防衛省が長距離巡航ミサイルの導入を決めた。来年度当初予算案に関連経費約22億円を追加要求する。

日本はこれまで専守防衛のもと、自衛隊のミサイルの長射程化を控えてきた。財政的な制約や、不毛な軍拡競争に陥る可能性への考慮もあった。

今回の判断について、防衛省はこう説明している。

北朝鮮ミサイル警戒にあたるイージス艦の防護や離島防衛のためであり、あくまで日本の防衛のためである――。

たしかに日本周辺の安全保障環境は厳しい。自衛隊の能力を不断に見直す必要はある。

だが今回、航空自衛隊の戦闘機に搭載する米国製ミサイルは射程900キロ。日本海から発射すれば北朝鮮全域に届く。

これほど長射程のミサイルイージス艦防護や離島防衛に不可欠とは言えない。長距離巡航ミサイルの導入は、専守防衛の枠を超えると言うほかない。

むしろその導入は、敵のミサイル基地をたたく敵基地攻撃能力の保有に向けた大きな一歩となりかねない。

政府は敵のミサイル基地への攻撃について、「他に手段がない」場合に限って、「法理論的には自衛の範囲」としてきた。一方で05年の防衛庁長官答弁は「敵基地攻撃を目的とした装備は考えていないし、それを目的とした長距離巡航ミサイルも考えていない」としている。

日本の安全保障は、米軍が攻撃を担う「矛」、自衛隊が守りに徹する「盾」の役割を担ってきた。この基本姿勢の変更と受け止められれば、周辺国の警戒を招き、かえって地域の安定を損ねる恐れもある。

厳しい財政事情のなかでも、安倍政権は5年連続で防衛費を増額してきた。米トランプ政権が同盟国への武器輸出に熱を入れるなか、日本がひとたび専守防衛の枠を踏み越えれば、さらに巨額の兵器購入を迫られることはないのか。

看過できないのは、専守防衛に関わる重大な政策転換が、国会や国民への説明もないまま唐突に打ち出されたことだ。

政府は今夏の概算要求には盛り込んでいなかったが、特別国会の閉幕間際になってから追加要求に踏み切った。

来年は防衛大綱の見直しや、次の中期防衛力整備計画の議論が本格化する。自民党内では防衛費の大幅増額や敵基地攻撃能力の保有を求める声が強い。

なし崩しに安全保障政策の転換をはかる安倍政権の姿勢は危うい。年明けの通常国会で徹底的な議論を求める。

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