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スペイン統一地方選の衝撃:欧州全体を揺るがす大変動の序曲か? by limitlesslife
June 6, 2015, 4:43 am
Filed under: スペイン:危機
みなさまへ   (BCCにて)松元

先月末にスペイン政界を激変させた統一地方選挙の結果とその影響について、バルセロナ在住の童子丸開さんが長文で報告していますので紹介させてい ただきます。(彼がこれまで追跡してきたスペイン関連記事や図表などもあって、彼のブログの方が読み易いかもしれません。)

* * * * *以下全文転載 * * * * * * * http://bcndoujimaru.web.fc2.com/spain-2/upheaval_in_Spain.html

スペイン統一地方選の衝撃:欧州全体を揺るがす大 変動の序曲か?

《激変:5月24日の統一地方選挙》

3月22日に前倒しで行われたアンダルシア州議会選挙に続き、この5月24 日に行われた統一地方選挙(カタルーニャ、バスク、ガリシ ア各州議会選挙を除く)では、国民党と社会労働党のスペイン2大政党がほとんどの主要自治体で単独過半数を取ることができ ず、全国で両方合わせて21%の票を失った。特に 2011年の総選挙で絶対多数を確保し国政と地方政治を思うがままに操ってきた国民党は、マドリッド市、バルセロナ市、バレ ンシア州と市、セビージャ市などの重要な自治体を含む500もの自治体で、一気に政権を失う派目に なった。

その一方で ポデモスシウタダノスという新興勢力が、わずかな準備 期間と実績の無さにもかかわらず、主要な地域で大きな支持を得た。特にマドリッドバルセロナ という2大都市では、それぞれの地域を牛耳ってきた保守政党の国民党とCiU(集中と統一)、およびそれらの対抗勢力として存在を保ってきた社会労働党 が、ポデモスを中心に組まれた会派によって大打撃を与えられた。この統一地方選挙で表面化した巨大な潮流は、欧州内にとどま らず世界的に見ても極めて特異 なものと言えるだろう。

私は、フランコ独裁終了以来続いてきた「民主主義」の崩壊、スペイン中に広がる社会的不公正とその暴露、カタルーニャとバ スクで高まる独立運動と国家分裂の危機、その中で生まれる新たな政治潮流などについて、当サイト「 幻想のパティオ」内に ある次のシリーズを通して日本語情報にしてきた。
スペイン:崩壊する主権国家』、 『シリーズ:『スペイン経済危機』の正体』、 『シリーズ:「中南米化」するスペインと欧州』、 『シリーズ:515スペイン大衆反乱 15M

これらの記事で私が記録し続けてきたスペイン現代史の一つの節目が、今年(2015年)3月に行われたアンダルシア州議会選 挙と5月の統一地方選挙であ る。そしてこの変動が、9月27日のカタルーニャ州議会選挙、および11月29日のスペイン総選挙へと続くことになる。前者 は国家分裂の起爆剤になる可能 性(参照:「『カタルーニャ独立』を追う 」)を秘め、後者はこの国の政治と社会の構造を激しく突き崩すものになるだろう。そしてそれらが、スペイン国内にとどまらずユーロ圏とEUの思いがけない 変容を導くものになるかもしれない。

なお、スペインの選挙は日本とは異なり、州知事や市長などを直接に選挙で決めるのではなく、議会選挙の比例代表名簿の筆頭が 「長」の候補である。したがっ て一つの自治体で、ある党が議員の過半数を確保すれば自動的にその党から「長」が選ばれることになる。しかし単独で過半数を 取れない場合には、他党派と政 策協定を結んで連立与党として過半数にするか、それができない場合には最大党派が少数与党として自治体の運営に当たることと なる。

《ポデモスとシウタダノス》

ポデモス(Podemos Wikipedia日本語版)については当サ イトの『ポ デモスの台頭と新たな政治潮流』 で触れた。一般的には「急進左翼改革派」と見なされるが、別に共産主義による革命を目指すものではなく、ベーシックインカム 制度の導入など再配分システム の改造による社会的不公平の是正、公的企業・資産の私有化防止など、あくまで行政と法制度の改革による変革を目指している。 しかしそれが伝統的な利権構造 つまり「78年体制」(参照:『終焉を迎えるか?「78年体制」』)への決別を意味するため、国民党と社会労働党という2大政党の激しい憎悪と攻撃の対象となっている。 しかし『あらわにされる「略奪の文化」』や『国の隅々にまで広がる腐敗構造』で書いたような既成政党の腐敗と公金略奪が明らかにされてきたため、ポデモスに対する攻撃は逆効果とな らざるを得ない。

もう一つのシウタダノス(Ciutadanos Wikipedia日本語版) について、ここで少し詳しく述べておきたい。元々がカタルーニャの少数派地方政党に過ぎなかったもので、カタルーニャ州議会 与党のCiUや野党の国民党と 同じく中道右派の政党である。カタルーニャ語でCiutadans(シウタダンス:C’s、「市民党」)だが、常に国民党と ともに「カタルーニャはスペイ ンの一部」という主張を掲げ、独立派に激しく反対してきた。したがってカタルーニャの中では「マドリッド追随主義者」「第二 国民党」と見なされ、さほどの 支持は受けなかった。2006年に最初の地方選挙を闘い、現在の党首は今年36歳になるアルベール・リベラ(Albert Rivera Díaz Wikipedia 日本語版)である。

ところが2015年1月以降この地方政党が急激に、だしぬけに、といってよいほどに「全国区」で勢力を伸ばしていったのだ。 全国放送の各民放TVの取り上 げ方が凄まじく、党首のリベラは、政治討論番組(スペインでは人気がある)はもちろんバラエティー番組にまでひっきりなしに 担ぎ出され、ニュース番組でも 日常的に取り上げられるようになった。イケメンでいかにも清潔そうな青年党首リベラが、スペイン全土でたちまちのうちに中流 市民のオバサンたちの心をつか んだことは言うまでもない。この「政治腐敗の一掃」を掲げる新参の保守政党がもてはやされ始めたのは、ちょうど国民党のはな はだしい腐敗と堕落ぶりが従来 の支持者をうんざりさせていた時期である。かつての社会労働党や統一左翼党の支持者がポデモスを支援するようになったのと同 じく、国民党支持者の相当な部 分が全国規模でシウタダノスに期待を寄せるようになった。

しかし、15M(キンセ・デ・エメ:参照:『515スペイン大衆反乱 15M』) の広場占拠運動をきっかけにして全国に根付いていった新しい政治に対する期待がポデモスを支えているのに比べて、このシウタ ダノスの華々しい「全国区登 場」には、どうにも不自然なものを感じざるをえない。カタルーニャ民族派に対する反感をバックに生まれた程度の一地方政党 が、従来の国民党の在り方に不満 を持つ全国の保守派の「受け皿」となるべく、この選挙の年のために、マスコミの力で意図的に全国規模で担ぎ出された感を受け る。スペインのマスメディアに 絶対的な影響力を持ち、常にスペイン政財界の奥の院に存在していたカタルーニャ人の大富豪、ホセ・マニュエル・ララ(参照: 『雲の上の「1%」』)は今年1月31日に死去したのだが、マスコミを動員したシウタダノスの唐突な勢力拡大の動きは、 ひょっとするとこのスペインの真の権力者が残した「置き土産」ではないかとすら疑いたくなる。

もちろん国民党は自分たちの票田を食い荒らすこの政党に対する警戒を強めるが、国民党員による政治腐敗がマスコミによって 次々と暴露されるたびに、国民党 からシウタダノスへという有権者の移動が起こっていった。同様のことは社会労働党によるポデモスへの攻撃にも言える。それら の動きがこの5月24日に目に 見える形を取って現われた。

《マドリッドとバルセロナを襲った大激震》

マドリッド市はフランコ時代が終了し78年憲法ができて以後、1979年から10年以上社会労働党が政権を握っていたが、 社会労働党が その無見識と無為無策ぶりによって見離された1991年以来今日まで、圧倒的な強さで国民党が支配し続けた。元々がフランコ 独裁政権下でその秩序と名誉を 享受してきた街であり、そのフランコ政権の「衣替え」をした姿が国民党であることは誰でも知っている。期待外れに終わった社 会民主主義がこの《先祖がえ り》した首都を治める柱には二度となりえまい。マドリッド州もまた同様に、社会労働党が1983年から95年まで政権を執っ た後は、国民党の牙城であり続 けている。そしてその時代にこのスペインの都で起こったことについては、『あらわにされる「略奪の文化」』および『「五輪誘致3連続 失敗」の悲喜劇』を参照してもらいたい。

今回のマドリッド市議選で、国民党は長年マドリッド州と市で絶対的権力を振りかざし続けたエスペランサ・アギレを筆頭候補と して立てた。しかしアギレ周辺 の実力者たちが汚職・政治腐敗によって次々と逮捕・起訴され、彼女は「裸の女王様」の状態に追い込まれていた(参照:『 引き続く「ギュル テル」の闇』、『腐りながら肥え 太ったバブル経済の正体』)。 またいつまでも女王気取りを振りかざしピントのはずれた人気取りしかできない彼女自身の愚かな言動が、笑い物にされるように TVで繰り返し報道され、元々 の支持者からも愛想を尽かされていた。社会労働党の方もまた、アンダルシアを中心にした公金横領事件や各地域での汚職(参 照:『アンダルシアに腐 れ散る社会主義者』)、バンキア銀行「不 透明カード」事件(参照:『倒産銀行にたかる病原体ども』)で、全国的に信用を失っている。旧スペイン共産党の流れをくむ統一左翼(IU)もポデモスに支持者を 大きく奪われ、中道右派政党UPyDはシウタダノスの台頭の前に完全に色あせてしまった。

選挙戦でポデモスは、15M運動を母胎にして活動を続ける複数の団体や個人と手を結んで「アオラ・マドリッド(今だ!マド リッド)」という新会派を結成し、元判事で弁護士、左翼の社会活動家として知られるマヌエラ・カルメナ(Wikipedia英語版)を市長候補として 立てた。またここでも着実に勢力を伸ばすシウタダノスが、国民党の票を奪うと同時にUPyDの支持者を吸収して、市政のキャ スティングボードを握るべく候補者名簿をそろえた。

ここでその結果をグラフ化してみよう。左が前回(2011年)、右が今回の結果である。
【グラフ:マドリッド市議会選挙結果:http://bcndoujimaru.web.fc2.com/spain-2/photo_Spain-2/eleccion-munincipal-madrid.jpg

前回(2011年)のマドリッド市議会選挙で は過半数を維持した国民党の王国は盤石だった。ところが今回(2015年)は国 民党と社会労働党が惨敗した一方で、ポデモス系のアオラ・マドリッドが一気に20議席、シウタダノスが7議席を獲得した。ま た「批判勢力」としての役目を 果たすことができなかったIU‐LV(左翼政党の連合)とUPyDは完全に姿を消してしまった。この結果、もしアオラ・マド リッドと社会労働党が政策協定 を結べばカルメナを首班として過半数を確保し、国民党が今まで好き放題に操ってきた市政が崩壊する。これは既成の利権構造に 寄りかかっていた勢力にとって 存亡の危機とも言える状態であろう。

この事態に慌てふためくアギレは、中道右派のシウタダノスだけではなく、長年の政敵であった社会労働党にまで「ポデモスの 過激派左翼運動を食い止めるために」政策協定を結ぼうと提案した。78年体制(参照:『終焉を迎えるか?「78年体制」』) によって確保されてきた政財界の利権構造を何としてでも守り抜こうということだ。彼女自身と実業家である夫、家族全員がその 構造の中で巨大な利益を得てき たのだ。6月初期の時点では社会労働党もシウタダノスもこの呼びかけにそっぽを向いているが、今後の展開は予断を許さない。

マドリッド 市よりももっとドラマティックな状況に陥ってしまったのがバルセロナ市だ。ここでは社会労働党の長期政権の後、2011年か らはシャビエル・トリアスが率 いるカタルーニャ民族主義右派政党CiU(集中と統一)が市政を担当してきた。しかし、CiUの政治家による汚職や公金略 奪、特に民族右派のシンボル的存 在であるジョルディ・プジョルとその家族による莫大な腐敗の構造(参照:『カタルーニャの殿 様:プジョル家の崩壊』)が明らかにさ れ、さらにカタルーニャ独立運動も中途半端で不明瞭なまま推移する中で、CiUに対する市民の信頼は、社会労働党や国民党と 同様に地に落ちていった。

そして今回の市議会選挙では、ポデモスを中心に15M運動から出発した複数の運動体と環境左翼政党が糾合して「バルセロ ナ・エン・コムー(Barcelona en Comú)」という新会派を形作った。「一致する(共闘する?)バルセロナ」とでも訳せばよいだろうか。その代表者を務めるアダ・コラウ(Wikipedia英語版)は住宅立退き強制 執行に反対するPAH(反強制執行委員会)(参照:『果てしなく続く住居追い出し:貧困ではない、不正 義だ!』)の創始者である。そこに、「カ タルーニャ地方区」から「全国区」に躍り出ようとするシウタダノスが参戦した。

選挙結果は下のグラフの通りである。2011年(左)以来のCiUの市制は2015年(右)でほぼ息の根を止められた。 第一党に躍り出たのはアダ・コラウ率いるバルセロナ・エン・コムーだったのである。社会労働党と国民党はほとんど存在感を 失った。
【グラフ:バルセロナ市議会選挙結果:http://bcndoujimaru.web.fc2.com/spain-2/photo_Spain-2/eleccion-munincipal-barcelona.jpg

  コラウはCiUと国民党を除くすべての党派との政策協定の可能性を探っている。しかし、左翼共和党とCUPは強硬なカタルー ニャ独立主義、第3党のシウタ ダノスは国民党と社会労働党は対立しながらも反独立派である。当のバルセロナ・エン・コムーの中には独立主義者も独立慎重 派、反独立派も混ざるという極め てややこしいありさまだ。まさに《あらゆるピースが噛み合うことのないジグソーパズル》の様相を示している。どこがどのよう な協定を結んで過半数を取るの だろうか?

バルセロナとカタルーニャの財界は、 コラウが市長になることを食い止めるために各政党に大きな圧力をかけ始めており、宿敵同士だったCiUと国民党、社会労働党 が手を結び、そこにシウタダノ スが加わって、トリアスが市制を続けることも考えられないことはない。しかしそうなれば、CiUは9月27日に予定される州 議会選挙で独立運動の主人公と しての立場を完全に失うことになるため、仮にそうしたくてもできないだろう。今後の推移は全く予想がつかない。

タラゴナジェイダジロナなどの主要地方都市も同様に各党派の混 戦状態だが、ポデモス系統の団体はカタルーニャの地方都市では勢力をほとんど伸ばすことができておらず、伝統的なCiUと社 会労働党がかなりの勢力を保っている。そして左翼共和党やCUPなどのカタルーニャ独立派の力も強い。

アオラ・マドリッドとバルセロナ・エン・コムーはともに、市政を握った際には、公営事業の私営化と銀行による住宅追い出しを阻止することを計画している。またどちらも市の中で失業率が高く貧困者の多い地域(参照:『ノンストップ:下層階級の生活崩壊』)で高い得票率を得ている。それらは、理想や理屈 ではなく、国民党と社会労働党という2大政党から見捨てられてきた人々の期待で支えられているのだ。

この、スペイン第1と第2の都市での結果は、今回の統一地方選挙全体を象徴する。単に国民党と社会労働党、CiUといった国 と地方の政権を握り続けてきた 政党が選挙民の支持を失ったというだけでは収まらない。これによってスペインの社会構造は根っこから揺すぶられ社会的な分裂 と不安定が産み出されていくだ ろう。ここでスペイン全国の様子を見ていくことにしたい。

《その他の主要地方自治体》

  ●マドリッド州と諸都市
マドリッド州議会選挙では下のグラフの通りで、国民党は第1党の座を守ったものの、ポデモスとシウタダノスの台頭によっ て、過半数を大きく割ってしまった。
【グラフ:マドリッド州議会選挙結果:http://bcndoujimaru.web.fc2.com/spain-2/photo_Spain-2/eleccion-autonomica-madrid.jpg

もし国民党が「右派のよしみ」でシウタダノスと手を結べばぎりぎりで過半数が取れる。しかしいまのところシウタダノスは政策 協定にそっぽを向いている。ま たここでは意外なことに社会労働党が1議席を増やした。選挙戦の直前になって、それまでの無能ぶりで散々の批判を浴びていた トマス・ゴメスが罷免され、閣 僚経験のあるアンヘル・ガビロンドを筆頭に立てたことが功を奏したのだろう。もしもこの社会労働党とポデモス、シウタダノス が「反国民党」で大同団結でき れば、国民党はついに蚊帳の外に追い出されることになる。

アルコルコンレガネスといったマドリッド州にある主要な地 方都市でもやはり、国民党と社会労働党など既成政党の大幅な退潮と、ポデモスやシウタダノスなどによる新たな潮流が明瞭に現 われている。

  ●バレンシア州と市
 バレンシアは、マドリッドと並んで長年、国民党とつながる財界や有象無象の「文化人」達による自由気ま まな略奪文化を育んできた場所である(参照:『
内堀に届くか:バ レンシアの亡者ども』、『1機の飛行機も飛んだことがないカステジョン飛行 場』)。 当然のように、この地域でも国民党と社会労働党が大敗を喫することとなった。そしてここでは、ポデモスやシウタダノスとは別 に、統一左翼や左翼的な民族派 と市民運動などが糾合したコンプロミス(Compromís)という会派が思わぬ大躍進を果たした。州議会と市議会の選挙結 果の見よう。

まずバレンシア州議会の 方だが、下のグラフ通りで、右派の国民党とシウタダノスが手を組んでもとうてい過半数には達せず、もし他の3党派が左派とい う「大義」のもとで政策協定を 結ぶならば、1996年のアスナール中央政権誕生以来、あくなき貪欲でこの美しい地中海沿岸地域を汚染し続けた国民党州政府 の歴史は終わりを告げることに なる。
【グラフ:バレンシア州議会選挙結果:http://bcndoujimaru.web.fc2.com/spain-2/photo_Spain-2/eleccion-autonomica-valencia.jpg

次にリタ・バルベラーがその強欲と剛腕で12年間君臨してきたバレンシア市だが、下のグラフの通りである。 コンプロミスは先ほど述べたように統一左翼を中心に左翼系の団体や諸派を糾合した会派だが、もう一つのVALCはポデモスを 中心とするバレンシア・エン・コムーである。
【グラフ:バレンシア市議会選挙結果:http://bcndoujimaru.web.fc2.com/spain-2/photo_Spain-2/eleccion-munincipal-valencia.jpg

州政府と同様に、汚職と公金略奪にまみれてきたバルベラーの国民党が市政を失う可能性が高い。何よりも市民の4分の3から 「ノー」を突き付けられ議員数を 半分に減らしたこの「女帝」のショックは大きいだろう。しかしそのためには州議会と同様に、コンプロミスと社会労働党、 VALCの大同団結が必要だが、6 月初めの段階では州でも市でも、どうやらコンプロミスが中心になってこの3会派による連合が成功しそうな状況 だ。他の、アリカンテカステジョンなどの主要都市でもほぼ同様なこ とが言える。

  ●アンダルシア州とセビージャなど
アンダルシア州の議会選挙は 今回の統一地方選挙より2カ月早い3月22日に実施されたのだが、ある意味で5月24日の選挙を先取りしたものといえる。結 果は次の通り。( )の中は前 回の選挙(2012年)。議員総数が109、過半数は55。社会労働党47議席(47)、国民党33議席(47)、ポデモス 15議席(0)、シウタダノス 9議席(0)、左翼連合5議席(12)。

ここで政治腐敗の疑惑に包まれた社会労働党(参照:『アンダルシアに腐 れ散る社会主義者』) が前回の議席数を守ったのは奇跡的だったと言える。ポデモスとシウタダノスの急伸張を考えるなら、アンダルシアの州知事で同 州の社会労働党指導者スサナ・ ディアスが強硬に選挙時期を早めたのは良い判断だったのだろう。そしてここでも、ポデモスとシウタダノスが華々しく登場した 一方で、国民党は惨敗し、統一 左翼党を中心にした左翼連合は大幅に後退した。

しかし、州政府を形作るために他党との政策協定を結ぶ必要のある社会労働党だが、知事候 補ディアスの強権的なやり方が他の党派の反感を買い、いまだに事実上の政治の空白状態が続いている。今後の状況いかんでは、 ポデモスを忌み嫌うディアス は、右派のシウタダノスや国民党とすら手を組むかもしれない。

一方でアンダルシアの州都セビージャで は、4年前の選挙で20議席と悠々と単独過半数(16)を確保した国民党が12議席に大幅後退、社会労働党は州議会と同様に 11議席を守った。そしてシウ タダノスが3議席、ポデモスを中心に作られた新会派も3議席、左翼連合が2議席となっている。先ほどのバルセロナと同様に、 複数党の政策協定によって市制 を握ることは、どの党派にとっても極めて面倒な作業になるだろう。そしてこれとほぼ同様の事態がグラナダコルドバなどの主要都市でも起こっている。し かしいずれにせよ、いままで心おきなく市を牛耳り地元財界と癒着してきた国民党にとって、もはやその栄華は遠い夢になってし まったようである。

  ●他の主要自治体
トレドやセゴビアなどの都市があるカスティージャ・ラ・マンチャ州は、 国民党副党首であるマリア・ドローレス・コスペダルが知事を務めてきたのだが、国民党は第1党の座を守ったものの単独過半数 を失った。原因はやはりポデモ スの台頭である。前回(20011年)の選挙では定数が49議席で、国民党25議席、社会労働党24議席と、国民党がぎりぎ りで過半数を取って州政を握っ た。しかしコスペダルはこの選挙前に「州の財政赤字を減らすため」と称して、議員総数を33議席(過半数17)に削減した。 もちろん実際には国民党の多数 を守るための苦肉の策だったが、それは功を奏すことはなかった。結果は国民党16議席、社会労働党14議席、そしてポデモス の初の3議席。もし社会労働党 とポデモスが手を握ると国民党は副党首が知事を務める州で政権を失うことになる。州都のトレドも全く同様の状態だ。

独裁者フランシスコ・フランコ、そして現首相マリアノ・ラホイの出身地であるガリシア州では、今年は州議会選挙は行われな いが、市町村単位の自治体で選挙が行われた。そして大西洋岸の同州主要都市であるア・コルーニャでは、ポデモスを中心に組織さ れた会派マレアがいきなり第1党に躍り出たのである。ここでもこのマレアが社会労働党と政策協定を結べば、今まで圧倒的な強 さで市制を握ってきた国民党が野党に追い払われることになる。巡礼地で有名なサンチアゴ・デ・コンポステーラでも同様にポ デモス系統の組織が第1党の座を奪った。もう一つの主要都市ビゴでは社会労働党が単独過半数を取り、国民 党の下野が決定した。

カスティージャ・イ・レオン州ムルシア州では国民党が大きく数を減らした が、マドリッドと同様にシウタダノスなどの右派政党と手を結べば何とか過半数を得るだろう。しかし、エクストレマドゥーラ州アストゥリアス州では社会労働党が第1党にな りポデモスと手を結ぶと国民党の政権を終わらせることになる。アラゴン州バレアレス州でも同様である。アラゴン州都のサラゴサではポデモス系の党派とシウタダノス の登場で国民党市政は大きく変化しそうである。

いままで見てきた傾向は全国的に幅広く見られるものであり、左派と右派の新勢力によって、国民党vs社会労働党という、 1978年以来続いてきたスペイン の政治の在り方が大きく変化してきたことが明らかに見て取れる。ポデモスとその系統の会派はバルセロナやア・コルーニャ以外 でも、アンダルシア州のカディ スやガリシア州のフェロール、サンチアゴ・デ・コンポステーラなどの中堅都市で市政の中心を握る可能性がある。ま たシウタダノスは、州と市町村の全てを合わせると、全国で1500人以上の議員を抱えることとなった。 昨年までカタルーニャの都市部で議会の片隅にいた程度の政党が、わずか5カ月足らずでここまでの急成長を果たし、国民党に不 満を持つ保守系の投票者をきっちりと吸収しているのだから、驚き以外の何ものでもない。

《2大政党内に広がる亀裂と反目》

当然ながら、政府与党国民党内部では大きな動揺が起こっている。党首ラホイ、副党首コスペダルとその執行部への不満と不信が 一気に噴き出してきた。党中央が、次々と暴露される政治腐敗の責任を明らかにせず合理化とすり替えに終始し、有権者離れに対 して何一つ有効な手立てを打と うとしなかったからである。さらに、打ち続く不況と国民生活の荒廃という現実を見ようとせずに、僅かな失業率の減少を「国民 党政府の経済政策の大勝利」と して掲げ「経済危機は歴史のかなたに去った」などという、国民の誰が聞いても即座にばれる大嘘ばかりを繰り返してきたのだ。 かつてのアスナール政権 (1996~2004)の閣僚の大部分が逮捕・告訴されるという腐り果てた姿を曝すうえに、奢り、無知、無為無策が誰の目に も明らかであり、国民党はもは や自壊しつつある(参照:『国 民党は崩壊に向かう?』)と言えるだろう。

執行部に対する「反乱」を起こした人物には、大敗に打ちのめ された多くの州政府知事クラスの幹部だけではなく、現産業大臣のホセ・マニュエル・ソリアのような者すらいる。その中で、州 議会の過半数を失い権力の座を奪われる可能性の高いバレンシア、アラゴン、バレアレスの各州の州知事が、それぞれの州での党指導者を辞任する意向を表 明した。またカスティージャ・イ・レオン州の党幹部フアン・ビセンテ・エレラは出演したラジオ番組で「私はラホイに対して、自分の姿を鏡で見て自分自身に返答しろと言いたい」と、不信と怒りをぶちまけた。こういった党内から起こる幹部批判に対してラホイは、党内対策には柔軟な姿 勢をほのめかしながらも、党の政治・経済政策は死守する構えを見せてい る。

その一方で、先ほども述べたように、各地方自治体での利権にしがみつきたい党の大物たちは、「ポデモス封じ」を名目に、さん ざん警戒してきたシウタダノス はもとより、長年の宿敵である社会労働党とすら手を結ぼうとしている。マドリッド市長候補のエスペランサ・アギレが苦し紛れ に打ち出した方向だが、それが 同じような混沌の状態にある全国の自治体に広がろうとしている

ポデモスを出汁に使ってはいるが、そのハラは見え見えであり、このような態度がますます国民党に対する不信と軽視を広げてい くことに、彼らは全く気付かな いのだ。彼らが言うところの「民主主義」を守るために社会労働党との連合政府を作る動きは、昨年末以来ラホイ政権の中で現わ れていた。しかしそれが現実の 問題となったときに、国民党内部で取り返しのつかない分裂と反目を引き起こしていくことだろう。こうしてこの国の腐り果てた 政治体制が最終的に崩壊してい くのかもしれない。

一方の社会労働党にしても、今のところは国民党の申し出をはねつけているのだが、こちらも、国民からますます見離さ れていく自分たちの現実の姿に直面するときに、喪失の恐怖に駆られてその手を握りかねない。それを見透かすように、ポデモス の党首パブロ・イグレシアス は、社会労働党党首ペドロ・サンチェスに対して、「もっと謙虚になれよ、ペドロ。君たちは1979年以来で最悪の選挙結果を手にしているのだぜ」と語りかけ、社会労働党がその方向を変えない限り政策協定はあり得ないと言った。そのうえでイグレシア スは、この11月29日に予定される総選挙に勝つための「左翼戦線」創設の道を探 ることを表明している。

おそらく社会労働党の中にも、ポデモスに近づくか国民党と手を結ぶのかで、様々な反目と大きな議論が巻き起こることだろう。 実際に、アンダルシア州の党指 導者スサナ・ディアスや「長老」のフェリペ・ゴンサレスが繰り返しポデモスに対する嫌悪と拒絶を表明している(参照:『ポ デモスの台頭と新たな政治潮流』)。しかしその一 方で、元首相のホセ・ルイス・ロドリゲス・サパテロと元外相のホセ・ボノは、 昨年の12月にパブロ・イグレシアスおよびポデモスNo.2のイニゴ・エレホンと接触し「個人的に」対話したことを認めてい る。その話の内容までは公表さ れていないが、少なくとも「話しのできない相手」とは見なしていない。しかしいずれにせよ、この件に関して党員を「一枚板」 で動かすことは不可能である。

バレンシア州と市でコンプロミスが中心となってポデモスと社会労働党との連合が実現しそうな気配だが、それが一つの触媒に なるのかもしれない。しかしアンダルシア州のディアスは、党本部がポデモスとの交渉を開始しているにもかかわらず、対話すらかたくなに拒否し続けている。分裂は この党にとって避けることのできない未来だろう。ポデモスの登場は、国民党と社会労働党という1978年の新憲法下で生まれ た政治体制への「刺客」となったのである。

一方でシウタダノスは、今の時点で早急に国民党と政策面で手を携えることはしないだろう。秋の総選挙を考えれば「結局は国民 党の補完物に過ぎない」という イメージを作ることは命取りになりかねまい。マドリッド州などいくつかの自治体で「政治空白を防ぐため」という名目で首班指 名の際に協力することはあって も、保守的な国民の中で着実に支持を広げながら、国民党が頭を下げて提携を申し出るまでじっくりと待つと思われる。これもま た国民党支配を崩壊に追いやっ ていく現実的な力として働くだろう。


《意図的な演出があるのか?》

いくつか腑に落ちない点がある。シウタダノスの唐突な登場のし方は、最初に述べた通り、マスコミを動員した意図的な演出が 十分に考えら れる。それに加えて、政治日程を見据えるように効果的に登場する政治腐敗への暴露と告発、さらに、取りつかれたように猪突猛 進するカタルーニャの独立運動 がある。いずれも極めて不自然な動きに思える。

  ●カタルーニャ独立運動の奇妙さ

カタルーニャに関しては『
「独立カタルーニャ」はEU政治統合の“捨て石” か?』 でも触れておいたのだが、その独立運動は、まともな筋道を立てての行動とは考え難い。昨年(2014年)10月に住民投票が スペインの憲法裁判所から違憲 判決を受けて以後の独立派の混乱と迷走ぶりを見せつけられた州民は、中途半端に終わった代替「住民投票」を経て、徐々に独立 賛成の姿勢を弱めていった。そ して2015年の4月後半の世論調査では、賛成43.7%に対して反対47.9%と、ついに賛否が逆転した。

「スペイン人は走り終わっ てから考える」と言われるが、その意味では、カタルーニャ人もまた紛れもないスペイン人である。CiUと左翼共和党、アナー キスト系CUP、そして ANC(カタルーニャ民族会議)やオムニウム・クルトゥラルなどの集団で構成される独立派勢力は、「独立!」「独立!」を大 声で叫びながら走りたいだけ 突っ走り、まともな理性と観察さえあれば100%予想できた憲法違反判決を前にして脚が止まり、とたんに方向性を失ってバラ バラにその場しのぎの言動を繰 り返した。まことにスペイン的な話なのだが、しかし自分やその家族の生活と未来を具体的に考える州民にとってみれば不安で しょうがないだろう。

それにしてもこの唐突で支離滅裂な独立熱の盛り上がりにはどうにも不自然さを感じざるを得ない。まるで誰かに鼻面を取られ引 きずりまわされているかのよう な迷走ぶりだ。この独立運動の裏側に欧州各国の国家機構を解体し連邦化を進めようとする勢力がいるのではないかと疑いたくも なってくる。私は、スペインの 経済崩壊が激しく進行する2011年以降にいきなり激化した、この夢の中で暴走するかのような独立運動の経過を、『特集:『カタルーニャ独立』を追う』で書きとめておいた。それは国家分裂の可能性を感じさせるばかりではなく、スペイン国内の混乱と各地 域・勢力間の相互不信を掻き立てる重要な要因にもなっている。

現州政府与党のCiUや左翼共和党などの独立派は、9月11日の「カタルーニャの日」で再度巨大な「独立イベント」を企画し ており、その後の9月27日に 行われる州議会選挙を「実質的な独立住民投票」と位置付けている。つまり、独立を支持する政党の得票率あるいは獲得議員数を もって「独立への賛成票」と見 なすわけだ。この目論見が彼らにとって吉と出るか凶と出るかは予断を許さないが、少なくとも今回の地方選挙での獲得議員数を みれば「独立派の圧勝」となる だろう。国民党とマドリッド中央政府は盛んにこの日取りで決定された州選挙に対する非難を繰り返している。しかし昨年の住民 投票とは異なり、憲法を盾に とってそれを阻止することは不可能だ。

カタルーニャで高まってきた独立熱に合わせるかのように、バスク州やバスク人居住区域であるナバ ラ州では、近年は独立主義民族派の台頭が目覚ましい。統一地方選の1週間後、5月30日にバルセロナのカムノウ球技場でサッ カー国王杯決勝が行われたが、 対戦したのはカタルーニャのFCバルセロナとバスクのアスレチック・ビルバオだった。この際、スペイン国歌に対して双方のファンから猛烈なブーイングが沸き起こったことがいまスペインで大問題となっている 。たまたま偶然とはいえ、この時期にこの両チームが顔を合わせたことは、いまのスペインの状態を象徴しているだろう。両チームに対する罰則と制裁、「シン ボル」に対する不敬罪を検討するマドリッド中央政府と検察庁などが対応を誤れば、下火になりかけた独立の炎にまたしても油を 注ぎかねない状況だ。

  ●選挙を決定的に方向づけた「腐敗追及」

既成政党の大がかりな政治腐敗に対する追及は、2009年に当時の全国管区裁判所判事バルタサル・ガルソンによる捜査が始 まった「ギュルテル事件」(参照:『バブルに群がったバレンシアと国民党の悪党ども』、『引き続く「ギュル テル」の闇』)が皮切りである。それから 「芋づる式」にバレアレス州の「パルマ・アレナ事件」が取りざたされ、そしてバレンシアとバレアレスの国民党に利用された王 家の一員による「ノース事件」(参照:『スペイン上流社会の腐敗の象徴:ノース事件』)が明るみに出されたのが2010年。さらに2011年には別口で、アンダルシアの社会労働党による 「ERE事件」(参照:『アンダルシアに腐 れ散る社会主義者』)の追究が開始され た。しかしここまではまだ「一部の悪党どもによるスキャンダル」でしかなかった。

それが一気に「国民的課題」となったのは、これもギュルテル事件の延長だが、2013年1月に元国民党会計係のルイス・バ ルセナスが丹念に記録していた国民党の裏帳簿(帳簿B)の存在(参照:『国 民党は崩壊に向かう?』)が暴露されたときだろ う。それは、それまでに発覚していた一部の地方ボスの腐敗とは異なり、国民党の中枢部を直接に揺るがす大事件だった。

2014年に、まるで国民党を内側から爆破解体するように、不祥事の暴露と裁判所判事による逮捕命令、検察庁による起訴が 延々と続いた。それらは私がシリーズ『スペイン:崩壊する主権国家』の中に記録したとおりだが、特に10月と11月に『倒産銀行にたかる病原体ども』や『次第に明らかになる「バンキア破産」劇の内幕』、『引き続く「ギュル テル」の闇』、『腐りながら肥え 太ったバブル経済の正体』に記録される国 民党中央の目も当てられないほどに腐り果てた姿が明らかになった。そしてこの間に、各種世論調査は国民党への支持と信頼が手 のほどこしようもなく打ち崩されていく様子を浮かび上がらせた。

そして選挙の年2015年に入ると、国外逃亡を防ぐために刑務所に収監されていたルイス・バルセナスが1月に釈放された。 さっそく首相のマリアノ・ラホイは「バルセナスはもう国民党の者ではない」と語り、 除名したから国民党はその帳簿Bに関する告発内容と無関係であるかのような逃げを打った。さらに国民党は「バルセナスは党を 騙した」と非難した。しかしそ のようなうわべの取りつくろいを信用する国民はほとんどおるまい。1月から2月にかけては、バルセナスの帳簿Bとバンキアの 不透明カードについての様々な 新しい暴露が小出しに続いた。

3月には、以前から汚職と詐欺の疑惑に曝されていたマドリッド州知事イグナシオ・ゴンサレス、そして彼を擁護するマドリッド国民党委員長エスペランサ・アギレへ の、主要マスコミによる激しい攻撃が続いた。さらに全国管区裁判所のルス判事によって捜査されていたギュルテル事件が正式に立件されることとなっ た。一方でアギレにとって側近で最大の実力者だったフランシスコ・グラナドス(逮捕済み)の収賄 と資金洗浄、脱税の詳細がマスコミをにぎわした。こうして、統一地方選の2カ月前には「犯罪集団」としての国民党のイメージが定着 していった。

またイグナシオ・ゴンサレスは、これ以上のイメージ悪化を恐れるラホイに見放されたた めに、マドリッド州知事候補を断念せざるを得なくなった。マドリッド市長選でも、機を見るに敏な現市長アナ・ボテジャ(アス ナール元首相夫人)が昨年の段 階で任期終了後に政界から退くことを明らかにしていた。もはやふさわしい人材を見出すことのできない国民党は、散々にもめた 挙句に、州知事候補としてマドリッド政府支部責任者のクリスチーナ・シフエンテスを選び、市長候補はアギレが 自ら引き受けることとなった。

一方で、騙し打ちのように縁を切られ党の犯罪を一手に引き受けさせられたルイス・バルセナスは、「報復措置」とばかりに、国民党の裏帳簿と黒い資金の内幕を裁判所とマ スコミに披露し始め国民党幹部の悪行と卑劣さを攻撃した。また検 察庁の反汚職委員会は現財務大臣クリストバル・モントロが持つ事務所を 違法な寄付(政治献金)を受けた容疑で捜索した。その際にモントロは愚かにも国民党への寄付を慈善団体カリタスへの寄付と同一視する発言をし、当のカリタス(参照:『飢餓に直面する子供たち、切り捨てられる弱者』)はもちろん、各種マスコミが一斉に激しい非難をモントロと国民党に浴びせた。

4月に入ると、元財務大臣・IMF専務理事・バンキア銀行総裁のロドリゴ・ラトが巨額の資金洗浄と脱税の容疑でついに逮捕され、新聞の第1面とTVのトップニュースは数日間ラトの悪業で埋め尽くされた。また現財務大臣モントロへの非難が打ち続く一方 で、国民党の腐敗の暴露と非難は再び地方へと広がり始めた。カタルーニャ国民党委員長のアリシア・サンチェス・カマチョは、プジョル脱税事件の調査中に起きた盗聴事件で嘘をついて他党を貶めようとしたことが探偵社の告発で暴 露され、ただでさえ消えかかる評判を致命的に失うこととなった。またバレンシアの「女帝」リタ・バルベラーが、不況にあえぐ 市民をよそに公務と称してあまりにも贅沢な贈り物や旅行や飲食などに公金を使っていたことを暴露された。その金額こそ278000ユーロ(約3750万円)と他の公金横領事件に比べると少額だが、選挙日程を見据えるとその影響の大きさは計り知れない。さらにアス ナール政権時代の国防大臣ロドリゴ・トリージョが、カスティージャ・イ・ラ・マンチャなどで風力発電の設置で便宜を図り多額のわいろを受け取っていたことも明らかにされた。

こんな中で、国民党副党首でカスティージャ・イ・ラ・マンチャ州知事であるマリア・ドローレス・デ・コスペダルは、グア ダラハラ市で行われた演説会でついうっかり “Hemos trabajado mucho para SAQUEAR a nuestro país”「私達は我が国を《略奪 する》ために懸命の仕事をしてきた」と口を滑らしてしまった。この”saquear“は「略奪する」という意味の動詞である。彼女が何 を言いたかったのかは分からない(何の弁明も無い)が、この発言がマスコミで大きく取り上げられて、散々の笑い物にされ たことは言うまでもない。そして4月後半のマドリッドでの世論調査で、国 民党が全国的にその支持の3分の1を失ったことが明らかになった。

選挙の月である5月に入ってすぐに、国民党はバレンシア市議会議長のアルフォンソ・ルスを除名す ると発表した。ルスは長年バレンシアの公共事業の入札で業者と結託していた嫌疑をかけられたのだが、この措置は、バレンシア を失う危機を感じた州知事のア ルベルト・ファブラの強い決意に党中央が押されたものである。国民党はいままで政治腐敗の容疑者にこれほどの即座の強い対応 をしたことがなかったのだが、 どこまでもノーテンキな党中央に比べて、地方の党支部がどれほどの危機感を覚えていたのかよく分かる。しかし時すでに遅し。 ルスが業者とカネの受け渡しに ついて話しカネを数えている電話の音声が全国のTVとラジオで流されたのである。バレンシアの州と各都市での国民党の敗北に とって、これは「駄目押し」と なっただろう。

このアルフォンソ・ルスの電話音声については、選挙後になって、長年バレンシアでルスと組んで悪事を働いてきたイメルサ・マルコス・ベナベンという元バレンシア公営 企業役員が、裁判所判事の審問を受けた後に報道関係者の前で録音したのは自分だと名乗り出て話 題になった。白髪の長い髪と髭の姿でTVカメラの前に出たベナベンは、おそらく自己保身のためだろうが、自分が間違ってい た、カネの亡者になっていたの だ、不正に得たカネは全て返すと、芝居がかった身振り手振りで謝罪した。それにしても選挙の直前に「…、9千、1万、1万1 千、1万2千」とカネを数える ルスの声を公開したのはバレンシア地裁判事局だけの判断なのだろうか。

  ●意図的・計画的な国家解体のプロセスなのか?

以上に見たような政治経済の腐敗の暴露や告発は、国民党だけではなく社会労働党とカタルーニャCiUといった、フラ ンコ独裁以後のスペインを支えてきた政党にとって、致命傷とも言える打撃だった。もちろんそれ自体はこれらの集団の自業自得 である。しかし、その暴露と告 発、逮捕と起訴のされ方には、何か非常に作為的なものを感じる。2年くらい前から、本来ならば警察や裁判所判事局の捜査資料 であり機密扱いにされるはずの 重要資料が、いきなり、入手元を明らかにされないままエル・ムンドやエル・パイスなどの全国紙の1面を飾り、また、重要事件 に関連して明らかに盗聴された と思われる電話の会話の声が、突然TVやラジオで流されたことも多くあった。

さらにはこの選挙の直前になって、エスペランサ・アギレが 確定申告で税務署に提出した書類や、リタ・バルベラーが市役所の監査のために提出した領収書類までが新聞とTVで公開され た。先ほどのアルフォンソ・ルス の声もそうである。判事局や検察庁、国税庁などの内部にいる誰かが、時期を見計らって意図的にマスコミにリークしたとしか思 えない。

そ れらの実にスキャンダラスなリークが選挙準備と選挙戦の進行するプロセスに見事に一致していることには驚かざるを得ない。昨 年10月から11月までの間、 膨大な数の逮捕と告訴が打ち続く中で、ポデモスはほとんど国民党や社会労働党に迫る、一部の調査では「第1党」となるほど に、支持を広げていった。また今 年に入って新たな暴露によって次々と国民党の屋台骨が揺さぶられていくにつれて、「全国区」に名乗り出たシウタダノスが、国 民党から支持者を奪い取り旧来 の中道右派政党UPyDを事実上飲み込んでいった。

特に4月のロドリゴ・ラトの逮捕劇は右派系の市民にとって生涯忘れられないほどの ショックをもたらしたことだろう。あの華々しい肩書きを持つ実力者が、手錠をかけられて頭を抑えつけられて警察の車に押し込 まれる姿は、もう国民党の時代 が終わったと実感せざるを得ないほどの衝撃力を持っていた。そのうえで、選挙の直前に起きた国民党の牙城バレンシアでのス キャンダラスな告発とリークであ る。

こうしてみると、単に判事局や警察、検事局、国税庁などにいる何人かがばらばらに資料を持ちだしてマスコミに渡したという よりも、 もっと別の場所で誰か(何かの集団)が、綿密な計画の元にそれらの官僚機構からリークさせてマスコミに垂れ流し、国民党、社 会労働党、CiUといった既成 の勢力を崩そうとした…、そのためにポデモスやシウタダノスという新たな勢力、そしてカタルーニャやバスクの分離主義者をけ しかけた…、このようにすら思 えてしまう。

スペインは「欧 州連邦」創設の急先鋒!?』 を確かめてほしいのだが、昨年9月に公表された、スペイン外務省がそのシンクタンクであるエルカノ(Elcano)研究所の 協力を得て作成した外交活動基 本方針の中で、「欧州連邦創設」の計画が明らかにされている。どこの国でも外務省は国外の優越した勢力の手先になりやすいの だが、スペインの場合には、 ひょっとすると国家を解体して「連邦」の単なる構成員になるしか生き延びる道が無いのかもしれない。それが以前から隠然たる 勢力を持つ欧州連邦主義者の思 惑と一致しているのだろう。しかしそのためには、まず、数百年の間このイベリアの大地に深く根ざしてきた利権構造が解体され る必要がある。

以前に私は『「銀行統合」「国営化」「救済」の茶番劇』の中で次のように書いた。

*  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *
・・・ このときにすでに「生命危篤」を宣告されたわけだが、より厳しい運命が2年後にラホイにやってきた。そして今回は「支 援」という名のさらなる膨大な借金を 背負い込まされたうえで「脳死状態」にさせられ、「生命維持装置」を取り付けられた。後は「腐肉」を取り除いたうえでの 「解体処分」が待っているだけだろ う。犠牲にさせられるのはこの国を死に追いやった支配階級の者たちではなく、一般勤労階級であり、その若者であり老人で あり母親であり子どもである。
  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *

今年の地方と国政の選挙は、その「腐肉」を取り除く作業の重要な一部かもしれない。しかしどうやら、この「犠牲にされる」者 達の中にもうひとつ加えなけれ ばならなかったようだ。支配階級の《愚かな使用人ども》である。バルセナスやラトは刑務所の中で自分の運命をかみしめただろ うし、エスペランサ・アギレ、 リタ・バルベラー、ホセ・マリア・アスナール、マリアノ・ラホイなどといった連中は、いま自分たちの前に横たわる暗闇に気づ いて震え上がっているのかもし れない。なおこの支配階級については『浮き彫りにされる近代国家の虚構』を参照願いたいのだが、この者たちは国家など最初から超越している。国家の枠組に縛られその組み換えに 右往左往させられて危機に放り込まれるのは、その使用人どもと我々下々(しもじも)の者たちだけだ。

今年の夏から秋にかけても、再びスペインの内政を根底から揺り動かす不穏な出来事が繰り返されるだろう。そしてそれがこのイ ベリア半島の国の歴史を一変さ せるだろう。それがまた欧州の再編成の起爆剤になっていくのではないかと予想される。私はその中で、一人の外国人として、も みくちゃにされながら生きてい かなければならないのかもしれない。しかしそういった変動の「目撃者」として、今後も日本語でその記録をつづり一つでも多く 残していきたいと思う。

2015年6月3日 バルセロナにて 童子丸開

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by limitlesslife

シリーズ:『スペインの経済危機』の正体(その7:最終回)

 

みなさまへ  松元

しばらく中断していた、バルセロナの童子丸開さんの「シリーズ:『スペインの経済危機』の正体」の(最終回)狂い死にしゾンビ化する国家が 送られてきましたので紹介いたします。

彼は、スペインがどのように『「狂い死に」していくのかを記録しておきたい』とシリーズをはじめました。再度の敗戦と言われる原発事故後、「奈落 の底に突 き進む既得権勢力」と「新しいもう一つの日本を選択する市民」との拮抗がいよいよ顕在化している我が国も、いま「奈落の底に突き進む記録」が求められてい るようです。

※今回、童子丸さんからは、「私のウエッブサイトのサーバー(レンタル)にアップロードが不可能になっています。…実はスペインにある私のコン ピューター から日本にあるサーバーに接続できない状態が長期間続いており、アップロードはおろか自分のサイトに入って見ることすらできません。」と前書きが ありまし た。前書き全文は省略させていただきましたが、リンク先につながらないこともあることをご承知おきください。

======以下、全文転載======

(バックナンバーは、この文章の最後に一覧を載せておきます)
シリーズ:『スペインの経済危機』の正体(その7:最終 回)
狂い死にしゾンビ化する国家
「救済」に抵抗?するスペイン政府

この半年間のスペインで最大 のミステリーはラホイ政権が「救済(rescate)」という言葉を徹底的にタ ブー視している点だろう。「(その4) 「銀行統合」「国営化」「救済」の茶番劇」でも書いたことだが、スペイ ン政府は今(2012年10月初旬)にいたるまで、EU、欧州中央銀行、IMFのトロイカはあくまでもスペインの銀行に対する「資 本組入(recapitalización)」を行うのであり、「スペイン国家に対する救済」はありえない、と主張し続けているのだ。しかも ラホイ政権はそ の「資本組入」すら、受けるとも受けないともつかぬあいまいな態度をとり続けている。10月6日付の英国紙エコノミストはそのようなラホイの姿勢を「mysterious」とまで形容している。
スペインの国債(ソブリン 債)を購入する主体はどのみちスペインの銀行だし、そもそもが、スペインという国家が自分の国の銀行をなんともできないからこそトロイカ による銀行支援があるのだから、要するに「国家に対する救済」以外のなにものでもない。市場関係者を含めて世界中の人々がそれを「スペイ ン救済」と見なしている。実際に、アスナール~サパテロ政権のバブル経済時期を通して、1兆ユーロ(おそらくそれをはるかに超える)規模 にまで膨らんでいる公的負債を、スペイン国家独自の力で返済できるとは到底考えられない。加えて同様に膨れ上がっている私的な債務がある のだ。
ところが彼らは、6 月20日に財務相クリストバル・モントロが語気を荒げて公言したように、 「スペインは救済されたのではない。我が国は救済を必要としていないのだ」という虚勢を崩そうとしない。つい先日も、6月に「トロイカ」 が決めた1000億ユーロ(※以下100億ユーロ=約1兆円)までの「スペイン救済」について、経 済相のデ・ギンドスが「そのうちの600億ユーロを銀行への『資本組入』に使うだけだ」と強調した。どうせ実質的に破産している のだから、早く両手を挙げて「誰か助けてください」と言えばよさそうなものだが、なぜかスペイン政府与党だけでなく最大野党の社会労働党 までが「救済」を拒否し続けている。
エル・パイス紙などは「ス ペイン政府は少しでも有利な救済の条件を引き出すために抵抗のふりをしているのではないか」と疑っているようだが、彼ら がそんな腹芸のできるほど優秀な政治家とは思えない。そもそも「救済が無ければとうに破産している」ことをすでに世界中に見抜かれている のだ。とはいえ、彼ら全員が愚かにも本気で「スペインは救済を必要としていない」と信じ切っているとも考えにくい。

この「救済」に関しては、反 IMFの姿勢で論陣を張るノーベル経済学賞受賞者のジョセフ・E..スティグリッツ(コロンビア大学教授)も、「救 済を求めるのは自殺行為だ」とスペインに警鐘を鳴らす。もちろんそれ は、かつて中南米諸国やアフリカ諸国を貧困と独裁政治に縛りつけ欧米の大 資本に隷属させたIMFの手口を研究したうえでの発言である。スティグリッツ教授はまた「緊縮財政が経済 を死滅させるだろう」という警告も発しているのだが、かつて第 三世界を荒らしまわったIMFや世界銀行の「救済」と「構造調整」はい ま、欧州諸国の「弱い輪」を狙い撃ちしているようだ。
しかしラホイなどがスティグ リッツの視点から「救済」を拒否することはありえない。彼らは一貫して、ス ペインの金融機関の経営が破綻した原因とその過程明 らかにすることを拒絶し、バ ブル経済に踊った銀行責 任を問おうとすらしないのだ。「危機」の原因を冷静に 見つめて取り除こうとする姿勢など微塵も無く、単に「尻 拭いの仕方」を巡って右往左往しているだけである。要するに彼ら は、近代欧州の政治家というよりは、むしろ中南米の伝統的な寡頭支配層――かつてスペインやポルトガルな どから米大陸に渡った強盗たちの子孫――とその取り巻きに近いのではな いか。
欧米の資本家たちは中南米や アフリカ諸国で、自分の懐具合のみに関心を持ち愛国心のかけらも無い寡頭支配者たちの特徴を見抜いたうえで、彼 らと手を組んで商売してきた。欧米資本はそんな国 のでたらめな経済に目をつけ、MFや世界銀行から融資を受けさせて破綻に追いやったが、ビジネスパートナーである寡頭支配者たちには損を させずに、リフォーム(構造調整)と緊縮財政のツケを大多数の国民に回した。逆らう者がいればCIAが支援する独裁者とテロリストを使ってに徹底的に弾圧 した。そうしてその地域の資源と資 産を欧米企業の手で「民 営化=私物化(privatization)」していった。
これが初期の「ネオリベラル 経済」の真顔なのだが、同様のプロセスが欧州諸国で進行しているように思える。2001年に911事件と同時並行的に起こったアルゼンチ ンの国家破産以後、もっと「喰らい甲斐」のある欧州(そして日本)にその毒牙が立てられたのだ。チリのピノチェットからアルゼンチンのメ ネムにいたる20数年間はおそらくその「実験段階」で、その間に政治的に巨大に台頭してきたのが米国ネオコンである。彼らこそネオリベラ ル経済が世界を支配するための戦闘部隊であり、911 事件イ ラク戦争から現在の欧州経済危機までの 過程は進化したネオリベラリズムによる「世界の中南米 化」に他なるまい。皮肉なことに、いま中南米諸国は必死になって過去 の悲惨さから抜け出そうとしているのだ。

結局この者たちは、国家が 「救済」を受けることによって腐敗しきった国家のシステムにメスが入れられ、スペイン国民と世界にその正体がばらされて自分たちの 利権構造が解体されることを死ぬほど恐れている、それがこの「救済への抵抗」の真相なのだ、という以外にはあるまい。経済危 機の根本原因を大慌てで覆い隠して(おそらく膨大な量の証拠が破壊されたと思われるが)、金融機関に対する「資本組入」だけで表面上をご まかしながら、以後何十年間も下層大衆から搾り取れるだけ搾り取り続けて、「危機」が頭の上を通り過ぎるのを待つ気なのだろう。
これに関連して、元ムー ディーズ副会長Christopher T. MahoneyによるNo, Prime Minister, Spain Is Not Ugandaをお読みいただきたい。彼は今 のスペインをかつてのエンロンと比較して論じるが、エンロンは解体されその幹部は犯罪者として逮捕された。まさに彼の指摘するとおりだろ う。ス ペインやイタリアなどの政府にとっては、ドイツなどが死守しようとし ている国家の権限と責任など、あってもらっては困るのだ。
国際的な大資本家たちは、か つて中南米でやったのと同様に、そういった彼らの特性を知り抜いて自分たちのアジェンダ遂行に利用しているのかもしれない。国民の恨 みつらみの処理は全てこの者たちに負わせれば よいわけである。

市場の数字は神の声

先ほどのスティグリッツ教授 はIMFを厳しく指弾するが、もちろんそこは金融市場を動かす米欧大資本の「顔」である。そして欧州中央銀行の会長はゴールドマンサック スとつながるマリオ・ドラギでありIMFとは一蓮托生、S&Pやムーディーズなどの大手格付け会社も同様である。ここで、2012年前半 にスペインに対して、何がどのように攻撃を仕掛けて破滅に追いやっていったのか、その過程を振り返ってみることにしたい。10年以上も前から彼らが続けてきた「対欧州戦争」のクライマックス・シーンで ある。

2011年11月20日の総 選挙でマリアノ・ラホイ率いるスペイン国民党は、社会労働党政権を終わらせ下院での絶対多数の議席を獲得した。すぐさま米国の銀行JP モルガンとメリル・リンチは、ラホイ政権の能力を疑い必要 な緊縮財政が国民の反発に遭って遂行できないことへの懸念を示した。EUも即座に「根本的変革」を求めて圧力をかけ、11月22日には 10年物スペイン国債とドイツ連邦債の利回りの差を表すリ スクプレミアムが463ベーシックポイントにまで一気に上昇し、スペインは国債の売却によ る収入をほとんど期待できなくさせられた。
これらの動きが首相就任直後 のラホイに対してどれほど大きな圧力と脅迫になったか、容易に想像が付く。11月28日に格付け会社ムーディーズがユー ロ圏の混乱と格付けの下落を予測すると、ラホイは12月8日にドイツのメルケル、フランスのサルコジ、EUのバロッゾなどとの 会合で、経 費削減のための労働改革を忠実に実行することを約束した。リスクプレミアムはその 態度を確かめるように、300近くにまで下がっていった。
年が明けて2012年1月9 日にムーディーズは、ラホイ政権に対し てより厳しい人員整理とラホイが立てた計画の2倍の経費削減を要求した。翌日の1月10日にラホイは「痛みを伴うが他に選択の余地が無い」と語り国民に税 率の引き上げを告げ、続いて同月26日に経 済相のデ・ギンドスが米 国、ドイツ、IMFに対してスペインが予定する緊縮財政の 実施計画を説明した。2月16日にムーディーズがアンダ ルシアやカタルーニャなどスペインの8 つの州が発行する地方債の格下げを通告すると、スペイン政府は翌日の17日に全国の公 的企業幹部の給料を30%カットすると発表した。しかしその 後、リ スクプレミアムが再びじわじわと上昇して3月末までに300台後半に達 しスペイン財政を圧迫していった。
4月4日には欧州中銀 のマリオ・ドラギが「金 融市場はスペインの更なるリフォームを望んでいる」と語り、翌5日にリ スクプレミアムはあっさりと400を突破した。その翌日の4月6日に は、デ・ギンドスが次 のリフォームは特に公的教育と医療に集中することを告げ、与党国民党は「不 必要な医療サービス」を切り詰める方針を打ち出し、4月9日になると政府が公 的教育と医療の分野で100億ユーロ分を切り捨てる決定をした。こういった政策決 定を確認したうえで、4月30日にムーディーズはス ペイン政府による教育と医療の切捨てを賞賛し たのである。まるで飼い犬の頭を なでるかのように・・・。
一方でこの間、ワ シントンにあるIMF本部では「次のベイルアウトを宣言する 国はどこか」「それはいつか」「介入が可能か」といったことが盛んに話し合われていた。もちろんスペインを念頭に置いたものである。デ・ ギンドスは4月23日にIMF本部を訪れてスペインの財政状況とリフォー ムの予定の説明をすることとなった。おそらくその場で要請を受けたものと思われるが、4月30日にスペイン政府は全 国にあるインフラ施設と交通機関の「自由化」、つまり私有化の方針を打ち出し、5月4日には具体 的に国 有鉄道の一部の売却・私有化を検討すると発表した。こうしてスペインの「中南米化」が徐々に具体的な動きを見せていく。しかしリスクプレミ アムは4 月中はまだ400代前半で不気味に上下していた。

その後の経過は「(その4) 「銀行統合」「国営化」「救済」の茶番劇」で詳しく書いているが、5月 8日にバンキア銀行の部分的な国有化が決定されスペインの経済「雪崩」が本格的に開始した。しかし「ス ペイン救済」を巡るEU内での意見の対立とラホイ政権自体の「救済拒 否」のジェスチャーが、事態を一層混乱させることになった。リ スクプレミアムは8日から5月30日までの間に100 以上も上昇し536に達している。もはやスペイン政府が自 力で資金を集める力などどこにも探しようが無い。同時にユー ロに対する信用も地に落ちていくことになる。しかしそんなゴタ ゴタが表面化する以前の2012 年1~3月期間にスペインから971億ユーロ(3月の1ヶ月だけで662億ユーロ)の資本逃避が起きていた。
6月に入るとIMFと EUからの「救済」圧力は急激に強くなり、同時にリ スクプレミアムが500を超え600に近づくことすらあった。万策尽きたス ペイン政府はEUに対してこっそりと1000億ユーロ規模の支援要請を行っていたのだが、それが政府自身の口か ら国民に告げられることは無かった。そして6月9日にユー ログループがスペインに対する大規模支援を決定したが、その方法についてドイ ツがIMFや欧州中銀と厳しい対立を続け、その中でIMF とモルガンスタンレーなどは欧州内の銀行と財政・金融 の全面的な統合を求めた。IMFは、あくまで 国家の主権と責任を明確にした上で救済を実施させようとするド イツを厳しく批判し、ス ペインの銀行に対する「資本組入」、つまり政府を通さな い救済を行うようにEUに圧力をかけた
そして6月15日にはIMF がスペイン政府に対して消 費税の値上げと公的機関の給与の削減を要求したのである。ラホイはすぐ に、IMF の求めるような消費税値上げの予定は無いと国民に説明したが、その浅はかな嘘は1ヶ月も たたないうちに化けの皮をはがされることになる。7月10日にユー ログループは消費税の値上げや公的サービスの大幅カットを含む32 条の厳しい条件をつけた上で最大1000億ユーロの銀行支援を決定し、ラホイ政権は一も二も無くそれに従った。しかも彼らはその計 画の詳細を国民に隠そうと試みた
そして7月に入るとリスクプ レミアムが「駄 目押し」的に639にまで上昇しラホイ政府を震え上がらせた 後で、7月26日の欧州中銀ドラギによる「ユーロ防衛のためにあらゆることをやる」という発言によって、たった1日で560 ベーシックポイントにまで下がり、6000ポイントを割っていたスペイン株式市場は6300台にまで上昇した。スペインの政治家や官僚 たちがIMFと欧州中銀に逆らうことは、もはや不可能である。

お 分かりだろうか? 市場の数字こそ「神の声」であり、その「神の声」を導き出す格付け会社は「巫女」であり、IMFや欧州中央銀行な どの機関がその「神官」なのだ! 

4月4日にドラギが語ったよ うに、金融市場が「スペインの更なるリフォーム」を望ん だ。一私企業に過ぎぬ米国の格付け会社が、独立国家に対してその具体的内容 まで指示を送ったのである。スペイン政府は、激 しく変化するリスクプレミアムと株式市場の数字に震え上がり、平身低頭の体で その命令に従った。そして銀行への「資本組入」という餌にしゃにむに飛びついた。彼らにしてもこれで危機の原因についての政治責任を問われる心配が一切なくなった彼らは「見えざる神の手」の中にしっかりと掴み取られたの である。
その途中でスペインは、欧 州中銀執行部の席を失って自らの経済政策を自ら決める力 を剥奪され、ついでに英 国のアシュトンによってEUの外交政策に対する発言権 も取り上げられてしまった。要するに「禁治産者」となったのである。この国はいま、国民でも、国民が選んだ政治家でも、あるいは自国の官 僚でもなく、どこか「雲の上」から伸びてくる「手」によって運営される「欧州の一地方」に成り下がりつつあるのだ。9月 18日にユー ログループのジャン・クロード・ジュンケルはスペイン政府に対して、救済は 「非常に厳しい緊縮とリフォームを伴う」だろうと注意を促したが、ラホイの政府はその忠実な執行機関としての動き以外を許されないだろ う。
 それにしても奇妙な話だ。「銀行に対する直接の救済」で、 どうして、25%の失業率と収入の低下にあえぐ国民が、21%もの消費税と公教育・公共医療の切捨てに苦しまねばならないのか? 苦 しむべきは銀行ではないのか? 
2012年10月8日付のエ ル・ムンド紙は、スペイン経済危機の犠牲者へ の支援を呼びかける赤十字社の声を伝えている。彼らは30万人 を超す飢餓線上の極貧層(その大半が失業者の家庭)の生活を懸命に援助しているのだが、そこはアフリカでも東南アジアでもラテンアメリカ でもない、ユーロ圏第4位の経済力を持つ(はずの)スペインでの話なのだ。
●ネオリベラル経済による福祉国家の破壊

スペインにネオリベラル経済を招き入れ、米国ネオコンと手を結ぶ ことで欧州ネオコンの代表格となったホセ・マリア・アスナール(元首相1996~2004)はいま、世界のメディア支配者ル パート・マードックが運営するニュース・コーポレーションの幹部となっている。その彼は2012 年9月にマードックから給料を7・6%上げてもらって上機嫌だった。そして軽 くなった舌で次のようなことを語ったのである。
「スペインは国の近代化を必要としている。もっとフレキシブルで       もっと規律正しい国にだ。…いまのスペインには二つの大きな問題点がある。まず国家モデルであり、それは機能しておらずリフォームを必要とする。そ して次には福祉国家である点だが、それはまかないきれないものだ。」
「近代化」「フレキシブル」「規律正しい」・・・。これだけ並べ ていったい何を言いたいのかさっぱり分からないのだが、彼の本音は後半の「福祉国家はまかないきれない」という点にあるのだろう。これは米国 にいる彼の同類を見ればすぐに分かることで、国民の15%が食料切符で何とか命をつなぐ貧困超大国が彼の理想なのだと思われる。先日「税金を 払わない者は相手にしない」などと本音を吐いたロムニーといい勝負だろう。
続いて9月20日には自らが主催するシンクタンクFAESの「2012 年ラテンアメリカの自由化アジェンダ」の基調演説で、こんなすばらしいことを言った。
「貧困と戦うために犯罪に立ち向かわねばならない」、「いわゆる 『21世紀の社会主義』の政府はますます孤立しており、この地域での影響力をますます失いつつある」、「今日ラテンアメリカでは中産階級が爆 発的に増えており、以前の国際的な財政危機を乗り越え、世界の他の地域よりも良い状況にしたという誇りを感じることができる」。・・・。

彼がラテンアメリカで忌み嫌うのは何よりもウゴ・チャベスのベネ       ズエラであり、それと共同歩調を取るエクアドル、ボリビアなどの『21世紀の社会主義』諸国である。チャベスは私物化されていた資産を再国有 化し、資本家の「略奪の自由」を抑えて下層階級の生活と教育の向上に力を注いでいるため、上流階級と中産階級からは「独裁者」「ポピュリス ト」として怨嗟の的になっている。この点がアスナールの頭の中では「犯罪」の代表なのだろう。
世界で最も激しく貧困と戦いつつあるチャベスに限りない敵愾心を 燃やすアスナールにとって、「貧困」とは「上流・中産階級がもうからないこと」に違いあるまい。現にアスナール~ラホイの国民党政府 は、高額所得者の財産と収入だけはいかなるリフォームの中でも死守し続けているのだ。確かにこれでは、アスナールなどの欧 州ネオコン・ネオリベラリストにとって、「貧乏人に富を分け与えるような国家」は「まかないきれない」ものになることは間違いな い。

ある国家が危機を迎えるときに、もしそれが文字通りの「国民国       家」というのなら、少なくともその国の国籍を持つ者全員が自らの出せるものを出して国を救うはずである。金を持つ者は金を出し、知恵を持つも のは知恵を出し、力を持つ者は力を出して・・・、という具合にである。しかしこのスペインで何を見ることができるのか?
金 を持つ者ほど金を出さず、知恵を持つ者は国の中で知恵を発揮する場を失い、力を持つ者は生産の場から追い出されている。これが事実だ
当シリーズの『(その5) 学校を出たらそこは暗闇』でも申し上げたとおり、スペインは優秀な若い世代を大量に失いつ つある。このような国はその未来の存在を失うしかあるまい。「国民国家」という概念を信じている人の目が、もし事実を正確に見るなら ば、「狂ったスペイン国家は死に向かって突っ走っている」と言うしかできないだろう。
金融市場に君臨する大銀行とその代弁者であるIMFや格付け会社は、国家に対して真っ先に公共部門と困窮者の生活の破壊を要求する。 彼らは福祉国家を根っから忌み嫌い、一つの国家を、あらゆる富と力を握る少 数者と、あらゆる富と力を失った多数者に分断する。彼らは、欧州にかろうじて根付いている福祉制度の制度を破壊するこ とによって、金融機関による社会の直接支配を推し進めているが、その視野にはもはや形式的な「国民国家」の姿すら存在しない。
 アスナールは、高 まりつつあるカタルーニャ独立の気運に激怒して「誰 もスペインを分裂させることは許されない」と語る。しかし、本当にスペインを分裂させているのはカタルー ニャでもバスクでもない。「福祉国家はまかないきれない」と語るその者たちが、スペイン国家を分裂させ「狂い死に」に追いやっているの である。

ついでに言っておくが、カタルーニャやバスクでの分離独立運動は 「熱病的」な盛り上がりを見せている。これは歴史的に存在する民族問題という以上に、人々の盲目的な感情を煽って経済の問題から目をそらさせ るために意図的に仕組まれた茶番劇の可能性がある。この点ではスペイン政府にとっても自治州政府にとっても利害の一致するところだろう。FC バルセロナのような圧倒的な人気を誇るサッカーチームまでその「出汁」に使われているようだ。
一方でカタルーニャ州知事アルトゥール・マスは、10 月5日のニューヨークタイムズ紙とのインタビューで、「我々の理想はカタルーニャがヨーロッパ連邦の 一部となることだ」と語り、カタルーニャが欧州で12番目の経済規模を持つ国家となるだろうと発言した。今年になって不自然なまでに盛り上 がっている分離独立運動は、欧州の統合を進める勢力に後押しされているのかもしれない。莫大な州財政の赤字を抱え、本来ならマドリッドに平身 低頭の体で支援をお願いしなければならないマスの、やけに自信たっぷりの言動が、「独立熱」に浮かれたカラ元気だけとは考えにくい。

●私有される世界

「国民国家」についてより本質的なことを言えば、「国 民が主体となった国家」など、歴史上かつて存在したためしがないのだ。引用はしないがこちらの田中宇氏による論文『米 中関係をどう見るか(2012年8月3日)』をぜひお読みいただきたい。田中氏は、私が目も眩む欧州の 階級社会の中で感じてきたことを、そのままに表現してくれている。「主権在民」といった概念は単なる見せかけに過ぎず、近代の世界に実際に存 在するのは、支配階級による利権の追求と、被支配階級に「主権者」としての心地よい幻覚を信じ込ませ続けるための様々な装置、そして悲惨な運 命に振り回される被支配階級の現実だけである。
「危機」に見舞われ国民の幻覚を維持できなくなった 国家にあるものは、支配階級によるむき出しの収奪と暴力だけだしかし事態はもっと悪い方向に向かっているように見える

EUの中で国家の主権と責任を重視したいドイツに対する攻撃とそ の孤立化は、「ギリシャ救済」を巡る混乱の過程で明らかになってきた。これに関連して、引用はしないが、こちらの美濃口坦氏による貴重な報告『ユー ロ圏のクーデター-5月7日に起こったこと 2010年06月01日 (火) : 萬晩報』をごらんいただきたい。もちろんドイツにしても、スペインの 銀行にバブル期を通して大規模な出資をしており、自国の銀行をスペインと心中させるわけにもいかず、その「救済」はなんとしても実現させなけ ればならない。その意味ではIMFやEU本部、欧州中銀とは利害が一致しているのだが。
EUとユーロに対するドイツとフランスの基本姿勢の違い は、フランス大統領の交代にも関わらず続いている。そして2010年の時点と異なるのは、この論争にIMFが巨大な姿で登場してきたことであ る。2011年にニューヨークで起こったIMF会長ストラス・カーンの失脚劇がいったい何だったのか、首を傾げざるを得ないのだが、彼の後を 継いだ元サルコジ政権の閣僚クリスティーヌ・ラガルデは、明確に米国巨大資本の代弁者として振る舞っている。また欧州中央銀行の会長の席が、 ゴールドマンサックスの重役だったマリオ・ドラギに与えられたのは2011年11月である。そしてサルコジ~オランデとともにドイツを封じ込 めようとするイタリアのマリオ・ポンティもまた元ゴールドマンサックスの重役、スペインの経済省ルイス・デ・ギンドスにいたってはあのリーマ ンブラザーズの欧州での代理人を務めていたのだ。
ベ ルリンはスペインの銀行に対する「資本組入」計画に反対し続けており、それが2013年の1月以前に実現するかどうかは微妙な情 勢である。しかしドラギは、バンキア銀行の事実上の破産とスペイン経済崩壊のさなか、「欧 州バンキング・ユニオン(日本語の説明)」の設立を提唱した。それは欧州内の銀行の監督や危機 管理を一手に引き受ける管理機構であり、スペイン「救済」を巡ってその設立への道が既成事実化されつつある。その流れにあくまで 反対するド イツと、それを進めようとするフランス・スペインとの間にある対立は当面溶けそうにもなく、バンキング・ユニオンの本格的な設 立も来 年初頭に間に合わないかもしれない。しかし米国の巨大銀行とIMFの意思を代弁するドラギがそ の計画を後退させることは無いだろう。

そしてマドリッドでは今後の欧州とスペインを象徴する事態 が進行中である。2012年9月初旬に、米国ラスベガスのカジノ経営者で米国を代表する大富豪シェルドン・アンデルソンは、ユーロベガス(欧 州版ラスベガス)の候補地をマドリッド郊外のアルコルコンに決定したと発表した。このユーロベガスについては、昨年からマ ドリッドとバルセロナが激しい誘致合戦を行っていたのだが、カタルーニャ州政府はアンデルソンの決定が発表され る直前に、ユーロベガスを諦めてその代わりに総 合娯楽都市「バルセロナ・ワールド」を建設する方針を打ち出した。
アンデルソンはカタルーニャ州政府に対して、候補地の近く にあるバルセロナのエル・プラット空港を移転させよだの、スペイン・サッカー一部リーグに所属するエスパニョールの球技場を潰せだのといっ た、いっ たい何様なのだと言いたくなる無理難題を押し付けてきたのだ。「バルセロナ・ワールド」が成功する かどうかはさておいても、アルトゥール・マス州知事がユーロベガスに見切りをつけたのは賢明である。この、ロムニー米国大統領選挙共和党候補 の最大のパトロンで、ウルトラ・ネオコン新聞ラスベガス・サンズのオーナーであるシオニスト・ユダヤ人の根っから厚かましさは、IMFを通し て世界を私物化しようとする米欧巨大資本の姿勢と軌を一にしている。
逆に、スペインのネオコン・ネオリベラリストの代表格であ るマドリッド州知事エスペランサ・アギレはこの決定を手放しで喜んだ。彼女はこの9月17日に突然「一 身上の理由」から州知事を辞任したのだが、健康上の理由や家族の要望などがマスコミでは語られ ている。しかしどうやら、自分が経営する旅行会社の運営に専念したい様子がうかがわれる。ユーロベガス誘致の成功を受けてのものだろう。米国 の大資本家から頂戴できるおこぼれが、マドリッドの政治家と官僚の上層部に振りまかれるだけではなく、この計画に参入する企業をふんだんに潤 すと想定されているからだ。
しかしこの誘致は同時に、スペインに大きな問題をもたらす だろう。アンデルソンはカジノ内での喫煙の自由を要求している。スペインでは2011年以来、個人の住居とホテル客室の30%を除くあらゆる 建物の内部での喫煙が厳しく禁止されている。もしユーロベガスを建設するのなら、この法律を改正するしかない。さらにもっと大きな困難があ る。アンデルソンはユー ロベガスで働く者たちの組合結成を認めないと語った。しかし労働組合結成の自由はスペインの憲法で保障されてい る。もしどうしてもマドリッド郊外にこのカジノ都市を作るのなら、憲法の改正、あるいは憲法の条項に例外規定でも設けるしかあるまい。
スペイン政府がどのような態度を取るのか見ものだが、目の 前に巨大な利権をぶら下げられたスペインの寡頭支配者どもの行動は予想が付く。私欲の前には国家の主権もへったくれもないのだ。そしてそう なったときに初めて、多くの人々はスペインが国家としてすでに死亡していたことに気が付くのかもしれない。願わくは、本格的なユーロベガス建 設の前にアンデルソンが破産するか、高齢の彼にこの世から立ち去ってもらいたいものだ。

類似した動きとしてい ま日本を絞め殺そうとしているTPPの本性をじっくりとご研究いただきたい。それは国家の主権の上に私 企業の権益を置き、他国の主権を平然と踏みにじる条約である。先ほどのユーロベガスの例は今のところシェルドン・アンデルソン個人の意思かも しれないが、TPPはそれを法制化し普遍化しようとするものだ。もしTPPが締結されたなら日本は、社会の隅々まで米国企業とその背後にある 巨大銀行の意のままに動く国にならざるをえない。このような流れが世界中で同時に作られていることに、非常な注意が必要だろう。これは資本主義による世界に対する全面戦争なのだ。
2007年にリーマンブラザーズが倒産して米国経済が危機 を向かえ、それがスペインのバブル経済崩壊の引き金を引いたわけだが、そのとき以来、西側世界の主要国で交代していない国家指導者はドイツの メルケルだけである。その彼女も2013年のドイツ総選挙で一線から退く可能性があるだろう。ギリシャやスペインなどの「支援」で国内の資金 を持ち出さざるを得ないメルケル政権に国民の反発が強いうえに、ピ ントの外れた「ドイツ悪魔化」で彼女を攻撃する者たちが国内外にいるためだ。しかしドイツ の政権が社会民主党に変わったならば、ドイツは抵抗することをやめてやすやすとIMFと欧州中銀の仕掛けるワナにはまっていくだけだろう。
一方では、この「経済危機」のさなかで、ゴールドマンサッ クス(ロイド・ブランクファイン)、JPモルガン・チェイス(ジェイミー・ダイモン)、バンクオブアメリカ(ブライアン・モイニハン)、シ ティグループ(ヴィクラム・パンディット)と、首脳陣が交代した巨大銀行は存在しない。本来なら「危機」に最も責任がある者たちのはずなのだが、彼らは悠々と世界経済の頂点に君臨している。 彼らにとっていまは危機ではなく、逆にすばらしいビジネスチャンスなのだ。今まではそれぞれの国の国益という壁が彼らの貪欲さの前に立 ちはだかっていたのだが、今後はおそらく一つの国の金融と財政を直接にコントロールし、その国にいる代理人にそれが国益であると言わせれ ばよいのである
そうなればもはや「ゾンビ化された国家」としか言いようがあるまい。そしてそれはいずれ国民国家の抜け殻をも投げ捨て、「国 益」などという見せかけを語る必要すらなくなるのかもしれない。日本といいスペインといい、こんな超現実が現実化していく姿を、我々は目の前 に突きつけられているのだろうか。

私は当シリーズで、様々な「専門家」たちによる論評や観測 ではなく、数年かけて毎日のようにマスコミ報道を比較しながら拾い集めた無数の事実、十数年間で実際に現地で見聞きした事実を、ありのままに 記録し並べてみた。事実に現れるスペインの生の姿、巨大な資本の仕掛けた詐欺に自ら喜んではまりにいき、その結果として狂い死にを向か えゾンビ化していく姿は、日本語はおろか英語ですらほとんど報道されることはないのだろう。こういった生のままの事実は見る人を 耐え難い思いにするのかもしれない。しかし「誰かがやらねばならない」という思いだけで続けてきた。他にやっている人を知らないからだ。
今後は、市場の数字の上下や表面的な政策だけが切れ切れに       現れて、世界の人々はそれがスペインの現実として認識されるのかもしれない。しかし、いまの「不況」「危機」は、単なる「処理」「尻拭 い」にすぎない。増 税による全ての増収がバブル時期の利子の支払いだけで消えてしまう。私はその原因と途中経過まで含めての「危機」の全体像を、何とか記録しておきたいと考えただけである
それをもう少し正確に把握し整理する作業と、その教訓を日 本の未来に対する警告として生かしていく作業は、日本人の未来に鋭い問題意識を持つ経済や政治や社会の専門家にお任せしたい。その際にこのよ うな記録が、ささやかにでも何らかの足しにでもなれば、私としてはこの上ない幸いである。

(『スペイン経済危機』の正体シリーズを終了します。ご笑覧 ありがとうございました。)
(2012年 10月初旬: バルセロナにて 童子丸開  拝)

シリーズ: 『スペインの経済危機』の正体
     (その1)スペイン:危機と切捨てと怒りのスパイラル              【Socialist Review誌記事全 訳】
     (その2) 支配階級に根を下ろす「たかりの文化」
     (その3-A)バブルの狂宴:スペイン中に広がる「新 築」ゴーストタウン
     (その3-B) バブルの狂宴が終わった後は
     (その4) 「銀行統合」「国営化」「救済」の茶番劇
(その5) 学校を出たらそこは暗闇
     (その6) 「危機」ではない!詐欺だ!
     (その7:最終回) 狂い死にしゾンビ化する国家

どうじまるHP 総合目次  幻想のパティオ・メニュー

(以上、シリーズ:『スペインの経済危機』の正体、全7回終了)

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Palestine Solidarity in Sapporo
パレスチナ連帯・札幌 代表 松元保昭
〒004-0841  札幌市清田区清田1-3-3-19 
TEL/FAX : 011-882-0705
E-Mail : y_matsu29@ybb.ne.jp
振込み口座:郵便振替 02700-8-75538  
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by limitlesslife

 『スペインの経済危機』の正体」の(その6)「危機」ではない!詐欺だ!

みなさまへ   (BCCにて)松元

しばらく中断していた、バルセロナの童子丸開さんの「シリーズ:『スペインの経済危機』の正体」の(その6)「危機」ではない!詐欺だ!が 送られてきましたので紹介いたします。

彼は、スペインがどのように『「狂い死に」していくのかを記録しておきたい』とシリーズをはじめました。再度の敗戦と言われる原発事故後、「奈落 の底に突 き進む既得権勢力」と「新しいもう一つの日本を選択する市民」との拮抗がいよいよ顕在化している我が国も、いま「奈落の底に突き進む記録」が求められてい るようです。

======以下、全文転載======

皆様(BCCにて失礼します)

「シリーズ: 『スペインの経済危機』の正体(その6)」をお送りします。いつも長文で申し訳ないのですが、お時間が取れましたらお読みくださ い。もし価値があるとお感じになりましたら、ご拡散をよろしくお願いします。

なお、911事件の11周年については、私としては昨年の10周年に作成した次のもので十分だと思っておりますので、何も新たな文章は出しませ ん。
いま我々が 生きている虚構と神話の現代
http://doujibar.ganriki.net/evidences_abandoned_for_ten_years.html

2012年9月11日 バルセロナにて
童子丸開 拝

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サーバーの仕様のため、サイトへのアップや変更の反映が遅れ る場合があります。1~2日、お待ちください。

http://doujibar.ganriki.net/webspain/Spain-6-not_crisis_but_swindles.html

シリーズ: 『スペインの経済危機』の正体(その6)
「危機」ではない!詐欺だ!

●小さな実例に現れるシロアリどもの手口
全国紙プブリコが2012年7月21日付の記事で伝えた次の事実をご紹介することから 始めよう。
スペインの雇用・社会保障省(大臣はファティマ・バニェス)は6月13日に、ある政府通達文書を印刷し全国の事務所や工場、商店、役所な どに郵送する作業 を民間業者に委託した。この政府通達文書とは、単に「トイレでの禁煙徹底」を命じるだけの内容なのだが、問題はその費用である。
政府の通達文書を印刷して郵送する作業は1993年から民間業者に委託されているのだが、この「トイレ禁煙文書」の業務は最初は 2009年1月にある業者が約65万ユーロ(約6500万円)で請け負った。ちょうど不動産バブルが はじけて建設業を中心に失業が広がり不況の様相が具体的に現れ始めていた時期だった。


その2年後の2011年2月に、サパテロ社会労働党政府は他の業者に全く同じ作業に220万ユーロ(約 2.2億円)を支払った。それは失業率が20%に近づき公的債務が急上昇して社会福祉が大幅に削減さ れようとしていたときだった。
そしてその1年半後、大銀行を救うために血税がつぎ込まれたあげく事実上の国家破産状態となり、公的部門の労働者が大量に解雇され公務 員のボーナス全面カットが決定されたというときに、ラホイ国民党政府は、この65万ユーロで済む作業に470万ユーロ(約 4.7億円)の予算を組んだのである。


これがこの国で行われる公金横領の手口の一端だが、一事が万事、すべてこの調子である。スペイン政府は一方で「カネが無い、カネが無い」 と叫んで低賃金勤 労者の生活を滅多切りにしているのだが、その一方でこうやって多額の公金を「行方不明」にさせる。もっとも、危険なばかりで糞の役にも立 たない「もん じゅ」などという施設に何兆円もつぎ込み続ける日本国政府よりはましかもしれないが。(いやいや、「糞の役にも立たない」などと言うと糞 に叱られる。
人間や動物の糞は従来から人間の食生活と命を支えてきたの だ。)


これは一部の公務員による内部告発なのだが、プブリコによると、どうやら官僚と政治家と業者の間に「禁煙」をネタにしたある種の「カルテ ル」が作られてい るようだ。納税者(合法的に在住する外国人を含む)の税金にたかるシロアリ集団にとっては、あらゆる名目がたかりのネタになりうる。


スペインで は2005年以来、社会労働党政権によって建築物内での喫煙の禁止が段階を追って実施された。マスコミを動員して肺癌や受動喫煙の害を印 象付ける反タバ コ・キャンペーンに続いて、2007年に個人の住居と小規模なレストランやバル(カフェ)を除くあらゆる建築物の内部での喫煙が法律に よって禁止された。 そして前述のようにサパテロ政権が65万ユーロで済む作業に220万ユーロをばら撒く直前(2011年1月)に、この禁煙法は強化され た。それによると、 個人の住居を除く全ての建築物内での喫煙が禁止される。ホテルだけは例外的に客室の30%までを喫煙可能にできるが、他の部屋と厳しい基 準に従って隔離さ れていなければならない。
こうしてスペイン中で喫煙可能な場所が厳しく制限されたのだが、一方で歴代政府による「トイレ禁煙文書」が作った「差 額」がどこに消えたのか誰も知らない。法律による喫煙の制限はヒトラーのナチス政権が最初と言われるが、この種の措置には鼻もひん曲がる 悪臭が漂う。これ に比べるとタバコの臭いなどさしたる問題でもあるまい。


もう一つ、2012年
7月24日付のエル・ムンド紙によって知らされた事実を見 てみよう。
このシリーズの
(その1)で 書いたとおり、現スペイン国王フアン・カルロス1世の娘婿であるパルマ公イニャーキ・ウルダンガリンは大掛かりな公金横領事件で裁判中の 身となっている。 そのウルダンガリンが主催するノース財団は、2005年と2006年にマジョルカ島でスポーツ振興のためのイベントを行った。それはそ れぞれ120万ユーロ(当時のレートで2億円ほど)を使って行われ、2回分で240万ユーロの出費だったのだが、 その資金は全てバレアレス州の公金だった。
ところが今年になってバレアレス州が同じ内容で同じ規模で行ったイベントの費用はわずか8万ユーロ、 つまり
ノース財団が使った金額の15分の1だっ たのである! つまり、ウルダンガリンとその取り巻きグループ(国民党の地方政治家を含む)によって使用された公 金の15分の14が、あれやこれやの名目を付けた請求書と引き換えに、シロアリどもの個人資産へと消えたことにな る。この件は現在公判中なので、ひょっとするとその一部くらいは明らかにされるのかもしれない。

●シロアリの巣・・・金融・投資機関
いま取り上げた二つの例はほんの小さな事実に過ぎないのだが、これらを単に個人あるいは小集団の道徳的退廃などのせいにすることは決定 的に誤っている。このシリーズで明らかなように、国家と社会全体の構造に関わるものだ。数匹のシロアリの姿を見たならそ の付近に大規模なシロアリの巣があると確信できるだろう。実際に、スペインだけではなく欧州各地域には歴史的に形 成されてきた巨大なシロアリの巣が存在する。これは陰謀論でも何でもなく現実であり、このシリーズでお目にかけたスペインのコソ泥どもの 背後には「国境なき大泥棒」の集団が存在している。その点についてはこのシリーズの 最終回(その7)でもう少し詳しく述べてみたい。


2012年8月31日付のスペイン各主要紙は、この年の
前半6ヶ月だけでおよそ2200億ユーロ(約22兆円)もの資金がスペインの銀行から引き揚げられたことを報じている。これはスペイン中央銀行のデータによるものだが、1月から3月ま での上四半期に逃避した資金が約970億ユーロだから、それ以 降の危機の進行、特にバンキア銀行の事実上の倒産が猛烈な資本の引き揚げを招いたことが明らかになる。エル・パイス紙によれば、前年2011年の6月末段階でス ペインの銀行の収支バランスは約225億ユーロの黒字であり、その後1年の間に3156億ユーロ(約31兆5千億円)が スペインから逃げていった。ただしこれらの数字は、スペイン財政の破綻が明らかになって以降の資本逃避の一部に過 ぎない。バブル経済の最中に引っかき集められてタックスヘイブンなど国外に移送された資産を加えるなら、どれほどの資金がこの国から離れ ていったのか、想像もつかない。


もちろん「沈むかける船」に留まる馬鹿なネズミがいるわけもないのだが、しかし逆の側から見ると、ロクな自前の産業基盤を持たないスペ インのような国に、これほどに大量の資金が流れ込んでいたこと自体が驚きであろう。実際に
(その1)のSocialist Review誌記事の訳でもご紹介したとおり、21世紀の最初の数年間、スペインは欧州の中でも最も熱気にあふれた投資 の場だった。いったいどうしてそんなことになるのか。


1990年代末ごろから、特に2002年のユーロ導入以降なのだが、国や自治体は民間の土建業者と 手を組んで、まるで何かにとりつかれたように飛行場、鉄道、高速道路、工場団地、港湾設備などのろくに使われもしないイ ンフラの整備にまい進した。民間業者は開発許可を簡単に手に入れて広大な「ゴーストタウン」を 作り続けた。スペインの銀行は、中小の貯蓄銀行(カハ、地方によってはカシャ、カイシャと呼ばれる)を含めて、土木・建築工事に資 金を滝のようにつぎ込んだ。その過程と結果については
(その3A)(その3B)でご紹介したとおりである。そのうえに想 像を絶する規模で公金略奪の手段とされただけの数多くのイベントが組まれた。当時のアスナール政権はスペインを 延々と続く「右上がり経済」の幻覚の中に放り込み、2004年以後のサパテロ政権もまたバブル経済の掌で踊り続けた。


その間に銀行は、本来なら融資を躊躇しなければならない人々にまで、言葉巧みに「ばら色の生活設計」を吹き込んで頭金 なし・低金利の住宅ローンを組ませた。これは当時の米国でのいわゆるサブプライムローンと同様のやり口なのだが、 住宅ばかりではなく自動車や高級家具、高級家電製品にいたるまで、数字に弱く無計画な人々の生活を銀行ローンが縛り付け ていったの である。さらに、英国人、ドイツ人、フランス人たちが、欧州の中では格段に安かったスペインの不動産をさかんに買いあさり、住宅価格は急 上昇した。バルセ ロナなどの都市の集合住宅でも、「高く売れる」と分かった家主たちが賃貸しをやめて部屋を売り物件に変えたために、貸し物件が不足し家賃 もまた高騰した。 同時にユーロ導入時の便乗値上げと後の原油価格の上昇もあって、この間にありとあらゆる物価が上がり続けたのである。


そして国家と国民の全体を巻き込んだこの狂乱は、米国で起こったと同様に、そしてかつて日本で起こったと同様に、銀行 の大掛かりな経営破たんを引き起こした。そしてスペインの銀行を突っ走らせた外国資本は、多額の 「戦利品」を懐に収めた挙句に借用書だけを残して立ち去ったというわけである。私の「
シリーズ:515スペイン大衆反乱 15M」でお知らせし たように、いま人々は「シロアリの巣」がどこにあるのか気づき始めている。


もちろんだがそれは、
ポール・グレイグ・ロバーツが示したようにゴー ルドマンサックスなどの金融機関とそれを後ろ盾にする格付企業等の企業群であり、その「窓口」欧 州中銀とIMFである。スペインのマスコミの中ではわずかにプブリコ紙だけが、ゴールドマンサックスを取り上げて「危機が国際企業を太らせる」と指摘している。(そんなマスコミがあるだけ日本よりマシか…。)ネオリベラル経済は単なる略奪経済であるだけではなく、日本を狙うTPPの素顔からも分かるように、巨 大資本による世界の私的で直接的な統治を目指すものである。それは法も国家も超越した権力な のだ。EUはその格好の「餌場」と化してしまった。そしてスペインはいまの「経済危機」を通して、いずれ隅々まで巨大資本の私有物に成り 果てるのかもしれない。


ドイツや北欧諸国のような国家と社会に対するしっかりした理念を持たず制度的にもスキだらけの南欧諸国が、最初にそのターゲットになっ てしまった。2007年まで散々にこの国の狂乱経済を踊らせ続けたバブルの熱病は、国の指導者だけではなく、産業界、官 僚機構、マスコミ、学術界、そして下々の庶民にいたるまで社会の全体に感染し、ただでさえタガの外れた金銭感覚と 貧弱な数字感覚しか持たないスペイン人の社会を打ち砕いていった。このシロアリどもに食い荒らされた国家を支えるものは、もはやどこにも 無いだろう。
これはもう詐欺としか言いようがあるまい。

●ただいま崩壊中の国家と社会
2000年代になってスペインでは「にわか金持ち」が街頭にあふれた。正確には「ちょっと財布が膨んだので金持ちの仲間入りができたと思 い込んだ貧乏人」 と言うべきだろう。そして彼らの多くが2007年以降、見る見るうちに貧乏人に戻っていった。しかも、給料を下げられ、あぶく銭の臨時収 入を失い、一部は 仕事を失い、高級自家用車を手放し、10年間で1.5~2倍に上がった物価と情け容赦も無い消費税アップを前に何を買う意欲も失い、一部 の不幸な者たちは 家賃もローンも払えずに自宅を失い、結局は以前よりもずっと惨めな境遇に堕ちた自分と対面せざるを得なかったのである。以前の「貧乏」と は全く異質の貧困 が彼らを待ち構えていた。《帰ってみればこはいかに!元いた家も村も無く・・・》。浦島太郎は日本の御伽噺だけではない。


社会福祉団体
カリタスの調べによると、現在スペインでは総人口の 20.8%(およそ1000万人)が貧困層であり、140万世帯で家族メンバーの誰一人として職に就くことができない。加えてそれ以外 に、約50万世帯が失業保険や緊急の政府援助などの絵支援も途絶え全く無収入の状態に置かれている。エル・ペリオディコ紙によると、 2011年7月の段階ですでに235万人が毎日飢えを感じ、国民の46%が食生活の質と量を落としていたのだ。2012年9月からは、 EU、欧州中銀、 IMFのトロイカの命令に基づいて、消費税が大幅に引き上げられた。同時に公共輸送運賃、電気代、ガス代も値上げされた。必死に倹約と我 慢を続ける国民の 努力にも、じきに限界が訪れるだろう。


スペイン政府はこんな状況をもたらした元凶である銀行を「救済する」ために、まず教育、つまり将来の国家を支えるべき 人材の育成を切り捨てている。
2011年4月以降の1年間で教育にかける費用は21.9%も削られた。さらに基礎的な科学研究の予算も25%削減された。続いて国 民の健康な身体を支える医療を切り捨てる2012~13年度の予算からは保健医療の13.7%(70億ユーロ)が消えてなくなった。これらの数字は今後も増え続けることだろう。要するにこの国の指導者は国の未来を捨てたのだ。彼ら の頭にあるのは、カネだけがあって人のいない「国」である。


2012年5月14日にスペイン第2の銀行
BBVA幹部は「現在の経済危機はリーマンブラザーズ倒産時よりも深刻だ」という認 識を示した。当然だ。サブプライムローンの焦げ付きに端を発したリーマンブラザーズ倒産は、確かに米国と欧州の経済を激しく揺り動かした が、それでも米国 の政治と経済はそのショックを直接に国家の破滅にまで直結させないだけの分厚さを持っていた。しかしスペインは全く異なる。上っ面の1枚 をはいだらそこに は何も残っていない。その上っ面の1枚を支えていた外国からの投資はいっせいに引き上げられてしまった。放っておけばこの国の債務不履行 は避けられず、そ れはユーロ圏だけではなく欧州全体の崩壊に結びつきかねない。それを防ぐ手段としてEUはIMFと共に欧州中銀によるス ペインの金融機関の直接統治を推し進める作業に努めている。


当シリーズ
(その4)で 明らかにしたとおり、2012年6月、スペイン救済とユーロ崩壊への対策としてドイツのメルケルが打ち出した雇用の創出を柱とする「成長 策」は、欧州中銀 のマリオ・ドラギとイタリア首相のマリオ・モンティ(ともにゴールドマンサックスの関係者)の激しい抵抗に遭って頓挫し、スペイン政府は 「即効性」を求め て、彼らの唱える銀行への直接の救済路線に乗った。こうして、スペイン政府は自力の経済健全化の可能性といっしょに国家 の主権を投げ捨てたのである。結果として国は分裂し、その国民は文字通りの「棄民」と成り果てるほかにはあるま い。


スペイン国内でいま
カタルーニャの独立意識が階層や党派を超えて不自然なほど急激に盛り上がりつつある。公的な医療・厚生機関への給料遅配に陥っているカタルーニャ州政府は先日、マドリッドの中央政府に50億ユーロの資金援助を要請したば かりだ。しかしそれは逆にカタルーニャ人のマドリッドに対する反感を強める結果となっている。この9月11日、「カタルーニャの日」にバ ルセロナで行われた独立要求のデモには、主催者発表で200万人、市交通警察の発表で150万人が集まり、市の中心部一帯の大通りを数時間にわたって埋め尽くした。この種のデモや集会を常に極端に過小評価する国家警察ですら 「60万人が参加した」ことを認めざるを得なかったのだ。


カタルーニャだけではなく、スペインにある17の自治州はそれぞれに借金を背負い財政破綻寸前の状況にあり、その多くが国の「自治体救 済基金(FLA: Fondo de Liquidez Autonómico)」からの資金援助を申請しなければならない状態である。その中で
マドリッド、ガリシア、ラ・リオハの3つの州は中央政府からの資金借り入れの予定が無い。つまり、今までさしたる赤字なしで州の運営を行ってきたということだが、なんとも腑に落ちない。バレンシアを除いて スペインの中で公金略奪の最も激しいと思われる地域がマドリッドとガリシアだからだ。


かつての独裁者フランシス・フランコによって最大限に権威付けられたマドリッド州とマドリッド市は現在の国政与党国民党の牙城であり、ま たガリシアはその フランコ、最後のフランコ政権閣僚で国民党創設に力を尽くして今年死去したマニュエル・フラガ、そして現首相マリアノ・ラホイの出身地で ある。歴史的にま ともな工業生産を行ったことの無いマドリッドにはスペイン中からの税金と資金が集中する。また伝統的な1次産業と観光以外にろくな収入源 を持たないガリシ ア州の豪華なインフラ整備が大規模な国庫補助によって支えられてきたことは言うまでも無い。


民族意識の高いカタルーニャ人たちの間では、工業化 の進んだカタルーニャの資金の多くが中央政府に吸い上げられてマドリッドやガリシアにばら撒かれ、フランコの子分とその取り巻きどもの懐 を潤し続けている と信じる者が多い。そして州政府が頭を下げて中央政府からの借金をお願いするような事態に、カタルーニャ人たちの苛立ちは爆発寸前になっ ている。


一方、EUではバロッゾ委員長自ら、「仮定での話」という注釈つきではあるが、史上初めて
「カタルーニャ独立」とその「国際的な承認」についての発言を 行った。9月11日にはEU本部は「仮にカタルーニャが独立したとしても、直ちにEUに加われるわけではなく、正式な申請をしなければならない」と釘を刺したのだが、それにしても、カタルーニャ独立、つまりスペインの分裂を念頭に置いた発言であり、大いに注目さ れる。カタルーニャ人たちは以前からスペインからの独立に対するEUの役割に期待し、「スペインの中のカタルーニャ」ではなく「欧州の中の独立国家カタルーニャ」の声が高まる。


マドリッド政府も内心その点を非常に恐れていると見えて、国庫資金借り入れに際して
カタルーニャ州政府が出した「政治的な条件を一切付けるな」という要求に 対して、ただ「負債を減らす努力をしてくれればよい」と答えたのみだった。「政治的条件」を付けたとたんに何が起こるか、中央政府は十分 に理解できたので ある。この状況に、いまだフランコ主義が根強く残る軍内部で激しい危機感が起こっている。8月末にフランシスコ・アラマン・カストロ大佐 が「カタルーニャが独立?俺の死体を乗り越えて行くがよい!」と 発言した。これはもしカタルーニャが独立の動きを始めたら軍が武力で鎮圧するという意味だが、それは新たな軍事クーデターをも示唆する発 言である。こうして経済危機は政治危機につながっていく。


おそらくいま筆者の目の前にあるのは腐敗し崩壊していく国家の姿なのだろう。バスク州でも、末期癌 のETAテロリストの釈放を求めて激しい運動が起こり、
中央政府は今までではとうてい考えられなかった柔軟な姿勢を見せ釈放を認める方針を発表した。 彼らはバスクの反発と分離の動きを心底恐れているのだ。その一方でマドリッドを中心に「ラホイ政権の軟弱な姿勢」に対して轟々たる非難の 声もまた響いてい る。さらに少数民族地域だけではなく、従来からフランコとその末裔たちに忠実に付き従ってきたガリシアやエクストレマデゥーラ、アストゥ リアスなどの地域 でも、国民党政府に対する反発が強まり与党国民党内部でも亀裂が広がりつつある。


こういった経済的な危機から政治的な弱体化に続く道は、ある意味でスペインの「自 業自得」なのだが、先ほども申し上げたとおり、国家の機能を破壊し国家を通さずに直接にその社会 全体を私物化しようとする巨大資本によってねじふせられた一面もあることを忘れてはなるまい。これについては次回 に実例を挙げてご説明しよう。

●「死にいたる病」
「死にいたる病」という言葉があるが、おそらくそれは「病そのもの」を指すものではなく、「病根」を見ずに「症状」だ けを抑えようとする人間の愚かさに ついて述べるものなのだろう。危機が叫ばれ始めて以来のスペイン政府は「血だ!血が足りない!血が無くなる!血をくれ!」と叫び続ける病 人のようである。 しかしその原因が心臓にあるのか、血管にあるのか、体のどこかに開いた傷にあるのか、それとも造血作用のほうにあるのか、…、そんなこと は全く意識に無 い。とにかく「出血を止めなくっちゃ!」とばかりに、血液の必要な組織や細胞に続く動脈を縛り付け栓をし、どうでもよいような小さな傷に 強力な絆創膏をべ たべたと身動きの取れなくなるまで貼りつづけるのだが、そうすればするほど体中の組織と細胞に貧血状態が強まり壊死が次々と広がってい る。ちょうどこんな 具合だ。


もちろん「血が足りない」ことを知った時点ですでに手遅れであり、緊急輸血、つまりEUと欧州中銀による資金注入は、単なる時間稼ぎに 過ぎない。しょせんどうあがいても助かりようが無いのだが、少なくとも、経済の「病根」についての意識と見識を持っていたのなら、こんな 「病」に冒される ことなど最初から無かったはずだ。日本人である筆者としては、1980年代後半以後の日本の愚かな経験から学んでほしかったのだが…。こ うして、手遅れになってもなおその原因に気づかないような在り方そのものが、手遅れの事態を招いたの である。それがこの国の「原罪」なのだろう。(東アジアに生まれ育った私としては、キリスト教的な「原罪」よりも、仏教の言葉を借りて 「貪・瞋・痴(とん・じん・ち)の三毒」を言ってみたい気がするが、哲学を語るつもりもそんな能力も無いので止めておく。)


言ってみれば、スペイン国民と国家指導者たちはいいようにカモにされたのだ。確かにアスナールはネオリベラル経済の信奉者でネオコン追随 者だった。しかし 元々彼の経済政策はフランコ独裁政権時代からあったオプスデイの路線の延長上にあり、彼は同時に強烈な国家主義者だった。米国でのネオコ ンの台頭を見てそ の路線に擦り寄って以来そこから離れることはないのだが、いま彼の頭の中に「偉大な統一スペイン」の姿は残っているのだろうか?


そして2000 年の総選挙で彼の国民党に絶対多数を与えたスペイン国民と財界は、バブルがいずれ崩壊する道理すら思い浮かばず、熱病の幻覚の中で目先の ユーロに踊らされ た挙句に全てを失った。そして再び2011年の総選挙で国民から絶対多数を与えられたアスナールの後継者たちは、詐欺師たちによって見捨 てられた国家の形 骸にしがみつき、欧州中銀や米国巨大資本の番頭となる以外を考える頭脳を持たない。彼らは自分たちを選んだ国民に詐欺の被害を押し付け、 詐欺師の側に立っ て生きる道を選んだのである。こうしてスペイン国民の多数派は二重にカモにされてしまった。


この8月31日にスペイン政府はEUの圧力を受けて
「バッドバンク」つまり不良 債権処理のための機構を作る決定をしたの だが、これが決定的にスペイン社会を二分化していくだろう。中小の金融機関は整理されていくつかのメガバンクにまとめられ、さらに世界的 な金融・投資機関 に系列化されるし、各企業はその傘下に配置されることになる。そしてその上部構造とそれを取り巻く者たちによる上流社会とそれに連なる中 流社会が再編成さ れるだろう。そしてカモたる大多数派の人民の肩には負債のツケがいつまでも背負わされることになる。抜け殻と化した国家機構にとって、巨 大資本による社会 の全面的・直接的な支配の道具以外の機能は許されない。それはもはや国家とは呼べない代物である。国家の解体は中東やアフリカ諸国だけで 起こっているわけ でもなく、また武力を用いてのみ行われるものでもないのだ。


2000年代になってこの国を襲ったバブルの熱病以来の過程は資本と国家による二重 の詐欺だった。ちょうど1980年代後半以降に日本を襲い続けているものと同じようにである。スペインにもし「よみがえり」があるとすれ ば、スペインのカ モの群れが自ら学んで賢くなるとき以外にありえないだろう。

(2012年9月11日 バルセロナにて 童子丸開)

シリーズ:  『スペインの経済危機』の正体
     
(その1)スペイン:危機と 切捨てと怒りのスパイラル 【Socialist Review誌記事全訳】
     (その2) 支配階級に根を下ろす「たか りの文化」
     (その3-A)バブルの狂宴:スペイン中 に広がる「新築」ゴーストタウン
     (その3-B) バブルの狂宴が終 わった後は
     (その4) 「銀行統合」「国営化」「救 済」の茶番劇
(その5) 学校を出たらそこは暗闇
     (その6) 「危機」ではない!詐欺だ!
(その7) 狂い死にしゾンビ化する国家(予定)

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(以上、転載終わり、(その7)へつづく)

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Palestine Solidarity in Sapporo
パレスチナ連帯・札幌 代表 松元保昭
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by limitlesslife

 『スペインの経済危機』の正体(その5) 学校を出たらそこは暗闇

みなさまへ   (BCCにて)松元

しばらく中断していた、バルセロナの童子丸開さんの「シリーズ:『スペインの経済危機』の正体」の(その5)「学校を出たらそこ は暗闇」が送られてきましたので紹介いたします。

彼は、スペインがどのように『「狂い死に」していくのかを記録しておきたい』とシリーズをはじめました。再度の敗戦と言われる原発事故後、「奈落 の底に突 き進む既得権勢力」と「新しいもう一つの日本を選択する市民」との拮抗がいよいよ顕在化している我が国も、いま「奈落の底に突き進む記録」が求め られてい るようです。

======以下、全文転載======
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サーバーの仕様のため、サイトへのアップや変更の反映が遅れ る場合があります。1~2日、お待ちください。
http://doujibar.ganriki.net/webspain/Spain-5-nightmare_after_graduation.html
シリーズ: 『スペインの経済危機』の正体(その5)
学校を出たらそこは暗闇

●単なる「失業率の数字」に現れない社会の実体
 スペイン国家統計局が2012年4月に発表した統計によると、
スペインの失業者は560万人を超え失業率は24.44%となった。つまり就業を望む国民のうち4分の1に職が無い状態であ る。2012年に入って1ヶ月の間に、1日につき9000人が職を失った。失業率は、先に国家破産状態となったギリシャ(21%)を超え、破産宣告をしたアイルランド (14.7%)やポルトガル(15%)よりもはるかに大きい。バブル崩壊による経済危機が表面化する前の2007年第3四半期での失業者数は180万人であり、5年もたたずに3倍以上にも増えてしまったのだ。単なる株価 や国債利子率などの数字で見るよりもはるかに深刻な事態がスペインで進行している。

もちろんだが、この560万という数字には職探しを諦めた者や職を求めて外国に向かった者の数は含まれない。またバブル最盛期には数百万人規 模でいた合 法・非合法の外国人居住者、特に非合法の者達の多くが国外に去った。2008年以降に「失われた仕事」の総数は、おそらくこの公式な統計の数 字よりもはる かに大きなものだろう。バルセロナの街角を眺めても、以前は外国人か若い人々が行っていた道路清掃などの仕事を近頃では中年のスペイン人男性 が中心に行っ ている。数年前まで普通の会社で事務職をやっていた人もかなりいるのではないかと思われ、おそらくは3ヶ月程度の短期の仕事だろうが、それで も職にありつ けるだけましである。また街頭にはやたらと物乞いの姿が増えている。以前はルーマニアから流れてきたヒタノ(ジプシー)が多かったのだが、近 年では初老の スペイン人の姿をよく目にする。

ただしこの現在の失業率が最高記録というわけではない。実はこの20年間で最も失業率が高かったのはフェリペ・ ゴンサレス社会労働党政権終盤の1994年で、そのときには実に24.55%にものぼっていたのである。だが2012年の数字の内実は過去の ものとは根本 的に異なる。公表された数字だけ見ていては社会と経済の実体を知ることはできない。

スペイン国民は元から失業率が10%を超える状態には慣れて おり、以前はそれでも何とか生きていくことができた。1980年代に社会労働党政権が発足して以来、この国の労働者は以前には考えられなかっ たような膨大 な権利を手にしていた(というかフランコ独裁時代には労働者の権利などロクになかった)のである。失業者に対する最長2年の失業保険給付など 手厚い保護の 政策があり、また伝統的に家族で同居する割合が高く同居者のうちの何人かに仕事や失業保険、年金などの収入さえあれば、その家族の生活が維持 できた。スペ インの中では抜群に物価の高いバルセロナやマドリッドなどの大都市でも、少なくとも食料品と家賃は日本などと比べて圧倒的に安かったからだ。 また、失業保 険の給付を受けながら当局のチェックを逃れて「ネグロ(闇)」と呼ばれる小額の臨時収入を手にする道が様々にあった。これはよほど派手にやる か誰かの告発 でもない限り当局者もあえて厳しく調べようとはしなかった。

ある意味で非常に牧歌的な状況であり、また社会的な面でも日本に比べるとはるかに余 裕があった。多くの公営のスポーツ施設や文化活動の場は無料か非常に安い料金で使用できる。カタルーニャ州などでは金融機関はその収益の一部 を社会的な活 動に使う義務を負い、日本では考えられないような贅沢な絵画や彫刻の展覧会が市民に無料で提供されてきた。また都市の各地域で行われる祭りや 音楽祭などの 行事には市からの膨大な援助があり、特に夏には著名な音楽家や歌手による無料コンサートなどが行われるのが普通だった。だから「失業率 10%」とか 「15%」などといわれても、今のように社会が荒んでギスギスした雰囲気に包まれるようなことはまず考えられなかった。

2008年以後にスペインの市民社会から失われたものは、ただ単に経済的な余裕ばかりではない。英国ガーディアン紙の調査によると、今年(2012年)に入って欧州の中で文化・芸術施設や行事の予算を最も多く切り捨てているのがスペインな のである。公的な機関ばかりではなく、不良債権を抱えて窮地に立っている金融機関も、以前のような市民社会の中に文化的貢献を果たすだけの余 裕を持たな い。一般の人々も文化的な行事に参加したりそれを支えたりする余力を失いつつある。基本的人権の不可欠な要素となっている「文化的な生活」 は、いまこの国 の中下層の階級から力ずくで奪い取られようとしている。

●社会主義者による成功と失敗
 その 一方で従来は、社会保障(健康保険、失業保険、年金)の企業負担は重く、賃金の改定や人員整理に対する労働組合の発言権は絶大だった。雇用者 は1ヶ月の短 期雇用でも社会保障費を国に納める義務がある。こちらでは日本のような「物件費」で落とす「アルバイト」は基本的に非合法なのだ。ごく一時的 な仕事でもと にかくお金を払う場合には正式な人件費として登録しなければならない。特に雇い主の都合で辞めさせる場合には高い違約金を払う必要がある。逆 に言えば、そ れだから「ネグロ」の仕事が登場することになるのだが。
そのような制度の中で、スペイン国民の多くは、おおよそ自分の仕事の効率や所属する企業 の収益など気にすることなく、半年か1年ほどどこかの職場で働いて、ちょっと気に入らなければすぐに辞め1年ほど失業保険と、ひょっとすると 当局にばれな い程度の「ネグロ」の収入を得て過ごしながら、また次の職を探すという生活が当たり前の状態だったのである。派手な生活さえ望まなければけっ こう自由でゆ とりのある生活を楽しむことが可能だった。

このような労働者優遇の制度が、特にスペイン国内の企業の90%以上を占める中小零細企業、街の商店 やレストランなど、大部分の人々の生活に密着した職場の事業主にとって非常に頭の痛い問題を作っていたのは確かだ。高い社会保障費を納めなが ら仕事に慣れ ない者を我慢して雇い続け、やっと少し熟練したと思ったとたんに辞められ、また新しい従業員を探さなければならない。ただでさえ計画性に乏し くその場限り の思いつきとやっつけ仕事に陥りがちなスペイン人なのだが、こんな状態では高い労働生産性など望むべくも無かった。

それでも1980年代までは 賃金の基準が欧州の中では最も低い部類だったため有力な外国企業が多くスペインに進出した。他の中小の職場もそのおこぼれに預かって何とか仕 事を回すこと ができたが、東欧圏が「解放」され90年代により安価な労働市場が開放されて以来、スペインから撤退する企業の例が次々と増えていった。加え て、2007 年から始まったバブル崩壊による経済の沈没は今までの牧歌的な状況を一気に変えてしまった。世界的な景気の悪化による生産縮小の影響が大きい とはいえ、そ の原因の重要な一部にこういったスペインの雇用政策があったといわれる。

もちろん為政者が外国企業の撤退を見越して自前の産業基盤を自力で作っ ていく努力をしていけばよかったのだろうが、政府も官僚も財界もそんな自力本願の発想とは無縁だった。そして、1996年についに社会労働党 政権の無為無 策ぶりと経済の停滞に業を煮やしたスペイン国民は、長期間タブー扱いされてきた元フランコ与党の末裔である国民党を選んだ。しかしそのアス ナール政権 (1996~2004)による「自前の産業」は、このシリーズのその2)、(その3A)、(その3B)でご説明したとおり、目先のカネに目がくらんで自らの経済をぶち壊し ただけの愚劣この上ないものだった。
それは何の脈絡も無い土建業者への派手なばら撒きとタックスヘイブンへの送金しか考えないスペイン支配層による「新自由主義経済」、つまり無 秩序な略奪の 横行を実現させ、スペイン社会からありとあらゆる余裕と豊かさを奪い取った。その間に家賃と住宅ローン返済は猛烈な勢いで上昇を続け、公共料 金や食料を含 む物価もまたそれを追いかけるように高くなった。2007年のリーマン・ショックが「繁栄と成長」の幻覚が拭い去られたときに国民の下半分の 階層に残され たものは、あらゆる余裕を剥ぎ取られた荒んだ生活だけだった。

●労働改革による「カースト社会化」
 2004年に政権は再び社会労働党に戻されたが、2008年に本格的な経済危機が訪れて以来、スペイン政府は増え続ける 失業、特に若年層の失業への対策として、経営者と労働組合と政府の3者の話し合いで労働法の改正作業を進めた。サパテロ政権が標榜していたのはかつて東西合併後のドイツが長引く不況を克服する際に用いた方法、つまり、失業 者を減らすために危機を脱するまでの期間の労働と賃金の「分かち合い」を手本にするものだった。しかしこのような理想主義がスペインで実現する見込みはゼロに等しかった。

その方法はドイツ人のような客観的な状況判断と理論的な筋道を大切にする国民だからこそ成功したのである。また、1990年代のドイツ国民に はまだ「分か ち合う」ことができるだけの余裕があった。さらにスペインの場合、自前の生産手段と資本の分厚い土台を持つドイツとは異なり、外国企業を誘致 し金持ちの外 国人を招いておこぼれを頂戴することを経済活動と心得る貧弱な発想が根付いていた。おまけに本来なら国内での再生産への投資と貯蓄に向かうべ き資金がすで に底なしの「ブラックホール」に吸い込まれ、借用書だけが残されていた。全てが見当はずれで全てが手遅れだったのだ。

そしてその実態を、サパテロ政権の労働移民大臣コルバッチョは正直に告白した。この労働改革は雇用を増やすものではなく雇用を破滅させないようにするためのものだ、と。つまりそれは、職場で雇用を確保するためには雇用条件の悪化と 人員整理を我慢しろ、というものに過ぎない。実際には、この労働改革が始まってから、1ヶ月に平均して3万~4万人ずつが新たに職を失っている。これが社会保障政策を最大の柱とする政権から生まれたものである。皮肉というにしてはあまりにも無残な話だろう。

労働改革はそれ以来、国民党政権に取って代わった現在まで延々と段階を追って進められているのだが、スペインの労働者階級は以前に享受して いた権利をそのたびに剥ぎ取られている。以前は非常に難しかった正規労働者の解雇や賃金の引き下げがこれから後は企業の都合だけで簡単にできるようになり、年金は積み立て期間が延ばされた上に需給開始年齢が67才にまで引き上げられた。そのうえで病院や養護施設か ら飛行場や鉄道にいたるまでの数多くの公営企業が国内外の大資本によって「民営化=私物化」されようとしている

しかしこのような変化は決して、スペイン社会全体に均一に平均的に進んでいるのではない。労働人口の4分の1が失業状態、ということは逆に言 えば、4分の 3がまだ職を得ているという意味になる。その4分の3の中でも下層に含まれる者たちはいつ整理されるのか分からない不安定な状態だが、それよ りも上にいる 全体の半分程度の者たちの生活に大きな影響はないだろうし、トップの数%の者たちは逆に収入と権力の拡大のチャンスに恵まれることになるだろ う。社会の矛 盾と惨状は下の方に沈殿していき、その沈殿物は時間を追って増えていくはずだが、決して社会全体を平均して沈めていくことは無い。

2010年7月末の国家統計局の統計結果によれば、この時点ですでに130万を超える家族が、親、夫婦、子供を含め、全員に職の無い状態であった。しかもバブルの「あぶく銭」が消えてなくなり以前の ような「ネグロ」の収入も見込めない。そしてその数は、2012年6月には170万家族に拡大している。そして、住宅ローンが支払えずに銀行から住処を追い出される数は今年1~3月の間に約4万7千件に達した。1日ごとに510家族が路上に放り出されていることになる。これが現実だ。不況と失業の波はこのような中 下層の者達を集中的に襲っているのである。

職の無い人々は、失業保険の延長とともに、2011年1月から導入された長期失業者に対する月額400ユーロの援助で 何とかかろうじて生きている状態である。それもいつ打ち切られるか分かったものではないし、そもそも400ユーロでは家族の食料の足しになる 程度のものに 過ぎない。こうして今まではさほど明らかではなかった中流以上の階層とそれ未満の差が近年中にはっきりしてくるものと思われる。いずれそこに 生まれるの は、従来までの中南米や東南アジアで一般的な、一握りの上流階級、薄い層の中流階級の下に、膨大な下層・貧民階層が横たわるカースト社会だろ う。欧州(今 は一部の国々だが)や、おそらくは日本が向かおうとしているのは、こういった、中南米諸国がいま必死に脱出を試みている状態なのだ。
もちろんだが、そのような中で最も深刻な被害を受けるのは10代と20代の若年層である。

●失われた世代:「雇用難民」と化す若者たち
  2010年8月に、ジュネーブに本部を置く国際労働機関(ILO)は、2009年に世界中で15~24才の若年層の13%、約8100万人が 失業状態であ り、これは今までの統計上最大の数字であると発表した。彼らは、人間の社会的な人生にとって最も大切な最初の時期に経済活動から切り離されて しまった「失われた世代」の登場を警告したのである。ILOは2012年5月にも、 この年中に世界の若年層の失業率が18%に達するだろうと予測し、特にスペインやギリシャなどの欧州諸国で事態が深刻化しつつあると語った。 実際には、 2012年1月に発表された統計によれば、スペインの若年層の失業率は50.5%という驚異的な数字にのぼっている。「経済危機」が本格化す る前の 2008年上四半期に同じ若年層失業率は21.3%だったのだ。

もちろんこの「失業率」の母数である「働く能力と意思のある人数」に学生は含まれていない。また「職探し」を諦めた人々の数も入っていな い。2010年9月の統計によると、スペインで、学生でもなく職にも就いていない若者の割合は14%を超えており、 欧州の中で最も高い数字となっている。(最も低いのはオランダとデンマークで約4%。)もちろん彼らの多くは親族に面倒を見てもらっているの だろうが、こ の大部分の親族すらぎりぎりの生活を送っていることは今までの統計で容易に想像が付く。それでも大学に行く費用が安いのならまだ救いようがあ る。しかしい かんせんスペインの大学は欧州の中で最も高い授業料と最も低い奨学金を誇っている(?)状態なのだ。

2011年4月に明らかにされた政府当局の数字によると、同年1月から3月にかけて新たに職を失った約26万人の90%が35歳未満だった。失業者の中で1年以上も職を探し続けている割合は46%だ が、35歳未満の人々ではより厳しい状態にある。この年の5月15日から始まったいわゆる「15M(キンセデエメ)運動」の背景にはこのような現実がある。

2012年2月1日付のエル・ムンド紙は「危機の間に30万人のスペイン人の若者たちがスペインから出て行った」と いう記事を掲げた。これは一部のスペインの企業家が作るFENAC財団と経営者協会幹部の資料と見解をまとめたものだが、それによると、経済 危機が表面化 した2008年初頭以来2011年末までの4年間で、31万人近くの若いスペイン国民が外国に移住したが、その大部分が大学や上級職業学校な どで高等教育 を受け様々な分野で上級の技術を身に付けている階層である。この国にも優秀な理工系の学生や研究者は大勢いるのだ。そういった本来ならスペイ ンの経済再建 に従事すべき人材が、いま雪崩を打って自分の国から脱出している。2012年の第1四半期には4万人を超すスペイン国民が国を捨てて外国に向かったが、そのほとんどが25~45才の最も活動的で生産性の高い世代なの だ。

もちろん収入が高い英国やドイツなどで仕事を探す上級の教育と訓練を受けた人々は以前からいた。特に2002年のユーロ導入とEU内での労働 市場の自由化 以来、その傾向は強まっていた。21世紀に入ってスペインでは腕の良い若い看護婦が不足し各地の病院で問題になっていたが、その原因は、優秀 で英語を学ん だ看護婦が次々と、看護婦が不足しより高い給料を支払ってくれる英国に向かったことである。若い医者も同様で優秀な者ほど外国に去っていく。 ただ、これは 要するに職業選択の幅が欧州中に広がったことで少しでも有利な職場を求める自然の現象だ。

しかしこの数年間で自らの国を離れる人材では事情が異なる。英国などの欧州北部に向かう医者や看護婦の数は2010年から12年の2年間で2倍に増えている。 大学では最後の学年になっても国内企業からの求人がほとんど全くといってよいほど無いのである。誰だって少しくらい条件が悪くても国内での求 人があるのな ら、就職先として第一にそこを当たってみることだろう。しかし無いものはどうしようもない。筆者の知り合いの大学生や大学を卒業したての若者 たちは口をそ ろえて「外国で職を見つけるルートを探している」と言う。大学の先生もそのために奔走している。実際にこの1年間にドイツで職を見つけて住み着いたスペイン人の数は11.5%も増えている。

筆者の知る工学部の卒業生は、「メシを食う」というだけなら国内で何とかなるかもしれないと言う。ただし自分の専門から外れた方向でなら、と いうことだ。 せっかく必死の勉強で身に着けた構造力学の知識と応用技術を生かす方法は、今のスペインでは見つからない。「本当に馬鹿げている」と彼は憤 る。「この国は 多くの費用をかけて教育と技術を施し、その人材は結局ドイツやイギリスのために働くしか無いのだ」と。国家建設の基本デザインを持たない為政 者を持つと、 その国がどうなってしまうのか、スペインが格好の見本を作っているようである。優秀な若い世代を失った国はその未来を失うしかあるまい。「失 われた世代」 は「失われた国家」を作るのみである。

●電気を止められた公立学校
 「大学は出たけれど…」は日本でも言われているが、こちらでは大学や中級・上級の職業訓練校を含めて「学校を出たらそこ は暗闇」の状態である。しかし実は卒業生だけが「暗闇」の中にいるのではなかった。
2012年1月、南欧スペインとはいっても冬の寒さはやはりつらい。とくに山間部ではマイナスの温度になることも珍しくなく、日の光が当た る時間も短い。その中で、バレンシアやバレアレス、カスティーリャ・イ・ラマンチャ、カスティーリャ・イ・レオンなどの州で、公立学校への電気が止められたのである。こちらの写真に 見るように、全国で700に近い公立の小中学校、職業学校、大学が照明も暖房も無くコピー機も使えず、給食を作ることすらままならない状態に 陥れられたの だ。理由は、その地方の自治体が配電会社に電気代を長期間支払っていなかったからである。文字通り「学校に入ってもそこは暗闇」である。

照明用の電気だけはじきに何とか確保できたものの、全国で50万人もの生徒・学生が、こちらの写真にあるように暖房の無い教室でオーバーや毛布までかぶって震えながら授業を受け、家から持ってきた冷たいパンをかじりなが ら勉強をしなければならなかった。こちらの写真こちらの写真はこの悲惨な状態を訴え州政府に抗議するバレンシアの上級職業学校の学生である。
電気を止められた学校が特に多かったのは
バレンシア州だが、そのバレンシアで公金、つまり住民の税金がどんなふうに使われていたのかは、当シリーズのその2)、(その3Aでご確認いただきたい。

飛行機が飛ばない飛行場の建設、走る自動車がほとんどない高速道路の建設、大きく奇抜なだけで役立たずの施設の建設、自動車レースのF1グラ ンプリやヨッ トレースのアメリカンズ・カップ開催とそのための膨大な施設の建設、ローマ教皇を招いての大規模な宗教行事とその準備や中継費用、王族による 公金略奪への 関与、等々。そのたびに数十~数百億円単位でカネが飛び交い、地元ボスと国民党の政治家やカトリック教会や自称芸術家たちの懐を経て、大銀行 の金庫と外国 のタックスヘイブンに消えた。その結果、公立の小中学校、大学進学コースと職業学校、公立の病院や養護施設などに必要な費用が極端に不足し、 学校の電気代 すら半年以上も支払いが行われなかったのである。

バレンシア州などは1ヶ月ほどしてようやく国からの援助で滞っていた電気料金の一部を払ったのだが、しかし4月以降も公立学校維持のための経費を出し渋っている。教員の首を切り教室を合同にして人件費を大幅に削り、まともな授業 のできない状態のまま学年末と夏休みを迎えてしまった。このままでは今年の冬が思いやられるが、その前にこの9月から、従来まで4%に抑えられていた学用品への消費税がなんといきなり21%にされてしまったの だ。この国の支配的な階級の者たちは、自分たちの子供にはバブルの最中にたっぷりと肥やした懐のカネでオプス・デイかイエズス会の経営する私 立学校に行く のだから、下々の子供たちが直面する状況には何の痛みを感じることも無い。そういう種類の者たちである。そしてこれが彼らの「新自由主義」な のだ。

●警察官も軍人も抗議の隊列に
 2011年の夏は15M運動参加者たちの行軍に彩られた。当サイトの『15-M(キンセ・デ・エメ)』シ リーズ
『第7話:5月15日から10月15日への「長征」』に あるとおり、数万の人々がスペインの各地から歩いてマドリッドに終結し、そこからまたブリュッセルまでの行進が始まったのだが、2012年の 夏には、全国 にある石炭鉱山の労働者たちによる行進が新聞やTVをにぎわすことになった。政府はエネルギー政策の転換と称して、国営の炭鉱を次々と縮小・ 閉山に追い込 みつつある。本来ならば、もはや原子力に頼ることはできずまた石油価格決定権を国際資本に支配されている現状だからこそ、国内産の石炭を保護 する必要があ るのだが、この国の為政者の頭の中では、銀行救済と特権階級の利権確保のため以外の出費は全て撲滅の対象である。何せ彼らは小中学校の電気を 止めて平気な 者たちなのだ。

6月半ば以降、アストゥリアス、ナバラ、アラゴン、ガリシアなどスペイン各地の炭田から出発した2万人を超える炭鉱労働者たちは、自らの2 本の足で歩きとおし7月9日にマドリッドのプエルタ・デル・ソル広場に結集した。 そしてそこで支援の労働者や15M運動活動家を含む市民たちの熱狂的な歓迎を受けたのである。地元の炭鉱では彼らの仲間たちによる、地下深い 坑道に立てこもってのストライキが続けられた。

そして同じ7月9日、カタルーニャ州では、マスコミでの扱いは本当に小さかったが、今まで考えることもできなかった動きが起こっていた。人員整理と待遇の悪化に抗議する州警察の警察官たちが、州北部 のジロナ市から州政府のあるバルセロナまで100kmの道の行軍を開始したのである。人数こそわずか6人だったが、警察官が有給休暇を費やし てこの「不況」と呼ばれる詐欺犯罪への抗議を明らかにしたのだ。

地方公務員の切捨てに対する抗議が続くマドリッドではもっと驚くべき光景が見られた。非番の国家警察の警察官たち数十人が抗 議する労働者の隊列に加わったのだ。また公務員の中でも、学校教師と並んで最も厳しい整理の対象となっているのが消防士たちである。今年のス ペインの夏は 異常な熱波に襲われて記録的な山火事に悩まされている。しかしどの地方でも消防士の人数が足りない。全国で消防士たちの抗議活動が続いている のだが、マド リッドで行われた消防士たちの抗議活動に対して、警備にあたる武装警官隊の一部が紺色のヘルメットを脱いで彼らに敬意を表し、その姿はテレビ で全国に報道 された。

そして7月30日にはアンダルシア州セビージャ市で、 この「不況」という名の国家犯罪と政治腐敗、理由無き首切りに抗議して、国民党の地方方部前で、消防士などの公務員が中心となり色とりどりの 発炎筒を炊き 放水を繰り返す激しいデモが行われたのだが、その中には同時に、地方警察官、国家警察官、シビルガード(軍隊に所属する国内治安部隊)、そし て正規軍の軍 人たちも加わっていたのである。もちろん、だからといってロシア革命前の戦艦ポチョムキンのような状態になっているわけではないのだが、この 国の「経済危 機」なるものが巨大な詐欺であり犯罪であるという認識が、社会の一部の者達だけではなく、幅広くいろんな職種の隅々にまで広まりつつある現状 を表してい る。

2012年9月からは、消費税の極端な上昇が、低所得者、特に500万人にのぼる失業状態の人々とその家族に、そして小中学生を含む若い世 代に、いっそうの苦痛と困難を浴びせかけることだろう。消費活動はさらに大きく落ち込み、中小の商店と企業はシャッターを下ろす以外の方法を 持たないだろ う。国民党政府は「援助」という名の新たな借金で富裕階層の利権を守りつつ、下層の国民を貧民に、中流の者達を下層に叩き落しながら、IMF と欧州中銀の 求める構造調整、つまり国家と国民生活の破壊にまい進することになるだろう。株式市場や国債利子率の数字といった新聞に表れる数字など、こう いった社会の 実体を何一つ表すものではあるまい。日本で「いざなぎ景気」と言われた2000年代初期の「最も長い好景気」の間に、小泉改革に蝕まれていく 実際の日本社 会がどう変わってしまったのか、思い出してもらいたい。
次回は、今までの経過をまとめて経済に名を借りた詐欺・強盗の正体を明らかにしてみたい。

(2012年8月下旬 バルセロナにて 童子丸開)

シリーズ:  『スペインの経済危機』の正体
     
(その1)スペイン:危機と切捨 てと怒りのスパイラル 【Socialist Review誌記事全訳】
     (その2) 支配階級に根を下ろす「たかりの 文化」
     (その3-A)バブルの狂宴:スペイン中に広 がる「新築」ゴーストタウン
     (その3-B) バブルの狂宴が終わった 後は
     (その4) 「銀行統合」「国営化」「救済」 の茶番劇
(その5) 学校を出たらそこは暗闇
(その6) 「危機」ではない!詐欺だ!(予定)
(その7) 狂い死にしゾンビ化する国家(予定)

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(以上、転載終わり、(その6)へつづく)



by limitlesslife

『スペインの経済危機』の正体(その4) 「銀行統合」「国営化」「救済」の茶番劇

みなさまへ    (BCCにて)松元

バルセロナの童子丸開さん(これまでもスペインの歴史と現在についてたくさんの論考がありますが)、新たにスペインがどのように『「狂い死に」し ていくのかを記録しておきたい』と、「シリーズ:スペイン経済危機の正体」をはじめました。(その4)は、「銀行統合」「国営化」「救済」の茶番 劇、です。

再度の敗戦と言われる原発事故後、「奈落の底に突き進む既得権勢力」と「新しいもう一つの日本を選択する市民」との拮抗が顕在化している我が国 も、いま「奈落の底に突き進む記録」が求められているようです。

======以下、全文転載======

(サーバーの仕様のため、サイトへのアップや変更の反映が遅 れる場合があります。1~2日、お待ちください。)
http://doujibar.ganriki.net/webspain/Spain-3b-the_end_of_the_bubble.html
シリーズ: 『スペインの経済危機』の正体(その4)
「銀行統合」「国営化」「救済」の茶番劇

2012年7月10日、スペインは事実上国家破産したと言っていいだろう。この日、EU、 欧州中央銀行、IMFの「トロイカ」は、金融機関の管理・再編方法を含めた超緊縮財政を求める
32もの厳しい条件をつけたうえで、 最大で1000億ユーロ(約10兆円)規模の対スペイン「銀行救済策」を行うと発表した。翌11日にラホイ政権は、何一つ実質的な国会の審議 を経ることな く、消費税率の大幅値上げや公務員の賃金カット、教育機関や病院での人員削減など、即座にそれらの条件を実行し2年半をかけて国家財政から 564億ユーロ (5兆6千億円)を浮かす政策を、さっさと決めてしまった。

しかもその緊縮財政で、どの部門からどれくらい赤字削減の資金を調達できるのかという計画の詳細はその英語訳が外国の投資機関向けに発表されただけでありスペイン国内向けには全く準備されなかったの だ。自国の国民にだけはその内容を見せたくなかったのか、あるいはそれが元々どこかの国で英文で作られスペインに押し付けられたものだったの か…。それは分からないが、どこの国でもイザとなったときに政府のやることは決まっている。スペインの場合、大手報道機関がそれを見つけて大々的に報道する点が、日本より少しはマシなのかもしれない。

今後はあの「トロイカ」から派遣された『黒服の男たち(Men in Black)』――「破産管財人たち」――が3ヶ月に1度の割合でマドリッドのスペイン中央銀行あるいは財務省にやってきて詳細をチェックする。そしてスペインは「トロイカ」の中心である欧州中央銀行の執行部のイスを失った。この国にはもはや自国の経済政策を決定する力は存在しない。わずか20ページに書かれた32項目の条件 は、この国にとっての「マッカーサー命令」である。逆らうことは許されない。

10年物国債の利回りこそ先に破産したギリシャやアイルランドのような高さは無い。外見上スペイン国債はぎりぎりで「ゴミ箱行き」を免れてい る。しかしそ れは、スペインの経済的死がユーロの死、EUの死、そして世界経済の死にもつながりかねないことを理解するEU、欧州中央銀行、IMFが、必 死に「心臓 マッサージ」を行っている結果である。この国にもはや自力で「心臓」を動かす能力は無い。どれほどうわべを取りつくろおうともこの事実上の国 家破産は隠し ようがないだろう。私が以前に「ラホイはその破産宣言の貧乏くじを引き、国民に尻拭いをさせて怨嗟の的となる運命 を負うことになる」と予告したと おりである。

このシリーズの(その1)、 (その2)、 (その3A)、 (その3B) で述べてきたように、このような事態は、目先の利害以外のものが視野に入らずその一切の責任をとろうとしない支配階級の者たちによってひき起 こされた。し かし、陰謀論的な言い方かもしれないが、この腐りきったスペイン経済は、そのようなスペインの特徴を知っている者たちによって、ユーロ圏と EUの主導権を 握り操るために仕掛けられた「時限爆弾」ではないのか、という気すらしてくる。

まあそこまで裏読みする必要もないだろうが、しかしこの欧州のゴタゴタの中で次の主役になろうとする勢力が現れるのは当然だ。拙訳『銀行家どもに食いつぶされる欧州』にもあるが、欧州中央銀行総裁のマリオ・ドラギと、辞任までちらつ かせてスペイン「救済」でのドイツの主導権を奪ったイ タリア首相マリオ・モンティは、ともにゴールドマンサックスの重要な関係者である。欧州市場で主導権を取ろうとする勢力の暗躍が考えられる。 実際に、空元 気を繰り返すスペイン首相マリアノ・ラホイがついに白旗を揚げたのは、EUでの「スペイン救済策」が発表されるたびに波状的に引いては高まる 10年物国債 の利回りとマドリッド株式市場の下落のためだが、これも意図的に操作された可能性があるだろう。

その一方でスペインの経済大臣ルイス・デ・ギン ドスは2004年から2006年までの間、例のリーマンブラザーズの欧州相談役に就任していた。今日のスペイン経済の破綻は確かに 1998~2007年ま で続いたバブル経済の影響が大きいのだが、そのバブル崩壊の引き金を引いたのがこのリーマンブラザーズの倒産である。このギンドスという男、 よほど破産に 取り付かれているものと見える。彼がラホイ政権の経済省として欧州中央銀行に出向いた際に、この旧知の男の首を絞めるまねをした(写真)マリオ・ドラギの動作は、ひょっとすると単なるおふざけではなかったのかもしれない。
ここで、このスペインの事実上の国家破産に至る過程を振り返ってみたい。

●スペインに訪れた2段階の死
 この国は、実質的に欧米の政治と経済を動かす者たちによって行われるビルダーバーグ会議で、2段階で死亡宣告を受ける羽 目になった。
2010年6月4日、バルセロナ近郊の街シッチャスで行われたビルダーバーグ・グループの会合で、スペイン首相ホセ・ルイス・ロドリゲス・サパテロは、欧州全体を 覆う経済危機に立ち向かうスペイン経済の強靭さと健全さを強調した。世界の経済と政治を操る出席者たちは鼻でせせら笑ったことだろう。債務超 過に悩むサパテロ政権は、その少し前の5月12日にEUの強い圧力の元で緊縮財政実施を約束させられ、5月15日には議会を前にわずか2分間をかけて、同国史上初めてとなる 公務員給与の引き下げや年金改革などを含む16項目の緊縮政策を発表したばかりなのだ。IMFは間 髪をいれずサパテロの決定を賞賛したが、その2週間後に行われたビルダーバーグ会議ではおそらくスペインの「安楽死」計画が練られたに違いな い。その年の9月1日付のエル・ペリオディコ紙は、5月と6月のわずか2ヶ月間で668億ユーロ(6兆6千億円)もの国外資本がスペインから逃避したこと を告げている。沈没しかける船に留まるネズミはおるまい。

このときにすでに「生命危篤」を宣告されたわけだが、より厳しい運命が2年後にラホイにやってきた。そして今回は「支援」という名のさらなる 膨大な借金を 背負い込まされたうえで「脳死状態」にさせられ、「生命維持装置」を取り付けられた。後は「腐肉」を取り除いたうえでの「解体処分」が待って いるだけだろ う。犠牲にさせられるのはこの国を死に追いやった支配階級の者たちではなく、一般勤労階級であり、その若者であり老人であり母親であり子ども である。20 世紀に中南米で繰り広げられたIMFを使う金融支配と国家・地域の破壊が、21世紀には欧州各国で行われるのだ。

2012年5月にはスペイン第4の銀行バンキアが事実上の破産宣告をした。それはこの国の「心臓停止」宣言でもあった。その後の6月3日 に、ワシントンで行われビルダーバーグ会議に出席したスペイン副首相ソラヤ・サエンス・デ・サンタマリアは、FRBとIMFの面々を前にした秘密会で、 さぞおいしい「スペイン料理」のレシピを示して見せたことだろう。

スペインでは2010年のビルダーバーグ会議の少し前から、バブル経済による大量の負債を抱え込んだ中小の銀行に対する公金注入が始まって いた。前年の2009年3月にカハ・カスティーリャ・ラマンチャ(CCM)の経営悪化にスペイン中央銀行が介入したのだが、そのCCMはビルダーバーグ会議からわずか2週間後の6月30日に解体され、 カハスツールに吸収された。そしてそれを皮切りに、経営難に陥ったスペイン国内各地のカハ(貯蓄銀行)が次々と統合されていき、スペイン中の 「悪い血」が 集められることになる。その中で最大のものでありスペインに引導を渡す巨大な癌となったのが、バンキア銀行である。次にそれを眺めてみること にする。

●バンキア銀行の成立と倒産
 まず、バンキアの 事実上の前身といえるカハ・ マドリッドを見てみよう。こ の貯蓄銀行は1702年に礎石が置かれた、スペインでも最も伝統ある銀行の一つである。1996年から始まったアスナール国民党政権の間に、 (その3A) でお見せした数多くのバブルの遺跡に巨大な投資をした中心がこの銀行だが、リーマン・ショック以来の苦境を切り抜けるべく、2007年まで IMF専務理事 を務めたロドリゴ・ラトを会長に据えたのが2010年1月のことだった。ラトはアスナール政権の経済大臣であり、この銀行の経営者会議には国 民党関係者が 多い。しかしビルヒリオ・サパテロ・ゴメスを筆頭とする数名の社会労働党(PSOE)の関係者もおり、旧共産党関係の統一左翼党や同党の支持 母体である労 働組合連合(CCOO)関係者さえ加わる。

そのカハ・マドリッドは、同年12月に、他の貯蓄銀行と「緩やかな合併」をしてバンキア銀行の中心になったが、その成立は少々面倒である。 まず2008年に進行する金融危機に対処するために国営のFROB(Fondo de reestructuración ordenada bancaria銀行再建基金:仮訳)が作られた。次にスペイン中央銀行によって2010年半ばに銀行システムの保護を目的とした SIP(Sistema Institucional de Protección保護政策システム:仮訳)が登場し、その元で同年12月にBFA(Banco Financiero y de Ahorros融資貯蓄銀行)の仕組みが形作られた。バンキア銀行はそのBFAの一部門として、カハ・マドリッドとバンカハ(バレンシアが本部)を主体と し、他の5つの中小貯蓄銀行を糾合してできたものである。

しかしこれは完全な合併ではない。それぞれの金融機関の主体性を保ちながら緩やかにつながる連合体であり、ひとつの破綻が他に波及しにくい ――言い換える と極めて無責任な―ー形を考えたのだろう。ロドリゴ・ラトは2012年5月にバンキアの会長を辞めた後もカハ・マドリッドの会長のイスに座り 続けている。

こうしてバンキアは、サンタンデール、BBVA、カシャバンク(バルセロナが本部)に次ぐ、3300億ユーロの資産を持つスペイン第4の銀行 となったのだ が、しかしその内実は苦しい経営を抱える大小の貯蓄銀行の寄り合い所帯でしかな。そのバブルによって膨らまされた資産はもちろん実体のあるも のではなく、 スペインの「腐った血」を1箇所に寄せ集めたものといえる。これがスペインの金融システム全体の「心臓発作」をひき起こすのは目に見えてい た。

しかし実を言えば、バンキアが誕生してから今年の5月7日に国の支援を受け入れて一部国有化されるまでにいたる過程は、ほとんど明らかにさ れていない。5月29日に、首相のラホイはバンキアの欠損を調査することを拒否した。国会内でも、主要に この銀行に関与する与党国民党はもとより、野党の社会労働党も、バンキア破産に至るプロセスをまともに語ろうとも調べようともしない。労働組合も統一左翼党も調査に強い声を上げようとしないのである。 誰も彼もが、心を合わせたようにひたすら秘密を守ろうとしているのだ。そしてラホイは、国家の基本的な進路について話し合う毎年恒例の議論を今年は行わないと発表した。つまり、過去についても未来についても、一切の検証も検討も行わない、 ということである。そりゃそうだ! この連中はみんな、バンキアの中で高給を喰らう「シロアリ」をそのメンバーに抱えてきたのである。

もちろんバンキアを構成するカハ・マドリッドやバンカハなど、それぞれの金融機関の内部でどのようなことが起こっていたのかも、黒い霧に包 まれたままである。バンキアはできたばかりの2010年にすでにFROBから約45億ユーロの援助を受けていたわけだが、すでに(その2) で述べたように、危機を察した銀行の幹部たちは多額の「退職金」を手にして逃げ出していたのである。

●2012年5月と6月に何が起こったのか?
  ここで、2012年4月末ごろから、スペイン経済を巡って起こった出来事を、エル・ムンド、エル・パイス、エル・ペリオディコなどのスペイン 主要紙の記事 を元にして、時系列にまとめてみよう。やや細かいことも多くなるが、目に付いたことは全て書き留めておくことにしたい。ご面倒かもしれないが 時間を追って 進行していく事柄を、我慢して丁寧に追っていただきたい。どれほど馬鹿馬鹿しい乱痴気騒ぎが起こっていたのか、よくお分かりになるだろう。

【2012 年5月】
 IMFが
バンキアへの緊急支援の必要性をスペイン政府に強調したのは4月25日で ある。しかし5月2日にスペイン政府は“公的支援抜き”で銀行の健全化を行うと発表した。もちろんその大嘘はじきに明らかになる。同じ日にバンキアの会長ロドリゴ・ラトは自分の銀行の倒産と解体を予想したのだ。5月4日には バンキアを含むBFAが318億ユーロ分を超える「問題の多い資産」を持っている(実際にはもっと多い)と伝えられた。それに対する政府の対応は公金を使っての「救済」 だった。

5月8日に、バンキア銀行は、会長のロドリゴ・ラトの辞任と、BBVA銀行重役ホセ・イグナシオ・ゴイリゴルサリの新会長就任を発表した。しかしこれはラホイ国民党政府からの強い 圧力を受けたものであり、70億ユーロの公金注入にいたる過程と同行の経営難に対する国民党幹部の責任を覆い隠すための「尻尾切り」に過ぎなかった。もちろんだが、次の日からマドリッド株式市場でのバンキア株は 一気に暴落した。 この銀行グループ(BFA)全体が抱える不動産部門の不良債権が、明らかにされている分だけでも375億ユーロにも膨らんでいる実態は、このときまでに広く知られていたのである。不動産部門全体の投資額は1840億ユーロにもおよび、その多くが次々と不良債権化することは目に見えている。70億程度のはした金でどうにもならない。いずれにせ よ、バンキアは(一部であろうが)スペインで国有化された8番目の銀行となったのである。

経財相デ・ギンドスは5月10日将来的にBFA全体を100%国有化する方針を発表した。しかしそれが今のスペインに可能だと思っていたのだろうか。5月14日にスペイン第2の銀行であるBBVAは、このバンキア とそれを取り巻く状況が2007年のリーマン・ブラザーズ倒産のときよりももっと厳しいと語った。バンキアの事実上の破産が欧州の金融システム全体を破滅さ せるかもしれず、世界経済に極めて重大な影響を与えるだろう。スペイン一国でなんとかなる限度など、とうの昔に超えていることは、誰の目にも 明らかだった。

にもかかわらずスペイン政府の対応は異常としか言いようがなかった。首相のラホイは5月20日NATOの会議でシカゴに出向いた際にドイツ首相のメルケルに対して、スペインの改革はうまくいっていると断言してノーテンキぶりを発揮した。欧 州が結束してスペインに圧力をかけ、緊急の銀行支援を求めさせるべきだと語ったフランス大統領オランデに対しては「スペインの銀行の状態を何も知らない」とまで言い放った。シカゴのラホイから電話連絡を受けた社会労働党 党首アルフレド・ペレス・ルバルカバは、ラジオSERのインタビュー番組に出演し、スペインはEUの援助を必要としておらず自力で処理できる言い切った。もし彼らが本気だったとし たら、この国の主要政治家たちはみな気が触れている、としか言いようがあるまい。

ところがその舌の根も乾かない翌21日に シカゴで行われた記者会見で、ラホイはその2日後に行われる欧州委員会の会議で銀行救済のための緊急融資を求める意思を語ったのである。しかも「24時間内に実行できる形」での融資でなければならならず、実行に何年もかかる ような議論をするつもりは無いとも言った。同じ日にマドリッドで経済相のデ・ギンドスがバンキアの健全化には75億ユーロが必要であるという認識を示した。そして与党の国民党は自らが絶対多数を握る国会内でバンキアに関する議論を受け付けない方針を即座に決めた のである。

同時にスペイン中央銀行とデ・ギンドスは、 米国のオリバー・ワイマン、ドイツのロランド・バーガーなど5つの経営コンサルタント会社が、スペインの銀行の経営状態を調査することになる と発表した。 これはもちろんIMFと欧州中銀からの圧力によるものだが、その道のプロが調べると何もかもが素っ裸にされるだろう。しかし政 府与党はスペイン国会に何の調査も許さず、国民は自分たちの銀行の内実について一切知らされることがないのである。ま たこの日、バンキア銀行のもう一つの柱であるバンカハの会長アントニオ・ティラドが、スペイン中銀に対する虚偽の申告を行った容疑で告訴された。

次の22日、デ・ギンドスはバンキア創設と株式上場が誤りだったことを認めた。いまさら何を! バブルの狂宴の後にいかなる地獄が待っているのかを、この男はリーマンブラ ザーズで散々見てきているはずである。しかもその地獄の苦しみは99%の国民に負わされるのだ。同じ日に、15M運動の 「インディグナドス」たちは、ロドリゴ・ラトを正式に刑事告発すると発表した。

5月24日にバンキアは、国に対して200億ユーロ(約2兆円)のさらなる資金投下を要請する方針を決めた。70億が200億に化けた過程は何一つ明ら かにされていない。そして経済省はバンキアを筆頭に、国有化された銀行を一つにまとめて巨大な銀行を作る計画を示した。しかしそんなことがスペインに可能なわけもあるまい。次の25日にはバンキアが2011年に30億ユーロもの赤字を 出していたと明らかにされ、傘下の16人もの役員が辞職した。実はバンキアの執行部は今年2月に前年度の収支を3億ユーロの黒字と発表してい たのである。 要は大嘘に過ぎなかっただけだが、この「30億」という数字もまた信用に値する数字ではあるまい。なお同日の株式市場でバンキア株の売買は「予防的に」停止させられていた

しかし26日(土曜日)に、新たに会長と なったゴイリゴルサリは前任者ラトを擁護しその責任を問わないと発言した。そのうえで彼は、バンキアにつぎ込まれる公金は「支援ではなく投資であり、返済する必要は無い」などと公言し、政府も資金のルートを国営のFROBを通してではなくBFAに直接に注入するように変えて、公金流用というイメージを薄めようとした。そしてラホイは「スペインの銀行に対する(EUの)援助などありえない」と、あくまでスペインの自力再建論を繰り返した。

だがその虚勢が功を奏することはなく、ラホイは28日月曜日「ブラックマンデー」を 防ぐことができなかった。バンキアの株価は底を付き、国債利回りの危険度を示すリスクプレミアム(ドイツ連邦債との利回りスプレッド)は過去 最高の513 ベーシックポイントにまで跳ね上がった。当たり前である。現実的な市場で、誰がこんな国家と国家指導者を信用するというのか。

次の29日にラホイは、このような事態を招いたバンキア経営陣の責任を問わないとことに決めた。そしてその日の新 聞は、バンキアの重役を辞めた一人が退職金・年金として1400万ユーロ(14億円)、もう一人が600万ユーロ(6億円)を手にするだろうと報じた。しかし、スペイン司法委員会はその日、右派法律家集団マノス・リンピアスによる、スペイン中央 銀行会長のミゲル・アンヘル・フェルナンデス・オルドニェス、前バンキア幹部のロドリゴ・ラトとミゲル・ブレサの3名に対する告訴を受け付けた。そのオルドニェスは予定を早めて中央銀行総裁を辞任すると発表した。するとすぐさま与党国民党は「バンキア事件」に対する説明と 調査の一切をブロックしてしまった

30日には欧州中央銀行がスペイン政府による「バンキア健全化プラン」をはねつけた。当たり前だ! さらに、この4月の間だけで、スペインの銀行が314億ユーロ(3兆1千億億円)の預金(企業・個人)を失ったことが明らかになった。これもまた当たり前だ! こんなところにカネを預けていて は、おちおち寝てもいられない。また31日に は、この3月までにスペインから970億ユーロ(9兆7千億円)の資金が外国に逃避したことが分かった。どんな馬鹿でもお人よしでも、こんな国のこんな銀行と心中したいとは思わな いだろう。

【2012 年6月】
 6月にはいるとその茶番劇はいっそうその度を高めていく。1日に、ビルダーバーグ会議出席のためにワシントンにいた
副首相のサンタマリアが、スペインの銀行に対する救済などありえないと断言した。もちろんこれは意図的な大嘘で ある。このいつもロレツの回らぬ声でしゃべる女は、クリスティーヌ・ラガルデIMF会長とも十分に意思を通じたうえでこう語っているのだ。一 方で元IMF会長でもあるバンキア前会長(カハ・マドリッド現会長)のロドリゴ・ラトは、何たることか、バンキアへの公金注入を批判し始めた。盛り上がる非難と告訴の声に対して、よっぽど自分の身がかわいくなったとみえる。もちろんだが、国民の95%がバンキア問題への調査を願っている。

3日になると、経済相のデ・ギンドスが、 スペインの銀行に対する資金注入の方法について、EUと交渉を開始した。ところがEUの中で「スペイン救済」に対する態度の違いが明らかになっていく。フランスとEU本部は銀行に対する直接の支援と言う「即効性のある」形を主張する一方で、ドイツは欧 州での「銀行管理メカニズム」の創設を主張した。

5日に、財務大臣クリストバル・モントロ はラジオ放送で、EUに対して援助を求めたことはなく、スペインに「黒服の男たち」がやってくることなどありえないと語った。こんな虚勢を見透かしたように、7日になってIMFは、スペインの銀行救済に必要な費用としてお よそ400億ユーロ(4兆円)の数字を挙げた。一方で格付け会社のS&Pは1120億ユーロ(11兆円)が必要になるという予想を立てた。IMFはさらに、9日に なって以前よりも詳しく370~800億ユーロ(3.7~8兆円)の数字を示した。

そして同じ9日(土曜日)の深夜に、ユー ログループは、スペインに対して1000億ユーロ(10兆円)までの支援を行うことを決定した。これはスペイン政府がユーログループに要請したのを受けてのものだが、既に前日ロイター通信によって予想されていたとおりだった。スペイン政府は、一方で国家の危機を否定し援助は必要ないと公言しつつ、その裏でGDPの1割にも上る金額の新たな借金の交渉をして いたのである。
これがスペイン国家に対する死亡宣告の始まりだが、首相のラホイは翌10日
サッカーの欧州杯初戦を観戦するためにさっさとポーランドに出かけていってしまった。国家破産を目前に控え、ギリシャでユーロの運命をかける選挙 戦が繰り広げられているときにである。

しかもラホイはいったい何を思ったか、この1000億ユーロの支援をスペインの偉大なる成功であると公言した。このような国家指導者の数々のデタラメな言動が、欧州各国の首脳たちをあきれ果てさせイラつかせたことは言うまでもない。

とうていまともな思考能力を持っているとは思えないのだが、前任者のサパテロにしても、自国経済が危機的な状態にあることを決して認めようと しなかったの だから、この国の「右や左の旦那様方」は救い様がない。もちろんメルケルはバブル経済を放置したスペイン政府の無責任を非難し、ドイツの力にも限度があると、その怒りを隠そうとしなかった。その間にスペインの各銀行は記録的な資金引揚げに遭っていた。スペイン中央銀行が欧州中 銀に提出した資料によると、スペインの銀行は5月に2880億ユーロ(28兆8千億円)の資金不足となっている。これは5月の1ヶ月間に140億ユーロ(1兆4千億円)以上の資本の引揚げがあったことを示す。

14日にドイツ中央銀行(ブンデスバン ク)のジェンス・ワイドマン会長は、この支援は単なる時間稼ぎであり危機の根本の解決にはならないと語った。彼は、このスペイン発の「死に至る病」がドイツに感染した ら、欧州経済全体が死滅することになると知っているのである。

首相マリアノ・ラホイは、G20の会議に出席するために6月18日に メキシコのロス・カボスに向かったのだが、このイベリア半島のノーテンキ男は、スペインの経済状況と再建の進行に対する厳しい監視と監督を回避しながら、1000億ユーロのカネが銀行に注ぎ込まれることだけを夢見ていた。そんな虫の良いことが通用するはずも ないが、この国のあまりにもひどい内実が明らかにされることを死ぬほど恐れているのだろう。

そしてそのG20の最中に、スペインの10年物国債の利率がついに「危険レベル」の7%を越してしまった17日の やり直し総選挙でギリシャがユーロ圏に留まることが決まり、市場は次の焦点をスペインとイタリアの経済危機に向けたのである。それを見た財務 相モントロは欧州中央銀行が市場を落ち着かせる措置を取るように要請した。同じ18日に ラホイは、G20会議の席上で、「救援」の内容を言い換えて、国債と銀行への援助を切り離すように求めた。どこまでも虫の良い連中である。

19日にはバンキアの株価が上場時の2011年7月に比べて80%下落したことが明らかになり、その日に行われた株主総会は責任を追及する中小株主のために大荒れになった。20日にラホイは救済への圧力は無いと断言したが、実際にはG20の場でメルケルもオランデもオバマも、 全員がスペイン政府に対して救済を求めるように強い圧力をかけていたのだ。そして財務相モントロは「スペインは救済されたのではない。我が国は救済を必要としていないのだ。」とあらん限りの大声で主張した。もうここまで来たらマンガとしか言 いようがあるまい。こんな国が潰れるのは無理もない。

21日(水)になるとスペインに調査のた めに派遣されていたオリバー・ワイマン社とロランド・バーガー社は、スペインの銀行に510億~620億ユーロ(5兆1千億~6兆2千億円)分の早急の救済が必要であること、スペインの銀行が抱える赤字が総額で2700億(27兆円)であることを発表した。それを受けてユーログループは、次の月曜日(25日)までに救済を求めるようにスペイン政府に対して強い圧力をかけた。また同時にIMFは、ユーロ グループに対してスペインの銀行に対する直接の融資を行うように圧力をかけた。

こうしてスペイン政府が25日(月曜日)EUに対して銀行支援を要請する段取りが作られたのだが、欧州各国とIMFの思惑がそれを遅らせることになった。スペ インとイタリアは、IMFと同様に、政府を通しての銀行支援ではなく直接の銀行支援を要求していた。しかしユーログループがそれを拒否したために、支援要請の発表は25日に も27日にも行われなかった。スペイン経済 の健全化を求めるドイツが主導権を握るEUは、EIA(欧州投資銀行)による融資、インフラ整 備のためのプロジェクト債などを含んだ成長策について原則合意したと発表した。しかしスペインとイタリアは署名を拒否。そ してこうこれ以上遅らせることのできない29日に なって、イタリア首相のマリオ・モンティは首相辞任までちらつかせてメルケルを脅し、ドイツも折れざるを得なくなった。結局、可能になり次第ESM(欧州安定メカニズム)による銀行への直接融資実施に切り替える条件で、スペイン政府への支援(貸し出し)を早急に開始するということで 何とか合意にこぎつけたのだ。

この合意によって、株価は大幅に跳ね上がり、ゴミ箱行き寸前だったスペイン国債はなんとか最悪の事態を免れることができた。そしてバンキア銀行のゴイリゴルサリ会長 は、3年の間に300億ユーロ(3兆円)分の不良債権を処理することができると発表した。もっとも、現在この銀行が抱えている不良債権は600億 ユーロ分もあり、その半分が処理できるまでこの銀行が存続できる保証はどこにも無い。

●虚飾の果てに訪れる地獄
 こうやって、2012年5月~6月の2ヶ月間に起こったことを日付を追って並べてみると、スペインの政治と経済が、いか に隠ぺいと誤魔化し、虚構と虚飾で作られているのか、よく分かることだろう。

元々からスペイン人は奇妙に格好だけをつけたがる癖があるのだが、スペイン首相のマリアノ・ラホイや財務大臣のクリストバル・モントロなどを 見ていると、 ボロ服を着て街角に座っているルンペンが最高級の葉巻をくわえている姿を連想して、思わず吹き出したくなる。新たな天文学的な借金を背負い込 むことになっ たこのほら吹き首相は7月2日に、新たに行われるスペインのリフォーム(構造改革)を「我が国の近代化における画期的な出来事になるだろう」と発言した。それが、最初に述べたように、32項 目に及ぶ外部から来た前代未聞の厳しい緊縮財政策として実現した。
「画期的な出来事」? 革命の種にならなければ良いのだが…。

もっともラホイは、このスペインの「経済的死」を利用して、今までマドリッドにとって頭痛の種だった地方と中央の反目、特にカタルーニャと バスクの少数民族地域や反中央感情の強いアンダルシアを締め上げ、マドリッドに縛り付ける計画を練っているのかもしれない。それなら確かに「近代化における画期的な出来事」に違いあるまい。

7月2日から始まる次の週では、国会内で野党が、議論抜きでこれ以上の緊縮政策を決めるのはけしからんと声を上げた。しかし昨年11月の総選挙で絶対多数を獲得している 国民党中央に聞く耳は無い。5日の木曜日には、リスクプレミアムが前週のEU会議前のレベルにまで戻っていた。こうして、この記事の最初に書いた「ス ペインの事実上の国家破産」につながっていく。

その1)、 (その2)、 (その3A)、 (その3B) で、そして今回の記事で描いた「断末魔」の惨めな姿が、残念な事に、私が住み私が愛するスペインの現実なのだ。この様子を見るたびに私の頭に 思い浮かぶのは、マドリッドのプラド美術館が所蔵する、近代初期フランドルの画家ヒエロニムス・ボスが描いた2つの祭壇画、「快楽の園」 と「干草車」 である。この画家の絵には様々な寓意が含まれると言われるが、16世紀スペイン帝国の絶対君主フェリーペ2世がこの奇妙な画家に惹かれたの は、ひょっとすると自分の国の500年後の姿を予感していたためだろうか?

もちろんこれらの祭壇画が持つ寓意の解釈はいくらでもありうる。この二つに共通するのは右側に地獄の光景が描かれている点だ。中央に描かれる 光景はやや異 なっている。「快楽の園」では無数の裸体の男女が快楽を求める欲望のままに乱舞する幻想的な光景が、「干草車」では大きな車に山のように積み 上げられた干 草を、欲の皮を突っ張らせてひと束でも多く手に入れようと群がる、王侯貴族から農民、商人から教会の僧侶に至るまでの、ありとあらゆる階層の 者たちが描か れる。

「干草車」では明らかに中央の絵の右側に不吉な姿をした化け物たちが車を引く姿が描かれており、その先には右翼画面の地獄絵が待ち構えて いる。また干草の上では悪魔が人々の欲望を煽り立てるように笛を吹き、「なんとかなりませんか」と祈る天使の姿がある。そして天上ではキリス トが「こ りゃ、どうにもならんな」という表情で手を広げている。この中央画面が右側の地獄につながるのは明らかだろう。

しかし「快楽の園」では、中央画 面で快楽の遊戯にふける裸の男女たちが地獄に落ちるということなのかどうか、もうひとつはっきりとはしない。この点は、中央画面に含まれる寓 意と共に昔か ら議論の種になってきたようだが、私としては、中央画面がそのまま右翼画面と重なっている、つまり、快楽は幻想・幻覚に過ぎず、それがそのま ま地獄絵に なっているのだと考えてみたいような気がする。幻覚を剥ぎ取ればそこは既に地獄であり、そしていずれにせよ幻覚を失うときが来るだろう。そう なれば快楽の 遊戯はそのまま地獄の苦しみに変わっていく。

物事の変化は時間の歩みであり、その意味でやはり、この2枚のボスの祭壇画は私の中で重なって見え る。バブル経済の中で夢から夢を紡いでいたスペインは、そのままの姿で紛れもない地獄だったのだ。ただ浮かれている者たちにはそれが見えな い。その虚構か ら醒めたとき、そこにあるのはありのままの地獄でしかない。それでもあくまで虚勢をはり大嘘で自らを飾り、国民を虚構に閉じ込めたままで地獄 に突き落とそ うと試みるこの国の指導者たちのありのままの姿が、この十年間でむき出しにされた。そしてそんな指導者しか作らないこの国の「民主主義」と は、いったい何 なのか?

こんな現実のスペインの姿に、同じプラド美術館にあるスペイン最大の画家(と私が思っている)フランシスコ・デ・ゴヤの「サン・イシドロへの巡礼」 が重なってくる。「盲を手引きする盲」とは新約聖書の言葉だが、この暗い絵に描かれるのは、どこから来たのか忘れどこへ行くのかも知らず、盲 目的に前の者 にしがみついてひたすら歩き続けるしかできない民衆の姿である。その道がサン・イシドロに続くのかどうかは誰にも分かっていない。この絵に現 れる人々の表 情は、切れ切れの幻覚に操られながら絶望から絶望へと渡り歩くしかできないこの世の現実を表しているようにも思える。
500年前にボスが幻視し、200年前にゴヤが実感した人の世の姿は、やはり永久に続くしかないのだろうか。

次回には、国民の4分の1、若年層の大多数に働く場所のないこの国の現実についてありのままを書いてみたい。

(2012年7月中旬 バルセロナにて 童子丸開)

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Palestine Solidarity in Sapporo
パレスチナ連帯・札幌 代表 松元保昭
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by limitlesslife

『スペインの経済危機』の正体(その3-B) バブルの狂宴が終わった後は

みなさまへ    (BCCにて)松元

バルセロナの童子丸開さん(これまでもスペインの歴史と現在についてたくさんの論考がありますが)、新たにスペインがどのように『「狂い死に」し ていくのかを記録しておきたい』と、「シリーズ:スペイン経済危機の正体」をはじめました。(その3-B)は、「バブルの狂宴が終わった後は」で す。

再度の敗戦と言われる原発事故後、「奈落の底に突き進む既得権勢力」と「新しいもう一つの日本を選択する市民」との拮抗が顕在化している我が国 も、いま「奈落の底に突き進む記録」が求められているようです。

======以下、全文転載======

私のサイトに新しいページをアップしました。
情勢が日ごとに変わるのですが、悲惨な状況に突っ走る大きな流れは変えようが無いでしょう。
国を破滅に追いやる者たちの姿と、そこで嘆き苦しむ者たちの姿には、国の違いはありません。
お読みになって、価値があるとお思いの場合にはご拡散ください。

2012年7月4日  バルセロナにて
童子丸開 拝

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サーバーの仕様のため、サイトへのアップが遅れる場合があり ますが、1~2日、お待ちください。
http://doujibar.ganriki.net/webspain/Spain-3b-the_end_of_the_bubble.html

シリーズ: 『スペインの経済危機』の正体(その3-B)
バブルの狂宴が終わった後は

●スペイン政府がひた隠しに する「危機の根本原因」
 スペイン国債の長期利回りが高騰し国家財政の危機が叫ばれる中、2012年6月9日にユーログループは
最大1000億ユーロ(約10兆円)規模の「スペイン救済」を 行うことを決めた。しかしその内容については、EU経済の主導権を握るドイツや他の北欧諸国と、欧州中央銀行やIMFをバックにするスペイ ン・イタリア両 国政府との間に鋭い亀裂が生まれていた。奇妙なことだが、スペイン政府はそれが「スペイン救済」と呼ばれることに、滑稽なまでに反発する。財務大臣のクリストバル・モントロは 「スペインは救済されたのではない。スペインは救済を必要としていないのだ」とまで言い放ったのだ。そしてその1000億ユーロが、スペイン 国家ではな く、スペインの銀行に対する「資金注入」であるという見解を明らかにした。銀行がスペイン国債の主要な買い手であることを考えれば、これほど に馬鹿げた言 い様は無いと思うのだが。

このようなスペイン政府の姿勢に対して、6月13日にドイツのメルケル首相は「10年もの間スペインは不動産バブルが膨らむに任せていたではないか」とその無責任な政策を厳しく非難し、「もちろんこ の援助は(スペインの財政システムに対して)条件をつけるものである」と語った。さらに翌日の14日には、ドイツ中央銀行のジェンス・ワイド マン会長がエル・パイス紙のインタビューの中で、「経済的な援助は単に時間稼ぎに過ぎず、この危機の根本原因と対決することにはならない」と語り、スペイン国家に 対して厳しい条件をつけることを主張した。

その後EUでは、ドイツ政府が中心となって、1200億ユーロ(約12兆円)規模の雇用の創出を含む景気浮揚策を 決定しようとした。しかしスペインとイタリアが銀行に対する「即効性」のある直接の援助を求めて猛反発した。イタリア首相マリオ・モンティは自らの辞任をほのめかしてメルケルを脅し、結局ドイツは景気浮揚策を諦めざるをえなくなった。そして6月月末までにEUは「直接の銀行救済」 を決めてしまった。ちょうどその夜にワルシャワで行われたサッカーの欧州杯準決勝でイタリア代表がドイツに完勝したため、翌日のイタリア各紙 は「イタリア はドイツを2箇所で打ち破った!ワルシャワとブリュッセルで!」と大騒ぎだった。たしかに、この「即効性ある援助」のおかげで、破産寸前のス ペインとイタ リアの国債利回りは急落し、マドリッド株式市場の平均株価は大きく上昇した。しかし何かがおかしい。

メルケルにはこの「経済危機」を利用して欧 州の政治的な統合を進めたいという狙いがあっただろうし、そのためにはスペインのデタラメな政治・社会体制をそのまま残すことはできないと感 じていたはず だ。そして、それに気付いたスペイン首相マリアノ・ラホイとしては、単に金融市場向けの「即効性」を求めたという以上に、バブル経済の狂乱ぶ りとその利権 構造にメスを入れられることを拒否したという面が強いだろう。「スペインは救済を必要としていない」とはよく言ったものだ!

スペインの銀行は住宅関連の不良債権だけでも850億ユーロ(8兆5千億円)分を抱えているという。またこのシリーズの(その3-A)で 述べたようなスペイン各地の空港や高速道路などの施設を建設するために、膨大な額の国債や地方債が発行されてきた。そしてスペインの銀行は、 土建業者に住 宅開発の費用を貸し出しただけではなく、そういった国債や地方債を積極的に購入してきた。それらもまた事実上不良債権化しており、スペインの 銀行が抱える こういったバブル時期の無用の長物によって作られた赤字の総計は天文学的な数字に膨らむだろう。とうてい1000億ユーロ程度で「救済」され るものではあ るまい。

実際にはメルケルの言うとおりであり、スペイン経済をそのような状態にしたのは、アスナール国民党政権(1996~2004年)とサパテロ 社会労働党政権(2004~2011年)の時代の、デタラメとしか言いようのないバブル政策である。そしてその中で横行した泥 棒経済――「無から有を」ひねり出して利益をかっさらい残ったマイナスを国民に負担させるネオリベラル詐欺――であ る。狂喜乱舞する銀行の中には、浮かれついでに稀代の詐欺師マードフに2億5千万ユーロを巻き上げられたサンタンデール銀行のような例まであるのだ。その「根本原因」をなくさない限り、何兆ユーロをつぎ込んだところで、底無しのブラックホールに 消えた挙句に未曽有のハイパーインフレを招くだけだろう。

しかしスペインの指導者たちは、「右」も「左」も、「危機に至るまでの過程」を洗いなおすことを拒否し、最も弱い立場の者に借金のツケを押し付けながら、 目の前にある「危機」をなんとかやり過ごすことに専念している状態である。果たしてスペインに対する1000億ユーロ の「銀行救済策」という「痛み止め」の効き目は1週間ともたなかった。7月4日には10年物国債の利回りは再び危険水域の7%をあっさりと越 して、株価は急落した。元の木阿弥である。

●アスナールの「土地法改 正」
  それは単なる「不動産バブル」だけではなかった。それと同時に起こったことは、様々な種類のイベント(ローマ教皇を招待しての行事、科学振興 や芸術を名目 にしたイベント、F1レースやヨットのアメリカンカップを含む大掛かりなスポーツイベントなど)と、それに必要だという名目で建設された多く の施設(道 路、港湾、建築物など)、そして準備や警備や進行のための人件費として、そのたびに数十億円~数百億円もの公的資金が次々とつぎ込まれる乱痴 気騒ぎの連続 だった。
(その 2)で見たように、それは「バ ラ色の嘘」に取り付かれた人間社会の貪欲と傲慢と愚かさのバブルで もあった。

ここで、1990年代後半から2000年代にかけてのスペインの「バブルぶり」を視覚的に確認してみたい。2012年1月9日付のIdealista誌の、1985年から2011年末までの1平米あたりの地価を折れ線で、上昇率を緑の棒グラフで示したものである。
(グラフ:
http://imagenes.idealista.com/news/archivos/imagecache/noticia/64/grafico-historico-precio-vivienda.gif

2011年中の下落率は11.7%なのだが、実際の不動産売買の実績はその1年間に17.7%落 ちており、2012年になると1月だけでもそれがさらに31.8%減っ た。1月が大型の買い物の少ない月であることを計算に入れても、これはあまりに大きい。国民の4分の1が失業し、公共部門の切捨てがさらに失 業者を増やし、公共料金の値上がりと社会福祉の切捨てが国民の生活をさらに圧迫することが確実で、各家庭での平均的な貯蓄が減少している状態では、この不動産売買の減少と地価の下落が止まることは無いだろう。

先ほどのグラフを もう一度見てほしいのだが、地価の上昇は2つの時点で起こっている。一つは1985年から90年にかけてであり、これは1986年に EEC(欧州経済共同 体:後のEU)に加盟した影響が大きいだろう。この間、地価を含めた物価は上昇したが、同時にGDPも大きく伸びて対外債務は減少し好景気が 続いた。その 後、景気の停滞が続いたせいで地価もおおよそ安定した状態になっているが、90年代の終わりごろから2007年にかけて再び急上昇しているこ とが分かる。 そして、今までこのシリーズで述べてきた様々な不正で不当なできごとが集中して起こっているのも、またこの10年間なのだ。

この間の上昇率の数 字は80年代後半よりも小さいが、割合の元になる数字自体がどんどんと大きくなっているのである。価格上昇の速度は2001年から2004年 付近が最も大 きい。この間に世界で起こったことは、911事件でありアフガニスタン侵略であり、そしてイラク戦争である。そして同時期――欧州ネオコンの 代表であるア スナール政権の爛熟期――にはスペイン中の多くの企業が「イラク復興特需」を目当てに乱痴気騒ぎを繰り返していたのだ。(もっとも、マドリッド311事件後に「イラク撤退」を公約としていたサパテロが政権をとって、結局はイラク利権から締め出されてしまったのだが。)

その地価の上昇に重大な影響を与えたのが、1998年にアスナール政権によってなされた「土地法(la ley del suelo)」の改正であることに間違いはあるまい。

この改正で土地の分類が3種類に単純化された。市街地(すでに開発されている土地)、開発可能な土地、開発不可の土地である。いってみれば、 よほど法的に 開発を厳しく禁止された場所を除いて、全てが開発可能とされたのだ。どこの国でも同様だが、開発の許可など、ちょっとした賄賂でどうにでもな るだろう。し かも、従来は業者が開発した土地の15%を地方自治体に譲渡して公共目的のために開放しなければならなかったが、それを最大でも10%と改め た。これで土 地開発業者の好き勝手なペースで宅地や市街地を拡張できる基盤が作られたといえる。

もちろんこの「土地法改正」だけがバブル経済の原因の全てとはいえず、(その3-A)で見たようなデタラメな開発をチェックして規制する手段は他にもありえたはずだ。しかし(その2)にあったように、この国の上層部にいる者たちがそんな面倒なことを考 える頭を持っているはずもなかった。2006年にスペイン中央銀行の調査担当者が政府にバブル崩壊とその危険性を訴えていたにもかかわらず、サ パテロ政権は建設業界と一体になってバブルの存在自体を否定し、状況を放置し続けたのだ。社会労働党がバブルの「ご利 益」にあずかっていなかったとすれば、単に愚鈍で無能なだけだろう。そして当の土地法を改正したアスナールは2012年2月に「社会主義者が政権を取るたびにこの国に残骸が残される」と語った。「右や左の旦那様」方は救い様が無い。

●結局は企業の借金
 2012年5月9日付の
ニューヨークタイムズ紙は『スペインでの債務危機は企業の負債による』という見出しの記事を掲げた。記事では、90億ユーロもの負債を抱えるACSグ ループ(Grupo A.C.S.)を例として取り上げ、マッキンジー社のレポートを引用しながら、スペインの私営企業が抱える負債総額はGDPの134%にものぼり、 アイルランドを除いて、先進国中最も高い値になっていると警告する。(ちなみに、スペインの銀行や住宅ローンを含む公的・私的な負債の総額は GDPの363%であり、日本の512%、英国の507%に次ぐ。)

欧州第3位の建設グループACS(本社マドリッド)を率いるのは、レアル・マドリッド・フットボールクラブの会長を務めるスペイン10番目 の大富豪フロレンティーノ・ペレスで ある。元々は建設・メインテナンス業者だが、2000年前後から急速にその勢力を拡張し、欧州内の建設会社を傘下におさめた。2011年には ドイツの大手 建設会社Hochtiefの株50%以上を取得して支配下に置いた。またイベロドーラやウニオンフェノサなどのエネルギー部門の大株主でもあ る。1990 年代末から続いたバブル期でペレスの会社がスペイン中の土地開発の中心にいたことは言うまでも無い。

記事の中でNYタイムズは、ロンドンにあるリサーチ会社バリアント・パーセプションのジョナタン・テッパーの次のような言葉を紹介する。 「スペインの問題点は政府の債務ではなく、民間部門の負債なのです。」、「ACSグループは完璧にこの問題を抱えています。」

またペンシルバニア大学教授のマウロ・グイレンは「これらの企業にとって今は本当にひどいときです。政府はもうこれいじょうインフラへの投資 をしていませ んし、地方政府にしてももはやその勘定書きの支払いはしません。そして企業は銀行から絶えず資金を調達する必要があるのです。ですから彼らは カネを手に入 れるために身売りしなければならないのです」と語る。そしてマドリッド・ノムラのアナリスト、ハビエル・サンチェスは言う。「この会社の負債 はもうコント ロール不能です。」

フロレンティーノ・ペレスが会長を務めるサッカー・チーム、レアル・マドリッドは今年スペインリーグの王座を奪回したが、誰 一人として、この球団から今年のロンドン・オリンピックに出場する実力ある若手選手はいない。自前で一流選手を育てる作業をないがしろにして 札束で頬を ひっぱたきながら世界中から有名選手を引っかき集めるこのサッカー・チームの体質は、ACSグループの体質をダイレクトに反映しているのだろ う。ある情報によると、2012年3月末時点で同グループが抱える負債は、105億ユーロ(1兆500億円)にまで膨らんでいるという。

もちろんここばかりではなく、スペイン中の土建・土地開発と不動産販売の企業はすべて同様の状態にある。その下請け、孫受け、・・・、そして 建設に関連す るあらゆる企業が深刻な経営悪化に悩み、大量の労働者を解雇せざるを得なくなった。それが労働人口の4分の1にまで膨らんでいるスペインの失 業率の主要な 原因なのだ。

2007年から2011年までの間にスペインの失業者はおよそ200万人以上増加しその3分の1である75万人は建設関係で ある。しかし建設業界の破滅的な状況は、当然ながら建設機械、家具、家庭電化製品から販売促進の広告業界に至るまで、非常に深刻な経営状態を 作り出してし まった。こういった民間企業活動の破滅とその結果としての500万人以上にのぼる失業者が、この国の危機を具体的に作っているのである。

スペイ ンの経済危機を公的債務と銀行の赤字だけで見ているならとんでもない間違いだ。この危機は、いずれ近いうちにあらゆる種類の企業の再編成と、 雇用形態の変 化をもたらすことになる。ちょうど日本が「バブル処理」の過程でワーキングプアの「契約社員」を大量に生み出し、貧困層をどんどんと広げてい るのと同様だ が、スペインの場合には日本よりもはるかに激しく厳しい変化がもたらされることになるだろう。

●住む人のない家、住む家の ない人
 現在のスペインで最も深刻な人権問題は、住む家を失う人々の増加だろう。
バルセロナ市は2012 年の4月に、2007年以来ホームレスになった人が32%も増え約2800人になったと発表した。これは失業と収入の減少のために住宅ローン や家賃を支払 うことができずに住み慣れた住居を失う人々が増えたせいだが、特に住宅ローン支払いの滞りのために、住宅に抵当権を持つ銀行によって追い出さ れる件数が急 増している。スペイン全体では2011年の1年間だけで5万8000人が銀行の力によって住居を失った。毎日毎日、スペインのどこかで159家族が自宅を失っていることになる。親族が迎えてくれる人ならまだ幸運だが、そうでない場合には結局は一家でホームレスにならざるを得ない。 その一方で、この国には560万戸もの空き家があるのだ。

次の写真を見てもらいたい。
(写真:http://estaticos01.cache.el-mundo.net/elmundo/imagenes/2012/06/02/espana/1338631781_2.jpg

これは《シリア政府軍に襲われた無垢の市民》ではない。かつてナチの親衛隊がユダヤ人を襲撃した際の光景を彷彿とさせるのだが、これは現代の スペインで、 銀行の要請を受けた武装警察官が、一人の老婆とその家族を自宅から追いはらっている様子である。両手を挙げて降参を示している老婆とその家族 の姿が、涙が 出るほどに痛ましい。この人たちは親族の家を転々とするか、さもなければ路上で生きるしかないのだ。人権団体はどうしてこのような事態に声を 上げないの か。

(その3-A)で書いたように、スペインの銀行と政策担当者は、ありもしない需要をさもあるかのように高く掲げて、建築業界を煽って住む 人の無い膨大な住宅を国中に作った。バブル崩壊が1年遅れたら空き家はもうあと100万戸増えていただろう。膨大な数の「住 む人のいない住宅」は、膨大な数の「住む家の無い人」を生み出したのである。一方で(その2)で述べたように、豪邸に住みながらさらに数億円をつかみ取りにして逃 げる銀行家の姿がある。狂った経済としか言いようがあるまい。

同様のホームレスの増加は米国でも見られるようだが、シリアの アサド政権にケチをつける以前に、欧米の人権団体や平和団体は、この欧米の狂った経済体制・国家体制をこそ、非難・攻撃の対象にすべきではな いのか。

ちなみに、だが、スペインでこの銀行による「住宅追い出し」に対決しようとしているのは15M運動の 系統の人々だけである。「右や左の旦那様方」はたぶん「票にならない」と思っているのだろう。大手労働組合は、労働者切り捨て政策に抵抗して がんばっては いるのだが、いかんせん、いま雇用されている人々の「権利を守る」ことに必死で、すでに解雇された人の権利にまではさほど関心をお持ちでない らしい。どう せ失業者が労働組合に入ることは無理だろうから。しかしUGT(労働総同盟)のメンデスさんやCCOO(労働委員会連合)のトショさんにして も、同性愛者の権利を擁護するデモに顔を出すのなら、このとんでもない人権問題ともう少しまともに対面してもらいたいものだ。

●「土建屋経済」の発想から 出ることができないのか?
 
バルデバケロスは、 ジブラルタル海峡に面したアンダルシア州のタリファ市にある海岸である。全く手付かずの自然を残す広大な砂浜は、スペインに残された宝の一つ と言って良い だろう。しかしタリファ市当局は5月末に、この地域に1423室ものホテルと350室のリゾートマンションを建設する計画を発表した。これに よって多くの 雇用を作り出し、破綻寸前のアンダルシア経済が持ちこたえるのではないかという期待を込めたものである。

こちらの写真、またこちらの写真を ご覧いただければお分かりのとおり、この海岸の美しさは世界第一級と言っても過言ではない。もちろん環境団体はこの計画に猛反発して、「バル デバケロスを 守れ!」というキャンペーンを展開している。たしかにこの比類なき海岸にずらりとホテルやマンションが立ち並ぶ風景は想像したくもない。しか しそれ以上に 私にとって残念なのは、あのバブル時期に同じような声がスペイン中に響き渡り、その結果として(その3-A)のようになってしまった、その同じ愚かさを、もう一度繰り返そうとする人々の際限の無い愚かさで ある。麻薬の切れた苦しみを更なる麻薬で抑えるなら、後は死の苦痛あるのみだろう。

しかしそれ以上の愚かさを感じさせるのは、現在、マドリッドとバルセロナで争っている「欧州版ラスベガス(ユーロベガス)」の建設である。ラスベガスの大富豪でシオニストのシェ ルドン・アンデルソンが 欧州版ラスベガスの有力候補地としてスペインを選んだことから、2012年当初以来、この両都市の間で猛烈な誘致合戦が繰り広げられているの だが、マド リッドとバルセロナの争いはせめてサッカーだけにしてもらいたいものだ。このプロジェクトはいずれかの都市に膨大な額の税金と23万もの職を新たに創り出すと計算されているのだから、カタルーニャ州知事アルトゥール・マスとマドリッド州知事エスペランサ・アギ レが血眼になるのも無理はないが、「バラ色の計算」を当てにしてバブルを膨らませ自らを破滅に追いやった愚行を繰り返すのだろうか。

アメリカの腐った文明にスペインの地をさらに汚されることもあるが、そもそもこのユーロベガス自体が問題だろう。こちらではよくマカオのカジ ノの成功例が 引き合いに出される。しかしそれは成長著しい中国だからこそ成り立つ話であり、明らかに混乱と衰退が予想される欧州で、このギャンブル文化が 救世主的な働 きをするとでも考えているのだろうか。いずれの都市にせよ、どうせ作られても、おいしいところは全て米国資本に吸い取られ、地元の支配階級の 一部には莫大 な「おすそ分け」が回ってくるだろうのだろうが、圧倒的多数のスペイン人にはわずかな下働き的なおこぼれを頂戴できるのがオチである。当のラ スベガス自身 で、米国経済の混乱に伴って次々とネオンが消えていき、困窮者と飢えが広がってきているのである。

現在のところ、バルセロナ近郊の候補地が空港に近すぎて背の高いホテルを建てることができないとか、候補地が広大な農地であり農民の強い反対 があるなどの 理由で、マドリッドがわずかに有利だろう。国民党の幹部でもある知事のアギレはどうやらアンデルセンと「親しい友人」らしいから、その点でも 一歩進んでい るかもしれない。このネオコン知事は、室内での喫煙を禁止している法律がユーロベガス誘致と共に廃止されるだろうという見通しまで発表した。懐に飛び込む札束を想像するだけで、もうなりふりか まってられないようだ。

バブル崩壊の果てに、ギャンブルのあぶく銭を当てにして経済を立て直そうというのだから、やはりこの国の支配層の頭はどうかしている。結局 はどこまでいっても「バラ色の計算書き」を掲げて手っ取り早く儲ける「土建屋経済」の発想から出ることが できないのだろうか。あのACSグループがその象徴的な存在である。2012年4月にIMFは、2007年から始まったスペインの不況は2017年まで10年間続くだろうという予測を立てたが、このままでは少なくと も2027年以前には終わりそうにもない。というよりも、アスナールが浮かれ頭で描いた「偉大なスペイン」の夢は永久に消え去るしかあるま い。

そしてそれで良いのだろう。ほとんどのスペイン人は貧しくても安定した生活を望んでいるのだ。パンとトマトとブティファラ(豚肉の腸詰) と、そしてワインがあれば、スペイン人たちは自らの人生を楽しむすべを知っている。

(2012年7月初旬 バルセロナにて 童子丸開)

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by limitlesslife

『スペインの経済危機』の正体(3-A)バブルの狂宴:スペイン中に広がる「新築」ゴーストタウン

みなさまへ    (BCCにて)松元

バルセロナの童子丸開さん(これまでもスペインの歴史と現在についてたくさんの論考がありますが)、新たにスペインがどのように『「狂い死に」し ていくのかを記録しておきたい』と、「シリーズ:スペイン経済危機の正体」をはじめました。(その3-A)は、バブルの狂宴:スペイン中に広がる「新築」ゴーストタウ ン」です。

再度の敗戦と言われる原発事故後、「奈落の底に突き進む既得権勢力」と「新しいもう一つの日本を選択する市民」との拮抗が顕在化している我が国 も、いま「奈落の底に突き進む記録」が求められているようです。

======以下、全文転載======

シリーズで作っています「『スペインの経済危機』の正体(3-A)バブルの狂宴:スペイン中に広がる「新築」ゴーストタウン」をアップしましたの で、お知らせします。
今回は写真画像を中心にしたページですが、思わず息を呑むような悲惨な光景が続きます。
もし価値があるとご判断いただけるなら、ご拡散をお願いします。

童子丸開

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
サーバーの仕様のため、サイトへのアップが遅れる場合があります が、1~2日、お待ちください。
また、もし写真のUrlがつながらないようなら、次のサイトをご覧ください。
http://doujibar.ganriki.net/webspain/Spain-3a-newly_constructed_gohst-town_in_whole_Spain.html

シリーズ: 『スペインの経済危機』の正体(その3ーA)
バブルの狂宴:スペイン中に広がる「新築」ゴーストタウン

【写真:マドリッド近郊の荒地に浮かび上がる幽霊都市 http://doujibar.ganriki.net/webspain/burbuja-gohst_town01.jpg

アスナール(国民党:1996~2004)およびサパテロ(社会労働党:2004~2011)の時代にスペインで展開された、世界史上まれに 見るでたらめ な経済について、当初「バブルの狂宴が終わった後は」として1回で済ます予定だったが、まず、スペイン中に広がる信じられないような現実の姿 を画像で見て いただこうと思い、この画像中心のページをはさむことにした。前回(支配階級に根を下ろす「たかりの文化」)で述べたような、隙さえあればたかることしか考えない連中が、「ゼロか ら価値を無限に創り出す手品」を知ったらどうなるか、言うまでもあるまい。ここでその手品の見事な「成果」をご披露しよう。

●1週間に2時間しか開かない公 営飛行場
 下の写真は、
ロシア国営RTのスペイン語版(2011年12月)で紹介された、ピレネー山脈に程近い アラゴン州ウエスカの飛行場の様子だ。この飛行場は2000年に着工され2006年に開港されたのだが、あまりの利用客の少なさに、現在は定 期便が1機も飛ばず、ついに1週間の利用時間をわずか2時間に抑える決定がなされた。

【写真:http://doujibar.ganriki.net/webspain/burbuja-huesca1.jpg
【写真:
http://doujibar.ganriki.net/webspain/burbuja-huesca2.jpg
飛行場開設が盛んに叫ばれた当時、国や州の当局者、学者、財界人によって、ピレネー観光の入り口、冬季のスキー客の玄関としてバラ色の未来 が描かれていた。そして金融機関がこぞって有利な条件での貸し出しを提示した。

実際には2012年1月から3ヶ月間のスキーーズンですら、この飛行場を利用した人は78人に過ぎない。それもそのはずだ。この飛行場から最 も近いピレ ネーのスキー場でも100km以上離れているのである。しかも、元からあった利用客の多いサラゴサ空港からわずか97kmしか離れていない。 安価で時間的 にもさほど見劣りしないピレネーとスキー場へのアクセス方法は、他にいくらでもあるのである。最初から単なるでたらめな「開発計画」だったに 過ぎない。

州当局が国庫と銀行から借り入れた4000万ユーロ(約40億円)はほとんどそのまま州政府の赤字として残り、収入はほとんど無く、維持費 だけが重くのしかかる。しかしこのウエスカよりもっとひどい例がバレンシアにある。

●1機の飛行機も飛んだことがないカステジョン飛行場
2011年3月25日、バレンシア州カステジョンの飛行場で 「開港式」が華々しく行われた。しかしながら、州政府知事のフランシスコ・カンプス、カステジョン市長のカルロス・ファブラ(共に国民党の幹 部)など、同 州やスペイン中から集まった1500人もの人々(その多くが国民党関係者)が祝ったその「開港」は、実を言えば単に地上部分の営業の開始を告 げただけだっ た。いまだに飛行場としての国からの正式な許可は下りていない状態だったのだ。

写真:1機の飛行機も飛ぶ見込みの無いままに単に「開けただけ」のカステジョン空港  http://doujibar.ganriki.net/webspain/burbuja-castellon1.jpg
写真:左がバレンシア州知事カンプス、右がカステジョン市長ファブラ http://doujibar.ganriki.net/webspain/burbuja-castellon3.jpg
写真:空港の敷地内に そびえ立つ、24mのグロテスクな「芸術作品」 http://doujibar.ganriki.net/webspain/burbuja-castellon2.jpg

 1億5000万ユーロ(約150億円)をかけて作られたこの飛行場は、たとえ飛行機を飛ばしても、最初の8年間で5600 万ユーロ(約56億円)の赤字が確実視され、不況が深刻化する中でその営業の許可が下りるすべはなかった。そしてその建設の直接の責任者だっ たカルロス・ ファブラ自身が、今になって、実はこの飛行場建設について計算が間違っていたことを2006年から知っていた、などと告白する有様である。

もちろんだが、飛行場の建設費はそのままバレンシア州の債務となり、同時に金を貸した銀行の不良債権となっている。そしてファブラは、 1999年から2004年までの間の数百万ユーロに上る虚偽申告と脱税の容疑でその年の11月に逮捕され被告の身となった。

このグロテスクな空港を象徴するのは、なんといっても、敷地の中にそびえ立つ薄気味の悪い「芸術作品」だろう。この高さ24mもの巨大な「彫刻」は、 ファブラの知人でありバレンシア州出身の彫刻家フアン・リポジェスによるものである。ファブラは「彼(リポジェス)が私に大きなインスピレー ションを与え てくれた」と語って、この「芸術作品」に30万ユーロ(3000万円)を支払う約束をした。そしてバレンシア州政府は2012年度の予算にこ の30万ユー ロを組み込んだ。もちろん、そのツケは全てバレンシアの州民の肩に負わさる。

現在、この空港は全く利用されていないわけだが、しかしその維持費は1ヶ月に30万ユーロ(約3000万円)にのぼる。借入金の利子と共に、単なる「カネ食い 虫」、税金を吸い取る一方の「ブラックホール」となっている。
これはもう、「開発計画」でも「建設」でもなんでもない。単なる公金略奪行為だ。バレンシアで行われたその他数多くの略奪の結果としてバレ ンシアの民衆を襲っているとんでもない災厄については、このシリーズの後半で述べることにしたい。

●いったいどんな利用を見込んで の開発計画なのか?
  いまウエスカとカステジョンという2つの飛行場の例を取り上げたが、同じ時期に、ビトリア、コルドバ、アルバセテ、カディスなど、スペイン中 の多くの中小 都市に飛行場が計画され建設された。しかしその全てが、ウエスカ空港と同様に、それぞれの地域住民にとって、邪魔なばかりか、なけなしのカネ を吸い取るだ けのとんでもない厄介ものとなっている。

現在スペインには52の飛行場(軍用を除く)があり、その90%の営業が国の管理となっているが、まと もに経営が成り立っているのはせいぜい12、3に過ぎない。はるかに経済規模が大きく人口も多いドイツですら、39の民間飛行場しか持ってい ないのだ。スペインの飛行場の赤字総額は120億ユーロ(1兆2千億円)にのぼる。

もちろんスペインで行われた「建設」「開発」に名を借りた公金略奪行為は飛行場にとどまらない。アスナール国民党政権時(1996~2004 年)に計画さ れ、サパテロ社会労働党政権時に盛んに建設された高速道路網の多くが、国と各地域にとってとんでもない「赤字の源」となっている。たとえば、 38億ユーロ (3800億円)を投じてマドリッド周辺とバレンシアに作られた高速道路は、利用者の少なさのためにその建設費用が回収できないばかりか、今後の 維持・補修費用と借入金の利子を考えると、上記の飛行場と同様に、膨らみ続けるブラックホールでしかありえない。

この期間には同時に、マドリッドからアンダルシアやバレンシアに延びる高速鉄道(AVE)が建設されており、それと競合するように高速道路を 作ったわけだ から、最初から採算など見込めるはずがなかったのだ。しかもその日本の新幹線技術を取り入れた高速鉄道網にしたところで、作る以前からその利用度の小ささとコストの膨大さを指摘されてきたものだ。

こういったでたらめなインフラ建設…最初から採算の見込みも無い高速鉄道網、高速道路網、飛行場の建設を同時に進めてきた国家と地方の指導者 たち、資本家 たちの神経とは、いったいどのようなものなのだろうか? スペインの人口と経済規模が実際の3倍あるという幻想にでも取り付かれていたのだろ うか?

しかしこの十数年間のバブル経済を最も大規模に象徴するのが、何と言ってもスペイン中に広がる「新築」ゴーストタウンの不気味な光景だろ う。まずその代表例として、マドリッドにもほど近いカスティーリャ・イ・レオン州の有名な町アビラを見てみたい。

●中世の街アビラを取り囲む現代 の幽霊都市
  アビラは、中世レオン王国の主要都市として、日本にもファンの多い美しい街である。人口は6万人弱、レコンキスタの象徴である11世紀の城壁 が囲む旧市街 は、数百年の時間を生き延びた質素だが落ち着いた味わいの漂う地区だ。そして、もしこの美しい町を知り少しでもスペイン語の分かる人が
こちらのYouTubeビデオを見たならば、おそらく激怒 することだろう。

 次からの写真は、いまのビデオから拝借したものだが、それぞれに簡単な説明をつけておく。
【写真:ロマネスク時代の城壁 http://doujibar.ganriki.net/webspain/avila-old_town3.jpg
【写真:旧市街の静かなたたずまい 
http://doujibar.ganriki.net/webspain/avila-old_town2.jpg
【写真:10年以上前はこれがアビラだった 
http://doujibar.ganriki.net/webspain/avila-mapa1.jpg
【写真:バブル景気と共に新しいアビラが作られ・・・ 
http://doujibar.ganriki.net/webspain/avila-mapa2.jpg
【写真:さらに第3、第4のアビラが「開発」された・・・ 
http://doujibar.ganriki.net/webspain/avila-mapa4.jpg
【写真:一見、閑静な新興住宅街に見えるアビラ郊外 
http://doujibar.ganriki.net/webspain/avila-gohst_town05.jpg
【写真:だが、何かおかしい 
http://doujibar.ganriki.net/webspain/avila-gohst_town06.jpg
【写真:人間の姿が見えない 
http://doujibar.ganriki.net/webspain/avila-gohst_town07.jpg
【写真:車も無ければ店も無い 
http://doujibar.ganriki.net/webspain/avila-gohst_town09.jpg
【写真:公園に子どもの姿は無い 
http://doujibar.ganriki.net/webspain/avila-gohst_town01.jpg
【写真:ベンチで休む老人の姿も無い 
http://doujibar.ganriki.net/webspain/avila-gohst_town02.jpg
【写真:建設途中で立ち枯れたままの建物 
http://doujibar.ganriki.net/webspain/avila-gohst_town08.jpg
【写真:クレーンだけがむなしくそびえる 
http://doujibar.ganriki.net/webspain/avila-gohst_town04.jpg
【写真:道路建設がここで止まる、拡張地域の端っこ 
http://doujibar.ganriki.net/webspain/avila-gohst_town10.jpg

この閑静で歴史の生き証人のような小都市は、住む人のほとんどいない広大な21世紀の幽霊都市に取り囲まれてしまったのだ。スペインの単な る愚かさの象徴に変身させられたのである。

一体全体、誰が住むだろうと想定して、こんな「ニュータウン」建設が計画されたのだろうか? これを考案した者たちは、6万人にも満たない小 さな田舎町の 人が、値段が高いだけのこんな新築住宅に銀行ローンを組んでこぞって引越しするとでも、夢想していたのだろうか。それともマドリッドの人々が 大挙して住宅 を買いあさりに来ると計算していたのだろうか。マドリッドからアビラまでは自動車道路でおおよそ100kmも離れている。東京からなら静岡く らいの距離だ ろう。
まるで見当もつかない。

いや、マドリッドの近郊に新しい宅地が全く無く、マドリッドの人々が少々離れていても新築住宅を買いた いと切に望んでいたのなら、まだ話は多少は分からないでもない。ところが、マドリッドなどの大都市の近郊にはこれよりはるかに規模の大きい ゴーストタウン が延々と広がっているのである。ここには「需要と供給のバランス」など、最初から存在しないのだ。

●スペイン中に広がる「新築」 ゴーストタウンの数々
  もう何も言う気がしない。2007年以来、こんな風景が、マドリッド付近にも、バルセロナ近郊にも、そしてスペイン中の都市の周辺に無言で広 がっている。 「狂気の遺跡」としか名づけようが無いだろう。これがいま我々が目にすることのできるスペインの現実なのだ。これこそが『スペインの経済危 機』の実際の姿 なのである。

【写真 http://doujibar.ganriki.net/webspain/burbuja-gohst_town02.JPG
【写真 
http://doujibar.ganriki.net/webspain/burbuja-gohst_town03.JPG
【写真 
http://doujibar.ganriki.net/webspain/burbuja-gohst_town04.JPG
【写真 
http://doujibar.ganriki.net/webspain/burbuja-gohst_town05.JPG
【写真 
http://doujibar.ganriki.net/webspain/burbuja-gohst_town06.JPG

こちらのサイトでは、スペイン中に広がる「新築」 ゴーストタウンの一部を衛星写真で見ることができる。その中から代表的な例を六つだけ、次に挙げておこう。(クリックで衛星写真が見え る)

    マドリッド市近郊のバルデルス(3万人が住む予定の街に、 実際に住んでいるのは700人)
    
マドリッド市に程近いセセーニャ(1万軒以上の住宅がカラッ ポか、建設途中、更地のまま)
    
マドリッド市近郊のケール(数千人を住まわす計画の中 で、実際の住民は449人)
    
トレド市近郊のユンコス(約6000人の人口だが、その3倍を収容する住宅街が、建設途中のま ま)
グラナダ市近郊のカジェ・オホス・デル・サラド(ずらりと新築住宅が並ぶが、住民はゼロ)
バルセロナ市に程近いサロウ(休暇用の住宅とアパートメント数千戸が立ち並ぶが、ほとんどカラッポ)

1980年代後半の日本の「バブル時代」でも似たような光景が見られたのだが、ここまでひどかっただろうか? しかも、日本と比べてはるかに 産業基盤の薄 いスペインのような国で、これほどのデタラメな「土地開発」が繰り広げられた結果がいったいどうなるのか・・・。しかもそれが、多くの場合に 地方自治体と 国が莫大な公的資金をつぎ込んで、銀行からの天文学的規模の借入を受けて、野放図に行われたのである。

一般の消費者にはその「資産価値」と新し い住宅での「バラ色の生活」が盛んに宣伝され、低金利、頭金無しのローンに大勢の人が引っかかってしまった。そして脆弱な経済基盤が壊れ始め たときに、 人々は自分の収入と職が目の前から消えていく恐怖を味わうと共に、抵当権を握る銀行によって、発展する未来を信じて手に入れた新居から追い出 される悪夢が 現実となって目の前に迫るのを、呆然として眺めるしかなかったのだ。銀行は人々の幻想をたきつけて膨らませ無理なローンを組ませた。しかし、 住人を追い出 した後の、こういった膨大なゴーストタウンが、それらの銀行自身にとってもどれほどの資産価値を持つというのだろうか。

●「ゼロ」から「プラス」を抜き 取れば「マイナス」が残るのが当たり前!
  先ほどの飛行場や高速道路、高速鉄道にしても、これらの住宅地にしても、限られた人口と限られた資産の枠内で、わずか10年たらずの期間に一 気に生み出さ れたものである。こういった土地開発を推し進めた者たちにとって、資本主義とは「無から有を生み出す魔術」だったのだろうか。

資本主義の教科書 的な定義で言うなら、資金を持つ者がそのカネを元手として産業を興し経済を形作る体制、とでもなるだろう。中学校や高校の教科書には確かそん なふうに書か れていたと思う。そしてその産業はあくまで実態のあるものだった。だから歴史的に見ても、植民地から資源と労働力を吸い取り、また本国でも労 働を搾取し て、そこから多くの生産物と消費、供給と需要の関係の中から新たな資本を生み出していったのだ。あくまで「有」から「有」を生み出すもののは ずである。

しかし、日本のバブル期でもそうだったのだが、ここに見る資本主義は、「無」から「有」を無限に作り出しうるという幻覚に取り付かれた奇形の ような思想に 過ぎないように見える。「ネオリベラル経済」については多くの議論があるのだろうが、実際には非常に単純な話であり、要は単なる手品、極めて 大規模な詐欺 なだけではないのか。こんな詐術に憑かれた国の経済がその健全性を失うのは当たり前であり、その結果が以上に見てきたグロテスクな国の姿であ る。

あ れやこれやの「経済学議論」など、幻覚の上に幻覚を積み重ねる愚かな行為に過ぎまい。実際に目の前に広がる事実だけがその本当の姿を映し 出しているのだ。 「ゼロ」から「プラスの数」を取り除いた後には「マイナスの数」が残される。当たり前だ。そしてその当たり前さが誰にも気付かれないほ ど、現代という世界 は狂っているのである。

バブルの狂宴に浮かれたスペイン人たちがそれに気付いたときには、何もかもが手遅れだった。 そしてその「マイナス」を背負わされるのは、しかも先達のギリシャやポルトガル、アイルランドといった国々よりもはるかに大規模で根の深い負 債を背負わさ れるのは、スペインに住む人々の99%なのである。そしていずれその後にイタリア人の99%が続くのだろう。・・・。
次回には、幻覚と狂宴の後に残された「マイナス」と、その責任者たちによる《嘘と隠ぺいの大集合》、そして苦境にあえぐ人々の姿をご覧いた だくことにしたい。

(2012年7月初旬 バルセロナにて 童子丸開)

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