「行政がゆがめられた」。学校法人「加計(かけ)学園」をめぐる問題で記者会見した前川喜平・前文部科学事務次官の証言は、霞が関の官僚たちにも衝撃を与えた。事務方の元トップの告発は、現役官僚や元官僚の目にどう映ったのか。

「すごい、異様、勇気」

国土交通省を審議官級で退職したOBは、顔と名前を公の場にさらした前川氏の会見に驚いた。

前川氏は「(自分の発言で)文科省としては困ったことになると思う」と言った。役人の世界では再就職先や現役に配慮して、古巣に不都合なことは言わないのが常識。「今までの官僚人生や人間関係を切ってでも訴えたかったのだろう」とOBはその覚悟を見る。

前川氏の言動をたたえる声は複数挙がった。

局長級だった国交省OBは現役時代、官邸に足しげく通った。「官僚は時の政権の使用人。有形無形の圧力に忖度(そんたく)しなくてはならない。その中で、当たり前の事実を顔を出して証言した。腹が据わって立派だ」。外務省の50代の現役職員も「よほどの思いがあったのだろう」と驚きを隠せない。事務方トップの事務次官は組織防衛を熟知しており、自分の発言が組織にどういう結果を生むか、わかっているはずだからだ。

ただ、前川氏が会見で「行政のあり方がゆがめられた」と話したことには否定的な見方も多い。

「許せない。ゆがめられたと感じたなら、止めないといけない」。国交省の現役幹部は憤る。「仕事を全うできていなかったことを証明するような発言だ。全ての官僚が官邸の意向だけで動いていると思われると迷惑だ」と話す。金融庁の40代の男性幹部も「なぜ辞任してから言うのか。文科省に残っている部下が大変ではないか」と語った。

政権から省庁への圧力が強まったとされる要因は、第2次安倍政権発足後の2014年に内閣官房に設置された「内閣人事局」の存在だ。事務次官や局長ら各省庁の幹部人事は従来、各省庁側がまとめた人事案がほぼそのまま通っていた。だが「政治主導」を重視するために設置された内閣人事局が、首相の意向を反映して幹部人事を一元管理し、実質的な幹部の人事権を握るようになった。

ログイン前の続き経済産業省の元局長は「今回の会見は、政治の力が圧倒的に強くなりすぎ、官僚側が危機感を持ったことの表れだ」とみる。「できることなら現職の時に発言するべきだったが、内閣人事局に人事を握られ、発言しにくい空気があるのだろう」とおもんぱかった。問題となった国家戦略特区を担当する内閣府の元幹部は「首相や官房長官の『直轄』事項となれば、他省庁は気にする。変なことをすればにらまれて、自分の人事だけでなく後輩にも迷惑をかけかねないから」と明かした。

金融庁の幹部は、官邸が強くなったことを「『官僚主導から政治主導へ』という国民の思いがそうさせた」と冷めた目で見る。50代の防衛省職員は「いまやメディアも政権側とそうでない側に二分され、記者にすら本音が話せない。目をつけられれば人事で不利になる」と声を潜めた。

前川氏の会見は霞が関にどんな影響を及ぼすのか。経産省の元官僚でNPO法人「社会保障経済研究所」代表の石川和男さん(50)は「官邸はコントロールを強めようと、さらに人事権を掌握する。省庁は右向け右になり、余計に官邸にものを言いにくい空気になるだろう」と懸念した。

ただ、官僚側にも政権への反発がくすぶる。財務省の元局長は言う。「特区が政権の重要案件であるほど、首相の友人関係を押し込むことはありえない。『李下(りか)に冠を正さず』と思い至らないところに、首相の資質の問題を感じる」

■「霞が関は『物言えば唇寒し』の状況」

自治省課長で鳥取県知事や、民主党政権時代の2010~11年に総務相を務めた片山善博早稲田大教授に聞いた。

前川氏の会見はニュースで見た。供給過剰感がある獣医師を増やす特区は無理筋だと私も思っていた。卒業生は全国に散らばるので全国に影響が出る。「赤信号のところを青信号だと考えろ」などの部分は「その通りかと思う」と腑(ふ)に落ちた。冷静にポイントを突いて説明していたと思う。辞めざるをえなかった逆恨みという指摘はあたらない。

辞めてから言うなという批判がある。しかし、今の霞が関は「物言えば唇寒し」の状況。「安倍1強」で自民党内でも異論が出ないし、大臣が物言う役人を守ることもなくなった。

14年の内閣人事局発足以降、この風潮が強まっている。役人にとって人事は一番大事。北朝鮮の「最高尊厳」、中国の「核心」。そして今回の「官邸の最高レベル」。似てきてしまったのかなと思います。

■前川喜平・前文部科学事務次官の25日の記者会見での主な発言

「政権中枢の力が強まっていることは事実だ」

「現在の文科省は官邸、内閣官房、内閣府といった中枢からの意向、要請について逆らえない状況がある」

加計学園の獣医学部の新設計画を巡り)「赤信号を青信号だと考えろと言われて赤を青にさせられて、実際にある文書をないものにする。いわば黒を白にしろと言われているようなもの」

「公正であるべき行政のあり方がゆがめられた」