政権中枢にいる政治家が有権者に言うことではないだろう。

安倍政権の副総理を務める麻生財務相が、経済と社会保障という二つの大きな争点に関連して、あぜんとするような発言を立て続けにした。

株高円安による景気回復の実績をよほど強調したかったのか。長野県松本市での6日の演説で、麻生氏は「その結果として企業は大量の利益を出している。出していないのは、よほど運が悪いか、経営者に能力がないかだ」と述べた。

政権が「アベノミクス」で円安を生み、そのメリットがあるのも確かだろう。一方で激しい副作用に苦しむ企業がある。それをとらえて「運が悪い」「経営者に能力がない」と切り捨てる感覚に言葉を失う。

帝国データバンクの調査によると、円安の影響による企業倒産は11月は42件。3カ月連続で過去最多を更新した。海外から調達する原材料や輸入製品の価格が上がり、中小企業の収益を圧迫している。

安倍首相は、円安効果で全体の倒産件数が減ったことを強調しながら、選挙戦では中小企業向けの「円安対策」にも触れている。麻生氏の発言は、そんな首相の姿勢とも食い違ってくるのではないか。

麻生氏はまた、少子高齢化で社会保障費が増えていることを取り上げた。7日の札幌市での演説では「高齢者が悪いようなイメージをつくっている人がいっぱいいるが、子どもを産まない方が問題だ」と語った。

もちろん長寿社会は歓迎すべきことだが、それを実現した社会保障制度を将来にわたって続けるためには、現役世代を重視した仕組みに切り替える必要がある。社会保障と税の一体改革をどのように進めるか。消費増税の取り扱いも含め、今回の選挙の重要なテーマだ。

麻生氏は、この大事業を仕切る政治家ではないか。きのうになって麻生氏は釈明したが、どうしてこんな乱暴な発言が出てきたのか、耳を疑う。

子どもを産まないのが問題ではない。現役世代が子どもを産めない環境こそ問題なのだ。

「子どもを保育所に預けられない」「非正規雇用で収入が少なく、教育費を考えると、とても産めない」。そんな声が届いていないのか。

厳しい現実を見据えて、実現可能な将来像を示し、処方箋(しょほうせん)を示していく。それが政治家の役割なのに、個人に責任を転嫁するかのような発言は筋違いだ。選挙戦で問われているのは、政治家の方である。