相次ぐテロと泥沼化する紛争の記憶を残して、2015年が去った。新たに迎えたこの年、暴力と混迷を脱するきっかけを世界はつかめるだろうか。

道は険しい。テロの脅威、シリアなど中東の内戦、難民危機、南シナ海の緊張……。いずれも解決の兆しは見えない。国際社会は引き続き、これらの課題に苦しみながら取り組まなくてはならない。

さらなる懸念も持ち上がっている。事態の打開に向けた国際協調や理性的な対話そのものを拒む動きが、各国であからさまになっていることだ。対立をあおることで支持を集めるポピュリスト政治家たちである。

こうした勢力が影響力をふるうようでは、失われた国際秩序を取り戻すすべは見いだせないだろう。試されているのは政治に限らない。政治家を選ぶ市民の良識と意欲も問われている。

■増幅する扇動政治家

2016年に予定されている一大イベントが米大統領選だ。2大政党の民主党と共和党は、2月から党員集会や予備選を開いて候補者を絞り込み、7月の党大会でそれぞれの候補を決める。この2人を軸にした11月の投票で、2期8年務めるオバマ大統領を引き継ぐ超大国の指導者が決まる。

民主党はヒラリー・クリントン前国務長官が優位に立つが、問題は共和党だ。当初予想された有力者の支持が伸び悩む間を縫って、政治経験に乏しい実業家のドナルド・トランプ氏が支持率で首位を走る。

その手法は、敵を定めて攻撃することで人気を得る、典型的なポピュリストのものだ。メキシコからの移民を「麻薬と犯罪を持ってくる強姦(ごうかん)者」とののしり、テロ対策のために「イスラム教徒の入国を当面は禁止すべきだ」と言ってはばからない。放言のたびに、支持は下がるどころか、逆に上がる。

トランプ氏が当選する可能性は、まだ高いとは言えない。しかし、彼につられて他の人物も強硬姿勢を誇示するようになった。影響は大きく、トランプ氏に関する話題に大統領選が乗っ取られた感さえある。

大衆迎合的な政治家が話題をさらう傾向は、米国に限らない。フランスでは12月、移民や欧州連合(EU)を標的に攻撃を繰り返す右翼「国民戦線」が地方選で大きな支持を得た。英国でも、EU離脱の是非を問うて早ければ今年にもある国民投票を前に、脱退を訴える「英国独立党」が人気を博す。

■グローバル化の中で

なぜこのような言動が市民の支持を集めるのか。背景にあるのはグローバル化の波だ。

統合が進んだ欧州では、政策や通貨が共通化され、人の移動も盛んになった。その結果、国家の枠組みだけでは社会の動きをもはや制御できなくなった。米国も、テロ対策や不法移民、税逃れなど、自国だけでは解決できない課題の重みが増した。

多くのポピュリストたちの態度は、こうしたグローバル化への反動だ。逆に国を閉ざし、自分たちだけの利益を死守すればいい、といった解決法だ。

先進諸国はどこも、低成長と高齢化などによる財政難や社会格差などに悩んでいる。ポピュリストたちは、国民の痛みを伴う改革ではなく、国外に敵を描き、その攻撃に精を出す。

もちろんこれは、安易なその場しのぎに過ぎない。現代の市民生活は、国境を越えた交流や協力なしに、存在し得ない。殻に閉じこもるだけでは、状況は何ら打開できないのである。

責任ある政治家は、こうした言動に正面から向き合い、説得力のある反論を展開すべきだ。市民も、ポピュリストの扇動に流されることなく、論理のほころびをしっかり見極めたい。

■市民同士の協力へ

当面最大の課題は、昨年に続きシリア情勢だろう。欧州の難民危機も、テロ対策も、すべてシリア内戦の収束と過激派組織「イスラム国(IS)」の封じ込めにかかっている。

そのために、欧米や中東の地域大国は自国の利害だけに固執せず、広い視野にたって停戦への交渉を進めたい。何より、関係国が対話を進め、和平への機運を築く必要がある。

グローバル化によって国家の枠組みが緩んでいる時代だけに、市民自身の取り組みもかつてなく重要だ。シリア和平に対しても、専門家や市民団体の積極的な発言がもっと望まれる。

市民同士のネットワークを広げることで、狭い国益に縛られがちな各国政府に下から協力を促す態勢をつくれないか。

まだその道は遠いが、国際政治への市民社会の関与を増す工夫は必要だ。その意味で、NGOなどと独自の関係を築いてきた国連の役割は大きい。

今年は新たな国連事務総長を選ぶ年でもある。世界の人々の意見を聴き、丁寧に、強靱(きょうじん)に、各国の利害を調整できる人物を求めたい。その過程で日本が果たすべき役割も少なくない。