その土地で生まれ、育ち、仕事をし、多くの人とふれあいながら人格を形成していく――。

そんな幸せで穏やかな生活を根底から破壊した原発事故の罪深さに、思いをいたした人も多いのではないか。

東京電力福島第一原発の事故をめぐり、被害者約3800人が国と東電を相手取った裁判で、福島地裁は双方の責任を認め、損害賠償の支払いを命じた。3月の前橋地裁に続く「国敗訴」の判決である。

政府は長年、原発を国策として推進してきた。原子力行政にかかわる者は、「安全神話」によりかかって過酷事故を招いた反省をもう一度胸に刻み、安全性の向上や被害者の救済に取り組まなければならない。

同様の裁判は全国で約30件あり、津波の襲来を予見できたかが大きな争点になっている。これまでに三つの地裁で判決が言い渡されたが、いずれも国の機関が02年に発表した見解などをもとに予見可能性を認めた。

このうち先月の千葉地裁は、「たとえ対策を講じても事故を防げなかった可能性もある」として、最終的に国の責任を否定した。原発事故の重大性を見ない、甘い判断といわざるを得ない。それに比べて福島地裁は、法廷での専門家の証言や、事故時の状況、データを踏まえながら、取り得た措置を丁寧に説明していて説得力に富む。

原発の規制当局と電力会社には、最新の科学的知見をいち早く取り込み、常にその時々で最高水準の安全対策を進めていく重い責務がある。これは、福島の事故後、より明確になった社会の要請だ。

被害者に対する救済のあり方も、裁判の重要な論点だ。

三つの判決とも、相当数の原告について、国がさだめた指針を上回る賠償を命じた。

たとえば千葉地裁は、事故でふるさとを失ったことに対する精神的損害を手厚く認定し、福島地裁は、避難指示が出なかった県内の地域や隣の茨城県の住民にも、放射線被曝(ひばく)への不安に対する慰謝料を認めた。

判決ごとに考え方や金額に違いはあるが、国の指針とそれに沿った東電の賠償が、被害の実態を十分にくみ取れていないことを示した点は共通する。

指針をつくった国の原子力損害賠償紛争審査会は、それぞれの判決を精査し、いまの基準に欠けている点や見直すべき点がないか検証してほしい。

事故を起こしてしまった以上、被害者の立場にたって適切な救済を迅速に進める。それは国と東電の当然の務めである。

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