新型コロナウイルスの影響で延期となった東京オリンピック。開催か中止か。その分岐点はどこにあったのか。大会関係者が明かした「本音」とともに、この1年余を振り返る。13回連載の8回目は「新型コロナ対策の行方」。<次回は6月30日掲載予定>
東京オリンピック・パラリンピックに向けた新型コロナウイルスの感染症対策調整会議が2020年9月4日、政府主導で始まった。議長を務める杉田和博官房副長官は「新型コロナをアンダーコントロールに置くのが目標。観客が安心・安全に楽しめるよう会議を新たに発足させる。ウィズコロナで立派な大会にできるよう努力したい」と述べた。しかし、具体的な中身は見えてこない。
官僚S「対策会議はトップばかりの場で、そこで何かが決まることはない。実務者の方で、内々に話が煮詰まっていっているわけでもない。課題を抽出していくだけで、方針はしばらく出てこない」
官僚E「国は主催者じゃないけれど、主催者のように考えなければいけなくなっている。(新型コロナ対策にかかる)お金の話は最後の方だ。そうしないと、お金が出せないからやりませんとなってしまう。まず最初にやるべきことを整理した方が生産的だ」
大会の準備状況を確認する国際オリンピック委員会(IOC)の調整委員会が9月24日、2日間の日程でオンラインで始まった。新型コロナ対策と大会の簡素化の両面から計画の練り直しを加速させる会合。IOCのトーマス・バッハ会長は冒頭のあいさつで「歴史的な大会になる。必ず成功させましょう」と団結を呼びかけた。バッハ会長はワクチンがない状況でもスポーツ大会が安全に開催されていることや、ワクチンや検査方法の開発が進んでいることへの明るい見通しを示し、「スポーツは着実に復活しつつある」と語った。
スポーツ業界通「国内世論が盛り上がってこない日本側に対して『はやく具体策を出せ』というメッセージだ。大会組織委員会の実行部隊では、入国後の選手の行動規制に加えて観客の人数制限についての想定も始まっている。既に『コロナに打ち勝った証し』ではなく、コロナとともにある五輪開催をいかに実現するかという方向性に変わっている」
組織委幹部D「組織委、東京都、国が一枚岩にならないと、IOCから大会を『やーめた』といつ言われてもおかしくない。それを防ぐためにも、こちらから自発的に対策を練らないといけないと考え、対策会議はできた。マラソンと競歩の会場が東京から札幌に移ったショックが大きかった。札幌移転の件で、IOCは自分たちの権限で何でも決められることをはっきりさせた。札幌の二の舞いにならないよう、(対策会議の設置で)大会開催に向けてコロナ対策をIOCにアピールする狙いがある」
11月には、東京都内で海外選手を迎えた体操の国際大会が開催され、入場制限緩和の試みとして横浜スタジアムで9割近い収容率でのプロ野球公式戦が行われた。対策会議は20年に6回開催されたが、観客の取り扱いは21年春までに決めるとした。当初は年内に大枠を示す方針だったが、今後の感染状況を踏まえるとして、観客数の上限設定や、海外からの観客の受け入れの可否の判断は、先送りせざるを得なくなった。国内で感染が再び広がりつつあり、欧州の感染状況の深刻化も誤算だった。
官僚M「(観客の判断先送りは)感染状況を考えたら、そうするしかない。海外に売ったチケットもどうなるかまだわからない。欧州や米国から観客は来ないだろう。もちろん、国内の観客だけならいける。海外からも隔離しないで入れることを検討すると言っているが、この感染状況ならあり得ない。もちろん、ワクチンにらみもあるかもしれないが」【東京五輪取材班】
=つづく(肩書は当時)