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腸内細菌のバランスの崩れが自己免疫疾患につながる? – 理研が発表 by limitlesslife

腸内細菌のバランスの崩れが自己免疫疾患につながる? – 理研が発表

デイビー日高 [2012/05/01]

理化学研究所(理研)は、免疫系を抑える機能を持つ免疫抑制受容体「PD-1(programmed cell death-1)」が、腸管免疫に重要な影響を及ぼす腸内細菌の構成を制御していることを発見したと発表した。

成果は、理研免疫・アレルギー科学総合研究センター粘膜免疫研究チームのシドニア・ファガラサン(SIDONIA FAGARASAN)チームリーダーらの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、米科学雑誌「Science」4月27日号に掲載された。

ヒトの腸管内には500~1000種類、総数100兆個にも及ぶ細菌が共存している上、食物や病原菌など、さまざまな異物が日々取り込まれている。免疫系は、病気を引き起こす細菌やウイルスなどの感染を防ぐ一方、腸管に生息する腸内細菌や食物といった無害な異物に対しては破壊的に反応せず、ヒトの健康を維持している具合だ。

この免疫応答が少なすぎると免疫不全症を引き起こし、逆に多すぎると自己免疫疾患やアレルギー疾患などを発症する。腸管で正しい免疫応答を引き起こすには、腸内細菌の構成が重要であることがわかっていた。

この構成の制御に重要な役割を担っているのが、腸管内腔へ大量に分泌されるタンパク質「IgA抗体」だ。哺乳類の抗体(免疫グロブリン)には、構造的特徴から大きく分けて5種類あり、IgAのほかには「IgM」、「IgD」、「IgG」、「IgE」が存在し、それぞれ異なった機能を持つ。

IgA抗体は、リンパ球などの免疫細胞が集合して小腸内に作るリンパ組織「パイエル板」にある「胚中心」と呼ばれる特殊な環境下で、「ヘルパーT細胞」の指令を受けた、主に腸管などの粘膜組織に存在する「B細胞」により産生される。そして、粘膜上皮細胞を通過して腸管内へ分泌されて異物が体内に侵入するのを防ぐ。腸内細菌の制御でも重要な役割を持つ。

免疫系を構成する主な細胞であるリンパ球はB細胞とT細胞に大きく分けられる。B細胞は抗体を作り、この抗体がウイルスや細菌、毒素といった異物に特異的に結合して排除する仕組みだ。

一方のT細胞は、T細胞レセプターと呼ばれるタンパク質を細胞表面に持ち、このレセプターを介して異物を特異的に認識し活性化する。T細胞はその働きから、ウイルス感染細胞やがん細胞などを特異的に殺す「キラーT細胞」と、B細胞や「マクロファージ(食細胞)」などほかの免疫細胞に働きかけてその機能を活性化するヘルパーT細胞に大きく分類されている。

また胚中心とは、免疫応答の際に2次免疫組織に作られる微小構造のことで、抗体を産生するB細胞の活発な増殖、選択、成熟と消失が見られる部位だ。胚中心はその構造学的特徴から「暗領域」と「明領域」に分けられ、こうしたB細胞の成熟過程は主に胚中心の明領域で行われる。胚中心の明領域にあるヘルパーT細胞がB細胞の成熟過程で重要な役割を持つ。

このようにIgA抗体産生に重要な役割を果たしているヘルパーT細胞は、免疫抑制受容体PD-1というタンパク質を細胞表面に高発現している。PD-1を発現しているヘルパーT細胞は増殖が適度に抑えられるため、免疫応答が異常に活性化されないと考えられているのだ。

実際にPD-1を欠損したマウスは、さまざまな自己免疫疾患を発症する一方で、その腸内細菌を除くと自己免疫疾患を発症しないこともある。このことは、腸内細菌が自己免疫疾患に何らかの影響を及ぼしていることを示唆しているが、そのメカニズムの詳細はわかっていなかった。

これまで研究チームは、IgA抗体が「善玉菌」と「悪玉菌」の構成を制御するという知見を報告している。善玉菌とは、ビフィズス菌に代表される「Bifidobacterium属」や、乳酸菌と呼ばれる「Lactobacillus属」の細菌など、乳酸や酪酸といった有機酸を作って、宿主の健康維持に貢献している菌のことだ。悪玉菌とは、「ウェルシュ菌」に代表される「Clostridium属」や大腸菌など、悪臭の元となるいわゆる腐敗物質を産生する菌で、宿主の健康に害を与える菌である。

そこで、PD-1欠損マウスのIgA抗体の質と腸内細菌の構成を測定し、それらが自己免疫疾患にどのような影響を及ぼしているのかが調べられた。

まず行われたのが、正常マウスとPD-1欠損マウスの腸管内にどのような細菌がどのくらい存在しているのかの比較だ。その結果、腸内細菌の総数は同じだったが、その構成が変わっていることが見出された。

具体的には、PD-1欠損マウスではビフィズス菌が検出できないほど減少した一方、腸管内で本来増えることができない悪玉菌の「エンテロバクター属菌」が400倍にも増加していたのである。

このように構成が変わった理由を突き止めるため、次にIgA抗体の質と量が調べられた。その結果、意外なことにIgA抗体を産生するB細胞は、正常マウスとPD-1欠損マウスでほぼ同数で(画像1・右)、腸管内に分泌されているIgA抗体の量も同じであることがわかったのである。ただし違いもあることがわかった。PD-1欠損マウスのIgA抗体は、腸内細菌に結合する力が弱いことが判明したのだ。

そこで、次にその結合力の低下の理由を調べるため、パイエル板にあるB細胞やT細胞の調査が行われた。その結果、PD-1欠損マウスでは、パイエル板の胚中心が大きくなり(画像1・左)、その中のヘルパーT細胞の数が3倍も増加していることがわかった(画像1・中)。

画像1は、パイエル板と小腸柔毛内のB細胞、T細胞の様子の蛍光顕微鏡画像だ。左の列の画像で正常マウスとPD-1欠損マウスを見比べると、PD-1欠損マウスのパイエル板では胚中心(白線)にB細胞(赤色)が多く集まっていることがわかる。

中央の列は、正常のマウスと比較して、PD-1欠損マウスのパイエル板では胚中心、特にB細胞の成熟過程に重要な明領域(矢印の白線内)のT細胞(緑色)を含め、パイエル板全体のヘルパーT細胞の数が多いことがわかる。

右の列は、正常マウスとPD-1欠損マウスの小腸の柔毛の蛍光顕微鏡写真。B細胞の数(緑色)に明らかな差がない形だ。腸管内に分泌されているIgA抗体の量自体も差がない。

画像1。パイエル板と小腸柔毛内のB細胞、T細胞の様子

これらのことから、増加したヘルパーT細胞がB細胞に過剰に働きかけ、本来ならば除かれるべき「できの悪い」B細胞が生き残った結果、結合力が弱いIgA抗体が腸管内腔に分泌されていることが判明したのである。

続いて、腸内細菌の構成の変化と全身の免疫系との関係が調べられた。PD-1欠損マウスでは、正常マウスに比べ炎症性の「サイトカイン」を産生するヘルパーT細胞が4倍に増加していること、正常の状態では現れない胚中心が腸管以外のリンパ節に存在し、T細胞やB細胞の数もそれぞれ2.5倍と2倍に増えていることがわかったのである。

なおサイトカインとは、細胞同士の情報伝達に関わるさまざまな生理活性を持つ可溶性タンパク質の総称だ。さまざまな細胞から分泌され、標的細胞の増殖・分化・細胞死を誘導する。炎症性サイトカインは、体内への異物の侵入を受けて産生されるもので、生体防御に関与する多種類の細胞に働きかけ、炎症反応を引き起こす。

また、通常は腸管でしか見られないはずの腸内細菌に対する抗体を血液中からも検出したことから、PD-1欠損マウスでは全身の免疫系が過剰に活性化していることが明らかになった。

PD-1欠損マウスに抗生物質を投与して、構成変化後の腸内細菌を除くと過剰な活性化が治まったことから、腸内細菌の構成が不適切になると、全身の免疫系の過剰な活性化につながることも確認されたのである。

今回の研究では、PD-1がIgA抗体の質を制御して腸内環境のバランスを保っていることが判明した。また、IgA抗体の結合力低下が引き起こす腸内環境のアンバランスな状態が、全身の免疫系の過剰な活性化につながることを明らかにし、自己免疫疾患などの病態を悪化させている可能性も示された形だ(画像2)。

画像2は、PD-1欠損マウスにおける腸内細菌の様子。PD-1欠損マウスでは、まずパイエル板の胚中心にあるヘルパーT細胞が過剰に増殖する(1)。次に、本来除かれるはずのできの悪いB細胞が生き残り、腸内細菌に結合する力が弱いIgA抗体が腸管内に分泌される(2)。その結果、腸管内の悪玉菌が増殖し腸内細菌のバランスが崩れる(3)。それによって、全身の免疫系が過剰に活性化される(4)。この結果、自己免疫疾患の病態が悪化している可能性がある(5)。

画像2。PD-1欠損マウスにおける腸内細菌の様子

今後、腸内環境が全身の免疫系へ及ぼす影響を明らかにし、腸内環境の改善で自己免疫疾患の症状を和らげたり、予防したりする新たな治療法の開発につなげていくことを目指すと、研究グループは述べている。

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