首相、実績強調も政策的な新味乏しく 自民党大会

首相、実績強調も政策的な新味乏しく 自民党大会

自民党大会で演説する安倍晋三首相=東京都港区で2019年2月10日午前11時13分、玉城達郎撮影

安倍政権の当面の主な課題

 安倍晋三首相は10日の自民党大会で、2012年末の第2次安倍政権発足後の実績を強調し、春の統一地方選と夏の参院選の勝利に向けた結束を呼びかけた。国会では統計不正問題で野党の追及が続き、首相が目指す憲法改正への道筋は見えていない。首相がこの先も求心力を維持できるかどうかは、選挙の結果にかかっている。

 「12年前の亥年(いどし)、わが党は参院選で惨敗した。当時総裁だった私の責任だ。このことは片時たりとも忘れたことはない」。安倍首相は演説で2007年参院選を引いて今回の選挙に決意を示した。

 反省の後に続けたのは、これまで再三繰り返してきた旧民主党政権批判。首相は「あの悪夢のような民主党政権が誕生した。決められない政治。経済は失速し、後退し、低迷した」と述べ、安倍政権の経済政策「アベノミクス」で景気回復が戦後最長になり、就業者数なども増えたと強調した。

 とはいえ、首相の国会での施政方針演説や党大会演説には政策的な新味が乏しい。外交面では新たな日米通商交渉が控えるうえ、北方領土問題を含む日露平和条約締結交渉は参院選前にどこまで進展するか見通せていない。

 折しも、国会では厚生労働省による毎月勤労統計の不正調査で野党が「アベノミクス偽装」と勢いづいている。学校法人「森友学園」「加計学園」問題を発端にした政治不信もくすぶったままだ。首相の演説を聴いた石破茂元幹事長は「過去の政権を引き合いに、自分たちは正しいというやり方は危ない」と記者団に指摘した。

自民党大会で拳を突き上げる安倍晋三総裁(中央)ら=東京都港区で2019年2月10日午前11時52分、玉城達郎撮影

 統一地方選と重なる亥年の参院選では、政権与党が苦戦することが多いとされる。07年参院選は年金記録漏れ問題や閣僚の不祥事で与党に逆風が吹いた。

 自民党は党大会前に、参院選で勝敗の鍵を握る「1人区」(改選数1、32選挙区)の全候補予定者をそろえた。選挙協力が遅れる立憲民主党など野党に準備では差をつけている。それでも首相は6日夜、主流派閥の幹部との会食で「参院選は少しのことでひっくり返る。気を引き締めなければいけない」と語った。

 前哨戦の統一地方選では福井、島根、徳島、福岡の4県知事選が保守分裂選挙になる見込みだ。地方組織にしこりが残れば、参院選に影響する可能性がある。

 二階俊博幹事長は党大会後、「どんないいチームでもばらばらでは負ける。しっかり団結して戦い抜きたい」と述べた。しかし、旧民主党出身の細野豪志元環境相(衆院静岡5区)の二階派入りで、二階氏自身が党静岡県連から批判されている。それを記者団から問われると「そんなことを今言ってもしょうがない。(県連は)もっと謙虚に受け止めなきゃだめだ」といら立ちをあらわにした。【竹内望】

改憲「立党以来の悲願」も機運高まらず

 安倍首相は自民党大会での演説で「いよいよ立党以来の悲願である憲法改正に取り組むときが来た」と訴えた。ただ、首相のかけ声とは裏腹に、改憲の機運は一向に高まっていない。

憲法改正は自民党運動方針にどう書かれたか

 今年の党運動方針は前文で「改めて国民世論を呼び覚まし、新しい時代に即した憲法の改正に向けて道筋をつける」と記した。2017年の方針が掲げた改憲案の発議という目標には触れず、18年方針のように独立した章を設けて、自衛隊の存在明記など党の改憲4項目を説明することもしなかった。党大会に間に合わせるため、9条改正のあり方を巡って党内の意見集約を急いだ昨年と比べると、今年の方針の素っ気なさは際立っている。

 首相は20年の改正憲法施行という目標を変えていない。しかし、夏の参院選で改憲に前向きな勢力が参院の「3分の2」の議席を割り込めば、実現はかなり難しくなる。

 自民党憲法改正推進本部は9日、初めて全国本部長会議を招集し、下村博文本部長は「統一地方選が改憲に向けた大きな流れになるようお願いし、党本部としてバックアップしたい」と訴えた。ただ、全国289の衆院小選挙区党支部のうち、改憲推進本部が既に設置されたのは123にとどまる。地方組織の動きの鈍さが下村氏の危機感につながっている。

 自民党は今国会中に憲法審査会で同党の改憲条文案を示したい考えだが、立憲民主党など野党の多くは反対している。憲法審を強引に運営すればかえって参院選にマイナスになりかねないと懸念する声も党内にある。今回改選のある自民党参院議員は「憲法は選挙に勝ってから。争点にしてはいけない」と語った。

 改憲への変わらぬ意欲を強調して保守層にアピールし、参院選を乗り切った後、改憲案を発議する機会をうかがう――。首相の演説や党の運動方針からはそんな戦略が透ける。【田中裕之】

首相「新規隊員募集、都道府県の6割以上が協力拒否」

 首相は10日の演説で自衛隊の憲法明記に言及した際、「残念ながら、新規隊員募集に対して都道府県の6割以上が協力を拒否しているという悲しい実態がある」と述べた。住民基本台帳で閲覧可能な氏名など4情報の提供を念頭にした発言とみられる。

 首相は1月30日の衆院本会議でも、自民党の二階俊博幹事長の代表質問に「今なお自治体による非協力な対応がある。自衛官の募集は市町村の事務だが、一部の自治体は実施を拒否し、受験票の受理さえ行っていない。防衛相からの要請にもかかわらず、全体の6割以上の自治体から募集に必要となる所要の協力を得られていない」と答弁した。

 首相はいずれも改憲の必要性を訴えるエピソードとして用いた。ただ党大会での発言は「自治体」から「都道府県」に変わっている。首相官邸関係者は「防衛省の情報を根拠にしている」と説明しているが、首相が発言した「所要の協力」が具体的に何を指すか、今後問われる可能性がある。【浜中慎哉】

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