Global Ethics


by limitlesslife
January 3, 2013, 7:45 am
Filed under: RCEP (Regional Comprehensive Economic Partnership), TPP | Tags:

RCEP vs TPP

 

2012年11月28日(水曜日)

2012年11月20日にカンボジアで開催された東アジアサミットで、アジアを束ねた地域包括経済連携(RCEP:Regional Comprehensive Economic Partnership)の交渉開始が宣言された。この出来事は日本の成長戦略に大きなインパクトを与えるにも関わらず、日本の総選挙における政治家やメディアの議論は専ら環太平洋連携協定(TPP: Trans-Pacific Partnership)に集中している。日本国内ではTPPに関しては情報が錯綜しており、国内意見も二分されたままであるのに対して、RCEPに関して情報は少ないが、反対意見はあまり聞かれない。米国が主導するTPPでは、例外なき自由化のアプローチが日本社会を混乱させてしまったが、ASEANが主導するRCEPでは、漸進的自由化というアジア的アプローチになるだろうと見て、日本社会に安心感を与えているのかもしれない。

実際、RCEPが急速に台頭してきているのも、アジアでTPPに対する様々な懸念が生じているからである。

1. 周辺化を懸念するASEAN

比較的に規模の小さい国々からなるASEANは、ASEAN自由貿易地域(AFTA)を1992年に締結し、段階的な貿易自由化を行った。2007年には2015年にASEAN経済共同体(ASEAN Economic Community:AEC)を目指す合意文章をも採択した。対外的に、中国(2002年11月)、韓国(2007年6月)、日本(2008年12月)、インド(2010年1月)、オーストラリア・ニュージーランド(2010年1月)と、それぞれFTAを締結し、発効させている。つまり、ASEANは、ASEAN地域を軸とするアジア大のFTAネットワーク(ASEAN+1FTA)を構築したのである。相手国の間で締結しているFTAがなお少ない現状を考えれば、東アジア経済統合において、ASEANは事実上、中核的な位置を占めている。ASEANがアジア地域の主導権を取れたのは、アジア経済統合における日中の主導権争いを避けるため、ASEANを立たせる配慮や、安定した経済成長で魅力が増してきたからと言えよう。

ASEANは、一部の加盟国によるTPP参加の動きが地域の結束を弱める方向に作用すると懸念していた。さらに、米国によるTPP推進は、アジア経済統合の主導権が取られて、自身は周辺化されてしまうのではないかと、ASEANは弱体化の懸念を増幅させている。実際、ASEAN10のうち、シンガポール、ブルネイ、ベトナム、マレーシアの4か国はTPPメンバーになっており、米国の勧誘でタイもTPP参加の意向を表明した。ASEAN事務局や域内大国であるインドネシアは、TPPでASEANが真二つに割れることに大きな懸念を抱き始めた。本来なら、ASEANは1つの地域としてTPPに参加する選択も可能だと思われるが、TPPが要求する「例外なき自由化」はASEAN諸国を二分させてしまった。インドネシアやカンボジア、ラオス、ミャンマーなど、開発の遅れたメンバーはTPPのアプローチ方法には賛同しなかったのである。また、タイとフィリピンにも、必ずしも主体的にTPPに参加する態度は見られなかった。さらに、米国によるTPPの推進に加え、日中韓FTAに関して交渉に入る準備が整いつつあることも、ASEANのRCEP形成の提起を急がせたと考えられた。

2. RCEPの提起

域内の結束力が拡散してしまうと恐れたASEANは、中国が提案したASEAN+3(EAFTA:East Asia FTA)と日本が提案したASEAN+6(CEPEA:Comprehensive Economic Partnership in East Asia)の間で取ってきた中庸な立場を改め、これまで築き上げてきた5つのASEAN+1FTAを束ねさせて自ら主導のRCEPを提起した。

【図表1】RCEPがカバーする地域(概念図)
【図表1】RCEPがカバーする地域(概念図)

実際、RCEPと同じ地域(ASEAN+6)をカバーする経済統合の構想、すなわちCEPEAは、2006年に日本によって提起された。当時、CEPEAはEAFTAに対抗するためと言われ、「経済政治両面で日本の影響力を維持・強化」しようとするものであったが、2010年頃からCEPEAとEAFTAを統合していこうとする動きもあった。その後、米国によるTPP推進が加速され、アジア経済統合について中国はTPPを警戒し、これまで以上にアジア域内での経済統合を加速させようとする姿勢を見せているが、日本の議論がTPPに傾いたため、CEPEAの推進力が急速に弱くなってしまった。したがって、日本の態度変化もASEANによるRCEP推進を加速させた側面もあった。つまり、ASEANによるRCEP推進は、日本をアジア地域統合に引き付けるためであるとも考えられる。

さらに、ASEANを軸に、5つの「ASEAN+1FTA」が結ばれているが、関税削減や原産地ルールなど、多様な自由化ルールが内包されているので、実際の運用上複雑で効率が悪いという現場の声も多く聞かれる。むしろ、5つの「ASEAN+1FTA」を束ねてルールが統一された統合体の方が効率的であるという思惑がASEANにあると推測される。

このように、大国の狭間で中庸の態度を取ってきたASEANは、TPPを警戒しながらCEPEAとEAFTAの流れをうまく汲み上げ、アジア経済統合の主導権を握り、2011年11月に開催された東アジア首脳会議(EAS)でRCEPを提案し、2012年11月に開催されたEASでRCEP交渉開始を合意させたのである。

ただし、ASEANが狙うとおりにRCEP交渉を運ばせたのは、世界経済規模第2位と第3位の中国と日本のサポートと深く関わっている。特に、中国のサポートは極めて積極的である。

【図表2】RCEP対象メンバーのGDPシェア
【図表2】RCEP対象メンバーのGDPシェア

3. RCEPで「一石三鳥」を狙う中国

筆者は、オピニオン「TPPに対する中国の懸念は杞憂に過ぎないか」(2011年9月21日)で述べたように、アジア域内統合を積極的に推進している中国も、米国によるTPP推進によって「東アジア経済統合に対する遠心力が生まれるのではないか」というASEANの抱く懸念を共有している。

さらに、中国の専門家や世論では、「中国排除の目的を達成するために中国がTPPに参加し難いような条項を数多く設けようとしている」という声がよく聞かれる。実際、米国のメディアも、TPPはアジア地域における中国の経済的影響力に対抗するために用いられると示唆しており、オバマ大統領も選挙の演説で中国に国際貿易ルールを遵守するプレシャーを与えるためにTPPを推進すると言明している。これらの言動は中国の懸念を深めさせているに違いなく、中国の悩みは一層深まるだろう。

したがって、ASEANによるRCEPの推進は、中国にとって「渡りに船」となり、ASEANとともにRCEPの流れを加速させるのは、中国にとって自然の選択となろう。ASEAN主導となれば、米国と直接対決する状況も解消できるし、ASEAN主導であれば、米国からの横槍も行われにくくなると中国は戦略を練っているかもしれない。実際、2012年11月に開催されたEASで、中国の温家宝首相がASEAN主導のRCEPを全面的に支持し、交渉に積極的に参加すると表明したのは、そのような背景があったからであろう。

さらに、RCEPには、豪州、日本、インドも加わっている。中国は、これらの国々とニか国間FTAを結ぶようアプローチしていたが、実を結ぶには至っていない。ASEAN主導でこれらの国々とFTA関係に入るのは、むしろ中国の狙っているところであり、RCEPで「一網打尽」の効果が期待されているかもしれない。

もっとも、「参加国の特殊かつ多様な事情を考慮しながら」推進するというRCEPを交渉する基本原則(Guiding Principles and Objectives for Negotiating the Regional Comprehensive Economic Partnership)は、アジア経済統合推進における中国の主張と合致しており、参加しやすい環境にもある。

このように、RCEPを通じて中国は「一石三鳥」の効果を狙えるため、ASEANを積極的に支え、RCEP形成にとって縁の下の力持ちとも言えよう。

4. RCEP vs TPP

RCEPとTPPとも交渉段階にあり、参加メンバーや自由化の度合いなどについて妥協の結果を見なければならないが、予測を含めてまとめると、【図表3】に示すように、両枠組みは伯仲しているように見える。

【図表3】RCEPとTPPの概況
【図表3】RCEPとTPPの概況

ジェトロのヒアリングによると、インドネシアの通商政策担当幹部は、「RCEPはTPPに対抗するものとなるだろう」と言及しており、また、ウォールストリートジャーナル誌は、RCEPの台頭が、「米国主導のTPPプロセスをスローダウンさせ、引いては破壊させる可能性がある」と警鐘を鳴らしている。特に、RCEPには米国が含まれていないのに対して、TPPには中国が含まれていないため、特にメディアでは、「RCEP vs TPP」を、「中国 vs 米国」に写して報道されている。しかし、米中両国の通商担当大臣はともに、RCEPとTPPは補完的な枠組みであり、両方とも、太平洋地域全体の経済統合に寄与するとコメントしている。

上述したように、RCEPはTPPに刺激された側面が大きく、競合する側面も否めない。むしろ、アジア・太平洋地域は、両枠組みとも前進し、APECで目指している環太平洋地域経済統合が実現されるのを期待したいものである。

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金 堅敏

金 堅敏(Jin Jianmin) 
株式会社富士通総研 経済研究所 主席研究員
【略歴】
中国杭州生まれ。1985年 中国浙江大学大学院修了、97年 横浜国立大学国際開発研究科修了、博士。専門は中国経済、企業戦略論。1998年1月富士通総研入社。
【著書】
『自由貿易と環境保護』、『図解でわかる中国有力企業と主要業界』(日本実業出版社)、『中国世紀 日本の戦略 米中緊密化の狭間で』、『華人エコノミストの見た中国の実力』(共著)、日本経済新聞「中国のミドル市場開拓戦略」(「経済教室」)他。