「街や市民を守るために、やむを得ず今日の日に至った」。大間原発の建設差し止め訴訟の提訴後に開かれた記者会見。北海道函館市の工藤寿樹市長が厳しい表情で語った。▼1面参照

「原発の安全神話」を信じていたが、東日本大震災のニュース映像をみて、思いを変えた。震災翌月の選挙で初当選後、国などに4回にわたって建設凍結を求めたが効果はなかった。

函館市は、原発事故に備えた避難準備などが必要な30キロ圏の防災対策重点区域(UPZ)に市の一部が含まれ、防災計画をつくることが義務づけられている。

市の人口は約27万人。2005年の国勢調査を元にした当時の原子力保安院の資料で、30キロ圏内の市の人口は1万人を超える。50キロ圏に広げると、周辺の市町も含め37万人になる。一方、函館市から札幌方面への主な避難路は日頃から交通量が多い幹線道路と、峠をぬける細い国道に限られており、住民のスムーズな避難は難しいという。

「実効性のある避難計画が作れない地域に原発を造ろうとしている。住民の命は二の次で、原発ありきだ」と記者会見で訴えた。

「推進」の立場を維持する青森県大間町の漁師らの心境は複雑だ。町の人口は約6千人だが、「マグロと原発」という全国的な知名度を持つ。1976年の原発誘致当時はマグロの漁獲が激減し、漁師町が沈みゆく中で最後の「カード」として原発を選んだ。

マグロは90年代になって戻り始めたが、すでに建設レールは敷かれていた。大間港のイカ漁師(58)は「マグロも将来はどうなるかわからない。原発が出来ないと大間は死んでしまう」と話す。一方、マグロ漁師(63)は「安全を考えると函館の主張は当然と思う」と提訴に理解を示す。

(磯崎こず恵、加賀元)

 

■各地の自治体、共鳴も

函館市の提訴について、佐賀県伊万里市の塚部芳和市長は「大いに共鳴する」と話した。市全域が九州電力玄海原発佐賀県玄海町)から30キロ圏の防災対策の重点区域(UPZ)に入る。だが、九電と協定は結んでいない。事前同意など立地自治体との協定にはある条文が、周辺自治体との協定にはなく、拘束力がなければ意味がないというのが理由だ。

塚部市長は「再稼働には、全域がUPZに入っている市町村の同意が必要」と考え、九電に立地自治体並みの協定を結ぶように要求。「立地自治体も周辺自治体も運命共同体。拘束力があってこそ、事業者はより高度な安全対策を講ずることになる」と訴える。

中部電力浜岡原発静岡県御前崎市)。藤枝市袋井市など30キロ圏内に入る7市町の首長が3月28日、中部電を訪れ、安全協定締結に向けた協議に応じるよう申し入れた。

浜岡原発の安全協定は、立地自治体の御前崎市と10キロ圏内の3市が30年余り前に結んだが、7市町はその外側に位置する。藤枝市の北村正平市長は「連絡体制はあるが、それは故障時の情報提供だけで、事業計画の事前説明や運転報告の義務はない。蚊帳の外に置かれていた」と不満だ。

袋井市の原田英之市長は「周辺自治体は立地自治体と同じ危険がありながら、同じ安全協定を結べていない。函館市の提訴は、市民の声を届けるにはこういう方法しかないという現実を示している」と話した。

(山吉健太郎、大久保泰)