(社説)原発事故で国を免責 「想定外」に逃げ込む理不尽

(社説)原発事故で国を免責 「想定外」に逃げ込む理不尽

 
 
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原発避難者訴訟の判決に向けて、最高裁に入る原告団ら=2022年6月17日午後1時17分、東京都千代田区
 

 人の生命・身体はもちろん、環境にも取り返しのつかない危害を及ぼす原発災害を、万が一にも起こしてはならない――。

 その思いがあれば、このような結論にはならなかったのではないか。国民の視点に立って、行政のゆきすぎや怠慢を監視するという司法の役割に照らしても、大きな疑念を残す判決と言わざるを得ない。

 

 ■理は反対意見にあり

 東京電力福島第一原発事故の避難者が起こした集団訴訟で、最高裁はきのう、国の賠償責任を否定する判決を言い渡した。

 事故の9年前、国の機関である地震調査研究推進本部は、福島沖の日本海溝寄りで津波地震が起きる可能性を指摘した。だが実際に襲来した津波はそれを大きく上回るもので、国があらかじめ東電に対策を命じていたとしても事故は防げなかった。判決はそう結論づけた。

 本当にそうだろうか。

 防潮堤の建設とあわせ、タービン建屋などの重要施設の水密化措置をとるなどしていれば、事故原因となった全電源喪失の事態は防げた蓋然(がいぜん)性が高いと、複数の高裁は判断していた。

 最高裁は、防潮堤以外の対策について掘り下げた議論はされておらず実績もないと述べた。だが、国内外の施設で一定の水密化工事をしているところはあったし、議論がなかったとすればその当否を審査するのが裁判所の役目ではないか。

 最新の知見に基づき、あらゆる事態を想定して安全第一で防護措置をとるのが、原子力事業者や規制当局の責務のはずだ。今回の判決の理屈に従えば、関係者がそろって旧来の発想と対策に安住していれば、コストを抑えられるうえ法的責任も免れることができるという、倒錯した考えを招きかねない。

 これに対し検察官出身の三浦守裁判官は、水密化措置は十分可能だったと述べ、実効ある対策をとらない東電を容認した国の責任を厳しく指摘した。

 津波予測をもとに国と東電が法令に従って真摯(しんし)な検討を行っていれば、事故は回避できた可能性が高いとし、「想定外」という言葉で免責することは許されないとの立場をとった。この反対意見にこそ理はある。

 

 ■社会的責任なお重く

 法的責任はないとされたものの、事故がもたらした甚大な被害について、国は社会的責任まで免れるものではない。

 一連の裁判では、国の審査会が定めた指針を上回る賠償を東電に命じた判決が、すでに最高裁で確定している。実態を踏まえた指針の改定が急務だ。

 政府は事故後に、賠償の元手となる資金を立て替える形で東電に渡し、東電と他の電力各社から数十年かけて回収する仕組みを設けた。「原発事業者の相互扶助」という理屈だが、後付けで不合理との批判は根強い。

 きのうの判決で裁判長を務めた菅野博之裁判官は補足意見のなかで、原発が国策として推進されてきたことに触れ、「大規模災害が生じた場合、本来は国が過失の有無に関係なく、被害者の救済で最大の責任を担うべきだ」と述べた。

 原発の「国策民営」方式には、責任の所在のあいまいさがつきまとう。賠償負担を国と事業者でどう分かち合うか、改めて議論が必要ではないか。

 課題はそれだけではない。放射性物質除染、損壊した原発の廃炉、被災地の復興、被災者の生活再建など多岐にわたる。これらに取り組む責務を、政府は忘れてはならない。

 

 ■回帰は許されない

 裁判を通じて改めて見えたのは、大手電力会社と国のもたれ合いの構図だ。

 先の三浦裁判官は当時の原子力安全・保安院について、「主体的に最新の知見を把握し、責務を果たすという姿勢には程遠いものだった」「規制権限を行使する機関が事実上存在していなかったに等しい」と評した。

 事故を受けて独立性の高い原子力規制委員会が設けられ、運転期間を原則40年とするルールも定められた。審査の厳しさを批判する声もあるが、先祖返りするようなことは、当局、事業者とも許されるものではない。

 最近はウクライナ情勢を受けたエネルギーの安定供給や脱炭素対策として、原子力の積極活用を求める声が広がる。

 たしかに既存の原発の発電費用は比較的安い、温室効果ガスが出ないといった利点がある。

 だが、原発から出る「核のゴミ」の扱い、ひとたび事故が起きたときの被害など、根源的な難しさを抱える。再稼働をめぐっても、規制委と地元自治体任せにして政府は前面に立たないなど、本来の役割を回避する姿勢はいまも色濃く残る。

 こうした問題の解決策抜きに原発復権を唱えるのは、3・11以前の無責任体制への回帰に他ならない。

 11年前のあの日、日本、いや世界が震撼(しんかん)した。当時の誓いと被災者の苦難に思いを致し、原子力の位置づけやエネルギーの将来について、正面から議論を尽くさねばならない。

 

 
 

連載社説

「国の怠慢さ判断せず」 過失問う壁高く 原発避難者訴訟

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東京電力福島第1原発事故を巡る避難者訴訟4件の上告審判決が言い渡された最高裁第2小法廷=東京都千代田区で2022年6月17日午後2時28分(代表撮影)拡大
東京電力福島第1原発事故を巡る避難者訴訟4件の上告審判決が言い渡された最高裁第2小法廷=東京都千代田区で2022年6月17日午後2時28分(代表撮影)

 東京電力福島第1原発事故に対する国の賠償責任を否定した17日の最高裁判決は、1、2審とは異なる論理で結論を導き、国の過失を問うハードルの高さを改めて示した。未曽有の大津波による事故で国は原子力規制の在り方を見直したが、避難を続ける人たちへの賠償は十分と言えるのかという課題は残る。

「司法がこんなことでは」

 「国の怠慢さについて判断を示さずに終わりにした。司法がこんなことでは、また事故を起こす」。判決後に開いた記者会見で、避難者弁護団の南雲芳夫弁護士は怒りをにじませた。

原発事故避難者訴訟の争点と最高裁の判断拡大
原発事故避難者訴訟の争点と最高裁の判断

 17日の最高裁判決は、国の規制権限不行使の違法性について1、2審が「権限を行使しないことの合理性」の判断に重点を置いたのに対し、「権限不行使と事故発生との関係」に着目した。最高裁はこの関係性を最初に否定したことで、津波を予見できたか(予見可能性)には触れないまま、国の賠償責任を否定する結論を導いた。

 1、2審は、津波の予見可能性の判断を重視した。東電は2008年に最大の高さが15・7メートルの想定津波を試算したが、これは02年に政府の研究機関が公表した地震予測「長期評価」に基づいていた。マグニチュード(地震の規模、M)8クラスの津波地震が福島県沖を含む日本海溝沿いで30年以内に20%程度起きるという内容で、地震学者からは「領域設定に無理がある」との異論もあった。このため訴訟では、長期評価の信頼性を巡って避難者側と国側が激しく議論を戦わせた。

 今回判決が出された4件の訴訟のうち、福島、千葉、松山訴訟の2審判決はいずれも長期評価の信頼性を積極的に評価し、国は科学的知見を顧みずに東電を規制しなかったとして、その対応を「著しく不合理」と断じた。一方、最高裁は長期評価の信頼性については明確に判断を示さず、事故前に対策を講じていれば原発事故を回避できたか(結果回避可能性)を中心に検討した。

東京電力に対する国の規制と原発避難者訴訟の経過拡大
東京電力に対する国の規制と原発避難者訴訟の経過

 その上で、東電が事故前に想定した原発への津波による浸水の深さは最大約2・6メートルだったが、実際には5・5メートルに及んだと指摘。原発の南東側から来ると想定していた津波は実際は東側からも到来して大量の海水が原発敷地に入ったとし、事故を防ぐことがいかに難しかったかを強調した。

 今回の訴訟では、国策として原発を推進する国が東電に過剰に配慮する姿も明らかになった。原子力安全・保安院の担当者は、東電に長期評価に基づく対応を質問しつつ、長期評価に否定的な専門家の見解を伝えられると、さらなる調査を求めなかった。反対意見を述べた検察官出身の三浦守裁判官はこの対応について「主体的に最新の知見を把握し、できる限り速やかに技術基準に該当しているかを判断するという、国の責務を果たす姿勢にほど遠かった」と批判した。

 明治大の清水晶紀准教授(環境法)は判決が予見可能性を判断しなかった点について「裁判官で意見が割れたか、予見可能性があったと判断して今後の原子力規制のあり方に影響を与えることを避けた可能性がある」と分析。「原発事故を絶対に起こさないという観点から、より予防的な考えで水密化対策が可能だったとする判断もあっただろうが、当時の知見を厳格に検討したとみられる。国はこの判決にかかわらず、適切な原子力規制を進める責任がある」と話した。【遠山和宏】

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「規制、不断に見直す」規制委・更田氏

 

 福島第1原発事故を境に、日本の原発規制行政は大きく変わった。

 事故前に原発の規制を担っていた原子力安全・保安院は、推進する立場の資源エネルギー庁と同じ経済産業省の傘下にあった。両組織の間で人事異動があるなど、規制と推進の境界は曖昧だった。

 原子力規制委員会は事故への反省から2012年9月に発足。内閣府の原子力安全委員会や、文部科学省の関連部門も統合され、規制行政を一元的に担う組織となった。環境省の外局だが、独立性の高い「3条委員会」で人事権や予算権を持つ。規制委の事務局を担う「原子力規制庁」も組織の独立性を保つため、職員の出身省庁との人事異動が禁止された。

 制度面では、重大な過酷事故への対応などが厳格化された新規制基準の運用が13年7月に始まった。新知見によって基準が変更されれば、審査済みでも、最新基準への適合を義務づける「バックフィット制度」も導入された。旧保安院の元審議官、根井寿規(ひさのり)政策研究大学院大教授(原子力安全政策)は「自然災害対策も、地震に対して補完的な扱いだった津波や火山などの対策が強化された」と説明する。

 旧基準では津波は地震に伴う事象との位置づけで、「施設の安全機能が重大な影響を受けるおそれがないこと」を求めつつ、詳細な評価基準が示されていたわけではなかった。これに対し、新基準では、津波の発生原因としてさまざまな種類の地震に加え、火山、地滑りなども考慮し、最新の科学的知見に基づいて想定される最大規模の「基準津波」を工学的に算出し、必要な安全対策を施すよう義務づけた。また、防潮堤などの津波対策施設には、原子炉格納容器などと同じ最も厳しい耐震設計が求められるようになった。

 今回の最高裁の判断について、規制委の更田豊志(ふけたとよし)委員長は「規制権限不行使に関する違法性は認められなかったが、各種の事故調査報告書において、従前の規制に関し、自然の脅威に対する備えが不十分で、新たな科学的知見を規制に取り入れるバックフィット制度がないなど、種々の問題点が指摘されてきた。規制委は従前の規制に対する深い反省のもと、事故の教訓を規制に生かす取り組みを行ってきた。引き続き、自然の脅威に謙虚に向き合い、新たな知見の収集を怠らず、規制の不断の見直しに努める」との談話を発表した。【吉田卓矢、土谷純一】

最高裁判決は「免罪符」でない

 世界的にも史上最悪レベルとされる東京電力福島第1原発事故について、17日の最高裁判決は国の賠償責任を否定した。ただ、それは法的認定の限界を示したに過ぎず、国の規制の在り方に一切の問題がなかったとするものではない。国は判決を「免罪符」にしてはならない。

東京電力福島第1原発事故を巡る避難者訴訟4件の上告審判決が言い渡された最高裁第2小法廷=東京都千代田区で2022年6月17日午後2時27分(代表撮影)拡大
東京電力福島第1原発事故を巡る避難者訴訟4件の上告審判決が言い渡された最高裁第2小法廷=東京都千代田区で2022年6月17日午後2時27分(代表撮影)

 全国各地で起こされた避難者訴訟を通じて明らかになったのは、国と東電のいびつな関係だ。国は事故前から東電の津波対策に甘さがあると疑いながら、積極的な規制に及び腰だった。国会の事故調査委員会が2012年、両者の関係を「規制の虜(とりこ)」と表現したように、国策で原発を推進する立場にあった国が規制対象の東電に過剰な配慮をしていた状況が裁判の証拠からもうかがえた。

 訴訟を起こした避難者たちは法廷で、ふるさとを失った切実な思いを次々と訴えた。1、2審で国の賠償責任の有無について判断が大きく割れたのは、事故の被害の重大性と、法的責任を認めるハードルの高さとの間で、裁判官たちが揺れたことを示唆する。

 17日の最高裁判決は、司法全体が悩み抜いた末の結果だ。国は今回の結論だけでなく、これまでの裁判の過程を重く受け止めるべきだ。国は今もエネルギー基本計画で原発を「重要なベースロード(基幹)電源」と位置付け、事故後の新規制基準を満たして再稼働する原発も出ている。改めて今、福島と同じ悲劇を繰り返さないという誓いを肝に銘じてほしい。【遠山和宏】

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