Global Ethics


「巧妙な自作自演」の外交政策 by limitlesslife
August 24, 2016, 7:44 am
Filed under: 外的・内攻(分割統治)
虹のパレット  「巧妙な自作自演」の外交政策=中村文則 /愛知
毎日新聞 2016年8月22日

中国が尖閣諸島をめぐりいろいろ行動しているが、それを報じる右派系の人たちは、
怒りながらもどこか嬉(うれ)しそうに見える。

ちょっと想像してみる。例えば今中国が、尖閣諸島付近で何も行動を起こさず、北朝
鮮に圧力をかけ核問題と拉致問題の解決に真剣に協力し、その上で「仲良くしましょう
!」と本気で言ってきたとする。右派の人たちは困惑するのではないか。「危機」がな
くなってしまえば、憲法改正の国民世論がつくれなくなるからである。憲法改正の動き
は何も中国への危機感から動き始めた話でなく、調べればすぐわかることだが、戦後か
らあらゆる団体が動いてきた長い長い活動なのである。

中国も、自分たちが尖閣諸島関連で行動を起こせば、その危機感から安倍政権の支持
率は上がり、日本の平和憲法が変わってしまうかもしれないことくらい、わかっている
はずである。中国が本当に日本を「危険」と切実に思い、日本の再軍備化をやめさせた
いなら、逆に安倍政権が続く間はおとなしくし、安倍政権をしたたかに困惑させるだろ
う。でもそれをしないということは、中国にとっても、日本の再軍備化は歓迎というこ
とになるのだと思う。そっちの方が、自国民に対し日本は危ないと言えるし、戦前・戦
中の日本に戻ったと言えるし、国内のさまざまな問題を放置し、「日本は軍事大国」と
の危機感を国民に煽(あお)り一体感を出すことができる。右派の人たちが日本を戦前
・戦中の空気に戻そうとすればするほど、中国共産党は安泰となる。

つまり、もちつもたれつ、みたいに見える。お互いがお互いを巧妙に利用している。
日本の防衛予算が増えるほどもうかる人たちは大喜びだし、中国国内も同じだろう。国
外問題に国民の目を向けさせ政権の支持率を上げることは、歴史的に大昔からあらゆる
国がしてきた常套手段(じょうとうしゅだん)である。

しかしこういうゲームは非常に危険だ。お互いの国で、相手憎しの世論が過度に形成
され、戦争へのハードルが格段と低くなる。

通常、正しい外交とは、戦争が起こらないよう常に動くことを意味する。だが今日本
と中国は、戦争はしたくないけど、お互いを刺激し合い、お互いの政府にとって都合の
いいことを進めたい、ということをしている。一歩間違えると、これは大変なことにな
る。

アメリカと中国の間で水面下で何かが起き、直接対決はしたくないから、アメリカが
日本をけしかけたとする。アメリカから、俺たちがいるから大丈夫だ、中国に「ちょっ
かい」をかけろ、と言われたとする。そして日本が行動を起こし、その時アメリカが自
国の都合でハシゴを外したらどうなるか。ウクライナはEUに加盟しようとしてロシア
と事実上戦争になり、大変なことになっているが、日本もああなる危険が全くないと言
えるかどうか。

今のままでは、憲法改正は難しいと、改憲派の人たちは思っていると思う。それを可
能にするには、最も強引な方法を取るのなら、既成事実、つまり、もう自衛隊を戦争戦
力として明確に出動させなければどうしようもない状態にもっていくことなのだと思う
。それで、「憲法が改正されていれば、ああいうこともできたが、現在ではこれが限界
で大変な被害が出た」みたいにする。「平和を唱えた馬鹿な左翼のせいで!」というふ
うに。歴史を見ればあらゆる国が、外交政策では「巧妙な自作自演」を繰り返している

何か起こるのだろうか。中国か、北朝鮮か、あるいは中東での、複数の女性を含む大
勢の日本人の人質が出る事態か。南スーダンか。杞憂(きゆう)で終わってくれればい
いが、歴史を振り返ると、僕は今恐ろしい気持ちを拭い去ることができないでいる。(
作家)

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■人物略歴 なかむら・ふみのり

1977年愛知県東海市生まれ。福島大学卒業後、フリーターに。2005年「土の
中の子供」で芥川賞、10年「掏摸<スリ>」で大江健三郎賞。ノワール(ハードボイ
ルド風犯罪)小説に貢献したとして、米国デイビッド・グーディス賞を日本人で初めて
受賞した。近著は「教団X」「あなたが消えた夜に」「私の消滅」。

MLホームページ: http://www.freeml.com/uniting-peace