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自治はどこへ:2015年統一選 大間原発30キロ圏、国を訴えた函館市 声届ける権利求め by limitlesslife

毎日新聞 2015年03月02日 東京朝刊

 北海道函館市は昨年4月、津軽海峡を挟んで対岸に位置する青森県大間町でJパワー(電源開発)が建設中の大間原発について、国と同社を相手に建設差し止めを求める訴訟を東京地裁に起こした。函館市と大間原発の距離は最短で23キロだが、立地自治体でないために原発建設の事前同意手続きの対象外とされた。自治体が国を訴えるという非常手段の背景には、有権者の声を届けられないシステムへの怒りがある。

「あの先に見えるのが大間原発です」。函館市役所6階の窓際。市職員が指した海の奥に白っぽい建物群が見えた。工藤寿樹市長は言う。「立地自治体内だけで危険が収まらないことが福島第1原発事故ではっきり分かった。立地自治体と周辺自治体を分ける扱いは全くナンセンスだ」

函館市が提訴に踏み切ったのは「(原発から)30キロまで危険だというなら、その地域に住む人の同意を受けるのは当たり前」(工藤市長)との思いからだ。工藤市長は「私は脱原発、反原発と言ったことはない」とも強調する。原発の是非ではなく、自治体の権利を巡る裁判と位置付け、市議会も全会一致で提訴に同意した。昨年7月の第1回口頭弁論では工藤市長が「国や事業者は、同意を求めることも一切せずに(市を)無視している」と主張した。

住民の動きも広がる。市内183の自治組織でつくる「町会連合会」は昨年末から、建設凍結を求める署名活動を始めた。新谷則(しんやただし)会長(79)は「市長だけに任せていられない」と話す。人口27万人の函館市で、署名は周辺市町村からも含めて14万筆を超えた。広がる建設凍結運動の背景を、民主党の道畑克雄市議(53)は「反原発、脱原発という捉え方でなく、自治体の権利が脅かされ、地方自治が軽んじられる状態がまかり通っていいのかという意識がある」と分析する。

市が募る訴訟費用の寄付には2月27日現在で1139件、4893万円が寄せられた。昨年5月に300万円を寄付した市内の経済人らで作る「政経懇話・谷地頭の会」の村上幸輝代表(74)は「安倍政権の他の政策には賛成だが、原発だけは真っ向反対だ。なぜ市が関与できないのか」と憤る。

毎日新聞のアンケートでは、函館市の提訴について原発の周辺117市町村のうち4割にあたる45市町村が「理解できる」と答え、「理解できない」としたのは7市町だった。函館市への共感が周辺自治体で広がるのは「声が届かない」という状況が共通しているためだ。

函館市のいら立ちは、国との間に立つ北海道庁にも向かう。工藤市長は「道庁は正直言って、『我関せず』。自分たちも泊原発(北海道泊村)を抱えているから、あまり触りたくないのだろう」と言う。

函館市の提訴以降、道は国とJパワーに数度にわたり「誠意を持って説明責任を果たす」ことを求めている。ただ、事前同意手続きを得るべき自治体の範囲については「国が示すべきだ」との立場だ。大間原発を巡って函館市の主張を後押しした場合、泊原発でも地元同意の対象自治体が広がりかねないとの懸念があるとみられる。

函館市では4月、市長選と市議選が行われる。昨年末の衆院選では、函館市を含む北海道8区に立候補した与野党全3候補が「大間原発建設凍結」を主張した。市長選は無投票の公算が大きいが、市議選も再び与野党が「凍結」一色となる見通しだ。

Jパワーは審査期間を1年程度と見込み2021年度の稼働に向けて着々と準備を進める。熱を帯びた民意の行き場は見えないままだ。【横田愛、鈴木勝一】

政権が地方創生を掲げる中での統一地方選では地方が正面から問われる。人口減少、格差拡大など直面するテーマは多いが、今夏にも再稼働が見込まれる原発も地方との関わりが深い。福島事故で自治体消滅が現実となって以降、地方にかかる重みは格段に増し、影響は立地自治体以外にも広がる。原発を通して3回にわたり地方自治を問う。

 ◇周辺自治体「原発は争点」4割超

毎日新聞が原発30キロ圏の首長に実施したアンケートでは、国の原発政策について「地方選挙の争点になる」と答えた首長は、周辺117市町村で4割超の52市町村に上った。「争点にならない」と答えたのは23市町村だった。立地22市町村では4割の9市町村が争点にならないと回答し、争点になると答えたのは5市町村。「争点になる」とした周辺市町村の首長の多くは、「原発事故は住民生活の根底を崩壊させることにつながるから」(愛媛県内子町)などとし、福島第1原発事故の影響が立地自治体のみにとどまらなかった点を重大視している。今春の統一選で市議選がある福井市の東村新一市長は争点となる理由に「住民の生活に直結している」ことを挙げた。

4原発が集中し、関西電力高浜原発の再稼働に向け地元同意手続きを控える福井県周辺では、立地自治体以外の19市町のうち12市町の首長が「争点になる」としており、関心の高さがうかがえる。【内田久光】

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 ◇原発30キロ圏首長アンケート・主な質問と回答

【問】最寄りの原発が適合審査をクリアすれば再稼働してもよいと思うか?

139  21

市町村 道府県

1.再稼働してもよい      32   0

2.再稼働するのはよくない   44   1

3.その他・無回答       63  20

【問】再稼働が立地自治体のみの同意で進むことは妥当だと思うか?

1.妥当だと思う        25   2

2.妥当だと思わない      61   6

3.その他・無回答       53  13

【問】30キロ圏内の自治体にも立地自治体と同等の安全協定が必要だと思うか?

1.必要だと思う        62   4

2.必要だとは思わない     25   2

3.その他・無回答       52  15

【問】原発政策は地方選挙の争点になると思うか?

1.なると思う         57   5

2.なると思わない       32   2

3.その他・無回答       50  14

【問】自治体の意向は国の原発政策に反映されていると思うか?

1.反映されている        7   0

2.ある程度は反映されている  39   4

3.あまり反映されていない   45   4

4.全く反映されていない    13   0

5.その他・無回答       35  13

★「反映」(1+2)    46   4

★「反映されず」(3+4) 58   4

※国が原発事故時の緊急防護措置区域(UPZ)と定める21道府県と135市町村に、稼働に向け安全審査中の大間原発の30キロ圏4市町村を加えた21道府県139市町村の首長に1月下旬からアンケートを実施。全首長が回答した。



原発再稼働:同意手続き 周辺自治体、過半数「反対」 毎日新聞調査「立地のみ」に反発 by limitlesslife

毎日新聞 2015年03月02日 東京朝刊

 原発から30キロ圏内にある立地自治体以外の周辺117市町村で、過半数の首長が立地自治体のみの同意で再稼働を進めることに反対していることが毎日新聞の全国調査で分かった。同時に周辺市町村の4割以上が国の原発政策に「自治体の意向が反映されていない」と考えている。再稼働の手続きに加われないことに不満を持つ自治体が多い現状は、今春の統一地方選にも影響しそうだ。(3面に「自治はどこへ」)

1月下旬から、国が原発事故時の緊急防護措置区域(UPZ)と定める135市町村に、稼働に向け安全審査中のJパワー(電源開発)大間原発(青森県)の30キロ圏4市町村を加えた139市町村の首長にアンケートを実施。全首長が回答した。

九州電力川内原発の再稼働の地元同意手続きは立地する鹿児島県と薩摩川内市だけで行われた。この方式について、原発が立地する22市町村では半数の11市町が「妥当だと思う」と理解を示し、「妥当だと思わない」としたのは1村だった。一方で、原発から30キロ圏内にあるその周辺の117市町村は過半数の60市町村が妥当だと思わないとし、妥当としたのは14市町村だった。「周辺自治体の住民は再稼働に重大な関心を寄せており、もはや立地自治体の意向のみで解決しがたい」(静岡県藤枝市)などの声が出ている。

新規制基準に適合した原発の再稼働について尋ねたところ、立地自治体22市町村では9市町村が「再稼働してもよい」としたのに対し、「再稼働するのはよくない」としたのは5町村。一方、周辺117市町村では3分の1にあたる39市町村が再稼働するのはよくないと答え、再稼働してもよいとしたのは23市町村だった。立地自治体と周辺自治体の温度差が目立つ。

周辺117市町村のうち52市町村長が国の原発政策について「自治体の意向が反映されていない」とし、「反映されている」としたのは34市町村にとどまった。反映されていないとした52市町村のうち29市町村が再稼働するのはよくないと答えた。

またUPZ内の21道府県知事にも同様のアンケートを実施した。立地自治体のみの同意で再稼働を進めることについて妥当と回答したのは、立地自治体の福井と鹿児島の2県。妥当だとは思わないと回答したのは、立地自治体では茨城、静岡の2県、周辺自治体では滋賀、京都、鳥取、長崎の4府県だった。

周辺自治体には再稼働について発言権がなく、住民の意向を反映させる方法がない。「国と直接協議できる場がない」(北海道倶知安町)▽「原発政策では住民の理解が最も重要だが、自治体の意向は反映されていない」(静岡県袋井市)▽「自治体の声を国に伝える機会や手法がない」(水戸市)−−などの不満が出ている。【内田久光】

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■ことば

 ◇原発再稼働の地元同意

同意の範囲などに法律上の明確な根拠はない。福島第1原発事故後の新規制基準に適合し、地元同意手続きを終えた九州電力川内原発の場合、立地する鹿児島県と薩摩川内市が九電と結ぶ安全協定を根拠に、同意を必要とする範囲を「県と薩摩川内市」とし、市議会、市長、県議会、知事の順に同意を表明した。