原発をめぐっては、再稼働を進める与党に対し、野党の多くが「原発ゼロ」を掲げており、違いは鮮明だ。だが、安倍晋三首相は街頭演説で原発再稼働について語ろうとしない。衆院選の論点の一つのはずだが、議論は深まらない。

 

■与党推進でも議論置き去り

志位和夫・共産党委員長「安倍首相は第一声を福島でやっログイン前の続きておいて、原発の『げ』の字も言わなかった。原発事故を終わったことにして、再稼働と輸出をやろうとしている」(13日、福島市の街頭演説)

安倍晋三・自民党総裁「原発ゼロは責任あるエネルギー政策とは言えない。エネルギーのベストミックスを構築する」(8日のNHK番組)

公示日の10日、福島市内で第一声を発した安倍首相は、原発の再稼働についてひと言も語らなかった。

12日には、東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)に近い同県長岡市で演説した。直前に原子力規制委員会が同原発6、7号機は基準を満たすとする審査結果をまとめたが、首相はここでも再稼働に言及しなかった。

自民党のパンフレットを手に首相の演説を聞いていた市内の男性(78)は「新潟では何区であろうと原発は大きな争点。原発の話をしないのは、ちょっとおかしいね」と首をかしげた。

第2次安倍政権発足後、安倍首相は原発を「重要なベースロード(基幹)電源」と位置づけ、規制委がお墨付きを出した原発の再稼働を進める。柏崎刈羽の「合格」によって、事故を起こした福島第一と同じ沸騰水型炉が動く道筋も開かれた。

首相は党首討論などで原発について聞かれれば答えるが、街頭では森友・加計(かけ)学園問題と並び、進んで説明する姿勢はみられない。

経済産業省の幹部は「原発について話しても、支持を失うだけだ」と話す。世論調査で再稼働に反対の意見は6割近い。再稼働の必要性を訴えても有権者にそっぽを向かれるとの計算が働いている、との指摘だ。

原発に関する政策判断も、政権はタイミングを慎重に見極めて進めている。

原発政策などの方針を定めるエネルギー基本計画について、経産省はこの夏、3年ぶりの見直し作業に着手した。議論の場である審議会の初会合は政治日程をにらみつつタイミングを計り、結果的に東京都議選の終了後に開いた。

本音をさらけ出して反発を買わないようにしよう――。そんな思惑が見え隠れする。

 

■新増設も視野、難題は先送り

小池百合子・希望の党代表「新設の原発がこれからできるかというと、簡単な話ではない。2030年までに今後の原発の老朽化を見ながら工程表を書いていく」(10日のNHK番組)

「30年までに原発ゼロ」を掲げる希望の党は「新規原発の建設をやめ、40年廃炉原則を徹底する」ことでゼロをめざす。公明や共産、社民も新設を認めない立場だ。

一方、安倍政権は将来の新増設を視野に入れる。原発の運転期間は原則40年。最大20年延長できるが、新設しなければいずれはゼロになる。電力業界も「原発の技術を維持するためにも新増設は欠かせない」と背中を押す。

ただ、新設を容認する立場を示せば、世論の反発を浴びることは政権も承知だ。14年にエネルギー基本計画を見直した時も、新増設の必要性の文言を明記する検討をしたが、最終的には見送った。

今回の見直しでも、新増設の文言は盛り込まない方向だ。代わりに将来、温暖化対策を進めるうえで原子力が重要になることを計画に明記しようとしている。これが新増設容認への布石、との見方がくすぶる。

その「仕掛け」とされるのが、経産省が立ち上げた2050年のエネルギー政策を話し合う有識者会議だ。政権は温室効果ガスを8割削減する目標を掲げており、「50年を考えると原子力が重要との意見がかなり出る」(経産省幹部)。世耕弘成経産相は、有識者会議で出た意見を計画に盛り込むことに前向きだ。

こうした地ならしを着々と進める一方、難しい課題は先送りしている。原発の使用済み燃料を再利用する核燃料サイクル政策は行き詰まり、各地の原発で使用済み燃料を保管する貯蔵プールは満杯に近づく。「核のごみ」の最終処分地の選定も進んでいない。

野党にしても、原発の代わりとなる再生可能エネルギーの電気をどう増やすかなど、すぐに答えが出ない論点は山ほどある。

未曽有の原発事故を経験した国のトップは、率先してこうした課題を語りかける責任がある。だが、首相が語らず、議論もかみ合わないまま、「原発回帰」が静かに進んでいる。(笹井継夫、大月規義、斎藤徳彦)