルを痛めつけて、ヒンギスのように若くしてバーンナウトして引退してしまうリスクを減らしたい」
2.「セリーナのような偉大な選手のモチベーションを下げ、本来ならもっと長く現役でいられる選手を早期引退させてしまうリスクを減らしたい」
3.そのために、「敗者に30分以内会見を強制するルールを緩和して欲しい」

というものである。

これは、単なる一選手のわがままで片付けられる問題ではなく、大会主催者側も、メディアも、十分に検討すべき問題であると思う。

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他のスポーツも同じなんだから、我慢が足らない、という声も多いが、テニスの場合は、以下のような特殊要因もあることは忘れてはならない。

1. 個人対個人の対決であり、負けた時のメンタルの落ち込み方が激しい。比べるのであれば、ボクシングや格闘技でボコボコにされた選手の気持ちとかなり近いと思う。
2. 15歳という、かない若い頃からプロになり、精神的に未熟な段階でプレスと対決しなければいけないということ。
3. 前回のポストで書いたように、記者の時間の制約上、試合を全て見るのが難しいスポーツであり、的外れな質問が多くなって、会見のクオリティが、他のスポーツより低くなってしまうこと。

以上3点の特殊要因も忘れてはいけないと思う。今回の騒動が、大坂なおみ選手が悪い、とか、メディアが悪い、とか、単純な悪者探しで終わらず、構造的な問題を明確に浮かび上がらせ、問題解決に少しでも前進することを祈ってやまない。

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